「おー……ここが街か」
ランス一行はニビシティに到着した。着いた頃には夕刻となっており、空は茜色に染まっていた。
「わあ……。すごいです。高い建物とか、こんなにしっかりした道とか……」
ランスたちの世界にも、高層建築物や、舗装された道路はないわけではなかった。しかし、街全体が高度にここまで発展しており、なによりも彼らが見慣れたような木造や、石造、掘っ立て小屋のような住居や建物がほとんどないことが、異質な印象を強く抱かせていた。
「なあ、かなみ。ここ別に王都とか特別でけー街ってわけでもないんだろ……?」
「う、うん。大きいは大きいけど、案内みたかんじ、地方都市レベルって位置づけみたい……」
かなみはゲートよりもってきた案内図を読みながら言った。
「それでこれか……いや。すげえな」
ランスは珍しく感嘆していた。
「認めるの嫌だったけど……本当に、私達の知らない世界に迷い込んでしまったみたいね」
かなみは諦めると共に、覚悟を固めていた。
「まいいや、とにかく情報集めに……。お、そこのねーちゃん! なかなか立派な胸をしてるじゃないか、おっぱいもませろ」
ランスはそのへんに居た若い女性に声をかけた。
「な、何急に」
女性は急に卑猥に話しかけられたことで、極度の警戒をしている。
「そんなに怖がることないじゃないか。俺様に任せればめくるめく夜を」
「ランス!! 言ってる側からなにしてんのよ!!」
かなみは大慌てで止めに行く。
ランスが振り返ったのを見た女性は、関わるまいと高速で走り去っていった。
「あーあ。お前が話しかけるから逃げていってしまったではないか」
「いやどう考えてもあんたのせいでしょ……」
「いーや、お前が空気読まんから……。お、そこの君君、俺様たちは急にこんなところに来て困ってるんだ。一緒にそのへんでお茶しながら」
凝りもせずランスはまた別の女性に話しかける。ミニスカートをはいた、16歳くらいの少女だった。
「マダツボミ! はっぱカッター!」
ミニスカートは先程のランスを見ていたため、会話をせず、即座にポケモンを繰り出した。
「おっと」
しかしランスははっぱカッターを難なくよける。
「な……なによあれ。葉っぱが刃みたいに……」
かなみは初めて見るポケモンの特殊技にやや恐怖していた。
「わ、わあ……すごい。あのお口から葉っぱが大量に」
シィルも純粋な驚きを示していた。
「ちっ。妙な技使いやがって! おしおきだ!」
ランスはカオスの柄で、そのままマダツボミの脳天を叩いた。マダツボミは一撃できゅうと倒れてしまった。
「うわ~大人気な」
カオスの軽口も、ランスには響かなかった。
「うるさい。黙ってろ。さーて、可愛い子ちゃん、俺様と……」
迫るランスに、ミニスカートの女の子は叫び声をあげた。
「きゃー! リーダー! 助けてください!!」
「は? リーダー? あの心読むアレか?」
ランスが意味を取り違えていると、
「ウツボット! ヘドロばくだんですわ!!」
凛とした、しかしどこかゆかしい響きをした声が後方より聞こえてきた。声のした方向には和装をした、しかしこの世界特有のような意匠をこらした女性がランスに蔑んだ視線を向けて立っている。
「うわわ。なんだなんだ!!」
ランスはヘドロばくだんをすべてよけるか、カオスで弾き返す。
「わあ……きれいなひと。JAPANの服に似てるけど、私とそうかわらなそうなのにあんなに着こなしてるなんて」
かなみはその人物をみて少し恍惚としていた。同じ系統だからか、より惹かれるものがあった。
「思った以上に、俊敏な方ね……」
その人物はウツボットを従え、気品のある歩き方をしながらランスに近づいていった。
「おー……98点」
「はい?」
「ねーちゃんでもいいや。俺急にこんな世界に巻き込まれて大変なんだ。そのへんでお茶を……」
ランスは相変わらず軽口を叩いている。
「こいつ……! エリカさんになんて口を」
「おやめなさい、ユキコさん……。あなたのような方と、お茶をする暇など、私にはありませんわ。丁重にお断りさせていただきます」
エリカは冷たい視線を向け、きっぱりと、ランスの誘いを断った。
「まあ言わずに、俺様がいくらでもお前を素晴らしい快楽の世界へ」
「それ以上そのような事を申されるならば……。今度は本当に容赦いたしませんわよ」
ウツボットもエリカの凄みを感じ取り、ランスに臨戦態勢を取る。
「なんだと……下手に出てりゃつけあがりやがって! いいだろう、そのデカブツ、俺様が」
ランスがウツボットにカオスを向けようとすると、ホイッスルが鳴り響き、カッカッカッと靴で道をかける音がした。
「なっ、なんですかこの音」
「わ、分からないわ。みたところ武装はしてないみたいだけど……」
かなみとシィルが音のする方向をみていると、ガーディーを従えて帽子をかぶった制服姿の女性がランスたちのもとへ近づいていた。
「あなたたちですか! 街で騒ぎをおこしているのは」
「ジュンサー様」
エリカがランスから、ジュンサーとよんだ人物に顔を向ける。
「あ。あの違うんです、これには事情あって」
シィルがあわてて言い繕ったが、事情もなにもランスが10対0で悪いことまでは考えが及んでいない。
「ピカ……」
生物は懸命に取り繕おうとするシィルを心配そうな目で見上げていた。自身にとってシィルとかなみ、特にシィルは道中これまで気遣ってくれたり、優しい言葉をかけてくれたりと、自分に気をかけてくれる相手であり、心中で少しは信用できる存在と認識しはじめていた。
「あれ、これってもしかして……」
かなみはようやく気づいた。ジュンサーというのは自分たちのいた世界でいう軍隊であり、公権力に近いものだと認識する。
「おっ! ねーちゃんも美人だな! どれどれ、二人でいっしょに……」
エリカはランスの懲りない反応を見て、一つのことに気がついたような表情をし、ランスの顔を見上げる。。
「もしや。ご存知ないのですか。ジュンサーさん……いえ、警察という概念を」
「あ? どういうこ……」
エリカの言葉に当惑したランスだったが、ジュンサーが呆れ返った表情でランスに厳しい声色で告げた。
「もういいです。事情はだいたい飲み込めました。詳しいところは署でききますから、ご同行をお願いします。あなたたちも彼の仲間で随分妙な格好をしているし、一応、事情をきかせてもらいたいわ」
ジュンサーは手帳を見せながらランスたちにそう宣言した。
「あ? なんだその紙切れ。そんなもんで俺様がビビるとでも」
「し、失礼しましたー!!」
かなみはもはやこの場は逃げるしかないと判断し、煙玉を炸裂させ、どさくさに紛れてランスとシィルを遠くへ連れ去る。小さいネズミもなんとか方向を把握し、ついていった。
「ゲホッ……ゴホッ。な、なにこれ。煙玉……? 時代劇の撮影でもやってるのかしら?」
ジュンサーはむせながら悔しそうな目で逃げ去った方向を見る。
「ケホッ……。逃げ足の早いこと」
エリカも煙玉にむせながら同じような反応を示した。
煙幕が晴れ、二人は会話を再開する。
「しかし、エリカさんもここまできて、大変な目にあわれましたね……。お察しします」
「いいえ……。最近ロケット団が活動を活発にさせているというので、リーグの方からタケシさんやカスミさんなどと連携を強めるよう通達がありまして、それで」
エリカは淀みなく説明する。万一の事態に備え、エリカはニビのジムリーダータケシやハナダのジムリーダーカスミと協議するためこの街にやってきていた。
「ああ……。そういうことだったんですか。ポケモンリーグも、事態を懸念しているんですね」
「ええ。まあ」
エリカは小さくうなずく。
「しかし、随分と妙な事をおっしゃりましたよね。概念を知らないって……」
「最近、同じような事情をもった方と、知り合う機会があったのですわ」
エリカはそういうと少しだけ嬉しそうに思い出し笑いをする。
――
ニビシティ郊外の、西方の森にかなみはなんとか逃げおおせることに成功した。
「ちっ、何をするんだかなみ。もう少しで口説き落とせると」
「あのまま捕まってたらややこしいことになるでしょうが! もーどうすんのよこれだけ騒ぎ起こしちゃったらまともな情報収集なんてやれないじゃない」
かなみは泣きそうな顔になって、先を悲観した。この格好ではいずれまた見つかってしまう。そんな状況なのに、食料も、金も、元の世界に帰る手がかりすら見つけられていない。
「困りましたねぇ……。もう結構暗いのに、この世界にきてから何も食べれてませんし」
「おいシィル。残ってる食料とかないのか?」
ランスは苛立った口調で尋ねる。
「すみません……。今までにほとんど食べ尽くしてしまっていて」
「くそっ、役に立たんな……」
ランスはそう言って舌打ちをした。
「とにかく、何か食べれるものさがさないと……」
「あら。そういえばあの子はどこに……」
シィルがいつの間にか小さいネズミのような生物が居ないことに気づく。
「けっ。どっかに逃げたんだろ。今頃野垂れ死んでるかもな」
「そ、そんな! 急いでさがさないと」
シィルはランスの言葉を真に受けて青ざめた顔をした。
「もう、シィルちゃんを脅かさないの! きっとまだ追いつけていないのよ。そのうちひょっこり……」
「ピカ」
そんなやりとりをしていると、生物が草木から現れ、三人の前に色とりどりの木の実のようなものを差し出した。
「まあ……もしかして。くれるの? 私達のために?」
「ピカ!」
生物は元気の良い声で答える。どうやらそのとおりであった。
ランスはそう答えるや否や、その一つの青い実を手に取って食べ始める。
「ちっ……。あんまうまくねえな。持ってくるならもっとマシなもんもってこいや」
ランスはそう毒づいたがもくもくと食べ始める。それを見て、かなみも同じ色の実を食べ始めた。それを持つ小さな手と、敵意なく自分とシィルに向けてくれるつぶらなひとみをみて、かなみはこの風変わりな生き物への残っていた警戒心を、少しずつ融かし始めていた。
「いや……普通に美味しいわよ? ちょっとすっぱいけど、……、カボスとかに近い感じかしら」
かなみはそれなりに嬉しそうに食べている。
「ありがとう! えっと……」
「んっ……。そうね、そろそろ名前つけてあげたほうがいいかも」
かなみは一個食べ終わって落ち着くと、思いついたかのようにそう提案した。
「いらんいらんそんなの。魔物使いだって従魔に名前つけてんのみたことないぞ」
ランスは二個目のきのみを頬張りながら、面倒そうに言った。
「えーっ……でもでも」
「魔物使いは種族名でよんで……、あっ。そうだこの子のことたしかパンフレットにかいてあったわ」
かなみはゲートにおかれていたパンフレットを取り出し、その箇所を見つける。シィルもかなみの側に回って覗き込む。
トキワの森に生息するポケモンというコーナーで、その中に見つけられたら凄いぞ!! などと煽られている箇所に眼の前の生物と同じ個体が写真で載っていた。
「図鑑ナンバー25、ピカチュウ。でんきねずみポケモンか、電気って前にランスがちょっかいだそうとした時にだしてたあれかしら?」
「そうだと思います。魔法の中にも雷撃系の区分がありますし、その系統ですよ多分」
シィルもきのみを食べながら補足した。
「ほう……つまり魔法が使えるってことか」
ランスは3つ目のきのみを食べながら少しだけ興味を持った。
「ピカチュウ……か。えっと、『頬の両側に電気袋があり、ピンチになると電気を発生させるから気をつけよう!』……、やっぱあの時身を守ろうとしてたのね。当たり前だけど」
かなみは少しだけ申し訳無さそうにきのみを食べてるピカチュウを見た。
「ピカチュウ。うん、可愛らしくていい名前ですね! でも。ピカチュウちゃんじゃちょっと長いですし……、そうだ、ピカちゃんって呼びましょうこれから」
シィルはニコニコと笑いながらピカチュウを見る。
「……。どうでもいいし、勝手にすりゃいいけど、俺様は絶対にそんな風によばんからな」
ランスは呆れた顔でシィルから少し視線をそらした。
「ピカちゃんね……。シィルちゃんらしいとは思うけど……」
かなみは少しだけ仕方無さを感じる笑い方で、シィルを見る。
「ピカ」
そんな反応をよそにピカチュウはきのみを食べ続けた。
「フン。この程度のもん持ってくるより、もっと俺様の役に立ってってんだよな」
「どの口が言ってるのよ……。それに、この程度って普通においしいでしょこれ」
かなみの言葉にシィルはフフッと笑って見せ、小声で教える。
「かなみさん。例のランス様の照れ隠しですよ。この前私が風邪で、かなみさんが介抱したくださったときに……」
「あ! ああ……、なるほど。そういうことね」
以前かなみはシィルが風邪で寝込んでいた時、ランスに無理矢理一日奴隷扱いされてたことがあった。その際に、ランスの癖として、まず美味しいとはいわないが、なんだかんだいって食べているときは美味しいと思っている証と、かなみはシィルから教わっていた。
「なんだ二人でこっちをニヤニヤ見やがって。気持ち悪いな」
「いえ。なんでも」
「んーん。べっつにー……」
こうして三人と一匹はきのみを分かち合い、当面の空腹をしのいだ。
――
腹を満たした後、三人は今後を話し合い、とりあえず限られた範囲で情報収集を続行すると結論し、かなみが街にでて噂話を収集した。
夜もすっかりふけ、街の灯りが寂しくなってきたころ、かなみは戻ってきた。キャンプ用品は転移時でも失わなかったため、シィルは焚き火をつけテントを設営し、今宵の拠点を作る。
「おかえりなさい! かなみさん」
シィルはかなみをにこやかに出迎える。ピカチュウも鳴き声をあげながら出迎えた。
「おっせーな。何時間かかってんだこのポンコツ」
ランスは相変わらずの口調でかなみをなじる。
「しょうがないでしょ。誰かさんのせいで、人に気づかれずにやるしかないんだから……。とりあえず分かったことを話すわ、この世界ではそこにいるピカチュウみたいな、ポケットモンスターっていう特別な生物を人間たちは育てて、一緒に生活してるみたいなの。このボールに入れられる生物だからポケモンって呼ぶみたいね」
かなみはモンスターボールを見せながら言う。
「そ、そうなんですか……、へぇー……」
シィルは薄々理解していたとは言え、改めて聞くとやはり驚きは大きかった。
「モンスターってからには魔物だろ? 魔物使いでもないのにそのへんのやつらが毎日一緒に生活してるってことかよ」
「信じがたいけど、どうやらそうみたいね……。わたしたちからしたら魔物なんて普通は恐怖の存在か、経験値やゴールドを産む対象でしかないもの」
かなみもやはり驚きを隠せないようである。
「でも、さっきの人たちみたいに、一緒に生活するだけでなく、戦わせている方もいましたよね」
シィルは先程の光景を思い出しながらかなみに尋ねる。
「そうね。ランスの言う魔物使い……、いや話に聞こえたかんじだと、そんな主従関係じゃないわね、もっと友達や対等に扱って戦ってるみたいなの。ポケモンを家に置いて一緒に過ごしてるのも、何軒もあったし」
「ますます信じられんな……。ハニーやミートボールなんかと同じ仲間として、ましてや一緒に戦ってるってことだろ? 頭がおかしいやつらばっかなんだな」
ランスだけでなく、ルドラサウム世界に住む人々にとっては理解しがたい出来事であった。一部の魔物は人間世界に溶け込んでいる例もあるものの、一般的なイメージとしてはそういうものである。
「ピカチュウを見た感じだと、わたしたちのいう魔物とは多分根本的な何かが違うんだと思うわ。人間をそもそも下等に見ていなかったりするのかも……」
「ピカ?」
言われている内容がわからないのか、ピカチュウはかなみを見て首をかしげている。
「それと……なんか変な話を聞いたのよ」
「どんなのだ」
「なんでも、そのポケモンを悪事や自分たちのためだけに使おうとする、ロケット団っていう、悪の組織があるみたいなんだけど、ここから東にいったところにある、おつきみやまってところで化石? ポケモンをやたら奪っている事件が起きてるみたいなのよ」
かなみは記憶をたどりながら、そして街のラックから拝借したカントー地方のタウンマップを二人の前に広げてみせる。
「今私達がいるのはこのニビシティってところの、少し東、ここからずっと東にいったところにあるこの山の絵、ここがおつきみやまって名前らしいわね」
かなみは指を指しながら説明した。
「ほーん。どの世界にも悪いやつはいるもんだな」
「……そうね」
かなみはランスを細めた目で見ながら続ける。
「それで、なんでも、その事件で取り仕切っているのが、―――ランス、同じ名前なのよ」
「は?」
「え、ええーっ!? ランス様いつのまにそのような……ひぃん!」
ランスのげんこつがシィルの脳天に下った。
「パーかてめえは。ここにきてからずっとひっついてるのにどこにそんな時間あるってんだ」
「正直私も一瞬疑ったんだけど。どうにも違うみたい。そっちのランスはなんでも、ロケット団の幹部をやってて、数十名単位の団員をまとめて指揮してるようなの」
「聞き間違いじゃねえのか。そんな都合よく俺様と同じ名前のやついねえだろ」
ランスは頭を描きながら答える、
「うーん……まあ確かに、例のジュンサーさんに泣きながら被害を訴えてたなんか、こう眼鏡をかけた人の話しか情報源にないから、確かにその線はすてられないんだけど」
「まあ。どっちでもいいや。俺様の名前を騙って悪事をするなど不届き千万だ。そいつを退治してやる!!」
ランスは憤然と立ち上がり、明日の目標を定めた。ランスはその後、シィルと、無理矢理かなみをセックスに誘い込み、5発ほど発散して、就寝した。
――
翌日、三人と一匹は一方的な決定に従い3番道路を進んでいった。未だになれないポケモンたちが闊歩しているところや、ポケモンバトルを行っているシーンを横目にしつつ、進んでいると一人の少年が話しかけてきた。
「あ! ピカチュウじゃん! すっげー。なあ、オレと勝負しないか?」
短パン小僧というべき少年は、一行を見つけるとモンスターボールを見せつけ、そう宣言した。
「勝負って……。視線があったら戦うノリだったけど、本当にそうなんだ」
かなみは情報収集で聞いてはいたが、実際に目の当たりにすると衝撃は大きかった。
「皆さんすごく活発なんですね……」
「たく鬱陶しいなあ。これもお前があんなの連れてるからだぞ」
ランスはピカチュウを恨めしげに見ながら言う。ピカチュウは依然ランスには反抗的な目だった。
「ご、ごめんなさい……」
「無視だ無視。いちいち構ってられるか」
そう言ってランスはさっさと先に進もうとしたが、
「なんだよー! 逃げるのか―! 大人のくせになっさけねーの!!」
この無垢ゆえの心無い言葉が、ランスのプライドを大きく刺激した。
「んだとこのクソガキ!! いーじゃないか受けてやろう!!」
「ようし、いっけー! コラッタ!!」
短パン小僧のモンスターボールから出てきたコラッタは、歯を見せつけるように威嚇した。気力十分である。
「雑魚め!」
そういうとランスはカオスを思い切り振り回し、コラッタに直撃させた。剣によって吹き飛ばされたコラッタは一撃で戦闘不能に成った。刃は引かれているため、致命傷ではない。
「ほんと容赦ないのう、お前さんは」
「だーから黙ってろっての」
カオスの言葉を聞き流していると、少年が文句をつける。
「なんだよ! おっさんが戦うなんてルール違反だろ! ピカチュウと戦わせろよー!!」
「知るか。まだやるってんなら、二度とそんなふざけた口叩けなくするぞ!!」
ランスの威嚇に少年は怯んでしまい、諦めて飛ばされたコラッタを探しに行った。
「かわいそうでしたね……」
「あんなムキになることないでしょ……ほんとに子どもなんだから」
「うるさい! さっさと行くぞ!」
かなみとシィルの言葉をよそに、ランスはずんずんと東へ進んでいく。
「でもやっぱり……。わたしたちの世界とは戦い方の認識がもとから違うようね」
「本当ですね。まるで魔物使いが一般的な戦う人の職業になってるみたいです」
かなみとシィルは改めて理解して、ランスの後についていった。
―おつきみやま―
目的地であるおつきみやまに入ると、湿った空気が三人とピカチュウを覆った。
「ここか……」
「ダンジョンは私たちがいた世界とあんまり変わった様子ないですよね」
シィルが素直に感想をいう。
「そうね……。あ、待って、何かくる!」
かなみがいうと、数羽のズバッドが三人のあいだを抜けていった。
「キャッ……びっくりしました」
シィルはほっと胸を撫で下ろす。
「コウモリみたいだったけど……初めて見たわね。やっぱり環境によって住むポケモンも違ってたり」
「いいから行くぞ。俺様のなりすましを退治にいくのだ」
「ランス様。それもう話の趣旨違っちゃいますよぉ……」
そんな会話をかわしながら、三人と一匹は奥にすすんでいった。
階段があり、一階層降りるとそこは真っ暗になっていた。
「ひっ。真っ暗です……」
「いちいちビビるなんなことで。魔法つかえ」
「は、はいわかりま」
シィルが詠唱しようとすると、ピカチュウが声を上げた。
「ピカ!」
そういうと、ピカチュウの身体が強く発光し、洞窟の全体が広く照らされる。
「あら……。わたしたちのために? ありがとう、ピカちゃん!」
ピカチュウはシィルの褒め言葉に、照れながら頭をかいた。
「ふん。当たり前だ。これくらい役に立たなきゃとっくに棄ててるわ」
そんな言葉をはいて、ランスは前に進んでいった。
「全く、相変わらずなんだから……」
一行がピカチュウの灯りを頼りに進んでいくと、ふとした曲がり角でくろずくめの男に遭遇した。
「うぉっ!」
「な、なんだ貴様らは、ここは我らロケット団の縄張りだ! 関係のないやつはでていけ!!」
その背後に更に数人、同じような制服をきた人間が、ランスの前に立ちはだかった。
「なんだお前ら、俺様に道を譲らないってのか。おもしろい、いい度胸だ!!」
ランスはカオスを下っ端たちの前に構える。
「ちっ……。邪魔をするならばしかたない、行け! ズバッド!」
「コウモリか。たく、俺様をなめるなよ!」
出てきたズバッドはまたもカオスの柄により、出会い頭で叩き落され、戦闘不能になる。
「な、なんなんだこいつ、ルール無用かよ!」
「えーいたためたため!! 構わんから、あいつらをこの先に通すな!!」
すこし偉そうなしたっぱの指示により次々とランス達の前にズバッドやドガース、ベトベターなどのポケモンを繰り出していく。
「集団でかかってこようが雑魚は雑魚だ!」
ランスは次々とカオスを見舞ってポケモンたちを倒していったが、やはり数が間に合わず、シィルやかなみのいる後方にまでポケモンたちが浸透してきた。
「しょうがないか……。ごめんなさい、ポケモンたちさん! 氷雪吹雪!!」
シィルは氷雪吹雪の呪文を唱え、眼の前に迫ってきていたズバッドたちを氷漬けにする。
「くっ……数だけは多いんだから」
かなみも同様に自身の武器を刃が引かれながらも鈍器の要領で使いこなし、処理していく。
このように進んでいくと、シィルの身に危険が迫る。背後からズバッドがシィルの首筋にかみつこうとしたのだ。
「シィルちゃん! あぶない!」
かなみの言葉に気づいたときには、もう遅いかと思われたが、その瞬間、電気ショックがズバッドに降り掛かった。
「ピカ!」
電気ショックにより、ズバッドは沈黙した。
シィルの肩に乗ったピカチュウは、嬉しそうに戦果を誇示する。
「ピカちゃん! ありがと…」
しかし、礼をいおうとしているあいだに、ベトベターの口から放たれたヘドロこうげきがピカチュウに命中。
「ピカー……」
ピカチュウは直撃に耐えられず、シィルの肩より落ちてしまう。瀕死状態となってしまった。
「そ、そんな。ピカちゃん! しっかりして」
「嘘……。まさか、死んじゃったの……?」
かなみは目を白黒させたが、ピカチュウに構っている余裕はあまり残されていない。シィルはぐったりしたピカチュウを抱えながら、継戦を余儀なくされる。照明に関しては、ピカチュウの発光はひんしになっても途切れなかったため、問題はなかった。
「ようし、今だ! ズバッドとドガースを一斉にあの女どものもとへ襲いかからせろ!!」
リーダー格の団員がピカチュウの瀕死を見て取ったか、大声で指示を下す。
「くっ……。使えるかどうかわからないけど。やってみるしかない。か! シィルちゃん、下がって!」
「は、はい!」
ピカチュウを抱えたまま、シィルは急いでかなみの後ろへ走った。
「――火丼の術!!」
かなみは巻物を開き、手で素早く印を作って技を発動させる。
術は成功し、凄まじい量の炎が一気にロケット団のポケモンに襲いかかった。ドガースがそれに当てられて起爆し、威力を更に増加させる。
「な、なんだこの技は……かえんぐるまか!?」
「かえんほうしゃともまた違うようだし……。くっ。やむをえん、引け、引け―!!」
ロケット団員たちは見たこともない火炎の圧におそれを為し、奥へと退却していくが、それでも炎の追撃はとどまるところを知らない。
「す、すごい……すごいです! かなみさん!」
「っ……はぁ……。はぁ……。ど、どうにか、誘爆もあいまって、うまく行ったみたいね。行こう! シィルちゃん、ランスと大分離れちゃったし」
「はい!」
火丼の術はかなみの気力を大きく消耗する大技だったが、それ相応の効果を発揮した。洞窟内という閉所だったこともそれなりに奏功したようである。
術が収まったのを見て、二人は奥に進み始める。
「こらー!! かなみー! 俺様のマントが一部燃えてしまったではないか!! 加減を考えんかこのヘボ忍者が!」
しかし、奥からはそんなランスの身勝手な叫びが、剣の鈍い音と共に聞こえてきた。
「ふん……。全身焼かれなかっただけ感謝しなさいよね」
「きっとランス様も安心していらっしゃるんですよ」
そんな会話をしながら、二人は奥へ進んでいく。
――
戦闘開始から30分ほど経った頃、すこし開けて、視界のきくようになったランス一行の前に、明らかに下っ端とは雰囲気が違う男が現れる。
「おやおや……。下っ端たちが騒がしいから何かと思えば、随分と変わった格好をされた方々ですね」
如何にもキザそうな風貌をした、目鼻立ちの良い男はそう言って、ランスたちを珍し気に出迎えた。
「ランス様! お待ちしておりました!」
「どうかあの、無礼極まりない男を、さっさとやっつけちゃってください!!」
女性の団員たちが次々とランスと呼びながら、その男に追いすがる。戦闘の最中にランスにより胸や尻を触られたりしたので、その恨みもこめている。
「大丈夫ですよ。あの程度の輩、私にかかれば造作もないことです」
幹部は爽やかな笑顔を浮かべて、女性たちに応じる。
「テメエか! 俺様の名前を騙って悪行三昧をしているっていうのは! そのいけすかねえ面、今にみれないようにしてやるぜ!!」
ランスはカオスを突きつけ、そう宣言する。
「あれが……、ランス。この世界の。すっごいモテてるわね」
かなみは全く結びつかないといった感想をうかべた表情をして二人を見比べていた。
「ランス様がかなりお嫌いそうなタイプの人ですね……」
ピカチュウを後ろに抱えたシィルも力なく笑いながら、同じように感想を述べた。
「何を言っているのか分かりかねますが、この化石の収集は私達ロケット団にとっては大事な仕事なのです。それを邪魔立てするというのであれば、力付くでも止めますよ! 行きなさい、ゴルバッド!!」
ゴルバッドが大きな翼を広げてランスの前に現れた。
「ほー。さすがにちったあ骨がありそうなのもってんな。ま、雑魚には違いねえがな!」
そういってカオスを振りかざすも、ゴルバッドはひらりと避けていった。
「あ……あれ?」
「ゴルバッド! エアカッター!!」
ランスの前に無数の空気の刃が襲いかかる。
「ちっ」
ランスはカオスを前に構え、できる限り多くの刃に対処するも、一つだけ袖を切り、血が流れた。
「くそっ……。さすがに舐めてかかりすぎか……」
「ファイヤーレーザー!!」
ゴルバッドのもとにシィルからファイヤーレーザーの火柱が直撃する。ランスの怪我を見ての、反射的な攻撃であった。
「ようし、珍しくよくやったぞシィル! でぇいやあ!!」
ランスは弱ったゴルバッドにカオスを思い切り殴りつけ、ようやく戦闘不能にした。
「ほう……。なかなか面白い術を使う。人間からあのような火柱が出せるとは」
幹部はゴルバッドが倒れても全く表情を動かさず、興味深そうな視線を投げかけた。
「お前らと違ってなあ! 俺達は肉弾で直接戦ってるんだよ!! あんまり舐めるんじゃねーぞ!」
ランスはそう言って啖呵を切った。
「宜しい。ならばこれなら、どうです、行きなさい! マタドガス!!」
今度は3つの紫色の身体を持つポケモンが姿を現した。
「これまた変なやつがでてきたなあ……なんかくせぇし」
ランスはその異形に少々呆れながら、マタドガスに相対した。
――
「もう、お諦めなさい。あなた達に逃げ道はありませんよ」
幹部は二匹目のマタドガスを従えた横で、嘲り笑うような顔で、ランスたちに言い放った。
ランスはさすがに慣れない環境に加え、休む間もない連戦で疲れ果て、限界が近づいていた。
「うるせえ! 俺様の名前を騙る分際で、偉そうな口を叩くな!!」
「で、でもランス様。もう気力がなくて……」
シィルの気力は先程のファイアーレーザーで完全に使い果たしてしまった。かなみも火丼の術に加え、下っ端との戦いで消耗しきっている。
「この役立たずが!」
ランスは鬱憤晴らしにシィルを蹴る。
「くっ……。まだ、まだなんとか」
ランスの心中に本当に不安が姿を表し始めたその時
「エーフィ! サイキコキネシス!」
幹部たちより斜め後ろに離れたところに居た、エーフィの目が赤く光り、強烈な念波がマタドガスのもとに直撃した。
「なっ。なんですかあれは……!!」
幹部は一撃で沈黙したマタドガスに焦りを見せ、攻撃が来た方向に目をやった。
「諦めるのはそちらの方です。ポケモンを持たない人をポケモンで追い詰めるなど、人としての道に反しています。世界は違っても……、治安を預かるものとしてあなたがたの行為は許せません!」
脚を大きく露出した戦闘服を着、紫のヘアリボンでくくったツーサイドアップにベレー帽を被った、その美しい女性は凛とした姿形で言い放つ。
「くっ……。分が悪いようですね。一時撤収です!」
幹部はマタドガスを戻し、団員たちに撤退を指示した。ロケット団はみるみるうちにランスたちの前から姿を消していく。
「ふう。やれやれ、なんとか成ったみたいだな。ざまーみろ! 正義は勝つ! がはははは!」
ランスは逃げていった方向に勝利宣言を言い放った。
「ふふふ……相変わらずのようですね」
その女性はエーフィと共に、ランスのもとへ近づき、凛とした声から一転、懐かしむような声で話しかけた。
「えっ……。ウルザ……ちゃん」
「お久しぶりです。ランスさん。まさかこんなところで会えるなんて」
――ウルザ・プラナアイス。ゼス王国四天王。彼女もまたこの世界に迷い込んでいた。
―つづく―
エリカの登場は多少ムリがあるとは思いますが推しキャラなので許してください