「あっ、ヨハン中尉! あれ見てよ!」
整備長のギャロが俺に声を掛けてくる。
彼女が指差した方を見れば、何やら人だかりができている。
「あれは一体?」
訝しがる俺を彼女が笑いながら説明してくれる。
「ヨハン中尉は知らないのかい? あれは連邦の放送局だよ!」
連邦の放送局、確かに娯楽が少ない船の生活では数少ない息抜きだろう。
ただ、それにしても人が集まりすぎている。
「そんなに人が集まるものなんですか?」
「いいや…ただ」
彼女が一呼吸おいて言葉を発する。
「今日はブルクハルト大尉が出演するからね。みんな気になってるんだよ!」
生出演…という訳ではなさそうだ。実際、画面の前でパイロットに囲まれてるし。
「おっ、来たぞ!」
誰かの声を合図に、その場に居た全員が前のめりになって画面を凝視する。
無論、俺もだ。
「…さて、続いては連邦軍のエースパイロットをご紹介致しましょう」
キャスターが普段よりも声を張って喋っている。
今は戦時下ではないとは言え、やはりテレビなどにも連邦の影響力はある。
「今回のパイロットはフォン・ブルクハルト大尉です!」
周りから囃し立てられてブルクハルトはむず痒そうな表情をしている。
「…そんな大尉の異名は"蒼い稲妻"、そう味方からは呼ばれています」
蒼い稲妻? そんな呼ばれ方はしていないんだが…
この番組はどうも真実ではなく、プロパガンダを流す番組のようだ。
「また、卑劣なテロリストのジオン残党は"ムーアの怪物"と呼んでいるそうです」
それから暫くブルクハルトの紹介をして、コーナーが終了した。
次々と乗員たちが持ち場に戻っていく。
帰り際にブルクハルトに"よっ、蒼い稲妻"と一声掛けながら、だが。
「なんだヨハン、来てたのか」
殆どが戻って、静かになった休憩室の中でブルクハルトが俺を呼び留める。
「…ブルクハルト大尉」
正直、どんな顔すればいいのか分からん。
囃し立てたらマズイし、かと言って馬鹿真面目にするのもちょっと違う。
「俺が異名を貰えるなんてな…」
苦笑しながらブルクハルトが遠くを眺める。
異名があるのは良いが、流石に蒼い稲妻じゃユウ・カジマみたいじゃん…とは思うが。
「いえ、大尉は異名を持つのに相応しいパイロットだと…」
これはお世辞でもなく、俺の本心だった。
扱いが難しいアドバンスド・アレックスを、あれ程器用に使えるのはこの人ぐらいだ。
「そうか…? なら俺のパイロット人生でも聞くか?」
冗談のつもりでブルクハルトは言ったのだろうが、俺的にはかなり聞きたい。
エースパイロットの生涯を本人から聞ける機会など無いとガノタの血が騒いだのだ。
「是非!」
俺の食いつきの良さに驚いて後ずさりしたブルクハルトだったが、笑って話し始めた。
「…俺の初めての実戦は10月、地球軌道上の戦いだ。その時、ジムに乗ったのが最初だ」
一年戦争の10月から…
思ったよりもベテランのパイロットだったことに俺は衝撃を受けた。
「初陣の戦果はジオンのパトロール隊に所属していたザクⅡを1機撃墜だ」
エースパイロットとして戦場を渡り歩いてきたブルクハルトに俺は驚いていた。
ティターンズに徴用されたのも納得だ。
「一番危なかったのは…アレックスの試験中だな」
更に驚いたのは、ブルクハルトがかつてアレックスの試験にも携わっていたことだ。
時期的には一年戦争直後、"ガンダム"の幻想を追い求めていた時代だ。
「あの時は…今でこそ使い物になっているが当時は、な?」
俺も流石にアレックスに乗れ、と言われたら断るだろう。
それ程、アレックスはピーキーな機体なのだ。
「俺は最後までこいつに乗り続けるんだろうな…」
ふと、なにかを思い出したかのようにブルクハルトが呟く。
俺がその言葉に顔を上げると、ブルクハルトが静かに笑っていた。
「…結局みんな"ガンダム"の幻影に囚われているんだ」
ガンダムの幻影…?
俺はブルクハルトの顔をじっと見つめる。
「上層部は俺たちに良いものは送れないが、象徴たるガンダムならと思っていたらしい」
つまり、上層部はガンダムタイプを送ることで部隊を満足させようとしていたらしい。
味方部隊からしたら無敵の存在、敵からしたら忌むべき存在。
「…それが"ガンダム"」
ぽつりと言葉が俺の口から零れる。
確かに全員がガンダムなら何かある、と思っている。それは視聴者も含めて、だ。
「ガンダムは勝ち続けなきゃいけないんだ」
ブルクハルトが寂しげに笑う。
「そして…敵の恨み、絶望を背負わなきゃいけない」
それだけの覚悟が… 俺はムサイを墜とした時の自分の感情を恥じていた。
俺があの時感じていたのは高揚感だけだった。
「まあ、今のところヨハンはハイザックだからな。こんな話をしても…」
ブルクハルトが雰囲気を変えようと無理に笑わせてくる。
だが、俺は笑える気分じゃなかった。
「少し…体調が悪く…」
そう言って自室へと戻る。
あそこを曲がれば俺の部屋だ…
「なあ、それ本当かよ」
誰かの話し声が聞こえる。
俺が角を曲がるとそこで若い士官2人が話していた。
「あっ、中尉。…これって本当なんですか?」
「お、おいっ!」
一人がタブレットを俺に差し出す。
そこに記載されていたのはー
「30バンチ事件だと…」
タブレットを差し出した士官が申し訳なさそうにこちらを見ている。
だが、俺の心の中は穏やかではなかった。
「ティターンズがこんな事をするはずがないだろ…!」
強引にタブレットを返して、自室に急いで入る。
「くそっ!! もう30バンチの噂が流れてる…!」
これからエゥーゴとの戦争が激化していくだろう。
俺はその狂気の戦争が迫っていることを肌で感じるのだったー
どうも、SW好きのガノタと申します。
ブルクハルトの2つ名は「蒼い稲妻」にしました。
ティターンズカラー=蒼、ムーア=稲妻からこの2つ名がきています。
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