こんだけのガスであんな動き出来るわけないだろ! 作:山崎春のご飯まつり
26、
意識が広がっていく感覚を覚える。
徐々に脳が痛みを認識し始め、現在の体の状態を再確認する。
勿論四肢も胴体も痛い。けどそれ以上に頭が痛い。
なんなら他の痛みを打ち消すぐらい意識が頭に集中している。
「……はぁぁ…頭痛い…」
ため息をついて頭の痛みを和らげる。
そこに科学的根拠が存在するかは知らないし、プラシーボ程度の効力を発揮してくれれば幸いなんだが…変わらないか。
依然として一定の痛みを頭に叩き込まれる現状に嫌気をさし始め、最終手段にして最も効果の強い民間療法、そして副作用も強い治療法の検討をする。
…まぁ寝ることなんだけどね、強い副作用?意識が無くなることだよ。
けど現状の理解がままならない状態だからな、我慢するしかないか…自分の中でブラック上司を雇うのは辛いぜ(自業自得)
今にも深く沈みそうな意識をどうにか保って、一気に引き上げるように目を開ける
瞳に入り込む光は思いのほか暗く、夜であると理解する。
開ける前から瞼越しに明るさは何となくわかってはいたけど、想像以上に暗い。窓からの月明かりでどうにか周囲を認知できるぐらいだ。
少しずつ周りの様子が鮮明になっていき、瞳孔が大きくなっているのを実感する。
どうやらここは簡易的な医務室らしい
自分が寝ているやつ以外に2つのベッドがあって、埃かぶった棚には包帯や消毒液が少なくない量常備されてるし、薬品とかは置かれてないからそうだろう。
「今回は………誰も居ないんだな。月の位置から夜中だろうし当然か」
ここ最近は起きたら誰かが近くにいたから、今回のような孤独の目覚めはかなり新鮮だった
頭を抑えながら上体を起こす。
ズキズキと頭に響く痛みは、ある種思考のノイズと化していた。
「どんぐらい寝てたんだ?」
当然返答は来ず、自分で手がかりを探すため周りを改めて見渡す。
歪みのある木の床、特に何の装飾も施されていない質素な壁。そしてすぐ横にある机の上には蝋燭が溶けた後が残っていた、おそらく少し前まで人が居たのだろうか
「収穫は無し……か」
めぼしいものが見当たらなかったし、仕方なく行動を開始しようとその前段階として一旦体を解す
訪れるであろう痛みに耐える準備をし、いざ上半身を伸ばすと
「~~~~っあ、あれ?」
体を伸ばしてもあまり痛くなかった。
感じた違和感を保ちながら、次は肩の柔軟をする。
「ん~~~~~っはぁ…やっぱりだ」
同様に、予想してたものより痛みは感じなかった。
検証も兼ねて一番致命傷な両手を、利き手でもう片方の手を思いっきり叩くと
「ふんっ!───っ痛ぅぅ…」
普通に痛かった
「くっ…そうりゃそうだよな……」
割と本当に馬鹿なのかもしれない。
そう思いながら、両方の手を下ろして痛みに耐える
「けどあの時ぐらいでは無いな」
怪我した直後と前回の大怪我で目が覚めた時の痛みを思い出す。ヒストリアの小柄な身体から繰り出されるタックルは今でもトラウマものだ
だけど今回それに似たことをしてもそれほどの痛みを感じなかったし…痛覚が鈍くなったのか?
念の為綺麗に巻かれた包帯を泣く泣く解き、手足の様子を確認する
「────は?」
傷はなく、跡だけが残っていてほとんど治っていた。
その事実に焦りが込み上がる
今までの回復ペースだったら10日は経過するはず、もしそうであればウドガルド城で起きた出来事も諸々全てスキップしたことになる。
「早く現状を知らないと…」
ベッドから降り、地面に足をつけて体重を支える。
視界がかなり変な感じだが言ってる場合じゃない。まずはこの部屋がなんの建物の部屋なのか知らなければならない
歪む視界で歩みながらドアノブに手をかけて回す。
だけど上手く回らずむしろ回されてしまい、ドアノブに押され為す術なく後ろに尻もちをつく
「ん?何か押しちゃ─────」
「ってぇな…こんな夜中に誰だよ……」
強く衝突したお尻をさすりながら、ドアを開けた人物の足が目の前にあることに気づく。
未だに鳴り止まない頭痛と焦りでイラつきを隠せず、悪態をつきながら目前の人物の容姿を足から順に上へと見上げる。
簡易的な靴と、膝から下を晒してベージュのワンピースを着ている、橙色の髪色。ペトラさんだった
「…なんだペトラさ「よかった…!」ボフッ」
手元にあった火のついた蝋燭を地面に置き、胸に抱き寄せられ視界がベージュ色でいっぱいになる。
「本当によかった…本当に…」
かなり心配をかけたらしい。その証拠として、締め付けてくる腕の力が強くなっていい加減苦しい
「あの………そろそろ苦しいので離してもらえませんか…?」
「あ、ご、ごめん…感極まってつい…けど、目が覚めてよかったよ」
すぐに離してくれて、首に開放感を感じる。
「ふぅ……あ、ペトラさん…俺ってどんだけ寝てました?」
「丸二日だよ…ほんとに心配したんだから」
「────ふ、二日?!」
「わっ!きゅ、急にどうしたの?!」
二日で傷が癒えたのか?あれほどの傷を?
自分でも治りが早いって自認してるけど今回のは流石におかしい。これじゃまるで巨人だ。
だがこれは好都合だ
もし今回のが継続して行われるとしたら無茶できる幅も広がる、理想を叶えるにはもってこいの体だ。
「…セラス?急に笑い出してどうしたの?やっぱりまだ休んでた方がいいんじゃない?」
彼女の指摘に無意識に口角を上げていたことに気づき、急いで下げる
「…いや、あまり時間が経ってなくて安心しただけですよ。そんなことよりリヴァイ兵長ってまだ起きてたりします?」
「兵長?多分まだ公務中だから起きてると思うけど…」
「聞きたいことがありまして、どこに居るんですか?」
こちらの疑問の声に、濁った目でじっと見つめてくる
「同じ建物にいるけど………治りきってないのにまた無茶するの?も、もう少し寝ててもいいんじゃない?」
異様に休みを勧めてくるペトラさん、そこまで心配するものだろうか
「大丈夫ですって、昔から治りは早い方ですから」
「……わかったわよ…だけど私も案内がてら同伴するからね?」
「助かります」
「……うん………」
案内されながら、2人で真夜中の廊下を歩く。
床には窓型の月明かりが投射されていて、それ程暗くはなかった
ふと視界に入ったペトラさんの服装に、今更ながら違和感を感じて
「ペトラさんって私服でワンピース着るんですね」
「あぁ…これね、普段は着ないんだけど今はこんな体だから…着脱衣しやすい服を選んだらこれしかなくて、ね」
そう言って自分の措置された片腕を見ながら、ペトラさんは苦笑いをして頬をかく仕草をする。
良い方法はなかったのだろうか
もっと平和的で、誰も傷つかない方法は、なかったのだろうか。
もしあったとして、それを実現出来たらこの人はこんな顔をせずに済んだのかもしれないのに
「…もう、そんなに自分を責めないで?命があるだけでも十分貰っちゃったのに……」
何も言えずにいると、励ますようにこちらに微笑みかけてくるペトラさん。
どうやら物の見事に看破されてたらしい、その上でこの返答は、本当に優しい人だ。
「…ありがとうございます、心労かけてすいません」
「謝らないで、先輩なんだから。恩返しもしたいんだから、もっと甘えてくれていいのよ?ほら」
そう言って腕を広げてこちらに向けてくるペトラさん
これは反応に困る……あ、そういえば
「ははは…そ、そういえば言い忘れてましたけど、その服すごく似合ってますよ」
「え?きゅ、急だなぁ…だけどお世辞がすぎるよ…?」
女性は服を褒められると気分が良くなると聞いた事あるのだが……何故か目を逸らして体ごとそっぽを向かれてしまった。
まぁ話を逸らせたからいいとしよう
いや…けど別に言ったことも嘘では無いし……一応理由込みで訂正しておくか
「お世辞じゃないですよ。ペトラさん美人なんですから、着こなせてて本当に似合ってます」
「びっ…!」
さらに顔を紅潮させ、固まってしまった。
「はぁ…あまり年上をからかわない事ね。嬉しく無いわけじゃないけど、突然言われると心臓に悪いのよ…」
「本当のことしか言ってないんですけどね」
「な、尚悪いわよ!」
何故怒っているのだろうか
こんなことなら生前の母さんに女心を聞くべきだったか
顎に手を当てて唸っていると、隣からか細い声で疑問を投げかけてくる
「………他の子にもこんなこと言ってるの?」
「いや?自分からは滅多に言いませんね。なんでその質問を?」
「へ?いや、別に…ただの、興味本位。ほ、ほらもう着いたわよ、ここが兵長がいる部屋ね」
目の前にあるドアを指さし、すぐ閉じて第2関節を用いてノックをする
コンコンコン
「入れ」
ドアの奥からでもわかる冷たい声
開くと、部屋の奥から顔を書類に向けたまま此方を覗いて来る鋭い眼光と目が合う
「……随分と早い目覚めじゃねぇかクソガキ、何の用だ」
手元にある資料から完全に意識を離し、こちらに集中するように目線を向けてくる
「えぇ兵長、セラスが先程起きまして、聞きたいことがあるらしいので連れてきました」
「……ペトラ、お前は席を外せ」
「…?わかりました。セラス、道は覚えてるよね?もし何かあったら医務室の隣の部屋にいるから呼んでね」
そう言って後ろのドアから退出し、兵長と2人きりとなる。
何も感じなかった部屋は、既にピリついた空間へと早変わりしていた。
「丁度いい…オレからも言いたいことがあったんだ、この際聞いておくことにしよう」
「き、聞きたいこと、ですか?」
「それは後だ、まずはテメェの要件を言え」
荒々しい口調のまま客用の長いソファに促され、流れのままに座り込む。
その後に兵長も対面のソファに座り、ティーカップを目の前の机の上に音を立てずに置いてこちらを見る。
「……何緊張してやがんだ。これまでざらにあっただろ」
ならまずこの尋問じみた雰囲気をどうにかしてください
感想評価よろです
閑話何読みたい?
-
ライナーとの兵士ごっこ
-
ヒストリアとの馬術訓練
-
アルミンのシャウト事件
-
アニとのハンカチ
-
アニとの対人格闘訓練
-
外伝Wall sina goodbye
-
ジャンとコニーとのガス吹き訓練
-
サシャとの狩猟体験
-
ユミルとの秘密の取引
-
リコイアンミタビの奢り飯
-
リヴァイとの掃除道具発明日記
-
主人公の周りからの評価+α