コングの挑戦   作:マウスブン

4 / 20
後半5分から後半40分

選手交代を終え、試合が再開された。ボールを保持したのはブルーロック。後半から投入された氷織が、早速中盤の底に近い位置でボールを受ける。彼はプレッシャーを受けても慌てず、顔を上げ、正確無比なショートパスで味方へと繋ぐ。彼の落ち着いたボール捌きは、やや混乱しかけていたブルーロックのポゼッションに、確かな安定感を取り戻させた。

 

さらに、同じく交代で入った玲王も、ピッチ上で躍動し始める。彼は中盤でボールを受けると、力強いドリブルで前進。U-20のMFを引きつけ、空いたスペースへ走り込む凪へ、ピンポイントのパスを供給しようとする。

 

「凪!」

 

玲王からのパスを、凪は再び予測不能なトラップで受けようとする。しかし、そこへ立ちはだかったのは、やはりコングだった。彼はボランチの位置から素早く凪に寄せ、その巨体でプレッシャーをかける。凪はトラップこそ成功させるが、シュートコースは塞がれてしまう。

 

「チッ…どこにでもいるな、あの怪物…」

玲王は舌打ちする。コングの存在は、玲王と凪の黄金コンビにとっても厄介な障壁となっていた。

 

それでも、玲王と氷織の投入は、ブルーロックの攻撃に新たな色を加えていた。氷織の散らすパスは、U-20の守備ブロックにズレを生じさせ、玲王の展開力と個の打開力は、攻撃の選択肢を増やしている。ボールは以前よりもスムーズに回り始め、ブルーロックは試合の主導権を再び手繰り寄せようとしていた。

 

だが、U-20も引き下がらない。糸師冴が中盤で巧みなインターセプトを見せれば、コングは相変わらずフィールドを走り回り、ブルーロックの攻撃の芽を摘み取る。前線では士道が常にゴールを狙い、一瞬の隙も許さない。

 

フレッシュな選手が加わり、戦術的な変化を見せるブルーロック。勢いに乗り、泥臭く食らいつくU-20。両者の意地とプライドが、ピッチ上で激しく火花を散らす。スコアは2-3。残り時間はまだ十分にある。試合は、交代選手たちの活躍によって、さらに予測不能で、エキサイティングな局面へと突入していく。次に試合を動かすのは、果たしてどちらのチームか。スタジアムの誰もが、固唾を飲んでその瞬間を待っていた。

 

 

 

氷織と玲王の投入は、確かにブルーロックのボールポゼッションに安定感をもたらした。氷織の正確なパス捌きと玲王の展開力によって、ボールはフィールドをスムーズに動き、U-20はなかなかボールを奪うことができない時間が続く。ブルーロックが試合をコントロールし始めたかのように見えた。

 

だが、その支配には常に影が付きまとっていた。巨大な、そして無尽蔵のスタミナを持つ影――コングだ。

 

ボランチの位置に入ったコングは、冴の指示を愚直なまでに実行し続けていた。「相手のボールを奪う」。ボールが氷織に渡れば氷織へ、玲王に渡れば玲王へ、他の選手に渡っても、彼はターゲットを変え、休むことなく全力でプレッシャーをかけ続ける。その巨躯がすぐそばまで迫ってくる圧力は、ブルーロックのテクニシャンたちにとっても決して心地よいものではなかった。

 

「クソッ、また来た!」

「どこまで追ってくるんだ、このゴリラ…!」

「下手に取られるわけにはいかない…!」

 

コングの執拗なチェイシングは、ブルーロックの選手たちにリスク回避の意識を植え付け始めた。華麗なパスワークやドリブル突破よりも、確実な横パスや安全なバックパスを選択する場面が増えていく。ボールは回っているが、それは相手ゴールへ迫る推進力を欠いた、やや停滞したポゼッションとなりつつあった。

 

その状況を、フィールドの中央で冷静に観察している男がいた。糸師冴だ。彼は、コングという”狂犬”が相手にプレッシャーをかけ、パスコースを限定させているのを正確に読み取っていた。そして、その瞬間を待っていた。

 

烏が迫りくるコングの圧力を嫌い、近くの氷織へ安易な横パスを選択した。ボールが足元を離れた、まさにその瞬間。

 

「そこだ」

 

冴が猛然とダッシュを開始した。予測していたパスコースへ一直線に走り込み、相手選手がボールを受けるよりも早く、そのパスライン上に割り込む!完璧なインターセプト!

 

「しまった!」

烏も、受けようとした氷織も、冴の動きに反応できなかった。

 

ボールを奪った冴は、即座に前を向く。ブルーロックの選手たちはボール回しに意識が向いていたため、守備への切り替えが一瞬遅れる。U-20にとって、絶好のカウンターチャンスだ。

 

コングの無尽蔵のプレスがブルーロックのパスワークを鈍らせ、そこを司令塔・冴が狙い澄ました一刺しで刈り取る。U-20が、再びブルーロックゴールへと牙を剥こうとしていた。試合は依然として、どちらに転ぶか分からない緊迫した状況が続く。

 

 

 

糸師冴の完璧なインターセプト!ブルーロックの選手たちが守備へと切り替える僅かな隙を突き、U-20のカウンターが発動する。ボールを持った冴は、まるでピッチ全体が見えているかのように、最適なルートを選択し、ドリブルを開始した。

 

ブルーロックも必死だ。交代で入ったばかりの玲王と氷織も、全速力で自陣へと戻り、カウンターを阻止しようとする。だが、冴のドリブルは彼らのプレスを冷静にかわし、ブルーロック陣内深くまで侵入していく。

 

前線では、士道がブルーロックDFラインと激しい駆け引きを繰り広げている。閃堂もゴール前へ走り込み、数的有利を作り出そうとする。ボランチの位置から、コングも遅れて攻撃参加の動きを見せ、厚みを加えようとしていた。

 

ブルーロックのDFが冴に引きつけられる。複数のパスコースが見えた瞬間、冴は最も危険な選択肢を選んだ。悪魔・士道へ向けた、鋭いグラウンダーのパス。DFの足元をすり抜けるような、絶妙なボールだ。

 

「もらったァ!」

 

士道はDFの死角から飛び出し、完璧なタイミングでパスを受ける。ペナルティエリア内、GKとほぼ1対1の状況!再びU-20に同点の絶好機が訪れる!

 

しかし、ブルーロックもただやられてはいない。士道がシュート体勢に入る瞬間、猛然とスライディングしてきたのは、守備に戻っていた玲王だった!彼の万能性は守備でも発揮される。さらに、ゴール前には糸師凛が立ちはだかり、シュートコースを限定している。GK我牙丸も冷静にポジションを取り、プレッシャーをかける。

 

「邪魔だァ!」

 

士道は玲王のスライディングを強引にかわし、角度のないところからシュートを放つ!だが、コースを限定されたボールは、GK我牙丸の守備範囲。我牙丸は確実にボールをキャッチした。

 

「チッ…!」

士道は悪態をつきながら、悔しげに空を蹴る。冴もパスが通っただけに、決定機を逸したことにわずかな苛立ちを見せた。

 

U-20のカウンターは、ブルーロックの必死の守備に阻まれた。しかし、冴のインターセプトから始まった一連の流れは、U-20が試合の主導権を完全にブルーロックへ渡すつもりがないことを明確に示していた。

 

ピッチ上では、依然として激しい攻防が繰り広げられる。中盤でのボール支配、カウンターの応酬、そしてゴール前でのギリギリの攻防。スコアは2-3のまま、試合はどちらに転ぶか全く予測できない、緊迫した状況が続いていた。

 

 

 

 

士道のシュートを確実にキャッチしたGK我牙丸吟は、すぐにリスタートはせず、一呼吸置いた。立て続けのピンチを凌ぎ、まずはチーム全体を落ち着かせることを優先したようだ。彼の指示で、ブルーロックの選手たちは素早く陣形を整える。

 

試合が再開されると、ブルーロックはボールを保持し、ポゼッションを高めることで試合のペースを握ろうとする。中盤では、氷織羊が正確なパスを散らし、ゲームのテンポをコントロール。玲王も低い位置まで下がり、ボールの循環を助ける。無理に攻め急がず、U-20の守備ブロックの隙を辛抱強く探る構えだ。

 

対するU-20も、前がかりになっていた姿勢を修正し、一度しっかりとした守備ブロックを形成する。ボランチの位置に入ったコングは、中盤のフィルターとして機能し、氷織や玲王の動きを常に警戒。その巨躯が中央にいるだけで、ブルーロックの中盤にとっては大きなプレッシャーとなっていた。糸師冴も、無理にボールを追いかけることはせず、相手のパスコースを読み、インターセプトの機会を虎視眈々と狙っている。

 

ピッチ上では、ボールが静かに行き来する時間が増える。しかしそれは決して試合が停滞していることを意味するものではない。水面下では、両チームによる高度な戦術的な駆け引き、ポジショニングの修正、そして一瞬の隙を突こうとする互いの狙いが交錯していた。

 

時折、ブルーロックは玲王のサイドチェンジや、凪への浮き球のパスで局面の打開を図る。だが、U-20のDFラインはキャプテンの愛空を中心に集中力を保っており、決定的な仕事はさせない。コングも、ボランチとしてのポジショニングに少しずつ慣れてきたのか、危険なスペースを埋める動きや、味方との連携がスムーズになってきているように見えた。とはいえ、後半開始から休むことなく走り続けている彼の額には、大量の汗が浮かんでいる。無尽蔵に見えたスタミナにも、限りはあるのかもしれない。

 

U-20もボールを奪えば、冴のパスを起点にカウンターを狙うが、ブルーロックも守備への切り替えが早い。潔や凛も献身的にプレスバックし、簡単には前進を許さない。

 

スコアは2-3のまま、時間は刻々と過ぎていく。一進一退の攻防。ピッチ上には、息詰まるような緊張感が漂っていた。次に均衡を破るのは、個人の閃きか、チームとしての連携か、あるいは一つのミスか。両チームの選手、そしてスタジアム全体が、試合を決定づけるかもしれない次の瞬間を、固唾を飲んで待ち構えていた。

 

 

 

後半30分。スコアは依然として2-3、ブルーロックが1点をリードしたまま、試合は終盤戦へと突入していた。U-20は同点ゴールを目指し、中盤で辛抱強くボールを回し、ブルーロック守備陣の隙を窺う。時間は残り少ない。焦りが見えてもおかしくない時間帯だが、糸師冴は冷静にボールをコントロールしていた。

 

その冴から、前線を見つつ、近くにいたコングへ鋭い視線が送られた。そして、指で前方、ペナルティエリア(PA)内を指し示すジェスチャー。中へ入れ、という明確な指示だ。

 

(PA…ノ…ナカ…?)

コングは一瞬戸惑う。自分はボランチのはずだ。しかし、司令塔の命令は絶対。そして、「取り返す」と誓った自分の言葉を思い出す。コングは迷いを振り切り、雄叫びと共にPA内へと走り出した!

 

その巨躯がゴール前へ侵入してきたことで、ブルーロック守備陣に緊張が走る。

「コングが入ってきたぞ!マークつけ!」

「ヘディングさせんなよ!」

DFたちの意識は、明らかにPA内でポジションを取ろうとするコングへと集中した。彼の高さとパワーは、セットプレーでなくとも脅威だ。

 

ブルーロックDFの注意がコングに集まったのを確認したかのように、冴が動く。右サイド寄りの位置から、ふわりとした、しかし正確なクロスボールがゴール前へ向けて上げられた。ボールの軌道は、PA中央で待ち構えるコングの頭上、まさにヘディングで合わせるのに絶好の高さとコースに見えた。

 

(キタ…! オレ…カ…!?)

コングは落下点を予測し、飛び込もうとする。だが、ボールが迫ってくる直前、彼の脳裏に閃きが走った。このボールの質、回転、そして冴の視線…。何かが違う。これは、自分へのパスではない。もっと奥に、本当の狙いがあるのではないか?

 

直感が告げる。(スルー!)

 

コングは咄嗟の判断で、ヘディングに跳ぶ寸前で動きを止め、体を捻ってボールに触れず、後ろへと流した!

 

「なにっ!?」

マークしていたブルーロックDFは完全に意表を突かれる。コングが触るものとばかり思っていたため、その裏への対応が一瞬遅れた。

 

そして、コングがスルーしたボールの先に、フリーで走り込んできた選手がいた。悪魔、士道!冴のクロスは、コングを囮にした、士道への完璧なラストパスだった!

 

士道は満面の笑みで、ダイレクトでボールをゴールへ蹴り込もうとする。スタジアム中の誰もが同点ゴールを確信した瞬間。

 

「させん!!」

 

一条の光のように、糸師凛がそのシュートコースへ体を投げ出した!驚異的な反応速度と読み。凛の足先が、シュートが放たれる寸前のボールに触れる!

 

ボールはゴールラインの外へと弾き出された。コーナーキック。

 

「チィッ!」

士道はあと一歩でゴールというところで阻まれ、激しく舌打ちする。コングは自分の判断がチャンスに繋がったことに安堵しつつも、ゴールならなかったことに悔しさを滲ませる。冴は、狙い通りの展開を作りながらも、最後の最後で弟に阻止されたことに、わずかな不快感を示した。

 

ブルーロックは、凛のスーパーセーブ(フィールドプレイヤーだが)によって、またしても失点を免れた。しかし、U-20にコーナーキックを与えてしまう。絶好機は逸したが、U-20はセットプレーで再び同点を狙う。試合のボルテージは最高潮に達していた。

 

 

 

糸師凛の身を挺した守備によって得たコーナーキック。後半30分過ぎ、同点を狙うU-20にとって、これ以上ないチャンスだ。コーナーフラッグへ向かうのは、やはり糸師冴。彼の左足から繰り出されるボールは、幾度となく決定機を演出してきた。

 

ペナルティエリア内は、両チームの選手が入り乱れ、激しいポジション争いが繰り広げられている。特に注目が集まるのは、ボランチの位置からゴール前へ上がってきたコングだ。彼の圧倒的な高さとフィジカルは、セットプレーにおいて最大の武器となる。

 

ブルーロック守備陣もそれは承知の上だ。糸師凛と、長身DFの蟻生十兵衛が、コングを挟み込むようにして徹底的にマークについている。まさに二人掛かり。絶対にコングに仕事をさせないという強い意志が見える。他の選手たちも、ゴール前のスペースを埋め、集中力を高めている。

 

スタジアムが固唾を飲んで見守る中、冴がボールをセットする。短い助走から、左足が一閃される。鋭く、速い弾道のボールが、ゴール前の密集地帯へと吸い込まれていく。ターゲットは明確だった。コングだ。

 

「来るぞ!」

「絶対競り勝て!」

 

凛と蟻生が、コングを抑え込もうと全力でジャンプする。だが、コングの跳躍力とパワーは、彼らの想像を遥かに超えていた。

 

「グオォォッ!!」

 

獣のような咆哮と共に、コングは二人掛かりのマークをものともせず、空中で圧倒的な存在感を示す。まるで重力を無視するかのように高く跳び上がり、屈強なDF二人を弾き飛ばすようにして、落下点の最高到達点でボールにコンタクトした!

 

誰もがコングのヘディングシュートを予測した。潔はゴールに走り、他のブルロメンバーはコングに近寄った。しかしコングは違った。彼は空中で体勢をコントロールし、ボールをゴールへ叩きつけるのではなかった。

 

(ヤサシク、タッチ)

 

コングは頭で優しくコースを変えた。そのボールが向かった先は、ゴール前中央、マークが外れてフリーになっていた士道の足元だった!コングの、驚くべき判断力と技術が生んだ、完璧な折り返しのヘディングパス!

 

「!!!」

 

士道の目の前に、無人のゴールへと続く道が開かれる。GK我牙丸も、コングへの対応で一瞬前に出たため、完全なノーマーク状態。これ以上ない、絶好の同点ゴールチャンス!スタジアムの時が、止まったかのように感じられた。士道が、ボールを蹴る、ただそれだけの時間が永遠にも思える瞬間だった。

 

 

 

時が止まったかのようなゴール前。コングからの完璧な折り返しのボールが、士道の足元へと優しく転がる。目の前には、がら空きのゴールと、絶望的な表情を浮かべるGK我牙丸吟。これ以上ない、お膳立てされたシチュエーション。

 

ストライカーとしての本能が、士道の全身を駆け巡る。彼は一瞬の溜めを作り、そして、まるでボールに話しかけるかのように、右足をコンパクトに振り抜いた!

 

狙いすましたシュートは、GK我牙丸が反応する暇も与えず、ゴール左隅のネットへと突き刺さった。強い弾道ではなく、しかし、確実にゴールを捉える、技術とエゴが凝縮された一撃。

 

ゴォォォォォォォォォォォォォル!!!!!!!!

 

スタジアムが、この日一番の大歓声と地鳴りのような振動に包まれる!ついに、ついにU-20日本代表が同点に追いついた!スコアは3-3!死闘は、振り出しに戻った!

 

ゴールを決めた士道は、両腕を広げ、恍惚とした表情で天を仰ぐ。

「ン~~~ッ最高(エクスタシー)!! やっぱ俺が決めてこそ、だろォ!?」

彼らしい、エゴ全開の叫びがピッチに響き渡る。

 

U-20の選手たちが、一斉に士道と、そしてアシストしたコングのもとへ駆け寄る!ベンチメンバーも、スタッフも、誰もが飛び出してきて、ピッチ上は歓喜の輪で溢れかえった。

 

「コング! ナイスアシストだ!」

「よくやった!」

 

チームメイトから肩を叩かれ、頭を撫でられ、コングは満面の笑みで雄叫びを上げていた。前半、PKを与えてしまったあの絶望感。それを自らのプレーで、そしてチームのゴールで「取り返す」ことができたのだ。彼の目には、達成感と安堵の色が浮かんでいた。

 

司令塔の糸師冴も、遠巻きにその光景を見ていた。表情は相変わらずクールだが、その口元には確かな満足感が浮かんでいるように見えた。彼の描いたゲームプランが、見事に結実した瞬間だった。

 

一方、ブルーロックの選手たちは、呆然と立ち尽くしていた。2点のリードを守り切れず、ついに同点に追いつかれた。特に、コングとの競り合いに負けた凛と蟻生、そしてまたしてもゴールを許したGK我牙丸は、唇を噛み締め、言葉にならない悔しさを滲ませていた。

 

試合は完全に振り出しへ。残り時間は10分強。スコアは3-3。両チームの死力を尽くした戦いは、いよいよ最終盤へ。この激闘を制し、勝利を手にするのは果たしてどちらか。スタジアムの興奮は、もはや制御不能なレベルに達していた。

 

 

 

後半35分。3-3の同点。スタジアムの興奮は最高潮に達し、ピッチ上のどちらの選手たちも残された時間で決勝ゴールを奪うべく、最後の力を振り絞っていた。そして同点に追いつかれたブルーロックは、流れを変えるべく最後のカードを切ろうとしていた。ベンチでは、"キング"馬狼照英がウォーミングアップを終え、投入の時を待っている。

 

しかし、ピッチ上では依然としてU-20が主導権を握りかけていた。焦りからか、ブルーロックのパスが乱れた瞬間、またしても糸師冴が鋭い読みでボールをカット!攻守が入れ替わり、U-20ボールとなる。

 

「また冴か!」

「集中しろ!」

ブルーロックDF陣から声が飛ぶ。もうこれ以上、冴と、そして悪魔・士道を自由にさせてはならない。その意識が、ブルーロックの守備を縛り付けていた。冴がボールを持てば二人がかりで、士道には常にマークがつく。U-20の二大脅威を封じ込めることに、ブルーロックの守備意識は集中していた。

 

ボールは冴を経由せず中盤の味方へ渡り、U-20がゆっくりとボールを回し始める。ブルーロックの徹底マークにより、冴や士道へ決定的なパスを通すのは難しい状況だ。

 

その結果、必然的にプレッシャーが甘くなる選手がいた。ボランチの位置でボールサイドに顔を出していたコングだ。ブルーロックの選手たちは、冴と士道への警戒に意識を割かれ、コングへの寄せが一瞬遅れる場面が散見されるようになっていた。

 

コングはフリーに近い状態でパスを受ける。顔を上げて前線を見るが、やはり冴と士道へのマークは厳しい。

 

(サエ…シドウ…マーク…キツイ… ダセナイ…)

 

どうしたものか、とコングが思考を巡らせた瞬間、ふと、彼の視線はフィールドの遥か前方、ブルーロックのゴールへと向いた。

 

(…ん?)

 

距離は遠い。おそらく40メートル以上はあるだろう。普通なら、シュートなど考えもしない距離だ。だが、今のコングには、なぜかそのゴールが、いつもより大きく、そしてはっきりと見えた。冴と士道にDFの意識が集中しているためか、コングの前方には、シュートを打つためのスペースが奇妙なほど広がっているように感じられたのだ。

 

(ゴール…ヨクミエル…ナゼ…?)

 

彼の脳裏に、ジャングルで遠くの獲物を狙った時の感覚が蘇る。野生の直感が、何かを告げている。誰も予測しない、常識外れの選択肢。コングはゴクリと唾を飲み込み、目の前のゴールを、そして足元のボールを、改めて見つめた。

 

スコアは3-3。距離は40メートル以上。常識的に考えれば無謀な距離だ。だが、彼の野生の直感が「蹴れ」と囁いていた。

 

(サエ…シドウ…ミタイニ…ケル…!)

 

コングは決断した。チームメイトが見せる、洗練されたシュートフォーム。正確なミート、美しい回転。それを脳裏に焼き付け、見様見真似で、しかし自身の持つ全てのパワーを込めて、右足を振り抜いた!

 

ゴォォォンッ!!!

 

スタジアムに、先ほどのシュートとは比較にならないほどの、異様なインパクト音が響き渡る!ボールはコングの足元を離れた瞬間、信じられないほどの初速を得て、まるで意志を持ったかのように不規則に揺れながら、一直線にブルーロックゴールへと突き進む!それは砲弾、いや、隕石の落下を思わせる、まさに恐ろしい勢いのシュートだった。

 

「なっ!?」

 

ブルーロックGK、我牙丸は、その弾道と威力に完全に意表を突かれた。咄嗟に反応し、横っ飛びでボールに手を伸ばす。しかし、ボールに込められた恐ろしいパワーは、我牙丸の腕を弾き飛ばさんばかりの衝撃を与えた。

 

「ぐっ…!」

 

我牙丸は悲鳴に近い声を上げる。キャッチなど不可能。彼は倒れこむがなんとかボールをパンチングし、ゴール枠外へ弾き出すのが精一杯だった。ボールは勢いを失わず、高く、そしてペナルティエリアの外へと大きく跳ね返った!

 

誰もがプレーが切れるか、あるいはセカンドボールの競り合いになると思った、その瞬間。

 

ペナルティエリアのわずかに外側、高く弾かれたボールの落下点に、一人の選手が走り込んでいた。士道だ。彼はコングのシュートの瞬間から、こぼれ球を予測していたかのように動き出していた。

 

そして、落下してくるボールに対し、士道は信じられないプレーを選択する。空中で体を反転させ、美しいフォームから繰り出されたのは、オーバーヘッドキック!

 

空中でボールの芯を完璧に捉えた一撃!ボールはGK我牙丸が体勢を立て直す間もなく、そして誰もいないゴール中央へと、吸い込まれるように突き刺さった!

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォォル!!!!!!!!!!!

 

芸術的!悪魔的!奇跡的!士道のスーパーアクロバティックゴールで、ついにU-20が勝ち越し!スコアは4-3!

 

スタジアムは狂乱の渦に包まれた。合計3ゴールのハットトリックを決めた士道は、ピッチを駆け回りながら喜びを爆発させ、お茶の間に流せない奇声を発している。そして、信じられないロングシュートで起点となったコングは、自分の足から放たれたボールと、その結果生まれたゴールに、ただただ呆然としながらも、全身で歓喜を表していた。

 

糸師冴でさえ、この展開には予想外だったのか、驚きと面白さが入り混じったような複雑な表情を浮かべている。U-20ベンチは総立ちとなり、選手たちはピッチ上のヒーローたちへ駆け寄る。

 

一方、ブルーロックは奈落の底へ突き落とされた。コングの規格外のシュート、そして士道の芸術的なオーバーヘッド。立て続けのスーパープレーの前に、為す術なく勝ち越しを許してしまった。残り時間はあとわずか。絶望的な状況で、彼らに反撃の力は残っているのか。

 

後半35分過ぎ、試合は最も劇的な形で、U-20のリードへと動いた。勝負は、まだ終わらない。だが、流れは完全にU-20へと傾いたように見えた。

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