こんだけのガスであんな動き出来るわけないだろ! 作:山崎春のご飯まつり
Side out
マントと仮面を詰めたリュックを背負い、その上から別の色のマントを羽織る。立体機動装置は布で隠した。
逃走は成功したが、今回は憲兵の数も練度も高く、振り切るのに時間がかかった。足への負担も大きい。
その後はいつも通り屋台でパンや果物を買い、町外れの施設へ運ぶ。子供たちに渡してから離れる。それが習慣になっている。
きっかけは訓練兵時代だった。
内地を歩いていた際、路地裏で言い争いの声を聞いた。覗くと、緑の一角獣の紋章を背負った憲兵が子供を蹴っていた。
制止しようとした直後、衝突になった。気づいたときには憲兵は倒れ、自分の手も裂けていた。相手の顔面はギリギリ原形を留めていなかった。
子供は怯えていたが、持っていたリンゴを渡すと落ち着いてくれた。
その後、施設の存在と現状を身をもって再認識した。
憲兵の腐敗は理解していたつもりだったが、実態はそれ以上だった。子供たちが搾取される構図を見て、王政への疑念を抱いた。
だけどあと数ヶ月の辛抱だ。
ヒストリアが王になり、腐敗した上層部は牢屋送りになって憲兵団は一新する。あの子達はもう少しで救われる。
確か…王位継承したら孤児の施設を作っていたはず。将来的な施設の場所は分からないけど、優先的に保護されるよう頼もう。
希望を与えたからには少しはいい思いをさせてあげたい。
悪いヒストリア、仕事増やしちまう
◆◆◆◆◆
飯を買ったり、施設で時間を潰しているうちに、気づけば太陽も徐々に傾いてきた。
このあとには女型の捕獲作戦も控えているし、そろそろアルミンたちと合流する頃合いだろう。
ちなみに、俺が先行して門番を通過できたのは、最初に話したあの人のおかげだったりする。
どうやら区内ではかなりの地位にいる人物らしく、無期限の通行証まで発行してくれた。
その人いわく「ストヘス区の憲兵は特に腐ってる。だからこれを見せておけば、大体は文句を言わずに通してくれる」らしい
実際、さっきそれを使ってみたらすんなり通れた。つまりはそういうことなんだろう
アルミンたちとの合流は、ちょうどエレン(ジャンが身代わり)を乗せた馬車がストヘス区を通過する少し前のタイミングだ
聞いた話によれば、路地裏で行商人のフリをして潜んでいるらしい。
ちなみに作戦の内容はこうだ。
エレンに変装した馬を王都招集の馬車に乗せて憲兵を欺き、その間にエレンを逃がすという口実でアニを地下通路まで誘導して貰うように引き込み、あわよくばその場で捕獲をする。
ただし、この作戦には失敗の可能性が大いにある。
ひとつは、原作通りアニが誘導を拒み、その場で戦闘に突入するパターン。
もうひとつは、馬がエレンでないことがバレてしまうパターンだ。
作戦の詳細を聞いたとき、アルミンもそのあたりは想定済みのようだった。
おそらく、最初から戦闘に移行することまで考慮した手は打ってある。
相変わらず切れ者だなと、改めて実感した。
まぁ確かに、ミカサの言うように、最近のアルミンは少し様子がおかしい。けどそれは恐らく作戦の重圧を感じたのだろう。
でなければ、「ここからは僕に任せてほしい」なんて言葉をこちらに掛けてくるなんて彼の口からは考えられない。
責任感と自己肯定感が増した証拠だと信じたい
◆◆◆◆◆
皮が剥がれた拳を包帯で巻いて、さっき買った黒の手袋を上からはめる。グーパーすると若干の圧迫がむず痒さを発生させるが気にしないようにする。
何せ最近心配されることが多いからな…隠せる傷は極力隠すようにしておくつもりだ。心配する側もされる側も心労掛けなくて済むし、一石二鳥の完璧な策だな
そして諸々の準備が出来、指定された路地裏近くに着く
「確かここら辺にアルミン達が居るはずなんだが……どこに「こっちだよセラス」ん?」
茶色のフードを深く被った小柄な人が路地裏からひょっこり顔を出す。
「……アルミンか?」
「そうだよ、ほら」
そう言って深く被ったフードを少し後ろに持っていき、直毛な金髪と青い瞳を顕にする。
「欲を言えば声で確信までいって欲しかったけど…って、それは後にしよう。一先ずエレン達2人にも顔を合わせてから作戦の確認をしたい、早くこっちへ来てくれ」
こちらの手を引いて路地裏へ引き込もうとしてくる。その瞬間引っ張られる手に鋭い痛みを感じた
「…?どうしたんだい?」
「…いや、なんでもない。早く行こう」
「う、うん」
努めて平静を装い、路地裏へと入っていく
その奥には2人の人影──エレンとミカサだった。
エレンと目が合い、あちらからは歩み寄ってくる。
「セラス、お前の方は無事だったか?」
「うん、まぁ…特に何も無かったよ」
「んだよ歯切れが悪ぃな」
違和感を持つようにこちらを見てくるエレン。言えるわけが無いだろ憲兵共を殴りまくっただなんて
ミカサも何かに気づいたようで、エレンの後ろから出てきて話しかけてくる。
「ねぇセラス。その手袋はどうしたの?」
俺の手を指さして訝しげに聞いてくるないように内心ドキッとする。流石アルミン、山猫という例えは間違ってないらしい
「これは……そう、手汗予防だよ、グリップの部分が滑らないようにするための。如何せん汗っかきだから」
どうにか絞り出した早口の言い訳にミカサは目を細め、少し沈黙してから口を開く
「……そう。それなら疑ってごめん。私の中でセラスはそういうのに無頓着なイメージがあったから」
…遠回しにダサイとでも言いたいのだろうか。けど残念な語彙力持ちだから率直に言うはず、つまり無自覚ってわけか巫山戯んな。
─────
───
─
表道が騒がしくなって来た。
恐らくジャンが乗ってる馬車を憲兵が護衛してるからだろう、路地裏から少し顔を出したら憲兵が道の両脇に等間隔で立っているのが見えた。
アルミンはというと、俺たちのいるところより少し浅めのところでアニを待ち伏せている。
「ジャンの野郎…なんで俺の身代わりがあいつなんだっ…俺はあんな馬面じゃねぇぞ…!」
隣で頭を抱えながらエレンが嘆いている。仕方のない奴だ。少し慰めてやるとするか
「大丈夫だエレン。馬面かどうかは兎も角、喧嘩っていうのは同じレベルでしか起こらないんだ。ジャンが適任で間違いないよ」
「…お前それ」
「セラス、それ慰めになってない」
「え」
「喧嘩売ってんのか」って言いたそうに持ち前の悪人面でこっちを睨みつけてくる。けど不思議と暴力は振るってこないだろうという安心感があるのはエレンのいい所だ。
「あ…そういう事か………はは、うそうそ、冗談に決まってるジャン…」
「お前……悪気なしでそれってマジで言ってんのかよ…」
そう言って呆れたように冷や汗をかきながらこちらを見下ろすエレン。
全くもって緊張感のない会話、決戦が待ってるだなんて思いもしない雰囲気。
そんな緩んだ空気を締め付けるかように、冷たい平坦な声がローファーの足音と共に突然割り込んでくる
「はぁ…こんな時にも随分と愉快な連中だね、アンタら」
「っ……」
アルミンと共に、アニが半目のままこちらを見ながら近づいてくる。
それと同時に隣からエレンの息を呑む音が聞こえる。
こちらもアニに視線を移して目を合わせようにも、あちらは意地でも合わしてこない
いや、それはどうでもいいが、よく見れば化粧で隈を隠してるように見える。大丈夫だろうか
アニに近づいてそっとリンゴを差し出す。
「ちゃんと寝れてるか?リンゴ食うか?」
「……は?」
素っ頓狂な声を出して、今まで合わせてこなかったどんよりした空色の瞳と目が合う。
困惑してるように見えるが何か変なことでも言っただろうか
「い、いらないよ…そっちで勝手に食いな」
アニの方へ押し付けたリンゴが帰ってきた。
「そっかぁ…ムシャムシャ」
「…悪いね。生憎今は食欲がないんだよ」
なら仕方ないか
そんな会話を続けてると、アルミンが咳払いをして言い出す
「コホン!…みんな、時間は刻一刻と迫っている。そろそろ移動しよう」
「……あぁ」
「うん」
「あいよ」
「…そうだね」
◆◆◆◆◆
「案外…楽に抜けられたな。はっ、流石憲兵団様だ、日頃の仕事具合が窺えるぜ」
「キョロキョロしない」
皮肉交じりの言葉を吐き捨てながら周りを見渡すその仕草に、エレンはミカサに注意される。
「アンタらさ…もし私が協力しなかったら、どうやって壁を超えるつもりだったの?」
「立体機動で突破するつもりだったよ」
アニの疑問にアルミンが答える。
その回答にアニは少し間を置き、再び疑問を問う
「……無茶すぎない?そもそもストヘス区に入る前に逃げてればこんな面倒も掛けなくて済んだはずでしょ。……………なんで今なの?」
「ここの入り組んだ街の地形を利用しなければ替え玉作戦は成功しないと思ったからさ。真っ向から逃げるよりある程度従順に振舞って警戒心を解いてからの方が逃走の時間を稼げるからね」
アルミンにしては珍しく、よく回る口だなと思った。涼しいのに首筋の2.3滴の汗から察するに、緊張だったりの動揺を誤魔化すためのカモフラージュだろうか。
だが一方アニは既に銀の指輪を人差し指に嵌めていて、十分警戒はされていた。
横目でアルミンの方を見て、アニは言う
「……………そう。納得したよ」
それを最後に話は区切られ、不自然な程に静かな街路を歩いていく。
「あっ、あそこだ」
気づいたようにアルミンは纏まりから離れ、1人先行してある入口の前に向かう。それに合わせるように俺達もアルミンに続く
「……ここ?」
地下に続く先の見えない階段を見下ろしながら、アニは問う。それにアルミンが呼応する
「うん、ここを通る。昔計画されてた地下都市の廃墟が残っているんだ」
概要を話しながら、アルミンは階段を下っていく。
「ここ通ればちゃんと、外扉の近くまで続いているはずだよ」
「本当か?すげぇな……アニ?」
冷や汗をかきながら思ってもない感嘆文を連ねるエレン。
だが後ろから足音が聞こえなかったのか振り向くと、未だ階段を一段も降りてないアニがいた。
「なんだお前…まさか暗くて狭い所が怖いとか言うなよ?」
エレンは悪態をつくような顔つきでアニを見上げる。だが顔の周りは既に滝のような汗がかいていた。
「……そうさ………怖いんだ」
眉を下げ、思い悩むようにアニは言う。
「アンタみたい勇敢な死に急ぎ野郎には……きっとか弱い乙女の気持ちなんて、分からないだろうさ」
顔に感情が籠ってない。まるで真意を隠してるかのように、真顔で、声だけに迫力を感じた。
「……お、大男を空中で一回転させるような乙女はか弱くねぇよ。バカ言ってねぇで急ぐぞ」
その発言に動揺しながらも身を翻して階段を降りてくエレン。しかしその顔には依然として多くの汗が伝っていた。
「いいや……私は行かない」
「っ…」
「そっちは怖い…地上を行かないんなら、協力しない」
全員が静止する
風の音と、それによって靡くアニの髪が、緊迫した雰囲気を表してる
エレンはその場に立ち尽くし、目を震わせていた。
瞬間、エレンは振り返りアニの方を見上げて声を張り上げる
「…何言ってんだてめぇは!さっさとこっちに来いよ!巫山戯てんじゃねぇ!」
「エレン叫ばないで「大丈夫でしょ?ミカサ」…ん?」
「さっきからこの辺には、何故か…全く人が居ないから」
その反応に状況を確信したのか、見定めるようにこちらを半目で見て続ける
「ったく、一体いつからアンタは私をそんな目で見るようになったの?アルミン」
アルミンの方を向いてから、次にこちらにも目を合わせる
「…セラス、アンタもだよ。私への当てつけ…?逆になんでアンタは、まだその目なんだい…」
震えた声で、そう問いかけてくる
瞳も揺れて、明らかな動揺を顕にする
隣でアルミンが、目を見開きながら口を開く
「アニ……なんで、マルコの立体機動装置を持っていたの?」
「……は?」
その問いかけに、意味を見いだせず双方を何度も見るエレン。だがその反応は、まるで分かりたくないような、我儘とも取れた。
「僅かな傷や凹みだって…一緒に整備した思い出だから、僕にはわかった」
「………そう」
か細い声で頷き、明後日の方向を見ながら続ける
「……あれは……拾ったの」
「っ……じゃあ…生け捕りにした2体の巨人は、アニが殺したの?」
「………さぁね。でも1ヶ月前にそう思っていたんなら、なんでその時に行動しなかったの?」
「まだ信じられないよっ…第一、君と仲の良かった彼を、あんな姿にまでさせたなんて、きっと別の誰かなんじゃないかって……」
こちらを横見してから、再び見上げて口を開く。
「…でもっ…アニだって、あの時僕を殺さなかったから…今、こんなことになっているんじゃないかっ!」
風が吹き荒れ、街路に生える木から落ちる葉っぱが掠れる音が聞こえる。
それを背景にした彼女は、眉を顰めながら、重く閉ざした唇をゆっくり開ける
「──あぁ、心底そう思うよ。まさかあんたに、ここまで追い詰められるなんてね」
明後日を見ていたその目は、徐々に俺のいる方へと移動し、目が合う。
遅れて顔もこちらに向いてくる。
「ほんとにアンタは、つくづく私の中から離れないんだね…」
その意味深な言葉に、アニの真意が分からなかった。
アルミンの生死には、まるで俺が関わっていたかのような物言いに。
思考を巡らしてると、隣のエレンの怒号が耳に響いた
「おいアニ!…お前が間の悪いバカで、クソつまらない冗談で、適当に話を合わせてる可能性が、まだ、あるからっ!とにかくこっちに来い!!」
弁論者のようにガサツに手を広げてアニの方へ向けながら、一歩階段を上がって近づく
「この地下に入るだけで!証明出来ることがあるんだ!こっちに来て証明しろ!」
「そっちには、行けない。………私は、戦士になり損ねた」
「だからっ!つまんねぇって言ってるだろうが!!」
「話してよアニっ!僕たちはまだ、話し合うことがっ「もういい」み、ミカサ!」
「これ以上聞いていられない」
ミカサの低く、冷たい声が地下に続く階段に響く。
身分を隠すためのマントを放り捨て、身につけている立体機動装置から金属音と共にブレードを取り出す。
「不毛……もう一度ズタズタにそいでやるっ…女型の巨人!」
再び訪れる静寂、ミカサの鋭い眼光と刃がアニを捉える。
「アハハッ♡」
頬を紅潮させ、酔っ払ってるかのように面妖な笑みを浮かべた少女が視界に写った。
酷く笑いこけているせいか、額は隠されるほど前髪が崩れていた。
だけどそれ以上に、その泥に塗れた顔に目離せなかった。
「フフフッ♡」
────その何もかも投げ捨てたかのような笑みが
「アハッハッハッ!」
────その自暴自棄になったような笑みが
「ハハハハッハッハッ!」
────到底受け入れられなくて
「アハハハハッ!」
────堪らなく、気持ち悪かった
Side アルミン
「その顔はやめてくれ───アニ」
突然、深く胸の芯まで響く重低音
今の今まで何も発しなかった彼が、ようやく声を出した。けど、普段のペースを乱すような彼ではなかった。
「そんな笑み……お前には似合わない」
一言一言が、今まで話してて感じたことがないものだった。
「…………フフッ、本当に酷い男だね。アンタは」
一瞬だけ、恍惚としたアニの顔に迷いが見えた。
気にしていた事が、見抜かれたかのように。
だが彼が次に口にした言葉に、アニは言葉を失った。
「なんで、そんなになるまで自分を殺すんだ」
「…っ………」
アニの発していた高笑いがピタッと止まる。
目を見開き、その様子は明らかにたじろいでいた。
だけどその二人に付け入る隙は見当たらなかった。
「セラス!あまりアニを刺激しちゃ「セラス」っ!」
「本当に…そうやって人の気も知らずにズケズケと…アンタのそういう所がずっと……」
「……ずっと……大っ嫌いだった、よ…」
大粒の涙を零しながら、そう告げる。
そして口を開け、噛み付くように手と顎を同時に動かす
(まずいっ!あれは!)
「っ!」
ボォォンッ!!!
持っている合図用の煙弾を外に向けて打ち、アニの全方位から庶民に扮した調査兵たちが拘束をし始める。
舌を噛まないように口に布を入れられ、四肢も拘束された。
(よし、これなら!)
「っ!ミカサお前は「わかってる!」」
後ろから大声と共に引っ張られる感覚に陥る。引っ張っているのは…セラスっ?!
「セラスっ!?」
「悪いが受け身の準備だ」
深い階段から飛び降りる浮遊感を感じながら、前方から莫大な熱と光を感じる。
直後、雷の音が轟き、入口付近の木板や石が崩れる。
襟を引っ張られながら、僕は突然の眩い光の中で構成されていく巨人の一瞬を目に焼き付けることしかできなかった。
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