鬼畜戦士ランス、カントー地方に起つ!   作:OTZ

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別れへの決意

「――ミュウツー。人の手により生み出された、超常的な力を持つポケモン。私は、彼。という呼称が正しいのかはともかくとして。それこそが帰還するための要であると考えています」

 

 ウルザはノートをパラパラと開きながら、迫真さの入った声で言った。

 

「なんだそりゃ。あれを人が作ったっていうのか?」

「まず、大前提として、この世界は我々よりかなり技術や、科学が進んでいます。おそらく仮にマリアさんがここにいらしたら大喜びで色々と調べ回るくらいには」

 

 マリア・カスタードとはランスたちの旧知であり、チューリップという兵器を自力で開発した、ランスたちの世界における最先端の技術者であり、科学者である。

 

「だろうな。多分あいつなら街の光景見ただけでよだれとかアソコ濡らしながら走り回るぞ」

「ランス様ぁ。言い方がいやらしいです……ひぃん!」

 

 またもシィルにランスからの拳が下った。

 

「まあそこまで言わなくとも、それは皆さん今までの旅路で理解されているとは思いますけどね」

 

 ランスの言葉をよそに、ウルザは前置きとして、追加でファイルから何枚かスケッチしたと思われる資料やメモを提示する。

 

「研究者を装ってポケモン研究所の研究員の方たちや、グレンタウンジムリーダーを務めていらっしゃるカツラ氏と接触したのに加え、近郊にあるポケモン屋敷という古い研究所跡に潜入して色々と調べて見ました」

 

 そう言った後、ウルザは一枚の複写したと思われるメモを指し示した。

 

「このメモは、そのポケモン屋敷に残されていた文書をそのまま写し取ったものです。内容をかいつまむと、この世界には『ミュウ』という幻の存在があり、このポケモンは全てのポケモンの遺伝子を持つとされ、理論上はあらゆる力を発現できる可能性があり、それは時空間、すなわち我々がいまいる時間や空間に関与する事すらできるかもしれないとするメモもありました」

「そういうの未だによくわかんないけど、つまりミュウに会えれば……」

 

 かなみは少しだけ希望を持った視線をウルザに向ける。彼女は首を横に振った。

 

「可能性としては、かなみさんの言う事もないとはいえません。しかしですね」

 

 ウルザはもう一枚のメモを取り出し、三人の前に示す。

 

「ミュウは南米……。ああ、この世界における遠く離れた別の大陸です。そこのジャングルの奥地で発見されたという記録を最後にして、目撃情報はほとんどあがっていません。彼らですら見つけられないのに、私達がそれを見つけるのは不可能といっていいでしょう」

「んなもんやってみなきゃ分からねえだろ」

 

 ランスは即座に否定した。

 

「……、ランスさんは過去にいたとされる魔王のナイチサやスラルなどをその時代にいって倒しにいけると? あなたの言ってることはそういうことですよ」

「ちっ。流石にそれは無茶か」

 

 さすがにランスもその境界線は理解していた。

 

「そんな……他に、手がかりはないんですか?」

 

 シィルは困惑した表情でウルザに言う。

 

「あっ……、もしかしてそれが」

 

 かなみはウルザの意図に気づく。

 

「そうです。それがミュウツーです。これこそが私達の体験した現象と奇妙なズレに関する解答の一つだと、私は考えます。ミュウツーというのはミュウの存在を受けて人為的に再現できないかを試行した研究者たちのつけた、一種のあだ名ようなものと考えてください」

「んで? それがどうしたっていうんだ」

 

 ランスはソファに肘をつきながら頬に拳を当て、退屈そうな、相変わらずの態度で尋ねる。

 

「その研究は端的にいえば失敗しました。ただ、その過程が資料に示されており、ミュウツーの思考が窺い知れる文言がいくつか示されています。『人の手に余る力』『制御不能』『研究所の破壊』……、そして『最強を目指した』という断片的な言葉」

 

 ウルザはそういうと更に、一枚の特に強調したいメモを指し示す。

 

「特に要と思われるのはこの走り書きです『……想像を絶するサイコパワー。計測不能なエネルギー放出。空間そのものが歪むにも似た閃光……これは、単なる破壊力ではない?』」

 

 かなみはその言葉に思わず口に手を当て、息を呑んで、慎重な口ぶりで言う。

 

「閃光って……。まさか、私達がここに飛ばされたことと……?」

「否定はできません。ですが、整理して考えてみてください。私達はいずれも、何の前触れもなく、意思に反してこの世界に投げ込まれました。そして、私と皆さんのあいだには半年程度の『時間軸のズレ』が存在する。これは単なる事故や、自然現象では説明しようのない、極めて異常な事態です」

 

 ウルザは強張った表情のまま、更に他の資料として、別のノートを取り出し、内容を示す。

 

「この世界には他にも伝説とされるポケモンが複数おり、ここ、カントー地方においてはサンダーやファイヤー、フリーザーと呼ばれるポケモンがいます。しかし、それらについて調べても、彼らの力はそれぞれ自然現象を司るもの。このような時空に対する強制的な干渉を示唆する記録は見当たりませんでした」

「ファイヤーやフリーザー……なんだか魔法と似通うような名称ですね。こうして見ると、私達の世界とそういうところでは結構似てるところがあるのかもしれないです」

 

 シィルは少しうれしそうな表情で話した。彼女もこの世界にどこかしらの親しみを感じ始めている。

 

「そうですね。……、それで思ったのですが、確かシィルさんの魔法は使えるんでしたよね?」

 

 ウルザはハッと気がついたような表情をする。

 

「そうですね。氷雪吹雪も、ファイヤーレーザーも問題なく使えました。私も不思議に思っていたんですけど……」

 

 シィルが考え込んだ表情をする。

 

「そうだぞ。なんで俺様の剣はダメでシィルの魔法はオーケーなんだよ。おかしいだろ」

「言ったじゃないの。それは多分、魔法が何かしらの理由で許されてるだけって」

 

 ランスの言葉にかなみが反応する。

 

「かなみさんの考え方が近いと思います。あくまでこれは推測ですが、シィルさんのそれらの技はこちらでいう”ふぶき”や”かえんほうしゃ”と実によく似た作用をもっています。もしかするとそれらはポケモンのわざと同質のものとみなされているのかもしれません」

「そうなんですか? 同じような技があるんですか……」

 

 シィルは理解はしたが納得はできてないような表情である。

 

「明日あたりにでも実戦の機会はあるでしょうから、そのときにでも」

 

 ウルザは少しだけ期待と、どこか嬉しそうな表情で答えた。

 

「ちょっと楽しみです」

 

 シィルも和やかな表情で答えた。

 

「つーことはあれか? シィルは実質モンスターと同じってことか? やーいお前ポケモン、ポケモンー」

 

 ランスはそう言って囃して、シィルを赤面にさせた。

 

「さすがにそれは思考の飛躍がすぎると思いますけど……。話を戻して、これらの時間軸の転移や次元への干渉をあわせ考えると、私達の帰還するための鍵を握っているのはミュウツーの可能性が高いと結論しました」

「そうか。正直半分も話わかんねえけど、つまりはミュウツーってのに会ってそいつをボコボコにすれば全てケリがつくってことだな? よしじゃあさっそくそいつぶちのめしに」

 

 ランスはすっくと立ち上がったが、ウルザが静止する。

 

「まってください。ランスさん、事はそう単純ではないんです」

 

 シィルがランスのマントをつかみ。渋々ランスはめんどくさそうな表情で、席に復した。ずっとシィルの膝に座っていたピカチュウはランスを見て少し呆れた表情をする。言葉は分からなくとも、どういう人間たちが大分理解がすすんだようにみえる。

 

「まず、ミュウツーの居場所についてですが、ミュウツーは研究所を破壊し、ポケモンリーグや研究所による観測情報から、巨大な力の痕跡や反応より、このハナダシティの北方にある洞窟に去ったとされています。ただ、一つ問題があって、それを受けてなのかはわかりませんが、ハナダの洞窟は相当な実力を持ったトレーナーでないと入れないことになっているんです」

「ウルザさんじゃだめなの? そこまでバッジ? を持っているなら行けそうな気がするけど」

 

 かなみがウルザに尋ねた。

 

「ダメみたいですね。一度7つ揃えてから正規の入口にいってみたのですが、最低でも殿堂入りを果たしてからでないと認められないと係の人に怒られてしまいました。まあこの地方でもっとも強い野生ポケモンがいるとされているので、当然の処置だとは思いますけど……」

 

 ウルザは渋い表情で言う。やはり帰還したい気持ちが強いのである。

 

「んじゃあどうすんだよ。どっかに穴でも作って無理矢理押し通るか?」

「またメチャクチャなこと言って……」

 

 かなみはいつものとおり頭を抱えている。

 

「そこまではしなくていいと思います。ランスさんたちと会う前に、マサラタウンの研究所に行き、また研究者を装ってオーキド博士という権威と接触することに成功しました。その際に興味深い話を伺えたのです」

「なんかもうすごいわね……。ウルザさん、元々頭のいい人とは思ってたけど、行動力が尋常じゃないわ……」

 

 かなみは半分呆れも入った畏怖の表情でウルザを見ている。

 

「そいつの情報はあてになんのか?」

「カントー地方はおろか、全世界におけるトップといっていいほどの権威が、それなりの資料を見せていただいた上で話してくださいました。確実な証ではないかもしれませんが、確度は低くないと思いますよ。それで、その話によると」

 

 そう言ってウルザはノートのページを見せる。会話記録を克明にとっているようだった。

 

「ハナダの洞窟がリーグの措置により封鎖されたのは最近のことで、以前まではポケモンや人によって開けられた複数の通り道があったのだそうです。当然それらのほとんどは封鎖措置と共に閉じられたんですが、正規ルートの他にどうしても塞げない抜け穴があり、何度埋めようとしても次の日か、数時間後には開いてしまったのだそうです」

「なんじゃそら……」

 

 ランスは呆れたような視線を送る。

 

「穴を埋めるのもお金がかかりますし、深く調査されずに結局放置されたそうなんです。オーキド博士はポケモンリーグとも関わり合いが深く、そこから得れた情報なそうで」

 

 ウルザは更に補足した。

 

「つまり、そこを通るってこと……?」

「そういうことです。ただ、場所については安全の為に秘匿されており、そもそも川をわたってすぐにある正規ルートとは違ってかなり到達が困難なところにあると思われるため、偵察が必要になりますが……」

「おう。大丈夫だ、そのへんはこのへっぽこの得意分野だろ。しっかりやれよ」

 

 ランスはかなみの肩を強めに叩いた。彼なりの激励なのだろう。

 

「いやまあそりゃやりますけどね……。なんかそう言われると……」

 

 かなみは複雑な表情を浮かべている。

 

「まあ詳細は明日以降考えるとしまして……、シィルさん、貴方には特に辛い話になると思いますが、よく聞いて下さい」

「は、はい」

 

 ピカチュウの頭を撫でたり、尻尾のリアクションに反応してあげたりしてピカチュウと戯れていたシィルはウルザに視線を合わせる。かなみもそれを微笑ましく見ていたが、少しだけウルザに注意を向ける。

 

「帰れるという前提の上での話をしますが、――ポケモンは全て洞窟に入る前に別れさせましょう」

「えっ……?」

 

 シィルは何を言われたか一瞬わからないような表情をした。

 

「ちょっと。ウルザさん。それ本気でいってるの……?」

 

 ピカチュウに情をもっているからか、また提案自体への怒りなのか、かなみはそれまでとはやや違った、棘のある雰囲気をまとってウルザに言う。

 

「かなみさんまでそんな顔をなさるとは少し予想外でしたが……、お気持ちは重々分かります。ただ、これは必要、というより私達異世界に飛ばされた人間としてのけじめとしてやっておくべきことです」

「だから……、だからそんなもって回った話し方はやめてって言ってるでしょ!」

 

 かなみは机を叩き、やや語気を荒げて、ピカチュウの頭を見ながら涙ぐんでいるシィルを代弁するかのようにウルザに迫った。ピカチュウは不安げな表情を浮かべて二人の顔を見つめている。ランスの方もさすがに予想外だったのか、目をしばたたかせていた。

 

「すみません……。ただ、これだけははっきりさせておきたいんです。私達はこの世界にとっては異物ですが、帰った先の世界ではポケモンたちこそが馴染めない存在となってしまいます。この世界とは違い、非常に殺伐とした、危険なところです。そのような所にトレーナーないし飼い主として連れて行くべきではないというのがまず考えるべきこと」

「……」

 

 立ち上がっていたかなみはそのまま、冷静にウルザの言葉を聞き続けている。

 

「次に、帰った先での問題です。ポケモンたちというのは非常に知能が高く、強力な存在です。ヘタをすれば聞きつけた魔人や魔物たちがそれを利用して人類に害をなさんと利用してくる可能性も考えられます。人類にとっては当然ですが、私とシィルさんにとって、何よりもポケモンたちがそうなったらつらい思いをすることになるのは目に見えています」

 

 かなみとシィルはそれを聞いて、先にある怒りと、強い拒絶が引いていくのを感じていた。彼女らはリーザス陥落や先般のゼスで発生したカミーラダークによりその脅威をきちんと理解しているためである。

 

「なあ。ウルザちゃんよお」

 

 ランスが口を挟み、ウルザが顔を向けた。

 

「それって結局俺らの都合にすぎねーんじゃないのか?」

「そんなことは分かっています! だから、けじめと言ったでしょう!!」

 

 ウルザはかなみ以上に声を荒げ、ランスに迫る。ランスはやぶ蛇をつついてしまったかと、しくじったかのような表情をした。周囲にいたポケモンセンターの客の視線が一瞬ランスたちのテーブルに集中した。

 

「私だって……、私だって、別れなきゃいけないんですよ。この子たちと」

 

 ウルザは寂しげに、自身の腰についている4つのモンスターボールを見、その一つをギュッと握りしめた。一番最初に仲間にしたイーブイ、もといエーフィの入っているボールである。

 

「そう……そうですよね」

 

 今まで泣いてばかりだったシィルが、ウルザに視線を合わせる。

 

「私よりもずっと長くポケモンたちと一緒に過ごしてきたウルザさんが……、それだけお辛そうにしてるのに、私だけ……」

「シィルちゃん……。本当にそれでいいの? シィルちゃん自身の気持ちはどうなのよ」

 

 かなみはシィルに念押しの意味合いで問いかけていた。

 

「かなみこそ、自分の気持ちで言ってるのか? そいつと本当に別れたくないのは」

「うるさい!! 捕まえたのは私なのよ! 口出さないで!」

 

 かなみは涙ながらにランスに本気で怒鳴った。ランスはこれはもう手が付けられないといった諦めに近い表情をした。

 

「分かった……。でも、シィルちゃんがそう思うなら、私はそれを受け入れる。ごめん。こんなに感情的になって。私自身、ちょっと驚いてる」

 

 そう言って、静かにかなみは席に座った。どうにもならないし、ウルザの言うことに理があるのは承知していても、それでも整理をつけるために言った。そんな様子である。

 

「決断は急ぎません。まだ私自身、正直なところ振り切れていないですし、トレーナーとの対戦があることを考えると、まだまだ道中ではポケモンたちの力を借りなければならないでしょう。ただし、洞窟の入口にたどりついた頃には、行動に移すべきです。そこからは私たち自身の力で為すべき領域ですから」

「ランスの言葉を借りるわけじゃないけど、どうしても別れなきゃいけないの? ウルザさんの言ってたことだって、私たちが一生懸命そうならないように守れば」

 

 かなみは未練というより、純粋な疑問としてウルザに尋ねた。

 

「それが最後の理由です。元の世界に戻れたからといって、その際にポケモンたちまで一緒に元の世界に来られると、保証ができないからです」

 

 その言葉にかなみもシィルもはっと気づいた表情をする。

 

「転移中の事故でポケモンたちが巻き込まれるかもしれないし、戻ってこれたとして生命や思考、形状その他諸々が今のままという証だてができません。私達はいいんです。元の場所に帰るという意思が形成されてますから。でも異世界側であるポケモンたちにまでそれを押し付け、危険にさらすべきではないです」

 

 ウルザは強い覚悟を伺わせる表情でそう断言した。ランスは黙って聞いている。

 

「そう……ですよね。わかりました。今すぐには私もできませんけど、その時までにはピカちゃんとその……、区切りをつけられるようにします」

 

 シィルはピカチュウと目を合わせながら、そう言った。ピカチュウも意図は理解してないものの、感情を読み取っていささか真剣にシィルの顔を見つめていた。

 

「ありがとうございます。シィルさん……。偉そうにいった私も、言うほどにはまだ固まっていません。口に出してみて、正直ここまで思いが膨れ上がっているとは、思いませんでした」

 

 ウルザ自身もそこまで計算が行き届いていなかったようだ。

 

「ま、どうでもいいがな俺様には。さて、もう話は終わったろ。飯食ってヤって寝るぞ」

「はぁ……」

 

 かなみは深く呆れの感情を込めた、ため息をついた。

 

「え、しかしランス様。お金が……」

「そうですね。お腹も空きましたし……。大丈夫ですよ。当座の資金分くらいは、賞金と、後はちょっとした仕事もしたおかげできちんとありますから」

 

 ウルザはシィルを見ながら言う。

 

「よーしウルザちゃんのおごりで食いまくるか。なんにすっかなー」

 

 ランスは相変わらず能天気に、ウルザの先導に従ってポケモンセンター内のフードコートに向かった。

 こうして四人と一匹は食事を終え、ポケモンセンターに宿泊した。ウルザはランスの隙をついて三人とは離れた別の部屋をとって自己防衛したが、ランスたちの部屋の方ではやはりシィルとかなみが犠牲となり、7発発散された。

 

――

 

 翌日、8時頃に一行はポケモンセンターを出発し、道具や回復薬、食料を買い込んで街の出口を目指した。

 

「前々から思ってたことがあるんだけど……」

 

 かなみは家々の風景を見ながら言う。西方入口からポケモンセンターの周囲は現代的な建築が多かったが、北に近いこの周辺は伝統的な木造家屋が立ち並んでいた。

 

「どうしたんですか、かなみさん」

 

 シィルがかなみを覗き込みながら尋ねる。

 

「うん……。見慣れない作りばっかりのところかと思いきや、こういう私達の世界にもあったような雰囲気の場所もあるなって思って」

 

 かなみはそう直感を述べている。

 

「そうですね。総合的にそういうところを見ていくと、私達の世界ではリーザスやヘルマン、ゼスといった三大国よりも、どちらかといえばJAPANに近いような雰囲気を感じます。私はまだ行ったことがないので、伝聞での情報しか知らないのですが、かなみさんはJAPAN出身ですし、そちらから見るとどうですか?」

 

 ウルザは興味深げにかなみに言う。

 

「うん。私もそう思ってた。この感じ、確かに私の故郷に似ている感じがするわ。もちろんなんか屋根に飾りがついてたり、家の外に白い機械? みたいなのがあったりで何もかも同じってわけじゃないけど、(にび)とか(はなだ)とかそういうのを名前に使ってたりとか見ると、そう感じるの」

「昨日、ミュウの話をした際に南米という地名を出したのを覚えてらっしゃいますか?」

 

 かなみは相槌をうちながらうなずく。

 

「ここに世界地図があるんですが、これが、南米、南アメリカと呼ばれるところで、どうも私達がいるところは、ここのようなんです」

 

 ウルザは小さめの世界地図を広げ、南米とカントー地方のある列島をそれぞれ指をさした。

 

「えっ……これ……偶然なの?」

 

 大陸と海洋が複数あるのにも驚いたが、かなみは一つの事実に気づいた。

 

「そうなんです。かなみさんのいらしたJAPANと同じように、ここは大陸から切り離された島、日本とよばれる国で、カントー地方はその一つを構成する所なんです。しかも興味深いことに、大陸にある別の国家の中ではJAPANなどと呼ぶ地域もあるとか」

「嘘……。信じられない……」

 

 かなみは驚愕して、立ち尽くしてしまってる。

 

「ほう……。ちょっとおもしれーなそれ。ここと俺らんとこが繋がってるかもしれんってことか。それで早く帰れりゃいいんだがな」

 

 ランスはこの会話に興味を示した。

 

「繋がってると言うにはまだ早いかもしれませんが……、まるで、誰かが描いた物語のようですね。この世界に来る以前も、現在も何冊かそういう小説を読んだ分特にそう感じるのかもしれませんが、私達がこの世界にきたこと、時間軸のズレ、そしてこの地理的な符合。全てがまるで、何かの『役割』を与えられているような……。いえ、考えすぎでしょうね。すみません」

 

 ウルザはそういってフッと笑ってみせた。

 

「んなアホなことあるか……おっ、かわいいねーちゃんだ。君君、俺様とちょっと……」

「あーもうなにしてんのよこの男は!!」

 

 ランスはピューッと少し離れたところにいる女性に話しかけに行き、かなみが慌てて止めに行った。

 

「ふう……。全く相変わらず懲りない人ですね」

 

 ウルザは地図をしまいながらため息をついた、

 

「止めにいかれないのですか?」

 

 相変わらずピカチュウを抱えているシィルが、ウルザに尋ねる。

 

「あの様子なら、かなみさんがなんとか止めてくれるでしょう。それにいちいち拳を振るうというのも、手が疲れますしね」

 

 ウルザは自嘲気味にそう言う。半分諦めの境地であった。

 

「あれ……もしかして、ウルザさん?」

 

 シィルとウルザがそんな会話をしていると、横から活発そうな少女の声がした。

 

「あら……。カスミさんでしたよね。お久しぶりです」

 

 ウルザはカスミの方向に振り返って答えた。

 

「やっぱり! 知らない人が一緒だったから声掛けようか悩んでいたんだけど……。でも、元気そうでよかったよかった」

 

 カスミは朗らかな表情でウルザに言う。

 

「お知り合いですか?」

 

 シィルがウルザに尋ねた。

 

「あら。なかなか可愛いらしい……。ちょっともこもこな髪が特徴的だけど。妹さん?」

「いえ。友人ですよ。……、ハナダシティのジムリーダーのカスミさんです」

「えっ。この方がですか? これはどうもどうも……、シィル・プラインです」

 

 相手が権威ある相手だと分かったからか、シィルはややかしこまった風にお辞儀をする。

 

「いいのいいの。そんなかしこまらなくて。シィルちゃんね。改めて、この街のジムリーダーのカスミよ。よろしく!」

 

 カスミは親しげにシィルに自己紹介を行った。

 

「もうしばらく会ってなかったけど、ウルザさんはバッジ何個集まったの?」

「はい、この間グレン島のカツラさんと戦いまして、7つになりました」

 

 ウルザはバッジケースを見せながらそう言った。

 

「へー! すごいじゃない。そのペースでここまでバッジ集められるなんてかなりの才能よ! ポケモンリーグを制覇したらまたいらっしゃい。そのときは本気で相手にしてあげるから」

 

 カスミは心の底から嬉しそうにウルザに言った。実力あるトレーナーと戦えて満足しているのだろう。

 

「はわわ。……やっぱり凄いんですねぇ。ウルザさんって」

 

 シィルは雲の上の人を見るような感覚で、ウルザを見ていた。

 

「たまたま運が良かっただけです。それに私はポケモンリーグまで行くつもりはありませんし」

 

 ウルザはバッジケースを戻しながら言う。

 

「えー!? どうして。もったいないじゃないの。そのまま伸ばせばジムリーダーになるのだって決して夢じゃないわよ? 最近、サボりがちの奴がいてさー、リーグもクビにしようか本気で検討してんのよね」

 

 カスミはさも当然かといったふうに、ウルザを見る。

 

「私が……。ジムリーダーですか」

 

 ウルザは少しだけその自分を想像したが、すぐに首を横に振り、思いを断ち切る。

 

「それは……」

 

 ウルザが返答に悩んでいると、ランスとかなみが戻ってきた。

 

「ったくまたお前のせいで獲物を取り逃がしたじゃねえか! ふざけんなよ」

「取り逃すもなにもさっさと逃げてったでしょ……」

 

 そんな会話と共にウルザとシィルのもとにたどりつく。

 

「おっ、気が強そうだが、なかなかかわいいお嬢ちゃんじゃないか。君でいいや、俺様とそのへんでお話でもしないか?」

「えっ……? ナンパ? うーん……」

 

 カスミはランスの容姿を見て少しだけ考えてしまう。上から下まで品定めするかのように見た後、結論を下す。

 

「あんまり俺様系の男は趣味じゃないのよねー。で、何、ウルザさん、こいつは?」

 

 カスミは一蹴して、ウルザに尋ねた。

 

「そうですね……。友人、いやそうとも言い切れないですし」

「ウルザちゃんは俺様の女だ。がははは」

 

 ランスはウルザの肩を抱いて高笑いをした。その言葉にカスミは一気に引いた表情をする。

 

「えっ……? 本気で言ってるの?」

「誤解を招くようなことを言わない!」

 

 ウルザは思い切りランスの頭にゲンコツを見舞った。

 

「いってー! 何すんだよ。俺様の女なのは事実だろ」

「そう思われるのは自由ですが、私はランスさんの所有物になった覚えはありませんよ」

「な、なんか複雑な事情がありそうだし、あたし帰るね。それじゃあ」

 

 カスミはやや引き気味に撤退しようとしたが、ランスがそれを許すはずがなかった。

 

「おーっと待った。そうは問屋が卸さない!」

 

 ランスは素早くカスミの前に出て。立ちはだかる。後ろにいるシィルはおろおろとしており、かなみは頭を抱えていた。

 

「もう。なんなのよ……あんたみたいなのは趣味じゃないの! せめて関係を清算してから出直しなさいよね! ちょっと顔がいいからって調子乗るんじゃないわよ、この色情魔!」

 

 カスミはランスの目をキッと見据えてはっきりと宣言した。

 

「んだとこのアマ! もう勘弁ならん、一発ぶちこむまでは容赦しねえぞ」

 

 ランスはカオスの柄を握った。

 

「そう……。どうやらお灸をすえなきゃ分からないようね。行って、ラプラ――」

 

 カスミがモンスターボールを構えるとウルザが仲裁に入った。

 

「待って。待ってください! どうもすみませんでした、私の連れがこのような無礼を……」

「ウルザさんが謝ることじゃないわ。これは私とアイツの問題よ!」

「そーだそーだ。この生意気な女におしおきして、アヘアヘ言わせないと、俺様の気がおさまらんわ!!」

 

 ランスもカスミも両者一歩も引こうとしない。

 

「ランスさん、いい加減にしてください。さもないと今度は本当に頭をかち割りますよ?」

 

 ウルザの眼は本気で頭を叩き割らんというばかりの、強い意思を持っていた。ここでジムリーダーを怒らせても勝ち目はなく、よりひどい状況になることを理解している。

 

「ほー……そうかそうか。ウルザちゃんそんなに困ってるのか」

 

 ランスの中で一つの事が閃いた。

 

「っ……。ええ。そうですね。この場がおさまらないと、困ります」

 

 何を言われるか分かっているような顔で、ウルザは応じる。

 

「じゃあ。ヤラせろ」

「うっ……」

 

 やっぱりかと言わんばかりの表情をウルザは見せる。呆れと諦めが混在していた。

 

「ヤラせてくれるなら。こいつの事は勘弁してやる。それでどうだ」

 

 カスミは何が起きているのか計りかねてる表情で、ランスとウルザを見る。

 ウルザは仕方ないかという感情で、しばらくの逡巡の末答えを出した。

 

「分かり……ました。そうしますから、剣から手を放してください」

 

 ウルザのその声には、やれやれといった感情がこもっている。

 

「よーし。交渉成立だ。命拾いしたな、じゃじゃ馬」

 

 ランスはスッキリした顔を浮かべて、カスミに吐き捨てる。

 

「ちょ……。えっ!? 本当にいいの? ウルザさん」

「いいんですよ。……、いつとは言っていませんからね」

 

 後半分はカスミにそっと囁いた。

 

「ああ……。そゆこと。なかなかクレバーなことするのねぇ」

 

 カスミはそう言いつつも、小気味よさそうな表情を浮かべている。

 シィルとかなみは後ろでホッと安心したような顔をした。

 それから四人と一匹はほどなくカスミと別れ、ハナダシティを離れる。

 

――

 

「さーてとウルザちゃん。約束を守ってもらおうかー! がはは」

 

 北の道路にでてしばらくした後、そういいながらランスは背後からウルザの胸を揉もうとしたが、やはりゲンコツで制裁される。

 

「いって。なんだよ。約束しただろ!!」

「あの場をおさめるための方便ということにして、無かったことにしてもいいんですよ?」

 

 ウルザはにっこりと笑って言う。

 

「は? ふざけるなよ。そこまでするなら本気で俺様は怒るぞ」

 

 ランスの表情にはいつものふざけた調子はなく、どこか本気の怒りを秘めていた。

 

「……。まあ、そうするのはさすがに自分でも不誠実だと思いますし、そうですね。元の世界に帰れたら、そのときは……」

「は? 俺様は今したいんだが」

「そうですか。ではなかったことに」

 

 ウルザはそう言おうとしたが、ランスが慌てて止める。

 

「あはは……」

「ピカカ」

 

 後ろにいたシィルは力なく笑いながら、その光景を見ていた。ピカチュウも同じように笑ったような鳴き声をあげた。

 

「ランスのお守りも大変よね……。ウルザさん」

 

 かなみは心の底からウルザに同情している。

 結局世界転移が条件では、確実性がないことをランスに突かれたウルザは若干譲歩して、洞窟の入口についたらということで落ち着く。

 そして話は、これからの探索にうつった。

 

「それで、そのもう一つの入口に目星はついてるの? ウルザさん」

「そうですね。ここからずーっと北にいったところに横道があるそうですから、まずはそこを目指しましょう。かなみさんにはその際に先に偵察をしていただけると、ありがたいです」

「分かった。今から備えておくわ」

 

 そういってかなみは歩きながら、自分の道具の点検など準備をはじめた。

 そうしていると、あるトレーナーと目線が合う。

 

「お姉さんたち! 僕とポケモン勝負しないかい?」

 

 塾帰り風の少年が陽気に言う。

 

「なんだあのガキ、無視だ無視。さっさと進もうぜ」

 

 ランスはいつもの通りいけすかない顔で通り過ぎようとする。

 

「待ってください。ランスさん。ちょうどいい機会ですし、本来のポケモンバトルというのをお見せします」

「は? いいだろそんなもん。後は帰るだけなんだし、余計なことはいらんだろ」

 

 ランスは全く興味なさそうだったが、

 

「そういえば。私も結局ランスがぶん殴ってばかりで、まともなバトルなんて見れてないし、せっかくだから見てみたいかも」

 

 かなみが興味ありげな表情で言う。

 

「私もです。昨日実演してくれるっておっしゃってましたし」

「ちっ……俺はそんなんどうでもいいのに」

 

 ランスは不機嫌そうな表情を浮かべ、腕をくんで舌打ちをする。

 

「まあまあ……。ランスさんも。力押しだけでないやり方、見ていってほしいですし。いいですよ! お受けします」

 

 そういってウルザは少年に応じ、モンスターボールを構えた。

 

「よーし。じゃあいっくぞー! 行け、フシギソウ!」

 

 眼の前に大きな蕾をせおったポケモンが現れる。

 

「相手は草と毒タイプ。私のパーティーならば、エスパータイプのエーフィ、ないし、炎タイプであるキュウコン、もしくは飛行タイプを持つがカイリューが、とりあえず適切な相手になります。ここでは、まだお見せしていないのでいきましょうか……。行きなさい、キュウコン!」

 

 ウルザはキュウコンを繰り出す。九尾の尻尾をもった、美しいキツネ風のポケモンである。

 

「わあ……」

「すごい……きれい……」

 

 シィルやかなみもその美しさに見とれていた。

 

「キュウコン。日本晴れ!」

 

 キュウコンが叫ぶと共に、一気に空が晴れ、さんさんと日光がふり注いだ。

 

「うぉっまぶし……」

 

 ランスは急に晴れた空に手をかざした。

 

「これは天候技の一種で、適切に使うことで、今回の場合はキュウコンのような炎技の威力を大幅に上げることができます。ポケモンバトルにおいてはこのように天候を活用するのもキーになります」

「くっ……。フシギソウ、どくどくだ!!」

 

 フシギソウは花から毒のようなものを吹き出させる。キュウコンは見事に避けてみせた。

 

「あれはどくどく。状態が変化する技の一つで、受けてしまうと猛毒状態となり、毎ターン増加していく毒のダメージを受けていくことになります。今回は上手くよけてくれたようですね」

「へぇ……この世界でもちゃんと毒ってあるんだ」

 

 かなみは忍者であるからか、少し興味をもって聞いていた。

 

「さぁ、シィルさん。ちゃんと見ていてくださいね」

「へ?」

 

 急にシィルは指名されて、当惑した表情を見せる。ウルザは少し微笑む。

 

「これがこの世界のファイヤーレーザーです! キュウコン、かえんほうしゃ!」

 

 キュウコンは口に炎を溜め、一気にその炎をフシギソウめがけて発射する。技は直撃し、日本晴れの威力も加わって、フシギソウはひとたまりもなかった。

 

「わあ……。すごいですね。ファイヤーレーザーは光線という感じですけど、これは炎がそのままっていうか……」

「そうですね。そういう性質の違いはありますけど、大きな意味合いとしては同じです」

 

 ウルザは少しだけ得意になって解説した。ランスは興味がなかった割に火炎放射を少し食い入るように見ていた。

 

「やっぱりダメだったか……。じゃあ次は、行け、ユンゲラー!」

 

 フシギソウが戻され、次は光と共に、スプーンをもった。ヒゲをはやしたキツネ風のポケモンが現れる。

 

――

 

 ユンゲラーも同じく、レベル差による特殊攻撃の差から、キュウコンによって倒され、塾帰りの手持ちは尽きた。ウルザの完勝であった。

 

「くそお……。こんなんだから最近テスト調子悪いのかなぁ」

 

 そう言いながら塾帰りはウルザに近寄り、いくらか賞金を渡した。

 

「よく育てているとは思いますが、もう少し相性を考えられたほうがいいと思いますね」

 

 ウルザはそう一言アドバイスした後、塾帰りはお礼を言って去っていった。

 

「ほう。バトルに勝ったら金がもらえるのか」

 

 やっと終わったかとばかりにやってきたランスは、少しだけ口元を歪ませながら賞金システムに興味を示した。

 

「そうなんです。それがこの世界のルールみたいでして」

「でも子どもからでも容赦なくでしょ……。罪悪感とか出てこないのかしら」

 

 かなみはやや引け目を感じながら言う。

 

「……。正直、私は今でも時折感じることはありますけど、この世界の他の人は特に違和感を感じてないので、お互い様というかそういう意識があるのかもしれませんね」

「でも、やっぱりウルザさんは凄いですね! あんなにあっという間に倒しちゃうなんて」

 

 シィルは素直にウルザに感嘆していた。

 

「今回はそもそもレベル差が結構ありましたからね。20から25くらいでしょうか。このあたりのトレーナーならばそんなものでしょうし、どちらかといえばステータスで勝った感じが強いです」

 

 そんなことを言っていると、靴の音が聞こえ、ウルザは振り返った。

 

「……」

 

 四人の前に、これまでとはあきらかに格の違った赤い帽子と赤を基調とした少年が現れる。

 

「なんだあのガキ、ウルザちゃんをじっと見やがって。ぶっ殺して」

「待ってください。もしかしてあのトレーナーは……」

 

 そう言ってウルザはやや興奮もまじった様子で、カバンから一冊のトレーナー情報誌を取り出し、記述を探す。

 

「間違いないです……。レッド君です」

 

 ウルザは情報誌と人物を見比べて、確定させた。

 

「は? なんだそれ」

「とんでもない速度でカントー地方制覇を果たした少年がいるって、情報誌やトレーナーハウスなどの界隈でかなり噂になっているトレーナーです。まさかここで会えるなんて」

 

 ウルザは珍しく感激した表情を見せている。

 

「風格が違うのはなんとなくわかるけど……。でもまだ私達より大分年下っぽいわよ?」

 

 かなみはレッドの様子を観察して言う。

 

「だからこそ凄いんですよ。誰にでもできることではありませんから」

 

 ランス達の喧騒をよそに、レッドはウルザに対しモンスターボールを差し出した。

 

「もしかして……私と戦いたいんですか?」

「……」

 

 レッドはこっくりとうなずいた。

 

「分かりました……。皆さん。見ていてください。ここからが、本物との戦いですよ」

「なんか腹立つな……」

 

 ランスはレッドを見ながら苛立っていた。ウルザの関心が移ったことにいささかの嫉妬を覚えているのだろう。

 ウルザとレッドの戦いが、始まる。

 

―つづく―

 




次回で最終話です
日本とはっきりかいてあるのは独自設定です。
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