鬼畜戦士ランス、カントー地方に起つ!   作:OTZ

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鬼畜最強戦士ランスがポケモン世界に異世界転移したら……というクロスオーバーです。
5話程度の構成で考えています。

4/24 冒頭にシーンを追加しました


本編
鬼畜戦士、カントー地方に起つ!


「っつ……。あれ……。どこだここは」

 

 一人の男――ランスが目を覚ました。瞼を開ければ、視界を圧倒的な緑と、木漏れ日が支配する。鼻腔には濃密な土と、草木の出す青臭い匂いが彼をくすぐっていた。

 

「おかしい……。俺様はフリーダムどもを蹴散らす崇高な任務を達成しようとしていたのに」

 

 彼はいつもの通り、金がなくなったので奴隷のシィルを連れ、クエストでモンスターを倒していた。しかし、謎の閃光を受け、意識を失っている間にこのような所に移されていたのである。

 

「ランス……様っ」

 

 状況を把握する為、立ち上がり周囲を見回していると、聞き慣れた、しかしどこか不安に怯えているような声が耳に入る。彼女は上体を起こし、冒険でついた土汚れや草木などがついてはいたが、とりあえずは無事のようである。

 

「シィルか、一体どこだここは、説明しろ」

「わ、わかりません……。確か洞窟にいたはずなのに、眩しい光に包まれて、急に森に飛ばされて……」

 

 彼の奴隷であるシィルがたどたどしい口調で、状況を説明する。いつも通り役に立たんやつだと憂さ晴らしも兼ねて、一発制裁の拳を見舞ってやろうか。そう思って拳を握ったとき、ガサガサっと鋭い音がたてられる。

 

「な、なんでしょうか?」

「いちいちそんなことで驚くな。どうせ俺様に経験値とゴールドを恵みに来たモンスターだろ」

 

 そう言ってランスは己の得物である魔剣、カオスを振りかざし、音のした方向に歩みを進める。

 

「……」

 

 そうすると、黙ってゆらりと大きな、見たこともないムシと思しきモンスターが姿を現した。

 

「ひっ」

 

 シィルはその大きさに更に怯えた表情を見せた。

 

「でけぇな……。ハチ女ってわけでもなさそうだが……」

 

 そのモンスターは巨大なハチのような姿をしていた。黄色と黒で為される縞模様の胴体、人の二の腕くらいはありそうな大きな翅、そしてなにより、両腕と尻尾にある槍のように鋭利な針が、炯々と光っていた。

 

「見たこともないが……いっちょやってやるか! うぉりゃーーー!!」

 

 ランスは考えるよりも先に、足を進める。胴体に思い切りカオスの一閃を見舞おうとするも。すぐに避けられてしまった。

 

「むっ……。すばしっこいやつ。ならば、これなら!」

 

 ランスは今度は尻尾を狙おうと、先程よりは狙いを下げて剣を振りかざす。

 しかし、それよりも先にモンスターが動き、敵意をもった表情で、ランスたちにその針から無数の棘を射出した。

 

「うわ……。な、なんだこれは! 見たこともない技使いやがって!」

 

 ランスはその針を全て剣を正確に捌いて防ぐ。しかし、剣の弾く音は妙に甲高く、まるで鉄の矢や、はたまた剣戟を受けているかと錯覚するようであった。見たこともないモンスターが繰り出す、珍奇で、強力な技は、ランスの心を少しずつ動揺させていった。

 

「炎の矢!!」

 

 背後に居たシィルが、主人の危機を見るにつけて、魔法を繰り出した。一本の大きな火矢は、そのハチのようなモンスターに直撃し、火傷を負わせる。

 すると、観念したのか、モンスターは森の奥の方へ、鈍い羽音を立てながら消えていった。

 

「あっ、待て逃げるな! 俺様の経験値!!」

「ランス様、ご無事ですか……ひんっ」

 

 声をかけたシィルに、ランスは一発拳を見舞った。

 

「お前が余計なことをするから、俺様の大事な経験値の素が逃げていってしまったではないか!」

「ひんひん……。ごめんなさい」

 

 ランスの言い分は理不尽そのものであったが、シィルは黙ってその責めを受け入れる。これがいつも通りの二人の主従関係であった。

 

「しかし……。見覚えのねぇモンスターだったな。でかくて、針がやたらついてて……いったいどうなってんだ?」

 

 ランスは釈然としない表情を浮かべて、モンスターの消えた方向に視線を向けている。いつも通りの堂々とした姿勢は崩さないものの、その強さだけではない、もっと根本的な違和感がランスの内心で湧き始めていた。

 

「私も見たことがありません……。あの攻撃も。どうしてしまったのでしょうか……」

 

 シィルはこの奇妙な事態に、目に見えるほど不安を増大させていく。

 

――

 

「おい、まだ見つからないのか」

「すみませんランス様……。どうにも深い森で出口もなにもかもわかりません」

 

 それからランスとシィルはしばらく森を探索していたが、一向に出口が見つからなかった。

 

「ちっ。後ちょっとで目標数倒せてゴールドかっさらえたのによ。あーむしゃくしゃする!!」

 

 ランスは特に意味もなく、シィルをまた殴った。

 冒険者ランス。粗暴かつ尊大な男で、『世界中の美女は俺様のもの』を至上命題とするとんでもないスケベだが、数々の国の危機を救い、人類を蹂躙する魔人や使徒を何人も倒している英雄でもある。

 

「ひんひん……。ごめんなさい」

 

 この少女はそのランスの奴隷であるシィル。

 一目惚れしたランスによって買われた奴隷だが、このように朝から晩までこき使われている。

 

「しかし……。本当によくわからんところだな」

 

 ランスは改めて耳を澄ませ、周囲を見渡す。聞いたこともないモンスターの鳴き声や、上空を見るとこれまた見たこともない生物が時折空を飛び交っていた。

 

「こうして歩いてみて思いますけど……。なんだか、私達の住んでいる世界じゃないみたいです」

「は? リズナちゃんの玄武城の時みたいにか? んなことそうそうあるかよ……」

 

 シィルの言葉を聞き流していると、近くでガサッと物音がする。それにランスは野性的な勘、いや美女をサーチするレーダーのようなものが反応した。

 

「んーしかし腹減ったなあ。お、うまそーなきのみはっけーん!!」

 

 わざとらしい声をあげながら、ランスは音のした茂みに手を突っ込んだ。

 

「きゃっ……」

 

 押し殺したその声をランスを聞き逃さなかった。

 

「ふっふっふっ……。いるのは分かってるんだぞ、かなみ! でてこい!!」

 

 しばらく間をあけて、赤い忍者装束を着た少女がバツの悪そうな顔をしながら、姿を現す。

 彼女は見当かなみ。リーザス王国の女王でありランスに頭がおかしいほど惚れているリアの命により、ランスの監視任務についていた。

 

「うう……。なんでこんなことに」

 

 かなみは自らの運を呪う。

 

「俺様の勘をごまかそうなど百年はやいのだ。がははは」

 

 ランスは得意げに高笑いする。

 

「かなみさん……どうしてこちらに?」

「わかんないけど……、多分ランスやシィルちゃんと同じ、だと思う。あのときの閃光で」

 

 かなみは未だ事態が把握できないような顔で、それでもなんとか咀嚼しながら言葉を紡いだ。

 

「そうですか……」

「つまり、かなみはなーんも分かってないっつーことだな?」

 

 ランスは使えないやつを見るような視線で言った。

 

「なっ……。私だって忍者だもん、来た時に最低限偵察くらいしてるわよ!」

 

 そういってかなみは赤と白のツートンカラーで色分けされた小さなボールを差し出した。真ん中にボタンのようなものがついている。

 

「なんだこれ。食えんのか?」

「感触は堅いし……、そもそもなんか機械っぽいかんじするから食べ物じゃないと思う」

 

 かなみはボールを手の上で転がしながら、推測を立てていた。

 

「不思議なボールですね……。これ、どこで見つけられたのですか?」

「さっき、男の子がこれを落としてたのを見つけて、拾っておいたの」

 

 かなみは見つけた方向を見ながら言う。

 

「それって泥棒じゃねえか。うわ、お前そんなことするのか」

 

 ランスは下卑た顔でかなみをヤジる。

 

「な、何かの手がかりになるかもしれないでし……。あ、そう、拾う少し前に奇妙なところみたのよ」

「何があったんですか?」

 

 シィルは興味津々な様子で尋ねる。

 

「このボールから、あきらかにこのボールよりも大きいモンスター? みたいなのが出てきて、戦わせてるの見たの。それも私も、多分ランスたちもしらないような、姿形してて」

 

 かなみ当人も信じられないような表情をして話している。自分たちが知らない世界にきてしまったのではないかと、内心恐怖していた。

 

「は? 夢でも見てたんじゃないのかそれ」

 

 ランスははなから信じようとせず、小指で鼻をほじりながら適当に答えた。

 

「それはすごいですね! まるで、魔法……いやそれ以上かも」

 

 対照的にシィルは声を震わせて、両手を組んでいる。

 

「おい、信じるのかそんなバカみてーな話。どうみてもちっこいボールだぞ。多分まるとかあのへんのモンスターよりちっせえんだぞ」

 

 ランスはあくまで信じようとしなかった。

 

「ほ、本当に見たんだってば! こうやって放り投げるかんじで……」

 

 そういってかなみがボールを投げると、手が滑ったのか、ボールは宙を描いて飛んでいってしまった。

 

「あ……」

「相変わらずドジなや……」

 

 かなみがしまったという表情をし、ランスが取り出した鼻くそを投げようとした瞬間、目を疑った。

 なんと、ボールがひとりでに開き、あろうことか赤い光線をだして何かを中に入れ、地表に落ちたのである。

 

「ウソだろ」

「ね! ね! 私のいったこと間違ってなかったでしょ!」

 

 かなみは飛んでいった方向を指さしながら、喜色満面に自らを誇示した。

 

「本当に……ボールの中に」

「確かめにいくぞ」

 

 思考を切り替えたランスは先陣をきってボールの落ちた方へ向かっていく。

 

「何よあんだけバカにしてたくせに……」

「まあまあかなみさん。すごいじゃないですか。大発見ですよ」

 

 シィルの褒め言葉に、かなみは少しだけ元気を取り戻した。少し遅れて二人もランスに続く。

 

――

 

 三人がたどりつくと、ボールは既に動きを止めていた。

 

「停まってるな」

 

 ランスは存外冷静に言う。

 

「おい心の友よ。なんだあれは。やめとけ、禍々しい気を感じるぞい」

「何寝ぼけてんだバカ剣。今更になってなにのこのこ喋りだしてんだ」

 

 ランスは急に喋りだしたカオスにそう毒づいた。魔剣カオス。無敵結界を持つ魔人や魔王をも斬るとんでもない剣だが、こういうところがランスにはわずらわしかった。

 

「う~んう~ん……。なんかしらんけど、儂、ここきてから調子よくないのよね~ん」

「いつもお前は似たようなこといってるだろうが」

「いや違うんですよ? そーゆーのとは違うのん」

「訳の分からんこというな!!」

 

 そう言ってランスはベシっとカオスの鍔を叩いた。

 

「とりあえずちゃっちゃと開けましょ。多分何か入ってるし」

 

 かなみはそう言ってモンスターボールを拾い上げる。

 

「あ、かなみお前ずるいぞ!」

「えーっと……、真ん中に割れてるし、ここがボタンになるのかしら?」

 

 そう言って、かなみはランスを無視しながら、期待と不安が入り混じった表情で、ゆっくりとボタンを押した。

 すると赤い光が地表に放たれ、やがてそれが生物の形をなしていく。

 

「おお……」

「すごい……」

 

 この場に居た全員がそれをじっくり目の当たりにし、驚嘆の色が隠せなかった。

 光がなくなると、一体の小さな生物となってそこに現れた。

 

「なんだこりゃ……本当に見たこともないな」

 

 ランスたちがみたその生物は黄色い小さな小動物のような姿をしていた。

 二本のウサギのような耳に、ギザギザの尻尾、背中には何本かの茶色い線、頬にある二つの赤い丸とつぶらな瞳をもっていた。

 

「でも……なんだか可愛らしいですね。しかし、ケガをしているのでしょうか? ぐったりしていて、なんだか苦しそうです……」

 

 シィルはうつ伏せに横たわったままのその生物をみて心配そうな声をあげる。

 

「うん……。そうみたいね」

 

 かなみは表面上平静を保っていたが、意図せず捕まえた対象が存外可愛らしかったので少しだけ心を動かされていた。

 

「効くかどうか、わからないけど……。いたいのいたいの、とんでけー!」

 

 シィルは生物に手をかざし、ヒーリングの気をこめる。うまくいったようで生物にある傷は徐々に治っていった。

 

「ちっ。こんなのに貴重な魔力を使いやがって」

 

 ランスはシィルにそう軽口を叩いたが、内心では生物がどういう反応をするか気にしていた。

 生き物は気がつくと、立ち上がって。周囲をキョロキョロと見渡す。周囲に見慣れぬ人間がいたことに、少々驚いたようである。

 

「こわくないですよー、こっちにおいでおいで……」

 

 シィルは警戒心をとこうと、にこやかな顔を浮かべ、手を広げて、誘おうとしていたが、

 

「ま。いいやモンスターは経験値とゴールドのもと! 俺様の血肉となれやあああ!!」

 

 ランスはカオスを振りかざし、生物の脳天を狙った。

 すると即座に生物は反応し、黄色い光を放ち、ランスに向けてそれを放とうとした。

 

「むっ……!! な、なんだこりゃ? 魔法かなんかか?」

 

 ランスは本能的な回避行動で後ずさり、勢い余って、カオスを後ろの木に切りつけてしまった。

 しかし、その木の様を見て、かなみは重要な事に気がつく。

 

「――嘘でしょ」

 

 かなみはあわてて自分のクナイを何本か取り出し、状態を確認する。

 

「だ、ダメですよランス様! いきなりそんなことをしたら、かわいそうです」

「なんだこのクソネズミもどきが。俺様の偉大さを叩き込んで……」

 

 生物の放った電撃の魔法にも似たエネルギーに一旦は引いたランスは、敵意を再燃させ、第二撃を見舞おうとした。しかし、そこでかなみが声をあげ、ランスに警告を発した。

 

「待ってランス! ―――刃が、引かれているわ!」

「は?」

「お~~そういう事だったかあ。なるほど調子がでんわけだわ」

 

 カオスは納得したような声をあげている。

 

「おい、ふざけるのもいいかげんにしろよ」

 

 ランスはカオスを睨みつけた。

 

「往生際が悪い奴よの~、試しにそこの木切ってみ?」

「あ? こんなん俺様にかかればスパッと……」

 

 カオスに言われた通り、ランスは木を斬りつける。すると。木は確かに切れることは切れたが浅い傷のようなものがついただけで、従前のころのような何者をも切り裂く切れ味はなくなっていた。

 

「おい。いい加減にしろよ。たたでさえうるせえのに切れ味までなくしたら、溶かして金にするしかなくなんぞ」

「だーかーらー。調子が悪いっていったでしょ~ん。ここの空気かはたまた世界のせいなのか。ど~にも力がでないのよ~」

 

 カオスはあいも変わらず間の抜けた声をあげている。

 苛立つランスを前にかなみは自分の装束より得物を取り出す。

 

「見てランス。私のクナイや、あと手裏剣とかもこうなってるの。どういうことかわからないけど、少なくとも殺傷能力は削り取られてるみたい」

 

 かなみはそう言って、ランスに自分の武器を見せる。

 確かに武器としての形はあるものの、刃の部分だけ機能を失っているようである。

 

「ちっ……。どうなってんだこれは」

 

 ランスは困惑したような声をあげている。

 

「ん~でもまあ。斬れないってだけで、儂の重さとか材質は変わっとらんみたいだし、殺せはせんでも、鈍器みたいにボカボカ殴って、戦闘不能にすることくらいはできるかもしれんの~」

「だったらわざわざ剣なんか使わんでも、ハンマーとか使ったほうがよっぽどマシだわ!」

 

 ランスはカオスを再度はたいた。

 

「そんな……。だったらこれからどうやって……」

 

 先行きの不安に対し、シィルは不安げな声をあげている。

 

「理屈はわからないけど……。その子の様子見た限り、シィルちゃんの魔法は使えるみたいだから、モンスターの襲撃には攻撃魔法で対処するって手は使えると思う」

 

 かなみは生物の様子をみてそう考察した。向こうは警戒しながらも、逃げずに様子を伺っている。

 

「そういえばさっきも炎の矢が使えましたし……。魔法が使えるならなんとかなるのでしょうか?」

 

 シィルは回復魔法はともかく、攻撃魔法については性格上そこまで積極的に撃たず、練度もそれほどではないため不安な表情を浮かべる。いかにランスの武力が大きな心強さになってたかを彼女は痛感していた。

 

「大丈夫よ。シィルちゃん、自覚ないかもだけど、結構強いから。私も何度か助けられてるし」

 

 かなみはうつむいているシィルを励ますように、言葉をかけた。これまでの冒険でかなみは何度かシィルの魔法によって何度か身を守られている。決してお世辞や社交辞令でなく、彼女の魔法使いとしての力を評価していた。

 

「そう言ってくれるならありがたいです。できる限り頑張ります」

 

 シィルはちょっとだけ自信を取り戻して、かなみに安堵した表情を見せる。

 

「ま、奴隷が御主人様を守るのは当たり前だからな。せいぜい頑張れよ」

「うう……」

 

 かなみに比して、ランスのあまりにもそっけない言葉に、シィルは思わず涙を溜めていた。

 

「ああもうこの男は……」

 

 シィルを軽視しているのもあるが、それよりもあくまで楽観を続けているランスにかなみは頭を抱えていた。

 

「まあいい。全く使えんわけじゃないなら、どうにでもなるだろう。行くぞ」

 

 ランスは思考を切り替え、そそくさとその場から立ち去ろうとする。

 

「えっ?」

「行くぞって……この子はどうするのよ」

 

 かなみはそう言ってランスを止めた。

 

「なんだおまえこの子って。形は違っても所詮モンスターだろ。ぶっ殺そうかと思ったけど白けちまったし……。どうでもいいだろ、ほっとけほっとけ」

 

 ランスは心底興味のない表情で、左手を前に出してしっしっとお払い箱のジェスチャーをする。

 

「そんなぁ。まだケガも完全に治ってるわけでもないのに、かわいそうですよ……」

 

 シィルはあくまで生物に情をかけている。

 

「不思議な力も持ってるみたいだし、この子はこの世界を理解するうえでの大事なキーになるかもしれないわよ。せっかく私が、多分捕まえたみたいだしもう少し……」

 

 かなみも同じく生物に情けをかけていた。

 ランスはめんどくさそうに頭をボリボリかけながら答える。

 

「全くめんどくせえなあ……。あーじゃあ分かった好きにしろ。ただしお前らの責任で飼えよ。あと俺様に歯向かったら殺すか捨てる。それでいいな?」

 

 それで二人ともぱっと笑顔を作った。

 

「ありがとうございますランス様!」

「よかったね。シィルちゃん」

 

 シィルが頭を下げている所を、かなみは肩を叩いて同調していた。

 

「おいかなみお前まさか……、シィル並にあのネズミもどきに情うつしてんじゃないだろうな」

「なっ……。ちっ、違うわよ」

 

 かなみは少しだけ頬を赤くしてそっぽをむいた。図星だなこれはとランスは思ったが、あえて突っ込むのはやめにする。

 

「よしよし。もう怖くありませんからね―」

 

 シィルは生物のもとに近寄り、手を差し伸べる。

 

「ピ……」

 

 しかし、簡単に打ち解けようとはせず、まだ少しだけ警戒をしている。

 

「やっぱりまだ怖がってるわね。まあ無理もないけど」

「うーん……。どうしましょうか」

 

 シィルは困ったような表情を浮かべている。

 

「なにか私達に敵意がないことを伝えられるような、そんな方法があればいいんだけど」

「うーん……。あ、そうそう」

 

 シィルは荷物から一つの食料を取り出す。力のポテチと呼ばれる、ランスたちの世界の攻撃力増強アイテムであった。

 

「これをあげたら少しは」

「それアイテムでしょう? 喜ぶのかしら……」

 

 シィルはかなみの懐疑をよそに、力のポテチを食べやすいように砕き、手に盛る。

 そして、自身がかがんで生物の目線にあわせ、目の前に差し出した。

 生物は恐る恐る匂いを嗅ぎ、やがてシィルの手にもりもりと食らいつく。

 

「食べました! 食べましたよかなみさん!」

 

 シィルは嬉しそうにかなみに報告する。

 

「う、うん……。お腹が空いてたのかもね。すごい食べっぷり」

 

 かなみは現金な奴と思いながらも、口の端を少しだけ緩ませる。

 生物はやがて食べ終わって、二人の方に改めて視線を向けた。あの男はともかく、この二人はまだ信頼できるかも。と取れるような、そんな目であった。

 シィルは生物の頭に手をやり、ゆっくりと撫で始める。

 

「ふふ。結構モフモフで気持ちいい……。あの、一緒に行きませんか? まだケガも治りきってないみたいだし、あなたをこのままおいていくのは、心配なんです」

 

 シィルは生物に真摯な目をして問いかけた。生物は、おずおずと2,3歩シィルの側に近づく。

 

「ピ」

 

 小さなネズミのような生物はその小さな手をシィルに差し出す。彼女はにっこりと応じて、その手を握り、握手をかわした。シィルは受け入れてくれたとばかりに満面の笑みを浮かべる。

 

「おい! いつまでやってんだ! 置いてくぞ!!」

 

 業を煮やしたランスは、森をまたでたらめな方向へ進もうとしている。

 

「あ! 待ってくださいランス様……。かなみさん、巻き込んでしまって申し訳ないですけど」

「ふ……。いいわよもう。慣れてるから。それにほっといてランスになにかあれば、リア様になにされるか……」

 

 そんな建前をいいながらも、この二人のことを見捨てきれないという腐れ縁や同情心のようなものもかなみの心中にはあった。そして、なりゆきとはいえ自分が捕まえてしまった小さな生き物であり、仲間の行く末に、情のようなものとともに責任に近いものをかんじはじめていた。

 

――

 

 あれからかなみとシィルの手により生物は事実上保護される。その生物はやはりランスに敵意をもっているだけで、優しめに接してくれるかなみやシィルには特にそういうものは抱いてないようだった。

 それからかなみの偵察によりようやく道を見つけ、道に出た後、追加で更に探索を行わせ、報告をさせている。

 

「で、どうなんだかなみ、街にいく方向は見つかったのか」

「ええ……。木に登ったりしてみた感じだと、北の方向に街があるみたい。目測だけどそこまで時間はかからないと思う」

 

 かなみは少しだけ余裕のない様子でそう報告した。彼女自身、いまだに急に飛ばされたこの世界に動揺の色が隠せないでいる。

 

「ようし。じゃあとりあえずそこで情報収集だ。ヘンテコなところだが、街や人はいるみたいだし、どうにでもなるだろう。女の子もいるみたいだし、ついでに味見もするか」

 

 ランスはニヤニヤといやらしい表情を浮かべる。すでに道にでた時点で何人かまばらだが行き交う人々に遭遇しており、それくらいのことは認識できていた。

 

「うう……ランス様、あまりそういうことは……」

「言っても無駄だろうけど、あんまり変なことしないでよ。どういうとこなのかほとんどわからないんだから……」

 

 かなみは額に手をあて、困り果てた表情をする。ついてきていた生物はそんな様をいまいちつかめないような表情で見上げていた。

 かなみがせっかくだからとボールに戻そうとしたが、シィルが「そんな狭いところにとじこめられるなんて、かわいそうだからしばらくは……」と止めていたのである。

 ランスが様々な期待か、すけべ心に胸を踊らせて北に歩みだし、かなみとシィル、そして小さなネズミは後に続いていった。

 

――

 

 北に進み、ゲートにたどり着いた。ここをぬけて短い道路を抜ければ次の街にたどりつく。

 

「次の街はニビシティ……ってところらしいわね」

 

 かなみはゲートにつくとゲートに大きくはられていたタウンマップや、ゲートに置かれている道先案内の配布物を受け取り、情報収集を行っていた。

 

「に……にび。ですか? ちょっとめずらしい響きですね」

 

 シィルはそう純粋な感想をもらした。

 

「なんかニキビみてえだな……きたねえ」

「変なこと言わないでよ! ニビっていうのは……えっと確か、灰色を指す言葉でJAPANではたまに使う人がいる由緒ある表現よ。おじいちゃんがつかってた気がするから多分そう」

 

 かなみは思い出しながらそう説明した。シィルは「へぇー」と相づちをうちながら感心している。

 

「けっ。辛気臭そうなところだな。ま、ハイパー兵器にビビッとくる子がいりゃ、俺様はどうでもいいが」

「だから変なことするなっていってるでしょ!!」

 

 かなみの激昂にも一切耳を貸そうとしないランスである。

 

「しかし……、ずっと見てて思ったのですが、随分と皆さん変わった格好をしていらっしゃいますね」

「私達のところでも都市部ではこういう格好する人も珍しくはないけど……。まあ、確かにこのかんじ、大分様子が違いそうね」

 

 かなみは周囲を見渡しながら言う。周囲には洋服を着た人々が多数を占め、ランスたちのような着物や、鉄の鎧、露出度のたかいローブなどを着ている人々は全く見受けられなかった。

 

「さっきからジロジロ視線も感じるが。ま、これは俺様が素晴らしい男だと分かっているからだろうな。さすが俺様、いい男っていうのは全宇宙共通のようだがはははは」

「それは絶対違うと思う……」

 

 かなみは呆れた視線でランスを見上げて突っ込んだ。

 実際にこの三人もすれ違う人々からは奇異な格好として見られており、じっと見られたり、ヒソヒソと噂話する人も居た。

 

「それで、その次の街にはなにがあるんですか?」

「えっと、これ見た感じだと、化石とか飾ってある考古学の博物館とか……、フレンドリィショップ。まあ多分これは商店よね。あとはポケモン……センター? ポケモンジム? よくわからないところもあるみたい」

 

 かなみは案内図を見ながらたどたどしく説明した。

 

「なんだかいっぱい色々な施設があるみたいですね」

「そうみたい……。正直見慣れない言葉に、説明もなしに書いてあるから本当にどういうことになってるのかますますわからなくなってくるけど」

 

 かなみは読んでもなお、困惑した表情を続けていた。

 

「ま。なんでもいーや。とりあえずさっさと次の街に行くぞ。全てはそこから、そして俺様の女たちが手を引いて待ってるぞ、がははは!!」

 

 ランスは喜び勇んで、北の出口に向かっていった。シィルは慌てて、小さなネズミもそれにくっつく。そして、かなみはまたため息をついて頭痛を感じながら後ろへ続いていった。

 

―つづく―

 

 

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