ドイツに逆転を許し、スコアは 1-2。マンシャイン・シティの選手たちの間に、一瞬重い空気が流れた。味方同士の衝突という最悪の形で奪われたゴールは、精神的なダメージも大きい。しかし、キャプテンマークを巻くアギはすぐに声を張り上げ、チームを鼓舞した。
「下を向くな!まだ負けていない!落ち着いて、俺たちのサッカーをやるぞ!」
その声に呼応するように、イングランドはリスタートから慎重にボールを回し始めた。アギと玲王が中盤でパス交換を繰り返し、チーム全体のリズムを取り戻そうと試みる。バックラインでボールを動かし、相手のプレスをいなしながら、機を窺う。そして、ボールは右サイドバックの位置にいるコングへと渡った。
その瞬間を待っていたかのように、ドイツ人の前線の選手が、素早い動きでコングに襲いかかる。コングの足元の技術を見切ってか、鋭いプレスがコングを襲う。
「!」
プレッシャーを感じながらも、コングは焦らなかった。顔を上げ、ピッチ全体を見渡す。ジャングルで培われた広い視野が、一瞬のチャンスを捉えた。逆サイド、左ウイングの千切の前方。そこには、ドイツの守備陣形が戻りきれていないことによって生まれた、広大なスペースがぽっかりと空いていた。
(あそこ…!)
しかし、距離がある。通常のサイドチェンジのパスでは、相手にカットされるか、千切がスピードに乗る前に追いつかれてしまうかもしれない。もっと速く、正確なボールが必要だ。
その瞬間、コングの脳裏に、先ほど目の前で叩き込まれたカイザーインパクトの残像が、鮮明にフラッシュバックした。あの軸足の踏み込み、腰の鋭い回転、ボールを捉えるインパクトの瞬間の全身の連動…。
(シュート、じゃない…でもあれ…あのパワー…届く!)
野生の勘と、驚異的な学習能力。そして、カイザーへの対抗心というエゴが、コングの中で一つの結論を導き出した。カイザーインパクトのフォームを、ロングパスに応用する――常識外れの、しかし彼らしい発想だった。
プレスに来た相手の動きを、持ち前のフィジカルで強引に抑え込みながら、コングはボールをわずかに前へ出す。そして、大きく右足を振りかぶる。軸足が芝生に深く食い込み、腰が限界まで捻られる。全身の筋肉がバネのように収縮し、解放される。
目標は、遥か彼方の左サイドでスタートを切ろうとしている、赤い豹・千切豹馬。
コングは、脳内で完璧にトレースしたカイザーのフォームを意識し、ボールの中心を右足のインステップで捉えた!
バチンッ!!!
乾いた、しかし重く鋭いインパクト音がスタジアムに響き渡る。蹴り出されたボールは、早い速度を保ったまま、まるでレーザービームのようにピッチを切り裂いていく。凄まじい回転がかかり、速度は衰える気配がない。それは、ただのロングパスではなかった。足のふりの速さは不可能だが、コングの規格外のパワーと、模倣したカイザーインパクトの技術が融合した、未知の弾道だった。
ボールは、ドイツの中盤とディフェンスラインの間を抜け、左サイドの広大なスペースへと向かって、一直線に飛んでいく――!
コングが放ったカイザーインパクトを応用したロングパスは、唸りを上げてピッチを横断した。その弾道は低く、速く、そして正確だった。左サイドを疾走していた千切豹馬の数メートル前方のスペースに、まるで計算されたかのようにボールが到達する。完璧なタイミングとコース。観客席からどよめきが起こる。
「よしっ!」
コングはパスが通ったことに手応えを感じ、小さく拳を握った。
しかし、次の瞬間、問題が発生した。ボールの威力と回転が、常軌を逸していたのだ。快足の千切がトップスピードに近い状態でトラップを試みるが、ボールは彼の足に当たると、まるで意思を持っているかのように強く弾かれ、コントロールが効かない。
「くそっ!?」
千切は思わず声を上げる。ボールは数メートル先へと転がり、それを追いかけてコントロールし直そうとする僅かな時間――それが命取りとなった。
その隙を、バスタード・ミュンヘンの選手たちが見逃すはずがない。ノエル・ノアによって徹底された『合理性』に基づき、彼らは驚異的なスピードで自陣へと帰陣。千切がボールを再び足元に収めた時には、既に彼の周りには複数のドイツ選手が壁のように立ちはだかり、ドリブル突破はおろか、パスコースさえも限定されていた。マンシャイン・シティのカウンターの好機は、ボールの勢いがありすぎたために潰えてしまったのだ。
「あーあ、もったいねぇ…」玲王が悔しそうに呟く。
ピッチ上の選手たちがチャンスを逃したことに落胆する中、マンシャイン・シティのベンチでは、クリス・プリンスが興味深そうにその一連のプレーを見つめていた。彼は手に持っていたタブレットから顔を上げると、隣に座るコーチングスタッフに話しかけた。その表情は、意外にも満足げだった。
「見たかね? 今のコングのプレーを」
クリスは優雅に足を組み替える。
「結果的にチャンスには繋がらなかった。千切ほどのスピードとテクニックがあっても、あのボールを完璧にコントロールするのは難しかったようだね」
彼はそこで言葉を切ると、楽しそうに続けた。
「だが、あのパスそのものは…Fantastic!! 素晴らしいクオリティだ。あの距離へ、あのスピードで、正確にボールを届けるキック力。そして何より…」
クリスの目が細められる。
「カイザーのシュートを見て、それを即座にロングパスに応用しようとする、その発想(エゴ)! まさにダイヤモンドの原石だよ。粗削りだが、とてつもないポテンシャルを秘めている。僕の指導(ティーチング)で磨き上げれば、彼は世界を驚かせる『作品』になるだろう」
クリスは再びタブレットに視線を落とし、コングに関する新たなデータを打ち込み始めた。フィジカルだけではない、その驚異的な学習能力と応用力、そして何よりも強いエゴ。それこそが、クリス・プリンスが求める『理想』の選手の資質だった。
ピッチ上のコングは、チャンスを活かせなかったことに少し悔しそうな表情を見せていたが、同時にカイザーインパクトのフォームを使ったキックへの確かな手応えも感じていた。千切は苦笑いを浮かべながらも、コングの方を見て力強く頷き返す。言葉はなくとも、二人の間には確かな意志の疎通があった。
試合は依然としてドイツがリードしている。しかし、コングという予測不能な『フィジカルモンスター』の存在が、試合に新たな変数をもたらし始めていた。
コングの放った規格外のロングパスは、結果的にチャンスにはならなかったものの、バスタード・ミュンヘンにその危険性を強く認識させるには十分だった。ノエル・ノアの指示か、あるいはカイザーや潔の判断か、ドイツの対応は迅速だった。
これ以降、イングランドがボールを保持し、コングにボールが渡るたびに、必ずドイツの選手一人が猟犬のように厳しくマークにつくようになったのだ。パスコースは巧みに限定され、コングが自由に前を向いてロングキックを蹴るための時間とスペースは、ほとんど与えられなくなった。
(くそ…! マーク! チギリに蹴れない…!)
コングはボールを受けながらも、まとわりつく相手選手のプレッシャーに苛立ちを感じていた。どうすれば、この状況を打開できる? チームのために、俺は何をすべきだ? 彼は思考を巡らせる。ただフィジカルに任せて突進するだけではない、別の答えを探し始めていた。
そのコングの葛藤を見抜いたかのように、中盤でプレーしていたアギが、彼に合図を送った。クイッと顎でコングの前方、右サイドの相手SBの前のスペースを指し示す。そこはコングがオーバーラップをすれば使える、絶好のスペースだった。
コングはアギの意図を瞬時に理解した。ちょうどその時、後方でボールを持っていたのは玲王だった。彼の広い視野とパスセンスならば、コングの動きを見逃さないはずだ。コングは意を決し、マークについていた相手を一瞬の加速で振り切ると、アギが示したスペースへと猛然と走り出した。
「いいぞ!」
玲王の声が飛ぶ。彼の右足から放たれたパスは、相手DF二人の間を縫うように、走り込んできたコングの足元へと完璧なタイミングで届けられた。
ボールを受けたコングは、顔を上げる。ゴール前、相手DFを背負いながら絶好のポジションを取ろうとしている凪誠士郎の姿が見えた。
(ナギ!)
走りながらボールを受けた不安定な体勢。コングのアジリティに遅れながらもマークも追いかけてくる。それでもコングは、再びあのフォームを選択した。カイザーインパクトを模倣した、強引なまでのパワーパス。全身のバネを使い、右足を振り抜く!
しかし、やはり走りながらのキックは難易度が高かった。ボールは凄まじい威力で飛んでいくものの、そのコントロールは前回ほど定まっていない。パスは凪の足元からわずかにずれ、しかも猛烈な勢いで向かっていく。
スタジアムの誰もが思った。「これはトラップできない」「チャンスは潰えた」と。
――凪誠士郎を除いては。
その瞬間、凪はまるで未来を予知していたかのように、ごく自然に右足を差し出した。次の刹那、信じられない光景が広がる。あれほど獰猛に飛んできたボールが、まるで凪の足に恋焦がれていたかのように、ピタリと吸い付くように静止したのだ。全ての勢いが、魔法のように消え去っていた。
「なっ!?」
「嘘だろ…!?」
スタジアムが、一瞬の静寂の後、どよめきに包まれた。ドイツのDF陣も、あまりの神業トラップに反応が一瞬遅れる。
時が止まったかのような凪誠士郎の神技トラップ。スタジアムのどよめきが続く中、凪は静かに動き出した。ボールは彼の足元に完璧に収まっており、まるで体の一部のように一体化している。ドイツのDFたちは虚を突かれ、反応が遅れた。
凪はその隙を見逃さない。独特のリズムでドリブルを開始し、滑るようにドイツDFの間をすり抜けようとする。しかし、すぐに複数のDFが彼を囲もうと寄せてくる。
(…めんどくさい)
凪は心の中で呟くと、左サイドから猛然と駆け上がってくる赤い影――千切豹馬の姿を捉えた。二人の視線が一瞬交差する。
凪から千切へ、DFの股を抜くような絶妙なスルーパスが送られる。千切はそのパスをトップスピードに乗ったまま受け取ると、さらに加速。ドイツのサイドバックを完全に置き去りにし、ペナルティエリア内深くまで切り込んでいく。
ドイツGKが飛び出して角度を消そうとする。千切はシュートを撃つと見せかけ、鋭い切り返しでGKをかわし、中央へ折り返した。そこには、再びフリーになった凪が走り込んでいた!
「もらった!」
千切からの完璧なマイナスのパス。凪はダイレクトで右足を振り抜いた。GKは完全に逆を取られ、ボールはがら空きのゴールへと向かう。誰もがイングランドの同点ゴールを確信した――。
――その瞬間まで。
「そこだっ!」
潔世一の声が響く。メタビジョンによってこの展開を予測していたかのように、潔は完璧なタイミングでシュートコースへと滑り込んだ。彼の足に当たったボールは、わずかに軌道を変え、ゴールポストの外へと逸れていくかに見えた。
「危ねぇ…!」潔は息をつく。
しかし、ボールはまだ生きていた!ポストに当たって跳ね返ったボールは、運悪く、再び凪の目の前へと転がってきたのだ。今度こそ無人のゴール。凪は冷静に、押し込むだけだった。
だが、その凪の目の前に、突如として青い影が躍り出た。
「帰れ、ヒヨッコ!!」
ミヒャエル・カイザーだ!信じられない反応速度と跳躍力。彼はまるでフィールドに咲いた青い薔薇のように舞い上がり、凪が押し込もうとしたボールを、ゴールラインギリギリのところで右足のアウトサイドで掻き出したのだ!それは、味方のピンチを救うというより、自分の獲物を横取りされまいとする、まさにカイザーらしいエゴ剥き出しのプレーだった。
「なっ…!?」
「カイザー!?」
イングランドの選手たちは信じられないといった表情で頭を抱える。千切も凪も、あまりの出来事に一瞬動きを止めた。これ以上ない決定機は、ドイツの二人のエゴイスト――潔世一の完璧な読みと、ミヒャエル・カイザーの驚異的な身体能力とエゴによって、土壇場で阻止されてしまったのだ。
ボールは大きくクリアされ、ドイツは最大のピンチを脱した。スタジアムは、信じられないスーパープレーの連続に、ため息と興奮の入り混じった異様な空気に包まれる。
カイザーは得意げに髪をかき上げ、潔を一瞥する。「フン」と言わんばかりの表情だ。潔はカイザーのプレーに眉をひそめつつも、失点を防いだという結果に安堵の表情を浮かべていた。
イングランドにとっては、あまりにも痛いチャンス逸失。流れは再び、どちらに転ぶか分からない混沌とした状況へと戻っていった。
イングランドの決定機を、潔とカイザーという二枚看板の驚異的な守備で凌いだバスタード・ミュンヘン。試合の流れを完全に引き寄せたいドイツベンチ、あるいはピッチ上のノエル・ノアから新たな指示が飛んだのか、彼らの守備陣形に明確な変化が見られた。
これまで主にMFやDFが対応していたコングに対し、屈強なフィジカルを持つFW、国神錬介がマンマーク気味につくようになった。オレンジ色の髪を揺らし、以前の快活さとは違う、どこか影を帯びた表情で、国神はコングの行く手に立ちはだかる。
そのマッチアップは、すぐに激しい火花を散らし始めた。
イングランドが右サイドで攻撃を組み立てようと、コングにボールが渡る。対峙する国神。コングが持ち前のパワーを活かして縦に突破しようとすると、国神も鍛え上げられた肉体をぶつけ、真っ向から止めにかかる。
ガッ! バキッ!
ショルダーチャージが激しく交錯し、サッカーとは思えない鈍い音が響く。観客席が息をのむ、まさに肉弾戦。しかし、純粋なパワー勝負では、やはりコングに分があった。国神はコングの突進を受け止めきれず、数メートル弾き飛ばされるようにバランスを崩す。
「ぐっ…!」
国神は苦悶の表情を浮かべ、体勢を立て直す。今度はドイツの攻撃。国神が前線でボールを受けようとするが、素早く守備に戻ったコングが背後からプレッシャーをかける。国神が反転しようとした瞬間、コングは強引に体をねじ込み、ボールを奪い取る。国神はたまらずピッチに手をついた。
攻守が入れ替わるたびに、この二人のフィジカルバトルは繰り返された。空中戦での競り合い、ルーズボールの奪い合い、セットプレーでのポジション争い。そのほとんどで、コングがフィジカル的な優位性を見せつけ、国神が必死に食らいつき、何とか決定的な仕事をさせない、という展開が続く。国神の額には汗が噴き出し、肩で息をする場面も増えてきた。
だが、何度か激しく体をぶつけ合う中で、コングは奇妙な違和感を覚え始めていた。
(なんだ?)
国神のフィジカルは間違いなく強い。ブルーロックで出会った誰よりも、パワーという点では上かもしれない。しかし、時折、ぶつかってくる衝撃が、予想よりも『軽い』と感じる瞬間があるのだ。まるで、本来持っているはずのパワーを、意図的にセーブしているかのような…。
コングは、国神の目を見た。そこには、闘志や敵愾心と共に、何か別の感情…迷いや葛藤のようなものが、わずかに揺らめいているように見えた。プレーの端々にも、本来の彼ならもっと強引に来るはずの場面で、一瞬の躊躇が見られる気がした。
(手加減? 抑えてる?)
ジャングルの厳しい生存競争の中で培われたコングの本能が、目の前の敵の『不自然さ』を敏感に感じ取っていた。明確な理由は分からない。だが、国神が全力を出し切れていない、あるいは何かを恐れるようにプレーしているのではないか、という疑念が、コングの頭をもたげ始めた。
その違和感は、コングの警戒心を別の形で刺激した。ただ強いだけの相手ではない。何かを内に秘めた、複雑な敵。コングは目の前の国神とのフィジカルバトルに集中しながらも、その心の奥を探るように、鋭い視線を向け続けるのだった。
国神との激しいフィジカルバトルを繰り広げるコング。試合は一進一退の攻防が続き、両チームとも次の1点がどちらに入るか、緊迫した空気が流れていた。そんな中、中盤でボールを持ったのは御影玲王だった。
その瞬間、玲王の意識はフィールド上のただ一点、凪誠士郎へと集中した。他の選手がどこにいようと、どんな動きをしようと、今の玲王には関係なかった。彼の瞳には、凪と共に描く最高のゴールへの道筋だけが見えていた。
「凪!」
玲王の声と共に、二人の連携が始まった。パス交換、ドリブル、ワンツー。それは他のチームメイトを一切介さない、まるで二人だけの世界で繰り広げられるような、閉じた、しかしあまりにも流麗なコンビネーションだった。ドイツの選手たちがプレスをかけようとしても、二人は阿吽の呼吸でそれをいなし、確実にゴールへと近づいていく。
右サイドで国神と対峙していたコングは、中央で始まったチャンスの匂いを嗅ぎつけ、チームのためにスペースを空けようと、あるいはパスを受けようと、後方から猛然とオーバーラップを仕掛けた。国神もコングの動きを警戒し、必死に追走する。
「パス!こっち!」コングは声を上げる。
しかし、その声は玲王にも凪にも届いていないかのようだった。二人はコングを一瞥もせず、ただ互いの動きだけを見て、パスを繋ぎ続ける。アギも、千切も、そしてオーバーラップしてきたコングさえも、彼らの連携プレーの中では、背景の一部でしかなかった。
それでも、二人のプレーは効果的だった。完璧な連携と、凪の予測不能な個人技によって、バスタード・ミュンヘンの堅牢な守備ブロックが、少しずつ、しかし確実に崩されていく。DFが引きつけられ、中央にスペースが生まれ始めた。
そして、ついに決定的な瞬間が訪れる。ペナルティエリア内で玲王からのラストパスを受けた凪。彼の目の前には、最後の砦として潔世一とミヒャエル・カイザーが立ちはだかっていた。ドイツが誇る二人のエゴイスト。絶体絶命の状況。
(…やるか)
凪の表情が、ほんのわずかに変わる。次の瞬間、彼の足元でボールが信じられない動きを開始した。シュートを撃つと見せかけてキャンセル。ボールを右へ、左へ。軸足を変え、再びシュートモーション。キャンセル。またキャンセル。
一回、二回、三回、四回、五回――!
それは、もはやフェイントという言葉では言い表せない、神業の領域だった。「5連続シュートフェイント」。まるでボールと凪の体が完全に一体化し、相手の重心と意識を弄ぶかのような動き。
潔も、カイザーも、世界レベルのプレーヤーである彼らでさえ、この人間離れした連続フェイントには完全に対応できなかった。重心を崩され、体が勝手に動き、最後には二人とも無様にバランスを崩し、凪の前からいなくなっていた。
スタジアムが息をのむ。時が止まったかのような静寂。
二人のトッププレイヤーを完璧に無力化した凪は、がら空きになったゴールを見据える。そして、まるで練習のミニゲームでゴールを決めるかのように、冷静に、事もなげに、ボールをゴールネットへと流し込んだ。
ゴォォォォォォォォル!!!!
同点! スコアは 2 - 2! 信じられない超絶技巧からの同点弾に、スタジアムは爆発的な歓声と驚愕の声に包まれた。
「見たか! これが俺の宝物(凪)の実力だ!」
玲王は両手を突き上げ、叫んだ。その表情は達成感と興奮に満ちている。
凪はいつも通りに見えるが、その瞳の奥には確かな満足感が宿っていた。
オーバーラップして、結局ボールに触れられなかったコングは、ただ口を開けてその光景を見ていた。なんだ今の…? あの動き…あのフェイント…人間ができるプレーなのか…? 衝撃と、わずかな嫉妬、そして強烈な憧れが、彼の心を揺さぶっていた。
一方、完全にやられた潔とカイザーは、屈辱に顔を歪めていた。特にカイザーは、プライドを深く傷つけられたように、凪を睨みつけていた。
玲王と凪、二人のエゴが生み出したスーパーゴール。試合は再び振り出しに戻り、その行方はますます混沌としてきた。