鬼畜戦士ランス、カントー地方に起つ!   作:OTZ

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4/12 ウルザとランスの場面を加筆しました


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「……!」

 

 レッドはピカチュウを繰り出す。

 ピカチュウは何も言わず、即座に定位置につく。まるでそこに居るのがきまっているかのように、無駄がなく、洗練された佇まいだった。

 

「ピカチュウですか……。ここはカイリューでいきます。特防が高いですし、電気対策に地震も覚えさせてますから」

 

 ウルザはそう言って、カイリューを繰り出す。

 

「……。影分身」

 

 ピカチュウは無駄のない動きで高速で移動し、自分の影をいくつも生成した。

 

「カイリュー。地震!」

 

 カイリューは大きく地面を踏み鳴らし、大地を揺るがした。

 

「おおっ……。なんだこりゃ、すっげえ技」

 

 さしものランスも襲ってきた揺れに少々驚いていた。

 

「えっ……。あたって、いない……?」

 

 かなみはその様子を見て思わず口に手を当てる。

 しかしピカチュウには全く効果がない。どうやら外れたようである。

 

「っ……。そのようですね。地震は本来命中100ですが、影分身で回避率があがると、外れる可能性がわずかながらでてきます」

 

 ウルザは最初から戦略を読まれていたことを自覚した。

 

「……、かみなり!」

 

 突如空が曇り、カイリューに雷が直撃した。その威力はすさまじく、空間が3秒以上白く染まった。カイリューはこの一撃で8割削れている。

 

「なんてダメージ……。相当にレベル差があるようですね。しかし、影分身をつまれなかっただけマシともいえます。カイリュー、もう一度地震!」

 

 カイリューは息を整えながら、もう一度地面を揺るがした。今度はピカチュウも避けきれず、命中するが、耐えきってしまう。

 

「おいおいなんだよウルザちゃん。あいつピンピンしてっぞ」

「おかしいですね……。ダメージ計算はまちがってな……あ!!」

 

 ウルザはピカチュウがきのみを食べていることに注目した。

 

「あれはシュカの実……。じめんタイプの技の威力を一回だけ半減するきのみです。まさかここまで対策してくるとは」

 

 ウルザが戸惑っている間に、レッドは立て続けに新しい技を指示する。

 

「10万ボルト」

 

 カイリューに巨大な電気の塊が直撃する。今度はカイリューも耐えきれず、巨体を崩して、倒れてしまった。

 

――

 

 その後もウルザはスターミーやキュウコン、エーフィを繰り出す。しかし、ピカチュウの圧倒的なスピードやパワー。何よりもレッドの的確な指示には歯が立たず、次々と倒されていった。

 結果、ウルザの手持ちは全て戦闘不能になり、レッドのピカチュウは最後まで立ち続けていた。ウルザの完敗であった。

 

「す、すごい……」

 

 あまりの鎧袖一触とも言うべき一方的な結果に、かなみは驚きを隠せなかった。ウルザのポケモンの強さは何度も目の当たりにしているため、それはなおさらである。

 

「これが……、この世界のトップに近い人のちからなんですね」

 

 シィルかピカチュウを思わず力を入れて抱きしめながら、そう呟いた。ピカチュウはあまりの自分とのレッドのそれとの差を眼にして、意気消沈としている。

 

「本当におなじ個体なのかよ。シィルのやつのとは別もんだぞ」

 

 ランスは蔑むようにシィルのピカチュウを見ていた。

 

「ピ。ピ……」

 

 普段ランスに反抗的なピカチュウも、なにも返せないのか半分くらい怯えているようだった。シィルはその様子を見て、大丈夫だと言わんばかりに黙って頭を撫でている。

 

「ふう……清々しいまでの、敗北ですね」

 

 ウルザはどこか吹っ切れたような、そんな表情をしていた。負けたことは自覚しつつも、全く悔いはない。そんな様子だった。

 レッドはピカチュウを戻し、静かにウルザの元へ近づく。

 

「素晴らしい経験をさせていただきました。これは、賞金です。少ないですけど」

 

 ウルザはレッドに賞金を手渡そうとした。が、

 

「フン」

 

 それを横からランスが取り上げた。

 

「!?」

 

 受け取ろうとしたレッドも何が起こったか全く理解できていないようである。帽子のつばをあげて、レッドはランスの顔を覗き込んでいた。

 

「ふざけるな。言っとくが俺様はな、お前らのそういう自分の身体を使って戦おうともしない奴らの事なんぞ、断じて認めん。てめーみたいなヒョロヒョロのガキが受け取っていい金じゃねーんだよ」

 

 そう言ってランスは斬り捨てる。彼なりの戦士としての哲学であった。

 

「……」

 

 レッドはランスの言葉を聞いて、少し考え込んでいるようだった。

 

「ランスさん。やめてください……。これは私とレッドさんの」

「――ほう。随分と興味深いことを聞かせてもらったよ」

 

 唐突に、若々しい、しかし威厳のある声が一行の耳に入った。

 

「あ? なんだてめーは」

「通りすがりの者だよ。なるほど……、君たちが最近この地方に出没しているという『奇妙な一団』か」

 

 マントを羽織り、赤い髪をしたその青年は一向に興味深げに近づき、格好を観察した上で言う。

 ウルザがピンときたのか、急いで資料を調べ始める。

 

「ほう。俺様のことがそんなに伝わっているのか。やはり英雄の気質というのは自然と伝わってしまうものなんだな。がはははは」

「ぜったい、ぜーったいに、違うと思う」

 

 ランスの尊大な発言にかなみはぶんぶんと頭を横に振りながら、激しく突っ込んだ。

 

「なんだか、レッドさんとはまた違う雰囲気をしてる方ですね……」

 

 シィルがそう感じ取り、手に汗が滲んでいるのを感じている。

 

「最近、ハナダの洞窟の生体反応がとみに大きくなったと噂できいて、観に来てみればなかなかユニークな考えの持ち主のようだね」

「ごちゃごちゃうるせえやつだな。たたっきってやろうか」

 

 ランスはカオスの柄に手をかける。

 

「待ってくださいランスさん……。その方は、この世界における最大の実力者ですよ」

 

 ようやく資料をみつけたウルザは、息が上がり、やや動揺しているかのような声で言った。

 

「あ?」

「カントー地方のセキエイリーグの頂点に立つチャンピオン、ワタルさんです」

「えっ……前にウルザさんがいってた、ポケモンジムの上にあるっていう……」

 

 かなみもウルザの態度と言葉に反応して少し震えた声で言う。

 

「はい。ジムリーダーの上の四天王、その更に上にいる、世界で最も高い所に立つ人物です」

 

 ウルザはワタルを見据えながら、今度は動揺をおさめ、つとめて冷静に言った。

 

「ふぅ……やれやれ、バレてしまったか。そうそう分かるところには情報出してないつもりなんだけどな」

 

 正体の発覚したワタルは、ウルザを見ながら理解しているかのように、額に手を当てて言った。

 

「ほう、なるほど、つまり俺様がこいつをぶっ殺せば、俺様がこの世界の王になれるってことか」

「それやる前に本当にランスさんの頭蓋骨かちわりますよ?」

 

 ウルザは強い牽制の視線を送る。事態の重大さを理解しているからこその、過激な発言であった。

 

「ハハハ……。どうもあれだな。根本的な違和感を感じていたんだが……。ようやく分かったよ。正直に答えてくれ、君たちはこの世界から違う所より来ただろう?」

 

 ワタルは先程よりの少し砕けた感じから、一気に緊迫度をあげたような様子で言う。

 

「あ? なんだとうと」

「……、何故、そう思われたのですか」

 

 左手をランスの口の前にかざして言葉をさえぎり、ウルザがうかがうような様子で尋ねた。

 

「君、ウルザ君だろ。話は聞いてるよ。うちのジムリーダーから色々話を聞いてるそうだね」

「ええ。まあ、事情がありまして」

 

 ワタルは一度うなずいて続ける。

 

「半年で7つのジムバッジ、それだけでなくそれ以上にリーダーや研究者といった主要な人物から深く情報を聞き出そうとする。行動力も、それを成す実力も大したもんだが、君をそうかき立たせる何かがある……。そんな目立つようなすることする人、そういるもんじゃないからね、色々さぐってみたんだ」

「貴様、俺のウルザちゃんになんてデリカシーのないことを」

「いいから、ランスさんは黙っててください」

 

 ウルザはランスのみぞおちに肘鉄を食らわせ、しばらく黙らせた。

 

「君のことを公的な機関のつても頼って色々調べさせたが、半年より更に以前の情報が全く出てこない。うちが把握してないような外国からかとも思ったが、それにしては随分流暢に俺たちの言葉を話しているし、価値観も似通う所もあるからそれもしっくりこない。そしてこの男と周囲の女性、そして君。これに符合する答えは、異世界から来たとしか、考えようがないんだよ」

 

 ワタルはつとめて冷静に、しかし誠実な口ぶりでウルザに言った。

 

「お答えする前に一つ教えてください。仮に正しいとして、どうしてそういう話を、現実的な選択肢としてあげようと思われたのですか。世界間の転移など、普通は一笑に付すことでしょう?」

「グレンタウンの研究所での話は俺も軽く目に通している。そのサイコパワーの力とやらなら、そんなお伽噺か、SFみたいな事も十分起こり得ると、思ったんだよ」

 

 ワタルは相変わらずトーンを崩さないが、そこにはどこか同じ問題を追及する同志を見るような、そんな親しみを求めるようなものがあった。

 しばらくの間が空き、ウルザはゆっくりと口を開く。

 

「お話は理解できました。そうです、私達はこことは違う世界よりやってきました。私含め、ランスさんや、シィルさん、かなみさんといった方々も同様です」

 

 ウルザはワタルの口ぶりや、内容から悪意がなく、地方を、ひいてはポケモン世界をあずかる責任感から来る言葉で、信頼に値すると判断し、落ち着いた声色でそう告げる。

 

「そうか……。ありがとう」

 

 ワタルはそう言うと、納得したかのようにうんうんと何度も頷いた。ランスは痛みから立ち直り、おもむろに起き上がった。

 

「そういう事ならば、話は早い。君たちは元の世界に帰るてがかりとして、ミュウツーに会うため、例の抜け穴を探しに来たのだろう? 俺はその場所を把握している。その情報を教えるから、とりあえずは彼に賞金を渡すべきだろう。君の世界の、ポケモンがいないであろう世界ならば、君の言うことも道理なのかもしれない。しかし、ここではそれがルールなんだ」

「あ? なんでそんなもんに従わなきゃなんねーんだよ。好きでこの世界に来たわけじゃねーんだぞ」

「まあ。君ならそういうだろうと思ったよ……」

 

 ワタルは呆れたような視線をランスに向ける。どうしたものかと彼は更に思考をめぐらせ、腕を組んでいる。

 

「ランスさん、これは私達にとっては良い取引です。労せずして重要な手がかりが手に入るんですよ。かなみさんの仕事を奪ってしまうような形になってしまいましたが……」

「いや別に私はいいけど……。あの、一つ聞いてもいいですか? そこまで譲歩するならば正規の出入り口を通る許可をくださったほうがいいと思うんですが……」

 

 かなみはワタルに丁重に尋ねる。

 

「これは私的な取引だからね。正規の入口を通る許可を特別に与えるとなると、色々と面倒が大きいんだ。だから申し訳ないが、そこは譲れない」

「そんなのお前らの都合じゃねーか。なんで俺様がそんなことにおもねってやらなきゃならねーんだよ」

 

 ワタルはすまなそうな声色で言うも、ランスは意に介さずあくまでワタルに食い下がった。

 

「ふう……。やりにくいな」

 

 ワタルは深く息をつきながら、ベルトの方に手をやる。マントの下に隠れていたモンスターボールがちらりと顔を出す。

 それを見たウルザは仕方がないとばかりに、やや頬を赤く染めながら、切り札をランスの耳元でそっとささやいた。

 

「これを受ければ私との約束、早く果たせるかもしれませんよ?」

「むっ……。うむむ……」

 

 ランスはしばらく悩んだ末、答えを出す。

 

「まあいいだろう。ほらよ」

 

 そういってランスはレッドの近くに賞金の入った袋を投げた。レッドは賞金を受け取り、自分の財布に入れる。そして、ウルザに頭を下げ、そのままスタスタと去っていく。目的を果たした彼にはもはや用はなかった。

 

「すごいな……。君、どういう魔法を使ったんだい?」

 

 いきなり態度を変えたランスをみて、ワタルは腰から手を離し、ウルザを驚いた眼で見る。

 

「内緒です」

 

 ウルザは頬を赤らめたまま、口を閉ざした。

 

「ウルザさん……」

 

 シィルはウルザの気持ちを察してか、はたまたランスの横暴と性欲にか、涙を溜めている。

 

「でも……。成立していうのもなんですけど、本当に彼の為だけにそんな大事な情報教えたんですか?」

 

 かなみがワタルに尋ねた。

 

「彼は非常に有望なポケモントレーナーだ。だからこそ正当な報酬は受け取ってほしい。まああとは」

 

 ワタルはその後はランスに聞こえないよう声を潜めて、かなみに呟く。

 

「彼のような存在が、長くこの世界にいると色々と厄介だからね……」

「ああ……、すっごくわかりますそれ!!」

 

 ワタルのぼやきに、かなみは感銘をうけたかのような表情を浮かべ、心の底から共感する。

 

「君……、いや。君たちも色々苦労してるんだね……」

 

 ワタルはまずそんなかなみの顔を見た後、一人がははと笑っているランスと、対照的な更に2人の女性を見ながらふうとため息をつく。

 

 こうしてワタルは交換条件として、抜け穴の場所が書かれた詳細な地図をウルザに手渡した。

 ワタルは立ち去り際に話しかける。

 

「君のパーティーは既に回復させておいたよ。またポケモンセンターまで戻るのも大変だろ?」

「お気遣いありがとうございます。本当に色々と……」

 

 ウルザは何度かワタルに頭を下げた。

 

「その代わりと言うわけじゃないけど。一つ聞いてもいいかな」

「なんでしょうか」

「君たちの世界って、どういうところなんだい?」

 

 ワタルは背を向けたまま、純粋な少年のように尋ねる。

 

「そうですね……。モンスターはここよりはるかに強大かつ、残忍。国同士でも諍いが絶えず起こっていて、とても危険なところです」

「そうか……。ここも争いがないわけじゃないが、随分と様子が違いそうだ」

 

 ワタルは少しだけ顔を伏せ、悲しげに言う。

 

「しかし……。だからこそ、私にとっては、大事な人たちや、守るべきものがたくさんあるのです。絶望と恐怖の中でこそ。一層愛おしく見え、また、それらを打ち払い、この世界のような人々が種族を超えて、分け隔てなく笑い合えるような穏やかな世界にしたいと、強く思っています」

 

 ウルザは胸の前で拳を作り、決然とした表情でじっとワタルの眼を見据えながら言う。今日に至るまでの彼女自身の偽らざる思いであった。

 

「俺もチャンピオンになってそこそこ経つけど……。なんかそう言われると照れくさいな。自分のことでもないのに」

 

 ワタルはそう言うと頬を少しかいた。

 

「にしても、そういう世界にしたいって……。君、もしかして向こうの世界では、それなりの地位についてたりするのかい?」

「ええ。ゼス王国というところで四天王という……。そうですね、この世界でいう国務大臣のような職業についています」

 

 ウルザは少し考えて、適当な字句を紡ぐ。

 

「ほう……。そうなのか。君たちの世界にも四天王というのが……」

 

 ワタルは興味深げに頷いている。

 

「こちらとは少々意味合いが違うみたいですけどね」

「そうみたいだね。でも、重責には違いなさそうだ」

 

 そういうとワタルは軽く笑い、ウルザもつられるように笑った。

 

「なるほどな……。その話で全て合点がいったよ。君の目的にも、その力にも」

 

 そして彼はウルザに振り返る。

 

「君のような優秀なトレーナー……いや、人間ともう会えないのかと思うと、少し寂しいが、頑張りたまえよ。世界の果ての果てから、陰ながら応援するよ」

 

 ワタルはにこやかに笑いながら手を差し出す。ウルザもそれに応え、堅い握手を交わす。

 

「はい。光栄の限りです」

 

 こうしてワタルは、カイリューに乗って、西の空に去っていった。ウルザはカイリューの翼と、吹いてきた風に頭をおさえ、金髪を風にたなびかせながら、満足げな笑みを浮かべて見送る。短くもポケモン世界における最高権力者である彼との遭遇と対話は、彼女にとって大きな糧となった。

 

――

 

 その後、ワタルからもらった地図をもとにランスたちは北に進み、横道にたどりつく。通りがかったトレーナーの対戦や野生ポケモンとの戦闘を何度か挟みながら進んだため、この頃には日はすっかり暮れており、野宿をすることに決定した。

 距離から考えて、ポケモンたちと過ごせる最後の夜であることをウルザも、シィルも言葉に出さずとも理解している。

 

「ようやくここまで来たか。ったく、さっさと帰りてえんだけどな……」

 

 ランスはいつもの通り設営と晩飯づくりをシィルに命令して、ふんぞり返っている。ピカチュウも小さい身体でできるだけ手伝っていた。

 

「この横道から先は、トレーナーもめったに入らない場所だそうです。野生の出現は避けられなさそうですが、これまでよりはスムーズに進むと思いますよ」

 

 ウルザは自分のテントのペグを打ち込みながらそう説明した。

 眼の前には洞窟のある岩壁と、森林の間にある獣道にも似た殺伐とした、未整備の空間があった。特に近道というわけでも、何かあるというわけでもなく、また、何よりもここまでわざわざ来るトレーナー自体希少である為周囲は奇妙なほど静まり返っていた。

 

「そういえば、北にいけばいくほど、人の数が減っていった気がするわね……」

 

 軽く偵察を終えて戻ってきたかなみは、思い返しながら言った。

 

「そうですね。そもそもハナダより北はカントー地方の奥地ですから、わざわざ好き好んで行く人自体、かぎられているみたいです」

「ほう。つまりある意味じゃ俺様たちがその秘境のようなところに足を踏み入れるわけか。女はいないかもしれんが、金目のものとかあったりせんかな」

 

 ランスはニヤニヤとしている。

 

「あったところで、持ち込めるかどうかわかんないのに……」

「わかっとらんな。そこにあるからこそ、ロマンというものがあるのだよ。がははは」

 

 そんなかなみとランスの会話を横で聞きながら、ウルザは今夜のことを深刻そうな表情で考えていた。

 

「んでかなみ。どうだったんだ。一応周囲みてきたんだろ?」

 

 ランスは話題を転換して、かなみに振った。

 

「ウルザさんがくれた地図。すごい正確に出来てるから、正直偵察して新たに何かみつけられたってわけじゃないんだけど、軽く見てきた限りでは、確かにトレーナーはほとんどいない、けど結構野生の数もいそうだから、穴の推定位置考えると結構時間がかかりそう……。ミュウツー? がどこにいるか次第だけど、帰れるのは早くて明後日になるんじゃないかな」

「ちっ……。思ったよりかかるな。ウルザちゃん、あのデカブツでひとっ飛びできないのか?」

 

 ランスはウルザに話をふったが、反応は返ってこなかった。

 

「ウルザちゃん?」

「え? ええ。何でしょうか」

 

 別の場所のペグをうちながら、考え事に没頭していたウルザは、思考を中断して立ち上がった。

 

「いや……、ウルザさんのポケモン使って、穴の場所まで行けないかってランスが聞いてるんだけど」

 

 かなみは珍しく聞き逃していたウルザに少し驚きながら、改めて聞いた。

 

「無理ですね。どういうからくりなのかわかりませんが、空を飛ぶで行けるのは私が一度、訪れたことがある街とポケモンセンターのある場所だけですから」

「ちっ……。使えねえ」

 

 ランスはそう吐き捨てて、シィルのところへ冷やかしに行った。怒ったピカチュウが、ランスに電気ショックを与えて喧嘩になろうとしている。

 

「珍しいわね」

「え?」

「普段、質問を聞き逃すなんて、まずしないのに……」

 

 かなみはウルザに率直な気持ちを言った。

 

「……。私だって、時には物思いにふけることもあるんですよ」

「そう……」

 

 かなみはウルザの寂しげな微笑みから察し、それ以上は深堀りしない。

 背後で一触触発になってるのに気付いたかなみはため息をつく。

 

「はぁ……。あのバカは。こういう日くらい空気読めないのかしら」

「ふふ……。でもですね」

 

 ペグを全て打ち終えたウルザは立ち上がり、嬉しそうな小さな微笑みを浮かべて、かなみに近づく。

 

「こういう時こそ、ランスさんのああいうところに、救われる気がするんです」

 

 そういってウルザは仲裁に入りにランスのところへ行き、かなみも少し遅れて続いた。

 最後の夜が更けようとしている。

 

――

 

 共同で夕食を食べ終え、ウルザはランスの誘いに載らず、少し離れた別の場所でテントを設営している。

 ウルザは手持ちを全てだし、焚き火を作った後、四体を前にして穏やかでいて、しかし決意を込めたような声色でゆっくりと話し始めた。

 一番最初に仲間にしたエーフィをはじめとし、カイリュー、スターミー、キュウコンがそれぞれの、しかし真剣な眼差しで主を見つめていた。

 

「スターミー。あなたは寡黙で、とても神秘的です。ですが、その中心で輝くコアは、確かに強い意思と、確実な力を持っていました。正直、今でも私はあなたのことを、どれほど理解できたかはわかりません。しかし、多くを語らずとも、あなたの持つその多彩な技や変幻自在な変化技にはとても助けられました。ふたごじまや、グレンタウンに行った際も、移動手段として実に役に立ってくれましたね。本当にありがとう」

 

 そう言って、ウルザはスターミーのコア付近にある部位を静かに撫でる。

 

「キュウコン。ロコンとして出会った時、私はその可愛らしさに目を奪われました。そして、しばらくして炎の石を与え、その美しい姿に成長した時、その毛並みと九本の金色ともいうべき尾に息を呑みました。それだけでなく、にほんばれで起点を作ってからの頼もしい火力や、ソーラービームによる水や岩などの弱点に対する対抗で、相手の意表をついたときには、共に笑い合ったりもしましたね。今後とも、その美しさと、気高さ、強さを忘れないでください」

 

 ウルザはキュウコンの片方の前足をしっかりと握った。

 

「カイリュー。……、出会ったのはゲームコーナーの景品からという少し変わった方法ではありましたが、それでもあなたは私の期待にしっかりと答え、想定よりもはやく、その立派で、何物の追随を許さない姿に成長してくれました。竜の舞を積んでからの逆鱗や、ブレイブバードなど、その強力な膂力より吐き出される頼もしい威力には、私は何度も助けられました。それだけでなく、貴方はその翼で色々なところへ私を連れていき、私のかげがえのない友人たちにも、この世界をみせてくださいました。今後もどうか、この世界のドラゴン族として、誇りをもって生きていってください」

 

 ウルザはカイリューの身体に比して小さな手を握る。

 

「エー……フィ」

 

 ウルザは最後に残ったエーフィを見ると、感極まったのか、言葉に詰まってしまった。エーフィは黙したまま、じっと反応を伺っている。ウルザはしばらく下を向いた後、気を持ち直して、改めてしっかりとその吸い込まれるような目を見据えた。

 

「貴女は、私の仲間になってくれた最初のポケモンです。右も左もわからなかった私に、そのかわいらしい姿で、色々な形で助けてくださいました。私が4つ目に向かおうとしたタマムシシティに向かう朝にあなたがその姿に成長したときの感動は、今でも忘れられず、そのままエリカさんのジムへ行き、草と毒のポケモンたちを次々と下していったときの頼もしさは感無量でした。それからも美しくも、その超能力によるサイコキネシスや、それだけでなくリフレクターやひかりのかべによる補助など、頼もしい戦力になってくださいました。あなたの賢さと、その不思議ながらも神秘的な力は今後とも頼りになるでしょう」

 

 そう言って、ウルザはエーフィの手を取り、しばらく撫でた後、そのまま背中を抱きよせる。

 

「ありがとう……私の、戦友。そして、パートナー」

 

 10秒ほどそうした後、ウルザはエーフィから離れ、手持ち達の前になおった。

 

「みんな。本当にありがとう。短い間に、よく私のためにここまで成長してくれました。あなたたちと過ごした時間は、私にとって、かけがえのない宝物です」

 

 ウルザは、そう心の底からの少女のような笑みを浮かべてしめくくる。

 しばらく刻み込むように顔を眺めた後、エーフィを除いて全てボールに戻した。

 

「エーフィ……。今日だけ、一緒に寝てくれないかしら。貴女の温もりを、忘れずにいたいの」

 

 ウルザはうつむいて、感情をこらえながら言う。エーフィは一度うなずき、先にテントへ入っていき、少し遅れてウルザ自身も入っていく。その少女のような、健気さが、今はただ愛おしかった。

 

 そしてその様子を心配になって近くにきていたシィルは、一部始終を目撃した。彼女はウルザがテントに戻ったのを見届けると、静かに、しかし踏み固めるようにランスのテントへ戻る。

 

――

 

 翌朝、空は曇天であった。

 ウルザは若干の迷いがありながらも、押し殺した感情で司令塔として後方で指揮をとっていた。そしてその周囲にはどこか吹っ切れたような、しかしそれでも悲しみの色の残るシィルと、静かに前方へ常に偵察に向かい、慣れない地図の意味を取り違えたり、目測を誤るなどのドジを踏むも、ウルザによる補正と解釈により、どんどん前に進んでいく。ランスは相変わらず先頭を走って野生をカオスで殴ったりしていたが、時折ウルザのパーティが援護に入っていた。

 ワタルよりもらった地図を下地に、厳しい岩肌を次々とこなしていき、道なき道を進み続ける。

 そして、目標地点にたどりつくと、そこには確かに横に10mはありそうな大きな横穴と、禍々しいオーラとプレッシャーが放たれていた。時刻は夕方となり、予定通り突入は明日ということになる。

 

「あー。ようやく着いたか。疲れた疲れた。シィル! 茶!」

「はいランス様、とくとく……」

 

 シィルは魔法瓶からお茶をつぎ、ランスに差し出した。

 

「ここが……、秘密の抜け穴」

 

 かなみは暗器の柄を握りながら呟く。

 

「なるほど……。だから埋められなかったんですね」

 

 ウルザは着いた瞬間にそれを悟った。

 

「どういうことだウルザちゃん」

 

 茶を飲み干したランスは、いつも通りの投げやりな口調で聞く。

 

「ここは明らかに他と雰囲気が違います……。こうして平然としてられる程度に、抑えられてはいますが、それでも空間の歪んでいくような、そんなプレッシャーのようなもの。おそらくミュウツーはここよりさほど遠くないところにいるものと解釈されます」

「それがどうつながるの?」

 

 かなみはウルザの方へ振り返って興味をもって尋ねる。

 

「ミュウツーが近いからこそ、岩壁が耐えられず、このように穴ができてしまった。これは人為的なものではどうしようもない、超常的なものだからこそ、人がどれほど機械やマンパワーをかけようと開いてしまうわけです。バケツの穴を紙や、粗末な布で塞いでるようなものですからね」

「なるほど……」

 

 かなみはそう言って一度うなずいた。

 

「ふーん。ま、洞窟内を探る手間が減らせるなら、それにこしたことはないがな」

「ピカピ……」

 

 ピカチュウは穴をじっとみながら、その身を震わせていた。

 

「ほー。なるほどのー。道理で少し元気がでてきたわけだわい」

「うわなんだお前。いままでずっと黙ってたくせに」

 

 ランスは急に喋りだしたカオスに怪訝な表情を浮かべる。

 

「そこの嬢ちゃんの言う通りじゃわい。ここは儂にとって随分とよさそうなところじゃのう。ほっほっほっほ」

「うるせえなあ……。やっぱどっかで棄ててくりゃよかった」

「うわひど!」

 

 カオスは少し、元気を取り戻した。

 

「さて、では最後の野営をしましょうか。準備をしましょう」

 

 ランスがなにか言い出す前にとばかりに、ウルザは早急に指示をだした。

 夕食を終え、少し場が落ち着いたタイミングでランスが下卑た顔をうかべる。

 

「よーし、ウルザちゃん」

「……はい」

 

 ウルザは何を言われるか承知の表情で、ランスの言葉を受ける。

 

「約束を果たしてもらおうか。今すぐ、ここでヤラせろ」

 

 ウルザはしばらく考えた後、恥ずかしそうに視線を上げ、言いづらそうに言葉を紡ぐ。

 

「そんな簡単に、すませてしまっても、よろしいんですか?」

「へ?」

「せっかくここまで……、焦らしたんです。もう少しだけ、待つというのも良いのではないですか?」

 

 ウルザはランスが喜びそうな語句を、身をよじらせ、情を誘いそうな仕草で並び立てる。

 

「ほー……」

 

 ランスはすぐに襲いかかろうとせず、珍しくウルザの言葉を聞いていた。

 

「少しだけ……。時をください。それまでランスさんは、その……、洞窟内の方に寄って張ってある、私のテントで、待っていてください。私は、準備がありますので」

「ふーーん……」

 

 ランスはいつものウルザなら言わなそうなその言葉で、逆に興奮しはじめていた。

 

「えっちになったなあ。ウルザちゃんも。よしわかった。15分だけ待ってやる。それまでに来なきゃ一方的に襲っちゃうからな」

 

 そう言ってランスは意気揚々とテントに向かっていった。

 

「ふう……」

「ねえ。ウルザさん。本当にいいの? そこまでしなくたって……」

 

 かなみは心底気がかりな視線を向けていた。

 

「良いんです。約束は、約束ですから。それに、準備が必要なのは、本当ですからね」

 

 ウルザは腰から、グローブに包まれた手のひらに4つのモンスターボールを乗せる。

 

「ね、ねえ……」

「なんですか、かなみさん」

「その……。どうしても、しなきゃいけないの? こんなところに放っておいてそもそも大丈夫なの?」

 

 かなみはそのモンスターボールを見ながらトーンを落とした声で言う。

 

「預ける施設もありますが、私たちはどのような結末になろうとここに戻ることはありません。ずっと他の方に負担を強いることになります」

「うっ……」

 

 かなみは返す言葉に詰まり、下を向く。シィルはウルザの表情を伺っていた。

 

「それに、ポケモンというのは、元来自然に生きるもの。この子たちはこの世界であれば、生きてゆけると信じています」

 

 そう言ってウルザは岩壁の外側に歩き出し、四体の手持ち全員を出した。

 スターミーはコアを輝かせ、カイリューは力強く、キュウコンは気高く、そしてエーフィは静かに、覚悟が決まっているかのような表情を、四体はそれぞれ見せている。ウルザは穏やかながらも、揺るぎない、確固たる信念を持って、大きく息を吸い込んだ。

 

「私の誇り高き仲間たち。スターミー。カイリュー、キュウコン……そして、エーフィ! 今、私達は一つの旅の終わりに立っています。この異世界であなたたちと出会い、過ごしていった日々は私にとって予想もしなかった……、しかし、かげがいのない宝物となりました、あなたたちは皆、素晴らしい力と強い個性をもっています。この短い間に、目覚ましい成長と。私にとっては豊かな知見と、唯一無二の経験をくれました。私は、あなたたちのトレーナーとして、誇りに思っています。できれば、これからも、ずっと共に、より高みをめざしていきたかった……!」

 

 ウルザはそう言うと少しだけ声色を落とし、決然とした声色で更に続ける。

 

「しかし、時は来てしまいました。私達は道を分かたなければなりません。私が行くべき道と、あなたたちがこの世界で生きるべき道は、平行し、交わることはないのです。あるべきところに、還るべき時が、来てしまったのです。しかし、これは終わりであると共に、はじまりでもあります。私はあなた達のトレーナーとして、どのような困難に打ち克つことが出来ると固く信じています。そして、その未来は、光り輝き、未来永劫誇れるものであることを強く願っています」

 

 ウルザは威風堂々とした態度で、威厳と。しかしどこか優しさのある言葉で話続けた。そして、一呼吸おいて、ゆるぎない声で締めくくる。

 

「今まで、ありがとう。私の戦友たち。……、行きなさい、あなたたちの自由な、空と大地へ」

 

 そう言うとエーフィ以外の三体はウルザの言葉を受け入れ、少しだけ名残惜しそうに、ゆっくりと去っていった。

 

「エーフィ……。だめよ。あなたも、いかないと」

 

 ウルザは最大限感情をこらえて、絞り出すように言った。

 エーフィはしばらくウルザの顔を見つめ、一度深く頭を下げて、悠然と去っていった。彼女なりのウルザへの敬意であった。

 

「っ……!」

 

 手持ちがいなく成った後、ウルザは一度、洞窟の壁に寄って、一度だけ壁を叩いた。

 

「シィル……さん」

 

 しばらくして、少しは感情が落ち着いたウルザは、シィルに声をかけた。

 

「は、はい。なんでしょうか」

 

 ウルザの演説に聞き惚れていたシィルは、我に返って反応した。

 

「このボールを……、そこの……、あの子達のいたところに置いてきてください」

 

 そう言ってウルザはシィルの方を向かないまま、手持ちの入ったモンスターボールを受け渡す。

 

「ウルザ……さん」

 

 シィルの言葉には答えず、ウルザはゆっくりと、ランスの待つテントへと向かっていった。

 

「凄かったわね……ウルザさん」

 

 かなみの言葉にも答えず、シィルもウルザから何かを受け取ったかのように、ボールを言われた場所に配置した。ピカチュウが心配そうな顔をしてついてきている。かなみはそれをすこし遠くから見ていた。

 

「ピカ……ちゃん」

 

 シィルはしばらく考えた後、絞り出すような声で声をかけはじめる。

 

「お別れ、です……私達も」

 

 シィルはピカチュウに顔を向け、悲しみを堪えながらも、にこやかに笑っていた。ピカチュウは意図を理解し、ぶんぶんと、首を横に振った。

 

「だめ……。だめなの。私は、ピカちゃんの行けない、遠い、遠いところに、かえらないといけないの。だから、連れていけないの」

「ピカ、ピカ!!」

 

 しかし、ピカチュウはシィルから離れようとせず、足元で泣きじゃくっていた。

 

「ふふ、もう……甘えん坊さんですね……。でも、でも。私達は、帰らな……帰らなきや……あ、あれ?」

 

 シィルもピカチュウにつられてか、涙がポロポロと溢れ出てきた。

 

「うっ……。だめなのに……、ウルザさ、みたいに。ひっく、ちゃんと……お別れしなきゃ……ひっぐ」

 

 シィルは座り込んでピカチュウと一緒になって抱き合って泣いてしまった。

 

「っ……!!」

 

 それを見ていたかなみは、自分だけでもしっかりしなければとばかりに、湧き上がる感情を抑えて、静かに向かっていった。

 

「ねえ。一緒に……寝ない?」

「え?」

 

 シィルは既に泣き腫らしている顔で、かなみの方を向く。その顔は意外とでもいうべき色を帯びていた。

 

「ラ……。ランスも今日はウルザさんに夢中みたいだし。せっかくこうして、機会ができたんだしさ」

 

 かなみはかがんで、シィルとピカチュウに目線をあわせた。

 

「で、でも。宜しいんですか? せっかくかなみさん、今日は、ひっく、一人で寝られ」

「私も妙に明日のせいで、気が高ぶっちゃって。一人じゃ寝れそうにないのよ……。だから、ね?」

 

 かなみはにっこりと笑って、手を差し出す。しかし、それは必死に涙をこらえているようにも見えた。

 ピカチュウも少しだけ顔を上げる。そして泣くのは一旦やめて話を聞いていた。

 

「ひっく……。すみません。ありがとうございます」

 

 かなみとシィルは立ち上がり、もう一つのテントに向かった。しかし、ピカチュウはついてきている。

 

「ダ、ダメよ。ピカちゃん。あなたは」

「あー……。あのね。いいんじゃないの? 今夜くらいは」

 

 かなみは本題を切り出す。その視線は明後日の方向を見ており、少しわざとらしい。

 

「え?」

「ウルザさんと違って、シィルちゃんはたったの数日しか一緒にいれなかったんだし……、今夜はピカチュウも一緒に寝て、明日の朝にでもすればいいんじゃ、ないかな? どうしても今日この場でなきゃいけないってわけじゃ」

 

 かなみは指で髪をいじり、バツの悪そうな表情をしながら、もっともな言い訳をしてみせる。

 

「そう……ですね。今夜はかなみさんと一緒に寝ましょうか。ピカちゃん」

 

 そう言ってシィルは涙を拭き、ピカチュウに最後の夜を提案する。シィルもかなみの底意を受け取ったかのようである。

 

「ピカ!」

 

 ピカチュウは喜んでそれに同意し、一足早くテントに入っていく。

 

「あ! 全くやんちゃなんだから……」

「そこがピカちゃんのいいところですよ」

 

 そういって二人もテントに入り、ピカチュウを真ん中に、川の字になって最後の夜を過ごす。

 

 未明になってピカチュウはむくりと起き、シィルとかなみの寝顔を見る。

 静かに、そっとテントを出ていき、森の方へ出ていった。

 

「あ、あれ? ピカちゃんは?」

 

 日が昇ってシィルが目覚めると、真ん中にいたはずのピカチュウがいなくなりキョロキョロとさがしはじめる。

 

「んっ……。あれ? どうしたんだろ……」

 

 かなみも眠い目をこすりながら、テント内や、荷物の中などに隠れてないか探したが、見当たらない。

 テントの外に出て、姿を探しても、ピカチュウの姿はどこにもいなかった。

 

「どこいったんだろ……」

 

 かなみが思案に暮れていると、シィルが声をあげた。

 

「か、かなみさん……。これ」

 

 シィルの手の中には、何個かの青や黄色のきのみが詰まっていた。

 

「えっ……これ……って」

 

 かなみは思い出した、ニビの近くでの、あの事を。

 先が見えず、空腹に悩んでいた、私達に、あの子は、その小さな手に――

 

「……、ウルザさんのボールの近くに、これが置いてあったんです」

 

 それを聞いたかなみはこらえていた感情が爆発し、地面に突っ伏して子どものように大いに泣きじゃくってしまった。

 

「ピ……ピカチ……ピカちゃんーーー!!」

 

 かなみはきのみを抱えて、シィルと同じくらいに涙を流し続けた。あまりの泣きっぷりに先に泣いていたはずのシィルがなだめたほど。

 ピカチュウは、去っていった。

 

――

 

「ちっ……もう15分経ったよな?」

 

 ランスはウルザのテントの中でいらいらしながら待ち続けていた。私物をあさって勝手に日記や資料を読んだりしたが、ランスには何が書いてあるかわからないほどの高度な内容ばかりでさっぱり理解が追いつかず、すぐに飽きてしまった。

 ハイパー兵器は既に臨戦態勢となっているのに、お預けを食らってる状態である。

 

「もー我慢できん! こっちから」

「お待たせ……しました。ランスさん」

 

 ウルザは疲労がまじりながらも、決然としたような声色でランスに話しかけた。

 

「遅いぞウルザ……ちゃん」

 

 ランスが振り返ると、そこには戦闘服のウルザではなく、アイスフレーム時代の、清楚で気品のある洋服を着ていた。淡い茶色の上着に白のロングスカートを中心とする、小綺麗な服である。

 

「も……、持っていたのか。その服」

「さすがに町中や、情報収集の際にいつもあの服では、差し障りがありますので……。遠隔地に行く際はつねにもっているんです……」

「ふーん。そうか」

 

 ランスはじろじろと、性的な視線でその服のウルザを見ている。

 

「うむ。ハイレグ戦闘服の時みたいな太もも丸出しなのもいいが、やはりこっちのほうも、きれいなものを穢す感じがあって……」

 

 ランスがそう批評していると、ウルザはランスに抱きついた。そして、その力はとても強かった。

 

「えっ……?」

 

 ランスは何が起きたか分からず、抱きついた彼女の頭を見た。

 

「抱いて……めちゃくちゃにしてください。今夜だけは……許してあげます」

 

 ウルザは弱々しくも、しかしはっきりとした意思の感じられる声で言った。

 

「ほー……。随分と積極的じゃないか。ウルザちゃ」

 

 ウルザは実行に移そうとしないランスに、矢継ぎ早に唇を押し付ける。腕を絡ませ、口に舌を絡ませ、1分ほど一方的かつ情熱的に行い続ける。その動きはぎこちなく、処女のようにつたないものだったが、ランスも対抗してむさぼるように舌を動かした。

 やがて、さすがに息が続かなくなって、彼女は唇を離し、荒い息を吐いた。普段は凛としていても、やはりこういったことは不慣れであることが丸わかりであった。

 

「全く。慣れね―ことすっからだぞ」

「いいじゃ……ないですか。今日は敢えて慣れないことをしてみたい、気分なんですよ……?」

 

 ウルザは上気した顔で、少しだけ挑発的な視線をランスに送る。

 

「うーん……積極的なのは悪くない、どころか素晴らしいんだが、ウルザちゃん、ちょっとヤケクソになってないか?」

 

 ランスはやや視点を引いたようなところからそう感想を言う。

 

「そんなの、あなたの、知ったことでは」

「いーや! ウルザちゃん、これは男と女の交わり合いなのだ。お互い楽しくなくては、いかんのだ。ましてやウルザちゃんみたいなすげーいい女ならなおさらな」

 

 そういってランスはウルザの背後に回って、膝の上に載せる。

 

「な、何を」

「おー。こうしているとアイスフレームで好きにしてた頃を思い出すなあ」

「や、やめてください。私は今日は一方的にせ」

 

 そこまで言ってウルザは口を閉ざし、口に両手を当てて、羞恥より赤面になっている。

 

「やっぱそういうことだったか……。一方的に俺様にリードをとって、さっさと終わらせるつもりだったろ?」

 

 ウルザは何も答えないが、ランスは接している肌がにわかに熱くなるのを感じる。

 

「図星みたいだな……。だが残念だったなウルザちゃん。いくらいい女でも、俺はそこらの男とは格が違うのだ! 散々お預け食らったんだ。めちゃくちゃにするのは俺様の方だ!」

 

 ランスはそう宣言すると、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、背後から手を回して首元できつくむすばれたリボンに手をかける。

 リボンを解くと、淡い茶色の上着が少し開いて、白い襟のブラウスが露わになった。

 

「うーん。やっぱこの頃のウルザちゃんもいいなあ。清楚って感じがするぜ」

 

 そう言いながら、ランスは上着にあるボタンを一つ一つ丁寧に外し始める。羞恥を刺激され、彼女が紅潮していってるのは明らかであった。

 

「な、なんで。そんな……ゆっくり」

「ん~? もしかして我慢できなくなっちゃったのかなぁ?」

 

 ボタンを全て外し、ウルザの白いブラウスが露わになる。ランスは彼女の耳に囁いた。

 

「っ……! ち、違います。そうやって、変に焦らされると……あの……」

 

 ウルザはなんとか絞り出すように言葉を紡ぐ。少しずつ興奮が高まってはいたが、それをはっきり認めたくはなかった。

 

「そーゆーのを我慢できなくなっちゃったって言うんだぞ」

 

 更に高まった彼女の体温を他所に、ランスはニヤりと笑いながら次はブラウスのボタンを外しにかかった。彼以外の男性に見せたことのない、白い肌が露わになる度、ウルザの顔はさらに赤みを増していき、自身の心音も跳ね上がっていく。

 やがて、ブラウスが外れると彼女の質素ながらも可愛らしさのある下着が、ランスの目に映った。

 

「ふーむ……。なあ、ずっと気になっていたんだが、いつもの服の時でもその下着なのか?」

「場合に……、よりますけど。基本的には……、同じ日のうちには変えてませんよ……」

 

 ウルザは少し息を落ち着かせながら、上気した様子のまま続ける。

 

「なるほど。いつもあんなに凛々しい姿の下にはこんなかわいい一面があったんだな~がはは」

 

 そう言ってランスはウルザの双丘にその手を這わせはじめた。彼女は肩を震わせ、来る感触に応えた。

 

「ラ。ランスさん……。触り方が……その……」

「ほほー。シィルやかなみくらいなのもいいが、やっぱウルザちゃんくらいの少し手からはみ出るくらいの大きさ……うむうむぐっどだ」

 

 シィルやかなみを引き合いに出しながら、ランスはその感触と大きさをほめた。

 

「またあなたはっ……、閨の最中に他の女性のことを……」

「ん~? ヤキモチかー。ウルザちゃん。がはは」

 

 そう言いながら今度は、下着の上から双丘の突起を責め始めた。

 

「んっ……あっ」

 

 ウルザの口から、今まで最大限我慢していた嬌声が遂に漏れ始めてしまう。彼女の身体はランスの指先に反応し、肌を震わせながらも、その感覚に抗いきれないようであった。ランスはそんな彼女の反応を見て、益々その笑みを深めた。

 

「おっ。やっと我慢するのやめたか? いいぞいいぞ」

 

 そう言いながら、更にランスは突起を責め続けた。じわりじわりと、さざなみのようにやってくる快感に、このまま続けられては、おかしくなると思ったウルザは意を決して言葉を紡ぐ。

 

「ランスさん……。もう……いいですから、その……」

「んー?」

 

 ウルザの言葉にも構わずランスは彼女の胸を弄び続ける。

 

「ちゃんと……ちゃんと抱いてください。今日だけは……、何をしても、何をされても、許しますから」

「ちゃんとってどういうことかな~? ウルザちゃんの口から言ってくれないとわかんないなー」

 

 ランスはあからさまにとぼけて、口笛を吹きながら反応を引き出そうとする。

 

「つっ……。いい加減に」

 

 ウルザは背後であくまで余裕の態度を見せるランスに、いつものように拳を振り下げようとする。

 

「おいおい。めちゃくちゃにしてくれって言ったのはウルザちゃんだぞ。それいっといて、俺様にまたゲンコツふるうのか?」

「くっ……」

 

 その言葉に、ウルザはさすがにそれは不義理がすぎると思ったのか、拳をおさめた。

 

「うーん。いつもは有無を言わさず飛んでくるゲンコツを収められるのも。なかなかに快感だな~。で、ウルザちゃん、ちゃんとってどういうことかなー?」

 

 相変わらず胸を揉みしだきながらランスはウルザに問い続ける。彼女はランスのあくまで余裕を崩さず、自らの身体を弄び続ける態度に苛立ちを覚えつつも、体の熱は抑えられず、益々高まるのを感じる。

 大腿部に熱く、粘り気を持った体液がじわりとつたりはじめているのが分かり、ウルザは更に顔を赤らめた。

 

「わっ……わかりました……」

 

 ウルザは遂に観念して振り向き、下卑た笑みを浮かべるランスの顔を見ながら言い始める。その声は小さく、震えていた。

 

「……。ランスさんに、……全て犯してほしいです。……、今日だけは、私を、思うままに愛してください。今日……、私の受けた悲しみを全て……上書きしてしまうくらいに」

「うーん……もっと直接的にいってほしかったんだが……」

 

 ウルザの必死の告白にも、ランスは少し不満そうな顔をした。

 

「ラ、ランスさんっ……あなたって人は……」

「だが、まあいい。ウルザちゃんにしては合格だ。よかろう。今日は俺様が全て忘れさせるくらい、素晴らしい夜をくれてやろうじゃないか。がははは」

 

 ランスはウルザをテントの床に押し倒し、改めて彼女の身体を堪能しはじめる。

 ランスとウルザの一夜ははじまったばかりであった。

 

――

 

 朝になり、ランスは目覚める。

 昨日10発も発散された、ウルザは同じテントで戦闘服に着替え終わっていた。

 

「おはようございます。ランスさん」

「おう……やっぱその服か」

 

 ランスはややがっかりしたような顔でウルザを見る。昨夜の傷心ぶりは完全に消えており、従前の覇気のある彼女に戻っていた。

 ボウガンを久々に取り出し、チェックを行っている、以前ほど武器としては使えなくとも、やはり長年の相棒であるためだった。

 

「今日は最後の決戦の日です。あの服では用はこなせませんよ」

 

 ウルザはそういってフッと笑ってみせた。

 

「まあ。そりゃあそうかもしれんが……んー」

 

 ランスはハイレグの際どい部分に注目する。

 

「やっぱこの服はこの服でエロいな。うひひひひ」

 

 と言いながらランスは尻を触ろうとしたが、やはりウルザのゲンコツが飛んできた。

 

「いってー!」

「約束は十分果たしました。今ランスさんの好きにされなければならない理由はないでしょう?」

「くっ……。昨日はあんなに乱れてよがりまくってたく……」

 

 ランスはウルザの鋭い視線に気付いてそれ以上言うのをやめた。

 

「ふう……。あなたはきっと、何十年経っても、そういうところ、変わらないのでしょうね」

 

 ウルザは諦めと、しかしどこか好意をもった笑みをうかべてそう呟いた。

 

 ウルザとランスはテントを畳み、かなみとシィルのところへ合流する。

 

「おはようございます。ランス様」

「おう……。かなみはどうしたんだ、そのまぶた」

 

 かなみはすっかり泣きすぎてまぶたが腫れてしまっていた。

 

「どうだっていいでしょ……」

 

 かなみはそう言ってそっぽを向いた。ウルザは小さく肩を叩いて、ボールの置いてある方向に視線をむけさせた。

 

「ああ……。ようやく消えたか。たく、鬱陶しい奴だったな」

 

 ランスはピカチュウが消えたことを察し、そう呟いた。

 

「さて、朝食をシィルさんが用意してくださったようですし、……、食べたら向かいましょうか」

 

 シィルはかなみを励ましながら、全員分の朝食を作り上げていた。

 

「そうだな。あのふざけた奴、ぶちのめしにいってやる」

 

 ランスは固く決意を固めた。

 4人は静かに朝食を食べ終え、ミュウツーのところへ向かう。

 ウルザの4つのモンスターボールに加え、もう一つかなみが置いたモンスターボールが、彼らを見送っているようだった。

 

――

 

 一行は、慎重に道を進み、ミュウツーのところへ向かっていった。

 宛はなかったものの、気が強くなっている方向に向かえばよく、まるで導かれているようであった。

 

「うーん。どんどんやる気が回復していくぞ。みるみる若返っていくようじゃわい」

 

 ミュウツーのところへ近づくたび、カオスはどんどんやかましくなっていった。

 

「マジで融かしておけばよかったなこれ……。ほんとハンマーに鞍替えしとくんだった」

「まあまあそんなこと言わずに心の友よ。一緒に儂の復活を祝おうではないか! るーるるるー」

「誰がするかこのボケ!」

 

 ランスはカオスの先端を思い切りそのへんの岩にぶつけた。

 

「あいたたたた!! もーつれないんだからー」

 

 カオスとランスはこんな会話をいつまでも続けていた。

 

「ほんと……。これから決戦っていう雰囲気じゃないわよねあれ」

「まあいいじゃないですか。ランスさんにシリアスなんて求めるのは無理ですから」

 

 かなみとウルザはそんなことを言いながら、ランスの後ろにつづいていった。シィルは胸の間にいつも抱えていたものがなくなったことからか、うつむき加減だったが、それでも前に進む。 

 

――

 

 やがて、一つの小部屋にたどりついた。

 その部屋に入ると雰囲気は一気に重くなり、まるで鉛でも飲まされているような感覚を一行は覚えていた。小部屋の中は妙に見通しがよく、エネルギーに反応するかのように様々な鉱物の光が乱反射を起こしている。

 そして、そのような中心に、それはいた。

 

「あれが、そうか」

 

 ランスは姿をみつけると、すぐにそう結論した。

 人形に近いそれは、静かに中央に佇んでおり、どこか神秘的な雰囲気を持っている。

 

「うう……魔人さんたちと同じような、すごい気配がしますぅ……」

 

 シィルは自身の経験に重ね合わせながら、怯えたように言う。

 

「今まで読んできた文献や資料からするに、間違いはないと思います」

「ふむ」

 

 ランスは静かにそれを――ミュウツーを見ていた。

 

『来たな。人間ども』

 

 しばらくして、ミュウツーが喋った。というより、脳内に送り込まれた。

 

「な、なによこれ……。耳じゃなくて、脳みそから?」

 

 かなみは突然の脳内に響くそれに大きく困惑している。全員、同じような状況であった。

 

「うーん。この感じ。よく似ておるのう。お嬢ちゃんの言う通り、魔人に近いやもしれん。ぐほほほ、やる気が満ち満ちてきたわい」

 

 カオスのやる気が最大限に達したようだ。ランスは特に返さなかった。

 

「単刀直入に聞きます。あなたが、私たちをよんだのですか」

 

 比較的動揺をみせず、ウルザが尋ねた、

 

『私は……。強さを求めていた。あの人間、利己的な目的で、私を勝手に作り、苦しみを与えた人間どもに、復讐を果たすために』

 

 ミュウツーは頷いた後、答え始める。存外素直であった。

 

『私は様々な……、こことは異なる世界を観測してきた……。そこで興味を持ったのが、おまえたちだ』

「……っ!」

 

 ミュウツーの言葉にウルザは緊張の度合いを一気に高めた。

 

『魔王とその下僕たる魔人が世を支配し、人間どもを苦しみ苛ませ続けている……。そのような世界を創造せし、ルドラサウムに、私は強く興味をもったのだ』

「ルドラサウム……。あの古代書にかかれている……? あれはただの伝説では」

 

 ウルザは驚嘆のあまり立ち尽くすしか無かった。ルドラサウムとはランスたちの世界の創造主である。しかし、その存在自体AL教の法王などごく一部にしか知られておらず、古文書にごく一部記載がある程度でランスたちの世界での認知度は極めて低い。

 

『あの世界では、人間を下等とみなし、今は譲歩しているようだが、依然として根底に徹底とした蔑視と、一部では逆襲に向け刃を研ぎ続けている。この世と比して、モンスターにとり、本来の目指すべき姿でないかと、探ろうと思ったのだ』

「なんて……ことを」

 

 ウルザは内心怒りに震えていた。共生と、公正な平等による幸福な社会を目指す彼女にとって、それを破壊しようとするそれの一方的な振る舞いは、感情を大きく揺さぶられた。

 

『本来ならば魔人をこの世に召喚し、どのようなことをするか……。見たかったのだが、実際に来たのはお前たちのような出来損ない……。私はひどく落胆した』

「んだと貴様! 一方的によびつけておいてその言い草は」

 

 ランスはカオスの柄を握り、ミュウツーに誇示した。

 

「おーやれやれー! ぶったたけー!!」

 

 カオスはそう言って、ランスを鼓舞する。

 

「待ってくださいランスさん。今は彼の話を」

『話すことは、もうない。お前たちをもとの世界に帰してやる義理などない。もしそれでも帰りたくば、力ずくでくるといい』

 

 ミュウツーの挑発にランスは激しく反応し、ランスはミュウツーに斬り掛かった。

 

「死ねえええ!!」

 

 しかし、ランスの攻撃はミュウツーに届くことすらなく、手前のバリアのようなもので弾き返される。

 

「ちっ……。バリアか。おい、なんで武器にこんな小細工をした。俺様に斬られるのが怖いからか?」

『それは私の知るところではない』

 

 そういってミュウツーはランスに強い念波を送り、壁に叩きつけた。

 

「クソっ……。行くぞお前ら! 俺様を死ぬ気で支えろ!!」

 

 大したダメージではなく、ランスはすぐに立ち上がり、背後に居る三人に強く厳命した。

 

「やむを得ませんっ……! かなみさん、撹乱を、シィルさんはランスさんの回復と、後方支援を。そして私は」

 

 ウルザは手入れしたボウガンを構え、宣言する。ふたりともすぐに配置についた。

 

「戦術指示と、これにて援護します。鏃は潰されても、撹乱にはなりますからっ!」

 

――

 

 かなみは煙幕でミュウツーを誘導したり、シィルはファイヤーレーザーやライトニングレーザーなどで隙間を見て攻撃、ウルザも援護射撃や戦術指示で、ランスの攻撃を支援し続けた。

 しかし、いずれの攻撃も撹乱も奏功せず、一行はおいつめられていった。

 

「おいポンコツ! 調子出てきたんじゃねえのか! ちっとも通らないじゃないか!」

「だって儂、破れんのは無敵結界専門じゃし……そもそも刃引きされてるのにはかわらんしのー。そもそも当たらんことには」

 

 カオスの言い訳にランスは鍔を叩いた。

 

「あべしっ」

「この野郎ふざけやがって……。ん? 刃引き……刃。そうか。そういうことか」

 

 ランスは低く笑い、一つの事を思いついた。

 

「お前ら。下がっていろ。全てはこのための一撃だ」

 

 ランスの言葉に、三人は一応命令に従った、

 

「何をする気なのかしら……」

「わかりませんけど……。私はランス様を信じます」

 

 かなみとシィルの言葉をよそに、ウルザはただ不安と期待と入り混じった視線を向け、黙して見守っていた。

 

「ランスアターーーック!!」

『!?』

 

 その青い衝撃波と、そこから生み出される破壊力により、バリアは粉砕され、ミュウツーのもとに、腕をかすめる程度だが、剣が届いた。その時、空間が歪み、世界がひずむような感覚が部屋中に響き始める。

 

「がははは!! 刃が届かんのなら、刃以外の方法で敵を押し斬ればいいだけのことだったのだ!」

「おう。その手があったか。さすがは心の友よ!!」

 

 カオスは珍しく感心している。

 

「うるさい。つーかてめーなんで気づかねーんだよ。つかえねーな」

「うう……儂頑張ったのに……理不尽……」

 

 傷ついたミュウツーは、この感覚にわずかな危機感を覚えつつ、ランスを強い怒りの視線をむけ、さらに強い衝撃波を送ろうとした。

 

――その時だった。

 

「空間に……裂け目!」

「な、何あれ……」

 

 ウルザが気づき、かなみが動揺する。

 

『くっ……。開いてしまったか』

 

 その裂け目は不安定で、白く光り輝いていた。ミュウツーはその裂け目を見て、全てを悟ったかのような表情をした。

 

『もういい。行け。お前は……、この世界に、危険すぎる……。このような、バグか、存在そのものが事故ともいうべき輩が……、この世界に、宇宙にいるとはな』

 

 ミュウツーは諦めたかのように、ランス達にテレパシーを送る。

 

「は? なにいってんだこいつ」

「もしかしてあれが……。元の世界への?」

 

 ウルザが気付いて、ミュウツーに尋ねる。

 

『確定はできんが……。それなりの確度はあるだろう。今はお前たちの世界を観測していたから、その世界にたどりつく可能性は……、低いとは言えん』

「なるほど……。そういうことなんですね」

 

 ウルザは静かに頷いて、納得する。

 

『このような事がなければ、もっと安定した形で制御し、別のものを呼び込む時に開いておきたかったのだがな……。まあ良い、とっとと出ていけ!』

 

 そういってミュウツーは一も二もなく、念力でもちあげ、ランスたちをその狭間に放り込んだ。

 

「ようやく……か。ずいぶん長くいた気がするな……」

 

 かなみは放り込まれる瞬間、安堵しつつも、少し寂しげに言う。

 

「わぁ……。なんだかふわふわしますぅ……」

 

 シィルは純粋な感想を述べていた。

 

「長かったですね……。皆さん、どうかお元気で」

 

 ウルザは胸に手を当て、目をつぶって、その衝撃に身を任せた。

 

「ちっ……。なんか操られてるようで気に食わんが……、まあいい、こんな世界とはおさらばだ! がはははは」

 

 四人が穴に放り込まれ、そのランスの言葉と共に閉じられていった。

 ランスたちは元の世界へ、帰還する。

 

――

 

「っ……」

 

 ウルザは気づくと、森林の中にいることに気づく。

 前の世界のような清々しい森林ではなく、半年ほど前にみた、おどろおどろしく、死の気配のする森。ハニーやアインシュタインなど見覚えのあるモンスターたち。

 

「長官! ご無事ですか!!」

 

 捜査に加わっていた部下の一人がウルザに気づいて駆け寄ってくる。この森に加え、懐かしい響きすらする自身を示す肩書。それでウルザは帰ってきたことを強く実感した。

 ウルザは立ち上がって、腰のあたりを軽くはらった。

 

「ええ……。なんとか。つかぬことを伺いますが、今は何月何日ですか?」

「え? LP4年の――」

 

 その日付を聞いて、ウルザは深く安堵の息をついた。自分が転移した時点と同じ日である。

 

「どうされました?」

「いえ……。なんでも。状況はどうなってるかしら?」

 

 内心あのミュウツーに感謝をしつつも、完全に気持ちを切り替えてウルザは部下に尋ねた。

 

――

 

 ランス達がハナダの洞窟から転移してしばらくたったころ。

 エリカはジムにある庭の掃除を行っていた。するとフッと笑って。ジムトレーナーのユキコに尋ねられた。

 

「どうされたのですか? リーダー」

「ああ。いえ、そういえばここは、あの不思議な方とお話をした場所だなって、つい思い起こしたのですわ」

 

 エリカは嬉しそうにユキコへ話す。

 

「え? あぁ。そういえばあの人はいつか、ニビであったあのハレンチな男の仲間だったようですね」

 

 ユキコはニビでの出来事を苦々しく思い出していた、

 

「ふふ。そのようですね。私達とは異なる世界から来られたとは、おっしゃっていましたが……。なるほど、理知的で聡明でありながら、なんとなくああいう独特な雰囲気でいらした理由が分かった気がしますわ」

 

 エリカはハナダの方角に向かって視線を送る。

 

「どうなさっているのでしょうね、今頃。ウルザさんは……」

 

 エリカは満足げな表情を浮かべて、静かにホウキでゴミをはらい始めた。

 

――

 

 ランス達は無事に、ポケモンの世界から、ルドラサウム大陸への帰還を果たした。ウルザは半年前に送られたのか、一緒にはおらず、かなみは少しきがかりだからとリーザス城へ帰っていった。

 二人は現在、最後にクエストを行った場所と同じの、自由都市地帯のどこかの大地にいる。

 

「やれやれ。ようやく帰ってこれたな……。なんだかいつもより空気が旨く感じるぜ」

 

 ランスは思い切り背伸びをして久々の空気を思い切り吸い込んだ。

 

「思えば、不思議な体験でしたね……。でも、なんだかんだ楽しかったですね、ランス様!」

「けっ。俺様はあんなとこ二度とごめんだがな」

 

 ランスはそう言いながら次の冒険について考えていた。ふと頭の中でハナダでの会話が蘇る。

 

「そうだな。次はJAPANにするか! 香姫ってJAPAN随一の美しい姫の処女もいただかねばならんし、その他にも俺様を待っている女がたくさんいるのは間違いない、行くぞシィル! もたもたすんな!」

 

 そう行ってランスはさっさと先に歩いていってしまった。

 

「ああ、待ってください、ランス様~」

 

 シィルの脳裏には、なんだかんだいっても、ランスなりに今回の出来事は楽しめたのかもと、自分なりに解釈し、ランスの素直になれない行動に確かに愛情を感じていた。

 

 戦国ランスへ続く……?

 

―完―




完結です。ここまでよんでくださり。ありがとうございました!

第四話の補完シーンとして設定集のあとに一話だけおいてあるのでもしよければそれもよんでください。

もしよければ、感想と評価をお願いします。

この小説は、ポケモンをプレイしつつも、ランスシリーズに興味を持っている方に主にかいているつもりです。もしこれで少しでも作品をプレイしてみたい、ないしもう一度やってみたい、手を出してないナンバリングをやりたいなどと、おもっていただけたならば私としてはこれ以上嬉しいことはありません。

戦国を匂わせる締めであれなんですが、個人的には、推しであり、この小説でも大いに活躍したウルザ・プラナアイスが初登場する『ランスⅥ ―ゼス崩壊―』(戦国の一つ前)からプレイすることをおすすめしたいです。
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