両チームのマスター、クリスとスナッフィーが新たな指示を出した後、試合は再び静かな、しかし水面下で激しい駆け引きが繰り広げられる膠着状態へと移行した。スコアボードの数字は依然として【イングランド 0 - 0 イタリア】のまま、時間だけが刻々と過ぎていく。スタジアムの観客も、息詰まる展開を固唾を飲んで見守っていた。
イタリアは、スナッフィーの指示通り、無理な前線からのプレスを自重していた。中盤のミドルエリアでコンパクトなブロックを形成し、イングランドのビルドアップを待ち構える。そして、イングランドが狙い通り前線へロングボールを蹴り込むと、愛空やロレンツォを中心としたDFラインが空中戦で的確に対応。そのこぼれ球、セカンドボールに対しては、戦術眼に優れた二子と、彼をサポートするためにポジションを下げたもう一枚の守備的MFが、予測と連携によって面白いように回収していく。奪ったボールは、リスクを冒さず、一度落ち着けてから攻撃を組み立て直す。イタリアは、スナッフィーの描いた通りの、極めて計算された試合運びを見せていた。
一方のイングランドも、クリスの指示と自分たちの武器を信じ、戦い方を変えなかった。多少前に運び、DFラインやボランチからのロングボールを、前線のアギ、凪、そしてサイドで走り続けるコングといった高さとフィジカルを持つ選手めがけて供給し続ける。空中戦で競り勝てればチャンス、競り負けてもそのセカンドボールを狙い、俊足の千切が裏のスペースへ飛び出す機会を窺う。そして、仮にイタリアにボールを奪い返されても、プランBで植え付けられた「スピード&ラッシュ」の精神は健在だった。ボールを失った瞬間に、最も近くにいる選手が猛烈なプレスをかけ、イタリアのカウンターの芽を摘み取り、再び攻撃へと繋げようと相手を追いかけ回した。
また、イングランドはイタリアの絶対的な攻撃の核である馬狼に対しても、徹底した対策を講じていた。彼にボールが渡るコースを限定し、ボールを持てば一人ではなく、必ず近くの選手(玲王やコング、あるいはDF)が連携して複数人で囲い込み、自由なプレーを許さない。馬狼も苛立ちを隠せない様子で、強引なプレーを見せる場面もあるが、イングランドの組織的な守備の前に、まだ決定的な仕事はできていなかった。
イタリアは組織的な守備とセカンドボール回収でイングランドのロングボール戦術をいなし、イングランドは粘り強い守備とボール奪取後の激しいプレスでイタリアの攻撃の自由を奪う。両チームの戦術がある程度機能し、互いに決定的なチャンスを作り出せないまま、時間は過ぎていく。まさに我慢比べ、消耗戦の様相を呈していた。ピッチ上の選手たちの額には汗が光り、呼吸も荒くなってきている。
この均衡を、どちらが、いつ、どのように破るのか。それは、一瞬の集中力の欠如か、個人の閃きか、あるいはベンチからのさらなる一手か。スタジアム全体が、固唾を飲んで、その瞬間を待っていた。
スコアレスのまま試合が進み、ピッチ全体には膠着した空気が漂い始めていた。イタリアは組織的な守備でイングランドのロングボール戦術に対応し、イングランドも激しいプレスでイタリアの攻撃の自由を奪う。互いに決め手を欠き、我慢比べの様相を呈してきた。
しかし、フィールドの一角、イングランドの右サイドだけは、その静かな均衡とは無縁だった。そこは、他の場所とは明らかに違う、異様な熱気を帯びた空間と化していた。
怪物・コングと、"エースイーター"の異名を持つ世界最高DF・ロレンツォ。二人の男が、互いの存在意義を賭けて、ただひたすらに潰し合う闘技場。
後方から、あるいは逆サイドから、コングのいる右サイドを目がけてロングボールが供給されるたびに、その闘技場のゴングは打ち鳴らされた。落下地点への熾烈な走り込み、空中での激しいポジション争い、着地際のボール奪取、そしてセカンドボールへの反応。二人はまるで互いしか見えていないかのように、他のすべてを無視して、ただひたすらに体をぶつけ合い、ボールとスペースを奪い合っていた。
バチッ! ゴンッ!
肉と肉がぶつかる鈍い音が、何度もピッチに響き渡る。汗が飛び散り、荒い息遣いが聞こえる。
ロレンツォの老獪なテクニックと駆け引きは健在だった。コングの動きを完璧に読み切り、先にボールに触れたり、ファウルにならない絶妙な体の使い方でコングの突進をいなしたりする。その老練な守備の前に、コングがボールに触れることさえできずに終わる攻防も少なくなかった。
しかし、コングも決して引き下がらなかった。ボールを奪われようが、触れられなかろうが、彼は次の瞬間には、まるで何もなかったかのように、あるいは怒りを燃料に変えたかのように、猛烈な勢いでロレンツォに襲いかかるのだ。ボールを失った直後の、執拗で、2メートルの巨体から繰り出されるとは思えないほどのスピードを伴ったプレス。
そのプレスの激しさには、さすがのロレンツォも舌を巻いていた。深追いされてリスクを冒すのは得策ではないと判断し、ボールを保持した際は無理せず、近くの二子や愛空といった味方に素早くボールを預け、コングのプレッシャーを回避する場面が増えていく。
この激しい攻防の繰り返し。試合はまだ中盤に差し掛かったあたりだというのに、コングとロレンツォのダッシュ距離、スプリント回数、そしてデュエル(1対1)の回数は、既に他のフィールドプレイヤーたちを遥かに凌駕する、異常な数値に達していた。それは、互いを潰し合うかのような、壮絶な消耗戦だった。
怪物とエースイーター。どちらが先に倒れるのか、あるいはどちらかが相手を屈服させるのか。このピッチサイドの闘技場での戦いの結末は、間違いなくこの膠着した試合の行方を大きく左右するだろう。フィールド上の誰もが、その激しいぶつかり合いの行方を固唾を飲んで見守っていた。
スコアレスドローのまま、試合は中盤を過ぎてもなお、互いに決め手を欠く膠着状態が続いていた。イングランドの右サイドではコングとロレンツォが壮絶な消耗戦を繰り広げ、他のエリアでも激しいボールの奪い合いが続く。ピッチ上の選手たちの疲労は色濃くなっていた。
しかし、そんな消耗戦とは無縁であるかのように、イタリアの最前線には、フィールドの「王様」馬狼 照英が悠然と不機嫌そうに構えていた。彼はチームが守備に追われる場面でも、積極的なプレスバックにはほとんど参加しない。ただひたすらにゴールに近い位置を取り、イングランドの守備ラインに睨みを利かせ、決定的な瞬間が訪れるのを、まるで飢えた獣のように、静かに、しかし鋭く牙を研ぎながら待っていた。
その瞬間は、イングランドの中盤で訪れた。ボールを持ったのは、司令塔の玲王。彼はイタリアのミドルプレスを巧みにかわしながら、前線へのパスコースを探していた。右サイドではコングがロレンツォと激しく競り合い、パスを出すのは難しい。左サイドには千切がカウンターを狙って動き出しているが、イタリアDFも警戒しており、コースは限定的だ。一度ボールを落ち着かせるべきか、それともリスクを冒して縦パスを狙うか。ほんの一瞬、玲王の思考に迷いが生まれた。ボールタッチが、ほんのわずかに大きくなる。
その刹那の隙を、牙を研いでいた王様が見逃すはずがなかった。
馬狼は、まるでその瞬間を予測していたかのように、玲王の間合いへと猛然と侵入!そして、玲王が体勢を立て直すよりも早く、その強靭なフィジカルと長い足で、ボールを足元から文字通り「刈り取った」のだ!
「しまっ…!」
玲王が反応した時には、ボールは既に馬狼のものとなっていた。しかし、馬狼は奪ったボールを自分で運ぼうとはしなかった。彼の役割はゴールを決めること。ボールは、奪取の勢いで近くにいた二子の足元へと転がった。
そして、味方がボールを確保したのを視界の端で確認するや否や、馬狼はすぐさま反転!まるでスタートの合図を聞いたかのように、イングランドゴールへ向けて爆発的なスプリントを開始した!解き放たれた矢のように、一直線に最前線へと突き進んでいく。
王様自らがボールを奪い、そしてカウンターの急先鋒となる!膠着した試合の均衡を破る、イタリアの鋭いカウンター攻撃が、今、始まった!イングランドの守備陣は、馬狼の予測不能な動きと、それに続くであろうイタリアの攻撃に、すぐさま対応できるのか!?ピッチ上の空気が一変する。
王様・馬狼が自らボールを奪い、前線へと走り出した瞬間、イタリア『ユーヴァース』の高速カウンターのスイッチが入った!ボールを持った二子は、すぐさま周囲の状況と馬狼の動きを確認し、スナッフィーによって緻密に設計されたであろう、流れるような攻撃を展開し始める。
「戻れ!」
ボールを奪われた玲王はすぐに立ち上がり、叫びながら自陣ゴールへと全力で戻る。前線で攻撃に参加していたコング、アギ、千切といった選手たちも、その巨体や快足を最大限に活かし、必死の形相で守備へと切り替えてスプリントを開始した。
しかし、イタリアのカウンターは、彼らの懸命な戻りよりも遥かに速く、そして正確だった。二子は近くの蟻生との素早いワンツーパスで最初のプレスをかわすと、ドリブルで少し持ち上がり、イングランドの中盤を引きつける。そして、絶妙なタイミングでサイドのスペースへパスを展開。ボールを受けた選手は、ダイレクトで再び中央の二子へ戻す。少ないタッチ数、複数の選手が連動したパスワークは、戻りきれないイングランドの中盤をいとも簡単に置き去りにしていく。
イングランドのDFラインは必死に対応しようとするが、イタリアの流れるような攻撃の前に、後退しながら守るしかない。数的にも不利になりつつあった。そして、二子がDFラインの僅かなギャップを見逃さなかった。ゴール前、イングランドDFのマークを振り切る絶妙なタイミングで走り込んだ馬狼へ、完璧なスルーパスが送られる!
ボールはDFの足元を抜け、フリーに近い状態で馬狼の元へ!ゴールは目の前!
「俺が王様だ!!」
馬狼は吠えるように叫ぶと、トラップから間髪入れずに右足を振り抜いた!彼の代名詞とも言える、強烈な弾丸シュート!ボールはイングランドGKが反応する暇も与えず、ゴールネットへと突き刺さった!
ゴォォォォォォォォル!!!!
ついに膠着状態が破れた!先制したのはイタリア!そして決めたのは、やはりこの男、フィールドの王様、馬狼 照英!
スコアは【イングランド 0 - 1 イタリア】!
馬狼はコーナーフラッグ付近まで走ると、腕を組み、ピッチを見下ろすように堂々としたゴールパフォーマンスを見せつける。イタリアの選手たちが駆け寄り、王様のゴールを称賛する。ベンチのスナッフィーも静かに頷いていた。
一方、イングランドの選手たちは、懸命に戻ったにも関わらず浴びたカウンター、そして馬狼の圧倒的な決定力に、膝に手をつき、肩を落とすしかなかった。特に、ボールロストの起点となってしまった玲王は、唇を噛み締め、悔しさを滲ませていた。
馬狼の強烈な一撃がイングランドゴールに突き刺さり、イタリアが歓喜に沸く。対照的に、イングランドの選手たちは肩を落とし、ピッチには重苦しい沈黙が流れた。特に、ボールロストが失点の起点となってしまった玲王は、唇を噛み締め、ピッチの一点を見つめていた。先制点を奪われ、さらにイタリアの緻密な戦術の前に攻め手を欠いている状況は、イングランドにとって明らかに苦しいものだった。
その重い空気を、突如として切り裂いたのは、コングの野太い声だった。
「モンダイナイ!!」
彼は落ち込んでいるチームメイトたちを見渡し、腹の底から叫んだ。その声には、失点に対する動揺など微塵も感じられない、揺るぎない自信が満ちている。
「オレに! ボール!! ヨコセ!!!」
それは、チームを鼓舞する言葉であると同時に、自分がこの状況を打開するという強いエゴの表明であり、ボールを自分に集めろという明確な要求だった。彼の目は、先ほどまでとは比較にならないほど、ギラギラとした闘志で燃え上がっていた。
そのコングのすぐそばにいたロレンツォは、その力強い叫びを聞き、そして闘志に燃えるコングの表情を見て、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。彼はコングの肩を軽く叩きながら、わざとらしく耳元で囁くように言った。
「Oh oh, che grinta, eh, gorilla?(おーおー、威勢がいいこったねぇ、ゴリラちゃん。)」
彼はクックッと喉を鳴らして笑う。
「Ma senti un po', ho una brutta notizia per te. Te l'ho già detto, no? Finché ci sarò io, Lorenzo, questo genio della difesa, scordatelo di vedere il pallone! Non succederà MAI E POI MAI, in eterno! Chiaro?
(だがよぉ、残念なお知らせだ。さっきも言ったろ? お前にボールが渡ることは、この天才DFロレンツォ様がいる限り、未来永劫、絶対にねぇんだわ)」
ロレンツォは続ける。
「A urlare sei capace anche nella giungla da cui vieni, no? O che c'è? Sei così frustrato perché non vedi palla che vuoi provare a stendermi? Beh, me lo aspetto. Ma tanto è inutile, non mi fermi di certo, eh?
(吠えるだけなら、お前の故郷のジャングルでもできるぜ? それとも何かい? ボール触れないのが悔しくて、俺っちに体当たりでも仕掛けてくるってか? ま、それも読んでるし、俺は止められねぇけどな?)」
肩をすくめ、おどけたような仕草を見せる。
コングは、その挑発的な言葉と態度に、怒りで体が震えるのを感じた。しかし、彼は感情的に殴りかかるような愚は犯さない。代わりに、燃えるような鋭い視線でロレンツォを睨みつけ、ギリッと奥歯を強く噛みしめた。
(こいつ……絶対に、潰す……!)
言葉はいらない。コングの全身から放たれる殺気にも似た闘志が、ロレンツォへの明確な敵意を物語っていた。
コングの声と、二人の間の緊迫したやり取りを見て、他のイングランドの選手たちも、下を向いてばかりはいられないと気を取り直し始めていた。
試合再開のホイッスルが鳴る直前だった。コングは、すぐ近くにいたアギと、少し離れた位置にいた玲王を手招きした。
「ん?」
「どうした、コング」
怪訝な表情を見せながらも近づいてきた二人に、コングは顔を寄せ、何かを短い言葉で、しかし強い意志を込めて伝えた。その内容は、周囲には聞き取れない。アギと玲王はコングの言葉に耳を傾け、一瞬、わずかに驚いたような顔を見せたが、すぐに互いの顔を見合わせ、そして力強く頷き合った。ほんの数秒の会話だったが、彼らの間で何らかの共通認識、あるいは新たな狙いが共有されたのは明らかだった。
短い話し合いを終え、三人はそれぞれのポジションへと戻っていく。その目には、先ほどまでの重苦しさとは違う、確かな光が宿っていた。
ピィッ!主審の笛が鳴り、イングランドボールで試合が再開される。コングは再びボールを要求するように動き出す。ロレンツォは変わらず彼を執拗にマークするが、イングランドの選手たちの間に生まれたわずかな変化、そして彼らが次に仕掛けてくるであろう何かを、彼はまだ知らない。膠着した状況を打破するための、イングランドの新たな試みが始まろうとしていた。
イタリアの先制ゴールが決まり、スコアは【イングランド 0 - 1 イタリア】。イングランドボールで試合が再開された。1点のリードを得たイタリアには精神的な余裕が生まれ、スナッフィーの指示通り、ミドルゾーンでの堅実な守備ブロックを維持している。一方、イングランドは依然としてロングボールを主体とした攻撃を試みる。コング、アギ、玲王の短い話し合いの後だったが、ピッチ上での大きな戦術的変化は、まだ表面上は見られないように思えた。
イングランドが中盤でボールを回し、玲王がボールを持つ。彼は顔を上げ、前線右サイドのスペースへ走り出そうとするコングの姿を捉えた。そして、高い弾道のロングボールを、コングがいるであろう未来の落下地点へと正確に供給する。
コングを影のようにマークしていたロレンツォが、ボールの軌道を見て即座に落下点へと動き出す。しかし、その進路上に、イングランドのもう一人の巨漢、アギが立ちはだかった!アギはコングと玲王の意図を理解していたかのように、絶妙なタイミングでロレンツォの前に体を入れ、フィジカルを活かしたスクリーンプレーでロレンツォの動きをブロックする!
「チッ…邪魔だ、どけ!」
ロレンツォはアギの体を押し返そうとするが、アギも簡単には譲らない。エースイーターが、珍しくフィジカルで足止めを食らっている。
しかし、イタリアの守備はそれだけでは崩れない。センターバックの愛空は、アギがロレンツォをブロックする動きすら予測していたかのように、冷静にコングのカバーリングへと動いていた。
「そのパターンは予測済みだ」
愛空はコングとの空中戦に備え、完璧なポジショニングを取る。これでコングはフリーではない。ロレンツォをブロックしても、結局は愛空との競り合いになる――イタリアの誰もがそう思った瞬間だった。
落下してくるボールの軌道が、奇妙な変化を見せた!
玲王が蹴ったボールは、ただのロングボールではなかった。おそらくはチームメイトである凪のプレーなどを参考に模倣したのだろうか、ボールには特殊で不規則な回転がかかっており、空気抵抗を受けて予測不能に揺れながら、まるで重力に逆らうかのように落下速度を変化させていた!
「なっ…!?」
愛空もその異常なボールの軌道に気づき、対応しようと跳躍のタイミングを修正しようとするが、予測外の動きに反応が一瞬遅れる。
対するコングは、その野生的な勘が働いたのか、あるいは純粋な反応速度で勝ったのか、変化するボールの落下地点に、驚くべき速さで体を合わせた!その巨体と長いリーチが、僅かな軌道のズレに対応する。
愛空よりも一瞬早く、コングはその扱いにくい「無重力」ボールを、なんとか自身のコントロール下に置くことに成功した!
アギの献身的なブロック、玲王の意表を突く特殊なパス、そしてコング自身の驚異的な反応速度とフィジカル。罠は2重に仕掛けるのがジャングルの掟。開始前の短い話し合いで共有された狙いが、見事に結実した瞬間だった。
ついに、執拗なロレンツォのマークを振り切り、コングがボールを持った!彼の前には、わずかながらだが、ゴールへと続くスペースが開けている。膠着状態を破るチャンスが、イングランドに訪れた!
スコアは依然として【イングランド 0 - 1 イタリア】。しかしアギのブロックと玲王の意表を突くパスによって、ついにコングがロレンツォの執拗なマークを振り切り、ボールを持って前を向いた!イングランドにとって、膠着状態を打破する大きなチャンスが訪れた。
コングは、その規格外のフィジカルを爆発させ、ボールを持ってイタリアゴールへと突き進む!スタジアムが大きく沸き上がる!
しかし世界最高峰のDFたちはすぐさま体勢を立て直す。ロレンツォと愛空が、驚異的なスピードでコングを猛追。さらに、攻撃参加していたアギもコングをサポートするために並走し、フィールドには4人の巨漢がゴールへ向かって突き進むという、異様な光景が広がっていた。
コングはペナルティエリア手前までボールを運んだ。シュートも狙える距離。しかし、背後からはロレンツォ、そして斜めからは愛空のプレッシャーが迫っている。ここで無理にシュートを撃ってもブロックされる可能性が高い。コングは一瞬で状況を判断すると、ゴール前、ペナルティエリアラインぎりぎりの位置でわずかにフリーになっていた凪へ、正確なグラウンダーのパスを選択した。
凪がパスを受ける。すぐさまイタリアの長身DF、蟻生が厳しいマークにつき、体を寄せてくる。シュートを撃つスペースはない。
しかし、その瞬間だった。イタリアの中盤をカバーしていた二子を一瞬のスピードで置き去りにしてきた、イングランドのスピードスター、千切が、ペナルティエリア内の中央、ゴール正面のスペースへフリーの状態で走り込んできたのだ!
「!」
凪は蟻生のプレッシャーを感じながらも走り込んできた千切の動きを捉えていた。彼はボールをトラップし、柔らかいインサイドパスで、走り込んできた千切の足元へ、最高のタイミングでボールを落とす。
最高のラストパス!そして受け手は完全にフリー!
千切は迷わなかった。走り込んだ勢いを殺さず、ダイレクトで右足を振り抜く!ボールはイタリアGKの手が届かないゴール左隅へと、鋭い弾道を描いて突き刺さった!
ゴォォォォォォォォル!!!!
イングランド、ついに同点!!! スコアは【イングランド 1 - 1 イタリア】!!!
千切はコーナーフラッグへ向かって走り出し、喜びを爆発させる!すぐに、絶妙な落としでアシストした凪、そして起点となったコング、さらに玲王、アギといったチームメイトたちが次々と駆け寄り、歓喜の輪ができた!コングの突破、玲王のパス、アギのブロック、凪のポストプレー、そして千切の決定力。個々の力とチームとしての連携が見事に融合して奪った、値千金の同点ゴールだった。
一方、守備を固め、戦術的に優位に進めていたはずのイタリアにとっては、痛恨の失点となった。ロレンツォも愛空も、そして呆然とする二子も、悔しさを滲ませながらピッチを見つめる。
試合は、このゴールによって完全に振り出しに戻った。残り時間、どちらが次の1点を奪うのか。スタジアムのボルテージは、再び最高潮へと達していた。