こんだけのガスであんな動き出来るわけないだろ!   作:山崎春のご飯まつり

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31、

 

 

俺達4人は降りたすぐ横の通路に入り、何とか瓦礫から難を逃れた。

 

 

「はぁ…はぁ…どうして巨人化を…もしかして、あの状態で舌を?」

 

「違う。刃の付いた指輪をつけてた。それで自傷を────くっ!」

 

 

アルミンの疑問にミカサが返答する

だがその途中、隣の階段から巨大な手が差し込まれ、破壊される音とともに瓦礫の粉塵が舞い散る。

 

その手から離れるように通路の奥まで走る。あちらも手応えがないとわかったのか、続けてこちら側まで手を伸ばしてくる。

 

走りながら、アルミンは言う

 

 

「クソっ…あの指輪。やっぱり僕のウソは最初から気づかれていたんだ。待ち伏せがバレバレだった、もっとやり方がほかにあったはずだっ…」

 

「いや違う、アルミンは悪くない。最後の最後で俺の我儘を通した結果だ。俺が悪い」

 

「そんなことない!君の説得は同期として当たり前のことだ、もとより僕が周りを見ていれば…」

 

 

次々と俺とアルミンの責任の綱引きに、ミカサが制止をかけてきた

 

 

「アルミン、それにセラスも。反省は後にして。そして教えてアルミン、私たちはこれからどうすればいい?」

 

 

そうミカサに言われると、自責の念に駆られながらも、アルミンは思考を巡らすように斜め下を向いてから話す。

 

 

「とりあえず…うん、3班と合流して地上に出てあとは2次作戦の通りにアニと……女型の巨人と戦う」

 

 

エレンに目を合わせて続きを言う

 

 

「エレンは予定通り、巨人になって捕獲に協力してもらう」

 

「っ…」

 

「いいよね?」

 

「……あぁ」

 

 

 

 

「おーい!」

 

 

通路の前方──スポットライトのように上から光が差し込まれてる場所から、こちらに手を振りながら呼びかける2人の調査兵が見えた。

例の3班だろうか

 

 

「あれが3班の人達か?」

 

「うん、近くにいる班だからそのはずだ」

 

 

距離が近づいていくと、あちらから問いかけられる

 

 

「一次捕獲は失敗したのか?」

 

「失敗しました!次の作戦に「上だ!」なっ!」

 

 

太陽の光が注がれる穴に注視すると、そこから少し見えた陰りに咄嗟に口に出す。

 

「くそっ!」「おまっ!」

 

 

だがこちらの注意もあちらの行動も一言一足遅れ、その地点に巨大な足が瓦礫ごと物凄い速度で落ちてきた。

 

 

「───ちっ!…反応できねぇっ…」

 

 

巨大かつ素早い足によって、押しのけられた空気が粉塵と共に強風として舞う。それと同時に目と鼻に入らないよう手首で覆ったり目を瞑る。

 

風が止み、近くを舞う粉塵も消えた頃に目を開けて現状を再認識する。

 

 

「なっ!踏み抜いた?!」

 

アルミンがその巨人の足を見て第一声に言う。

 

巨大な足は徐に通路から外へと上がっていき、瓦礫から等身大の足が一部飛び出ている光景のみが残る。

 

 

「ハッ…助けないと!」

 

「エレン下がって!」

 

 

それにいち早く気づいたエレンが、外に晒される場所へと移動するのを襟を掴んで止めるミカサ

 

 

「ちょっ……おいミカサ!」

 

「女型のヤツ…エレンは死んでもいいっていうの?」

 

 

アニの目的がエレンなのにも関わらず、エレンを殺す可能性があるような行動の矛盾性に疑問を抱く

 

 

「いや、アニは賭けたんだ」

 

 

次はアルミンがその疑問に答える

 

 

「エレンが死なないことに賭けて穴を空けた。めちゃくちゃだけど、こうなったら手ごわい…!」

 

「同感だ。余程焦ってるのがよくわかる」

 

 

アルミンもそれを聞きながら瓦礫の傍から遠ざかるように走り始める。

 

 

瓦礫の方に顔を向ける

印象として残るのは先程押しつぶされたと思われる2人の調査兵。直前の咄嗟の声と、反発するような動きが特に

 

だが外にはアニがいる

態々リスクを犯してまでするべきかどうか……

 

────よし

 

 

 

 

 

「…アルミン、待ってくれ」

 

「ど、どうしたんだいっ!」

 

「さっきの踏み壊し、直前に1人反応してたのが見えた。ここで一斉に固まるのも全滅のリスクがある。危険は承知の上で安否の確認をしに行きたい」

 

 

戦力はあった方がいいに決まってる。ただでさえ調査兵の母数が少ないんだ、イレギュラーが発生した時の対処ができなくなる。王政編までの保険として兵数は多いことに越したことはない

 

 

「ほ、本当か!なら早く「そっちこそ待って」んだよミカサ!まだ助けられるかもしれねぇだろ!」

 

 

その情報に、先程助けようとしてミカサに止められたエレンが食いつくが、次はこちらごとミカサに止められた。

 

 

「…エレンも落ち着いて。まずこの作戦は女型の捕獲以前に、エレンの生存が最優先事項。それに、あなたも貴重な戦力としての自覚を持って欲しい」

 

 

冷静かつ端的に本作戦の趣旨と最低事項、そして客観的な事物を述べるミカサ

 

 

この作戦における最悪はエレンの死亡もしくは強奪だ。恐らくはそれを危惧してのことだろうと言える

しかしそれはあくまで脅威の討伐が可能な場合に限る手段だ。

 

 

「わかってるよ、だけど集中させた戦力を一発で全滅させる力をアニは持っている。なら戦力を分散させるのも手だと思う」

 

 

そう言うとミカサは目を細めながら言う

 

 

「…確かに」

 

「うん。理にかなっている、けど………いや、止めても君は行くんだろうね……さっきのアニの言動からも分かる通り、君もアニ個人に警戒されてるのは承知のはずだ。行くからには細心の注意を払ってくれっ!」

 

「…悪い」

 

 

その一言を最後に俺達はそこから二方向に離れるように走っていった。

 

 

 

 

 

 

───

 

 

 

少し時間を置き、後に角度少し浅めに地上への大穴を覗く。

視覚と聴覚ではアニの存在はすぐ近くにはいないと訴えているが、戦闘音や瓦礫の崩れる音は依然として発生してるため助けるなら今のうちだ

 

 

「生きてたら返事を「ここだ!」そっちか」

 

 

瓦礫の前で低めのトーンで声をかける。そしたら返答が反対方向から聞こえた。

 

すぐさま移動すると、右足が瓦礫の下敷きになっている兵士が確認できた

 

「いた。状態は?」

 

「助かった…あぁ、見ての通り右足以外は所々瓦礫のとばっちりを食らったぐらいだ。だが瓦礫のせいで身動きが取れなかっ──くっ!」

 

 

突然暴風が吹き荒れる。どうやら近くでまたアニが通路を踏み抜いたらしい、ここに無事で居られるのも時間の問題だろう

 

 

「念の為聞いておきますが、相方は?」

 

「……俺を押して直に食らったよ、そのおかげで現に片足だけで済んでいる。…馬鹿野郎が」

 

「…そうですか」

 

 

それを聞きながら淡々と瓦礫動かし始め、瓦礫間に空間を作り出す

 

 

「これで抜け出せそうですか?」

 

「っ、あぁいけそうだ。よっ…と!」

 

 

下敷きになってない方の足で瓦礫を蹴り、その反作用で体ごと右足を瓦礫から抜け出す。

 

 

「自力で立てますか?」

 

「…っ…いや、無理そうだ。申し訳ないが肩を貸してくれないか」

 

「まずその前に一先ず応急措置を」

 

 

天井からの光が照らされない位置まで移動し、下敷きになった足を触診する。

素人の俺でもわかる…骨折してるなこれ

 

近くを見渡すと、瓦礫の中から丁度いいサイズの太い枝が見えた。

しめしめと思いながら当て木としてその兵士の足に押し当て、ポッケの中から包帯を取り出して骨が曲がらないようにする

 

 

「随分と手馴れているな」

 

「…………同期にそういう措置が得意な人が居たので教えて貰ったんですよ」

 

「そうだったのか」

 

 

ちなみに何度も骨折してるから半ば強制的に教え込まれたのが事実だ。小柄タックルだけでなく他にもグイグイ来るのは成長の証と言うべきか

 

そんなことを考えてるうちに措置が終わった

 

 

「完了です。後列の班は?そちらまで送ります」

 

「助かる。オレのことはいいから雑でもいい、とにかく早く運んでもらって構わない。あっちだ!」

 

「了解です。しっかり捕まっててください」

 

 

そう言って、指を指す方向へ調査兵に肩を貸しながら走って進んでいく

 

 

 

 

───

 

 

 

 

引渡しが終わり、今はあの3人に合流するために来た道を戻っている

 

 

あの後も運がいいことに何もなく後続の班に会うことができた。

去り際に調査兵からブレードを1セット貰ったのはありがたかった、これで投擲武器が増えたも同然だ

 

 

 

「ううっ!またかよっ…!こんな時に…クソッ…!イッテェェ!

 

 

突然エレンの嗚咽混じりの声が地下通路に響く

あっちで何か起きたのか?

 

角を曲がったら、先程アニが踏んで残った瓦礫の奥に3人がいた。所々穴の空いた天井に警戒しながら近づいていく

 

 

 

「ただいま。状況は?」

 

「もう一度───ってセラス、もう戻ったのかい!そっちは無事だった?」

 

 

何かを話していた最中だったらしく、こちらに気づいて中断させてしまったようだ

見た感じ相当切羽詰まった雰囲気がしている

 

 

「運よく、だけどね。さっきの兵士も後列の班に渡してきたから多分大丈夫」

 

「そ、そりゃよかった…っつぅ…」

 

 

エレンは今も尚変わらず出血し、手の痛みに耐えるように抑えながら小さくうずくまっている

 

自傷しても変化が見えない──つまり迷いが生まれている証拠だ、十中八九アニの件に違いない。

なら考えられる原因はただ1つ

 

 

「…目的の不明瞭、か」

 

「…うん、僕もそうなんじゃないかと睨んでいる」

 

 

同意するようにアルミンも頭を縦に振る

すると隣にいたミカサはエレンの頭の高さまで屈み、覗き込むようにして言う

 

 

「まさか…この期に及んで、アニが女型の巨人なのは気のせいかもしれないなんて思ってるの?」

 

「あなたはさっき、目の前で何を見たの?」

 

「仲間を殺したのはあの女でしょ?まだ違うと思うの?」

 

 

「…う、うるせぇな!オレはやってるだろ!!はむっ!うぅっう!!

 

 

受けた言葉を自身の中で掻き消すように、半ばやけくその勢いで何度も噛み跡が残っている箇所を執拗に噛み続け、嗚咽を出しながら口元と地面を血で濡らす

 

 

「わかってるんでしょ」

 

「女型の巨人が」

 

アニだってことを」

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 

息が荒くなっていく

 

 

「じゃあ、戦わなくちゃダメでしょ」

 

「それとも…」

 

「何か、特別な感情が妨げになってるの?」

 

 

「はぁ…はぁ…は、はぁ?」

 

 

 

徐々にそのギラギラとした真っ黒な瞳が、エレンへと顔を近づけていく。

まるで獲物を見極める肉食獣かのように

 

 

こうなったのは良くも悪くも、仲間を信じすぎているエレンの根幹に起因している。リヴァイ班の件だったり、今回のアニの件もそうだ。

 

外部から何かを言った所で流されるような弱い奴じゃない。それがエレンの強みであり、弱みであるんだから

 

 

 

 

 

 

ガギィィィィンッ

 

静寂な雰囲気を打破するように突然の金属同士の摩擦音が聞こえる。アルミンが鞘からブレードを抜いた音らしい、

 

 

「ある作戦を考えた!僕とミカサ、そしてセラスがあの穴と元の入口から同時に出る。そうすればアニはどちらかに対応するはずだ。その内にエレンはアニの居ない方から逃げて」

 

 

持っているブレードの先端を双方向にある瓦礫の方へと向けて言いながら走り出す

 

 

「待てよ!それじゃあ誰かが死んじまうだろうが!」

 

「ここにいたって、さっきセラスが言った通りいずれ全滅して終わりだ!ミカサ、セラス!位置について!」

 

「分かった。私は前」

 

「ぁ…」

 

「じゃあ俺はアルミンの方につく」

 

「うん、ありがとう」

 

 

準備が終わり一斉にエレンから離れて外に向かって走り出す。その様子をエレンはただ膝をついて見ているだけだった

 

 

 

「ミカサ!アルミン!セラス!」

 

……なんで?

 

「なんでお前らは戦えるんだよ!」

 

「なんで!」

 

 

 

「仕方ないでしょ」

 

 

 

 

「世界は、残酷なんだから」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「…ねぇ、セラス」

 

「どうした」

 

 

隣で並走するアルミンが話しかけてくる

 

 

「アニは…苦しんでいるのかな」

 

「…さぁね」

 

「さぁねって…君が言い出したことじゃないか」

 

 

仲間を思うような目で見つめてくる

 

 

「あれは…ただの推測だよ。アニとこれまで接してきた経験の末、出た結論に過ぎない」

 

「…じゃあ、何が君をそういう結論に辿り着かせたの」

 

 

発する言葉に、重みを感じる

 

 

「アニは、優しいよ。十分わかると思うけど」

 

「……うん」

 

「けど、それすらも抑える程の何かを、アニは抱えていたんだ」

 

「……………」

 

「そして俺はそれを目の前で蔑ろにして、空回りした末に、嫌われた。真っ向からアニの意志を否定したんだ。嫌われて当然だ」

 

 

自然と言葉を紡いでいた

 

 

「だけど、嫌だった。アニが、あんな顔になるのは。絶対に止めたかった」

 

「…………セラス」

 

 

 

そう考えると、本当に自分勝手だなと思った

 

ヒストリアを救えた気になって

あの顔をまた見たいから、自分の為に、アニを傷つけた。

アニの抱えていることを優先せずに、ただ自分の欲の為に、アニに吹っ切れさせる最低な機会を与えてしまった。本当のクズ野郎だ

 

 

「ははっ…俺にはやっぱり、人を救うなんて…でき「それ以上は僕が許さないよ」ア、アルミン?」

 

 

アルミンからは到底考えられない程重い声が聞こえてくる

 

 

「セラス。君は、僕を救ってくれたんだ

 

 

立ち止まってこちらを真っ直ぐ見る

 

 

「自身に劣等感を抱いてたあの頃に…君が、対等な友人として接してくれたから…僕は今、エレンとミカサに引け目を感じなくなった。君のお陰なんだ

 

 

両手でこちらの手を握ってくる

 

 

「だから…そんな君を、君が、諦めないでくれ。君に救われた1人として、君の苦しむ顔を、僕は見たくないよ」

 

「…アルミン」

 

「それにアニは…僕らといるより、君と話していた時の方が、何倍も楽しく見えたよ」

 

 

「だから、きっと大丈夫」

そう微笑みながら、話しかけてくる

 

………本当に見てるな、思った以上に。

 

 

「行こうか、アルミン」

 

「っ!あぁ、行こうセラス!」

 

 

 

まずはアニに会って、謝ろう。

アニの持つ大義を、蔑ろにしたことを

 

彼女のやったことは消えない。人殺しもいけないことだ。沢山の人から「大切な人」を奪った、決して許されないことだ

 

 

その上で

正しい行いだけじゃ、大切な人は救えない

正論だけじゃ、大切な人の心までは救えない

必要なのは、理解した上で、同じ立場に立って、寄り添うことだと、わかったから

 

 

 

前方がだんだん、光に包まれていく。

通路に終わりが近づいていく

誓った覚悟に、逃げ道を作らせないかのように

 

 

 

「今度こそ」

 

 

 




次回
償い、久遠の愛

閑話何読みたい?

  • ライナーとの兵士ごっこ
  • ヒストリアとの馬術訓練
  • アルミンのシャウト事件
  • アニとのハンカチ
  • アニとの対人格闘訓練
  • 外伝Wall sina goodbye
  • ジャンとコニーとのガス吹き訓練
  • サシャとの狩猟体験
  • ユミルとの秘密の取引
  • リコイアンミタビの奢り飯
  • リヴァイとの掃除道具発明日記
  • 主人公の周りからの評価+α
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