こんだけのガスであんな動き出来るわけないだろ!   作:山崎春のご飯まつり

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32、

 

 

アルミンと共に外に出たのと同時に、俺達がさっきまでいた場所がアニによって潰される。

 

 

「エレンッ」

 

隣にいるアルミンが焦りながらそう声を出す。どうやらエレンのいる場所をピンポイントで当ててきたらしい。あそこにさっきまでいたと思うと流石にゾワッとする

 

 

「エレンの方に向かおう!」

 

「あぁ…」

 

 

アニの様子を横目に見ながらほぼ同時に双方からアニに姿を現す。

もう片方からはミカサが飛び出し、アニもそれに気づいて攻撃態勢に入った

 

 

「ハァァッア!」

 

ガスを噴射しアニ目掛けて刃を向けながら突進していくが、掌でキャッチされて勢いを止められてしまう

 

 

「ッチ!アニ!」

 

だがそれに劣るアッカーマンは居るはずもなく、回転斬りで指を切り刻んで緊急脱出をする

 

 

「あんたにエレンは!渡さない!」

 

 

 

そんな防戦一方な戦いをするミカサを傍らに、俺たちはエレンの方に向かっている

 

 

「エレン!」

 

 

石や木片等が散らかった瓦礫の中、口や頭から血を流しているエレンを見つけて近寄る

 

 

「今助け…っ!」

 

「…気を失ってるな」

 

「あぁ…とりあえず上に被さっている大岩を退かさなくちゃ!目を開けてくれ!」

 

 

協力して岩を退かしながら、意識を戻すよう声をかけ続けるアルミン。するとアニはそれに気づいたのか、ミカサを無視してこちらに駆け寄ってくる。

 

 

「…アニが近づいてくる」

 

 

 

ガシャーン!と、屋根の瓦が連続して壊れる音が聞こえた。後ろからは調査兵がアニに向かって走っていくのが見える。

 

 

「…っセラス!こっちのことは僕1人でいい!君はあっちの増援に向かってくれ!」

 

「…わかった。瓦礫の落下には気をつけろよ!」

 

「そっちもね!」

 

 

お互いの安否を願い、ガスを噴かしながらアニに向かっていく

 

 

 

 

 

 

 

 

「女型の巨人を逃すな!絶対ここから外には行かせん!」

 

 

調査兵が声を張りながらそう言う

それに対するアニは、先程ミカサに切断させられた指を治しながらこちらを見据え、ストライドを徐々に広げながら走ってくる。

 

 

 

「くそっ!このぉっあ"ぁ"ぁ"っ!!

 

1人、ワイヤーを引っ掛けられ、勢いよく屋根に激突して血飛沫を撒き散らす

 

 

「はぁぁぁ!っがへぁ"ぁ"あ"っ!

 

1人、タイミングをずらされて受身をする間もなく叩き落とされる

 

 

「よくもっ……っひ!やめ……ぼぉ"!」

 

1人、踵を狙おうとするも躱されそのまま踏み潰される

 

 

次々と無惨に散っていく命に、隊長兵が指示するように声を掛ける

 

 

「倒そうと思うな!足止めさえ出来ればそれでいい!」

 

 

 

 

しかしその声掛けも効果は極めて薄く、どんどん特攻していった調査兵が原型の留めない肉塊へと変わっていく。

 

 

それもそうだ

現に俺が肉塊にならずに済んでいるのも、全てはアニの癖を理解してるからできる動きだ。初見で避けれるのなんてアッカーマンか立体機動に富んだジャンぐらいだろう

 

 

「ッチ!」

 

振り抜かれる拳を避け、追撃の掴みもガス噴射で避けていく。お陰でガス残量が心もとない

 

四肢のうち片手をうなじに添えられたとしても、巨人でかつあの身体能力ではハンデにもならない。唯一の幸いはここに無垢の巨人が居ないぐらいだ

 

 

「このままじゃガスが…」

 

ここ最近であまり考えなくなった自身のガス調整の下手さが、ここにきてまるで細い生命線のように感じてくる

まだ数分しか経っていないのに既に半分しか残っていない。その事実が致命的な欠陥だと再認識させてくる。なぜこんなに下手なんだ

 

命と引き換えに考えると、十分得した取引だと思えるけど…流石にこのままじゃジリ貧だ。どうすれば……

 

 

「しかも俺以外全員見ずに捌いてんのかよ…」

 

 

そう。加えて先程の余波でミカサが戦闘を離脱している現状、目の前にいるアニは常に俺を視野に入れての蹂躙をしていた。

 

だから他の調査兵には必要最低限の動きで対処してるのに対し、俺には繋げ技で対応してくるからよりガスの消耗が激しくなってくる。一度の特攻で消費する量を考えると手数が減るのは必然だ。アニもそれを狙っているのだろう

 

相手の嫌がることをし続けた方が勝つ

アニはこれを熟知している。だから執拗なまでにこちらに追撃をしてくるし、この場で一番厄介なのは俺だと理解しているから常にこちらを監視してる。流石に頭がキレすぎる、ライナーとは大違いだ

 

「ゴリライナーだったら単純なのに…よっ!!」

 

 

ガスで勢いをつけてブレードを眼球目掛けて投げつける。しかし経験済みのせいで掌で軽々と防がれてしまった。

 

 

「簡単にはっ!終わらせない!!」

 

「ミカサ!」

 

 

突如、先程離脱したミカサが低空飛行のままアニのうなじ目掛けて突進していく。

そのまま行って戻っての2連撃でアニのアキレス腱を持っていき、転ばせた。

 

 

「セラス!目を!」

 

「っわかった!」

 

 

ミカサの合図とともに、転んで無防備なうちにアニの顔面に近づき両目を切り裂く

 

 

「はっ!!…っくそ!」

 

 

ガギィィンと、刃が折れる。

困惑と同時に、その原因もわかった

 

 

「局所的な硬質化は眼球も可能なのかよ…」

 

 

掴んでくる右手を、目の前にある巨大な眉間を蹴ってどうにか避ける。

離れるに連れて徐々に縮小される顔全体を見ると、今も尚眼球そのものがまるで義眼のように異質な結晶色に帯びていた。

 

 

「そうらしい。だけど長くは続かないはず、攻めるしかない」

 

 

着地した屋根に、いつの間にか隣からミカサが声をかけてくる。

 

 

「そのようだが…生憎ガスがもう少ししかない。今の俺はあくまで注意を引く位しか役に立てない」

 

「十分。アニはあなたを警戒してる、いずれ隙が生ま「アニ!!」っ、あれは…アルミン?」

 

 

さっきまで一緒に居たアルミンがいつの間にか大通りの真ん中でアニに向かい合っていた。何をする気だ?

 

 

「アニ!今度こそ僕を殺さなければ!」

 

 

「君のあの秘密をセラスに言いふらしてやるからな!!」

 

 

…………………は?

 

 

 

「うぅりゃーーっ!!!」

 

 

アルミンの意図の読めない一言に唖然としていると、意識外から裏返った雄叫びを上げてうなじに突進をする緑の何かが見えた。

ジャンだ、いつの間にか戻ってきたらしい。

 

ジャンはうなじに刃を立てるが、予想通り硬質化で防がれ、持っているブレードは粉々に破壊された。

 

 

「アルミンこっちだ!!」

 

だがその顔に焦りも驚愕もなく、あくまで予想通りと言わんばかりの流れるような動きだった。

そのままアルミンに声をかけ、アニとは逆方向にガスを噴かしていく

 

 

「了解!」

 

その呼び声にアルミンもアニの足元を潜り抜け立体機動で進んでいく

 

 

「私達も行こう。セラスも早く」

 

「え?あ、あぁ」

 

 

ミカサはなぜあそこまで平然としていられるのか俺には分からない。俺がおかしいのだろうか、それとも俺以外がおかしいのだろうか。俺には分からなかった。

 

 

 

 

───

 

 

 

 

 

 

あの後、作戦通りアニはジャンとアルミンの誘導の元、3次作戦のハンジさん特製の巨人捕獲用罠で一時的に拘束された。

目の前にはうなじを守りながらアミに引っかかっているアニの姿が見えた。

 

 

「大丈夫かアルミン?」

 

「セラス。うん、どうにかね」

 

罠が作動した際の煙が漂う中、アルミンの安否を確認する。どうやら無事らしい

 

 

「そっちはどうなんだ?あんだけ無茶しねぇって意気込んだ割にゃぁ、かなり疲れてるように見えるが?」

 

 

ジャンが隣から現れて揶揄してくる。

 

 

「無茶しないよう気張ってるから疲れてるんだよ。しかもそのせいかガスがもう残ってねぇ」

 

「んでお前はそんな意味わかんねぇぐらい消耗が早ぇんだよ」

 

「……努力はしてる。けど無理だった」

 

「セラスお前…そのガス欠癖ほんっっとどうにかしろよ?マジで冗談抜きでエレンより早死するからな?」

 

「ジャン、それにセラスも。今はそんな談笑してる場合じゃないよ。セラスも今のうちに早くガスを替えてきなよ」

 

 

間に入るようにアルミンが割り込んで現状を再認識させてくる。本当に申し訳ない

 

 

「ごめん、ジャンを見てたら気が緩んでた。行ってくる」

 

「てめぇ…人のせいにすんじゃ──っておいセラス!ったく…」

 

 

後ろの鳴き声を無視し、ガス補給のため屋根に登る。すると後ろからモブリットさんが話しかけて来た

 

 

「セラスか。ならここにある2本を使ってくれ」

 

 

そういうとバッグの中からガスボンベが2本出てきた。俺まだ何も言ってないんだが

 

 

「用意がいいと思っただろ?ジャンが念の為と余分に1つ用意したんだ、お前がきっとガス切れを起こすことを見越して、な。感謝するんだぞ?」

 

 

ジャン……俺アイツにどんだけ信用ないんだよ

いや…逆に信用されてるから用意されたのか、複雑だなこれ

 

 

「……有難く交換させて頂きます」

 

 

背に腹はかえられぬとはこういうことか…後で感謝しとこ

 

 

 

───

 

 

 

慣れた手つきでガスの補給が終わると同時に、次はハンジさんが入れ替わりで降りていった。

 

アニの眼球に近づき、物凄い形相で何かを言っている様子。

 

するとアニは豹変したかのように突然瞳孔を開き、もがくように暴れだして周囲の拘束機を蹴散らした。

それを避けるようにほとんどの兵が屋根に上がってその様子を見届ける。

 

「振りほどいた?!」

 

「チッ…流石に罠の数が足りなかったか…」

 

 

当然その後はアニを縛るものもなくなり、一部釘が肉に刺さったままアニは壁の方へと走って逃げていく

 

「逃がすな!追え!」

 

 

ボロボロになった装置を放っておき、その場にいる調査兵総員がアニに向かっていく。

 

 

アニはその追跡を解こうと、周囲の屋根を我々に向けて投げてくる。

それを上に飛び、躱して近づいたミカサがアニに向けてアンカーを刺すがアニもそれを躱す。

 

ミカサも何とか体勢を整えようとすると、アニは追撃と言わんばかりに足をミカサ目掛けて振り回す。

 

その回避で精一杯になり、ミカサは完全に体勢を崩す。どうにか地面に落ちる前にガスの噴射で下への速度を緩和したが、横への速度は減らせず滑るように何回転と転ぶ。

 

「ミカサ!」

 

「俺が行く!アルミンは引き続きアニを!」

 

 

アルミンの心配の声を遮り、ミカサの倒れている所へ向かう。エレンはまだなのか…

 

 

「大丈夫か!?」

 

「うん…ワイヤーが絡まっただけ───っ!!」

 

 

 

 

 

────雷が落ちた

 

 

 

 

 

 

エレンの方向から上空へ一筋の稲妻が轟音と共に何度も点滅するように出現する。

 

皆はその現象に止まり、その方向をじっと見る。程なくしてこちらにドンドンと地鳴りのような足音が近づいてくる。

 

 

 

『ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"!!!』

 

 

雄叫びを上げながら、アニに向かって走っていく巨人化したエレンが見える。アニも気づき振り返るときには遅く、顔面を殴られた衝撃でアニは後ろにある教会に吹っ飛ばされた。

 

その隙を逃さず、追い討ちをかける為に猛ダッシュで近づくのをすんでで避けて壁の方へと逃げていく。

 

 

「よし。これで大丈夫なはずだ。立てそうか?」

 

「うん…ありがとうセラス」

 

 

ミカサの絡まったワイヤーを解き、アルミンの方へと合流をする。

 

 

「そっちは無事だったようだな」

 

ハンジさんが声を掛けてくる。

 

 

「ええ、あの状況は?」

 

「見ての通りだ。今回はまだ自我を保ててるようだが…」

 

怒り狂った行動の中に、まだ少し納得のいく行動原理が見え隠れするところからそう結論づけるハンジさん。

 

 

「はい、ただ…エレンは今まで女型に一度も勝てていません」

 

「けどアルミン。巨人になった以上、アイツだって腹くくるはずだ。そう簡単に「戦いは気合でどうにかなるもんじゃないよジャン」あ…」

 

「あのアニを凌ぐにはもっと…」

 

 

「人間性を捨てるべき…か」

 

 

「…うん」

 

 

皮肉な話だ。誰よりも仲間を信じた奴が、仲間を救うために仲間を殺す覚悟をしなければならないなんて

 

 

「女型があっちへ向かった。行くぞ」

 

ハンジさんの指示に従い、向かっていく

 

 

 

 

 

 

No side

 

 

 

 

空が暗くなる。まだ夕方にもかかわらず、雲が異様に多かった。

 

そんなどんよりとした雲の下では今、エレンと女型はお互いファイティングポーズで向かい合っていた。

 

 

最初にエレンが動き出す

パンチを繰り出そうと右手を引きながら近づいて行くのを、女型は右足のローキックでエレンの右足を切断する。

 

だがそれで止まる勢いでもなく、エレンの速度と重さが入ったパンチは容赦なく女型の頬と、それをガードした手に入り、足で土煙を出しながら後ろへと下がっていく。

 

エレンは切断された足が再生しないままカエル飛びの姿勢で飛び掛ろうとするも、次は女型の硬質化された脛のローキックを顔面にまともに喰らい、隣の建物にめり込む。

 

女型は追い討ちとばかりにその頭を硬質化された拳で何度も何度も殴り、頭皮が損傷されて一部禿げたままとうとう動かなくなった。

 

 

その様子を見た女型はようやくといった佇まいで壁へと向かっていった。

 

 

 

 

瞬間、エレンの巨人の身体が黒く変色する。

所々に暖色のような線が筋繊維に沿うように生成され、そこから炎が飛び出していた。

 

 

ムクリと行動を開始しては、真っ先に女型の方へと片手片足で両隣の建物にぶつかって軌道修正しながら全力で這うように向かっていく。

その様子はまるで何かに飢えてる獣のようだった

 

そして壁付近の広場にて女型を後ろから首を絞めるように捕まえ、ヘッドスライディングの容量で女型を倒していく

 

 

 

広場が見える場所まで移動する頃には、女型はエレンを振り払って指を鋭利な硬質化へと変えて壁に突き刺しながら登っていく。

 

 

「アイツ壁を!」

 

「ダメだ!このままじゃ逃げられる!」

 

 

その様子にジャンとアルミンが嘆きの声を上げる。

 

 

段々と高度を稼いでいく女型

そして中腹まで来た段階で、ミカサが隣から近づいてた。

 

「行かせない!!」

 

めり込んでいる指に向かって刃を立てる

 

 

「ふんっ!」

 

右指を切断し、

 

 

「はぁぁあ!!」

 

今度は左指を切断する

 

 

そして女型の巨体をその場に留めさせる力点はなくなり、ミカサも女型の額に乗ったまま一緒に落下していく。

 

 

大きい砂煙とともに、女型はうつ伏せに倒れていく。

それを獣のように覆い被さるエレン。

 

 

女型も危機を悟り咄嗟にうなじを右手で隠すが、その右手諸共頭部も一緒に吹っ飛ばされる。そしてエレンの殴った手はその衝撃に耐えきれず同様欠損した。

 

 

だがエレンはそんな自身の様子など気にも留めず、口を大きく開けてうなじに近づいていく。

 

 

「っ!マズイ!中身も食われるぞ!」

 

「エレン!よせ!」

 

「エレン!」

 

 

しかしその制止の声はエレンには届かず、女型のうなじを噛みちぎる。

幸いにも、エレンの次の動きも噛む動きに類似した予備動作のため、アルミンたちはまだ食われていないことを理解できた。

 

だがそれでも、作戦を知る誰もがその蛮行を止めようと声を張り上げる。しかし誰も1人として動けなかった。

 

絶妙に遠い距離と、建物のない広場。

立体機動を十全に生かせない環境では、その場にいる指折りの実力者、歴戦の精鋭でさえ、その状況に指を咥えて見ていることしか出来なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

ただ一人、今も尚噴射したガスの軌跡を創り出す彼を除いては

 

 

 

 

 

 

 

 

Side out

 

 

 

さっき補給したガスを用いて、大量噴射で高速移動をする。

そのせいかガスメーターの値がみるみるうちに減っていってるのが目に見えてわかる。同時に体にかかる負荷を体感しながらも、標的を見据える。

 

エレンは幸いにも周辺視野に注目してないらしい。よって俺の行動を事前に回避されることは無いだろう

 

射出範囲に入り、アンカーをエレンに向けて刺す。

エレンもこちらに気づいたのか、左を振り向く。

 

 

「フッ!!」

 

 

だがこちらに顔を向けてきた方が視界を奪いやすいというもの。何をしでかすか分からないため、念の為素早く眼球と顎の筋肉を刃で切り裂く

 

 

だが受けた攻撃に対し、エレンは何も反応する様子は見せなかった。体を修復させる様子もなく只々その場に座り尽くし、大量の蒸気を噴出していた。

 

 

もう自我が戻ったと考えて良いだろう

そんな憶測を立てながらエレンに背を向けて、ようやく本命に目を向ける。

 

 

「アニ」

 

 

その呼び声に何も答えず、目の前で涙を流す金髪の少女。

 

徐にポッケからハンカチを取り出し、両目から流す涙を拭う。それでも彼女は反応しない。

 

 

瞬間、青白い光がアニの周りを囲う。十中八九硬質化の準備だろう

なら伝えるのは今、このタイミングしかないな

 

さっきまでのアニとの会話と、アルミンとの会話を思い出す。

足を曲げ、開くかどうか分からない瞼をじっと見て言う

 

 

「…ごめん。アニ」

 

 

自身の不甲斐なさを悔やみながら、淡々と言葉を連ねる

 

 

「さっきの言葉。俺は…アニ自身のことしか考えてなかった。アニの持つ意志を、蔑ろにした」

 

さっき言った言葉は、アニにとって分かりきったことであり、それを俺が表面化させてより彼女を苦しめてしまった。

 

 

「今思えばあの拒絶、俺はただの勘違い野郎だった」

 

最初に拒絶されたと思ったのは全くのお門違い。あれは、俺がアニを傷つけたから起きた、俺に起因した拒絶、つまり自業自得だった。

 

「痛かったのは、アニの方だったよな」

 

 

あの会話に限り、アニは被害者であり、俺は加害者だった。例えアニが殺戮者であろうと、その事実は俺の中では変わらない。

 

「だから…本当に、ごめん」

 

 

言いたいことは言った。彼女が許すかどうかは、彼女に委ねるしかない。もう硬質化もお腹の段階まで進んでいたし、タイムリミットだろう

 

 

「…………じゃあな、アニ。……アニ?」

 

 

 

お別れをして最後、エレンの取り外しの用意をしようと回れ後ろをし、一歩踏み出そうとした矢先に後ろからミチミチと肉が裂かれる音とともに、マントを引っ張られる感覚を覚える

 

 

分かりきった問題の答え合わせをするように、後ろを向いて正体を確かめる

 

引っ張った正体は当然、アニだった。

上目遣いになりながら、先程まで瞑っていた瞼を開き、真っ直ぐこちらを見ていた。

 

震えた声で、ゆっくり言う

 

 

「ほんと…大嫌いだよ…アンタも」

 

「全部を切り捨てる覚悟をしたのに、まだこうして…触れていたい、自分のことも」

 

 

先程拭った瞳から、再度ポツポツと涙を流す。

 

 

引っ張っている手を掴んで、ゆっくりと握る。もう片方は先程使ったハンカチでまた頬を伝う涙を拭う

 

彼女も応じるように握る手を強めながら、語気も少し強めて言う

 

 

「ねぇセラス。最後に1つだけ」

 

「私は…アンタを拒絶したのに、酷いことしたのに。なんでまだ、私に対して変わらないで居てくれるの?なんでまだ…私が望むアンタでいてくれるの?」

 

 

何故態度を変えないのかということだろうか。ならそんなの簡単な話だ

 

 

「…例え女型とわかっても、アニはアニだから。一時だけ、負い目もなく笑っていたアニを、見ていたかったから」

 

 

そう言うとアニは、顔を下げて口を噤む。

…また、傷つけてしまっただろうか

 

 

下から覗いたら予想通り、口をモジモジしながら顔を赤らめていたアニがそこに居た。

 

想像以上に怒っていたし、鉄仮面のアニが表面に出していたのに少し驚く。

 

 

「ほんと…そういう所…ずるいよ」

 

「…?傷ついてないのか?」

 

「なんであれで傷つくんだよ。か弱い乙女にとって…一番欲しい言葉だったよ」

 

 

 

手の繋ぎ方を変え、いわゆる恋人繋ぎのように指を絡めてくる。

 

 

「セラス。これをアンタに預けるよ」

 

 

もう片方の手で、自身の胸ポケから同じ柄のハンカチ(アニの)を、こちらの胸ポケに入れてくる。

 

 

「だから、これを少しの間だけ貸して」

 

 

そう言って次は俺の持っている方のハンカチ(俺の)を握り締める。

 

 

「これでもう…寂しくない」

 

 

やがてアニは結んだ指を一本ずつ、丁寧に、ゆっくりと解いていった。すべての指が離れたその瞬間、交換したハンカチを胸のあたりにそっと持ち上げる。両手で大切なものを包み込むように、静かに握りしめる姿勢になった。

 

唐突に結晶化の速度が上がっていく。まるでもう何も言い残すことが無くなったかのように

 

「またね。セラス」

 

 

結晶化の音で遮られ、最後の言葉が聞こえなかった。アニはそのまま全身を水晶体で覆われそうになるところを、俺はその余波で吹き飛ばされる。

 

 

「くっ…!いってぇ…」

 

 

だけど幸いそんな高さもなかったらしく、痛みも地面に激突した時だけですぐに引いた。

 

 

ゆっくりと上体を起こし、地面に人影が一人分見える

見上げると、ジャンがいた。

 

 

「相変わらず滅茶苦茶な速さだな…ほら、立てるか」

 

「…ジャン」

 

 

差し出された手を握り、引き上げるようにジャンが持ち上げてくれる。

 

 

「……アニは…最後なんつってた」

 

「…なんも言ってなかったよ」

 

「っ!くっそ!」

 

 

その返答にジャンは悪態をつき、やるせない顔のまま例の水晶体をじっと見る

 

その後にはアルミンやハンジさんが合流し、次々と他の調査兵も到着した。

 

「ワイヤーでネットを張れ!これを縛って地下に運ぶ」

 

 

ハンジさんがそう指示を出す。

 

 

 

その時、壁付近から何か落ちた音が聞こえた。

 

 

「おい!あれを見ろ!」

 

調査兵の一人が壁のところを指さす。

その壁が剥がれたところには、顔の半分が丸見えの巨人がいた。

 

「え…ちょ、ちょっと待って…あれは…たまたまあそこにいただけなの?」

 

ちょうど隣にいたハンジさんが、信じられないような物言いでその例の巨人を見上げる。

 

 

「もしそうじゃなきゃ……壁の中に巨人が…?」

 

そんな考察をハンジさんが口ずさんでいると、後ろから肩を掴まれた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「あなたは…ニック司祭」

 

走ってやってきたらしく、息が絶え絶えのまま話を続ける。

 

「あの巨人に…日光を……当てるな!」

 

 

この世の終わりのような必死さでそう言い放ったのだった

 

 

 

─────

 

──

 

 

 

 

「あぁ、来たか」

 

 

あの後ハンジさんは数名の調査兵を連れてニック司祭と壁の上に行ってしまった。

俺は今団長と兵長に呼ばれていた。

 

「セラス、急で悪いが君に頼みがある。ここを離れ、即座にローゼ南区の隔離施設にいるミケと合流してこの現状を伝えてくれ」

 

「っ、わかりました」

 

「いい返事だ。では頼む」

 

 

「おい」

 

ひょっと、隣から身長のせいでポップな登場をしてしまう兵長。しかしその顔は般若そのものだった。

 

「せいぜい無茶しねぇようにしろよ。てめぇが怪我して喜ぶヤツなんて1人たりともいねぇんだからな」

 

そう言いながら二つの意味で釘を刺す兵長、あの日以来心做しか口調が柔らかい気がするが顔が怖いので気のせいだな。

 

「任務が終わり次第、104期の兵士たちと合流してもらう。念の為装備を整えておいてくれ、君の場合特にガスの予備を強く勧める。以上だ」

 

「了解です、ご忠告ありがとうございます」

 

 

じゃあとりあえず念の為食料と包帯と…あ、あと今のうちにベルトルトを煽るなにかでも考えておくか。

アニのハンカチを見せたらどうなるのか楽しみだ

 

 

 

 




7月いっぱいテストでいっぱい。
ということなので1ヶ月休載します。
よろしくお願いします
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