こんだけのガスであんな動き出来るわけないだろ!   作:山崎春のご飯まつり

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ひさびさです。
今回はアニ回です。


対人格闘訓練

 

 

◇◇◇◇

 

炎天下の中、顎から汗水を垂らしながらも訓練兵団の刺繍を背にした兵士達は短刀を手に訓練に励んでいた。

 

俺もそれらの例外ではなく、木製の短刀を持ち巨体の男と向かい合う。

 

 

「よーし、どっからでも来いセラス!」

 

「いいんだなライナー、お前相手に加減するつもりはないぞ」

 

「はっ、どうやら俺を高く買ってるようだが…これは訓練だ!怪我したくないなら本気で来い!」

 

 

といった感じで目の前のゴリライナーは俺の言葉を勘違いして捉えてるらしい。

 

そのままバカ正直でいられたら警戒されずに済むが…まぁ少し嬉しそうに口角を上げてるし、心配するほどでは無いだろう。

 

 

「じゃあ遠慮せずに行かせてもらうぞ」

 

「御託はいい、さっさと来い!」

 

 

対人格闘訓練のやり方は至極簡単。相手の短刀を奪えば勝ちだ。だがそうなると短刀側の勝利条件がないことになるが…降参の言葉を相手が口にすれば勝ちってことでいいだろ。

 

今回だと俺がゴリライナーに襲われる立場。言葉にすると本当に気持ち悪い字面だ。

 

 

体格差は歴然。

俺はエレンと同じ体格な一方、ライナーは明らかに筋骨隆々で高い。

 

まず肉体のポテンシャルが違いすぎる。そのせいか搦め手の方へと思考が誘導されていく。

 

しかし目に見える体格差で気が大きくなったのかあちら側からは攻めてこない。つまりカウンターで奪うつもりと捉えていいだろう。

 

 

当然正攻法でやるつもり無いけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うごっ…こ、降参だ…!だから、これ以上…金的をするのは…もう、やめてくれ…!」

 

「……うん、わかった」

 

 

あまりに惨めな懇願につい従ってしまった。ライナーは額を地面に押さえ付け、必死に股間を押さえている。

 

(やりすぎてしまっただろうか、まぁ………潰れても治るでしょ、鎧だし。硬くなかったけど、まぁ…鎧だし)

 

そんなどうでもいいことを考えていると肩を叩かれた。

 

 

「おいおいセラス…流石にこれは見てる側も辛かったぜ…」

 

「あ…あぁ、ライナーが可哀想だ…」

 

 

いつの間にか訓練してたはずのエレンとベルトルトのペアが隣にいた。

 

 

「…ライナー相手だったらこれぐらいしないと勝てないと思って、悪気は……あまりなかったんだ」

 

「いやまぁ、分からなくは無いけどよ…金的で降参させるって兵士のやることかよ。途中からすげぇ注目されてたからな」

 

 

渋い顔のエレンに指摘され周囲を見渡したすと、男性兵士の多くが股間を押さえていた。刺激が強すぎたらしい

 

 

「ら、ライナーが蟹みたいに泡を吹いて倒れてる……」

 

「っ…」

 

「かに…?なんだそりゃ」

 

「…あ、いやそれは…いだっ、あ、アニ?」

 

まさかの失言に、冷や汗をかいて硬直するベルトルト。だがいつの間にかアニが横入りし、カバーするように脇を肘打ちをした。

 

 

「ごちゃごちゃ言ってないでさっさとそいつを運びな。デカブツを運べんのはデカブツしかいないんだ、よっ」

 

ライナーを軽く蹴りながらベルトルトにそう伝えるアニ。

 

おそらくそれを口実にこの場を離脱させるつもりなんだろう、随分と頭が回る。

 

 

「…あぁ、じゃあこの場は任せたよアニ。済まないけどライナーを連れていくから待っててくれエレン」

 

「?おう。早く戻ってこいよ」

 

 

そう言って納得しないような顔でベルトルトとライナーを見送るエレン。

 

この生活で気が緩んだのか、ボロが出やすくなっているのだろうか。

 

(まぁ俺が言わせたものだし仕方ないか)

 

 

「はぁ…じゃ」

 

「あ、おいアニ!」

 

山場を乗り越え、用が済んだのかそそくさとこの場を離れるアニ。

 

だがエレンが彼女を引き止める。

 

 

「お前いつも一人だろ?まだ時間あるし、相手になってくれよ」

 

「…か弱い女の子を相手にしても訓練にならないよ、大人しくセラスとやりな」

 

 

手を扇子のように振って遠回しに拒絶する彼女だが、エレンは一瞬こちらを向いて股間を押さえ始める。

 

 

「アニ…あのライナーの惨状を見て相手したいって思う男ならここには居ねぇよ…」

 

そう言ってこちらを正面からずらして話すエレン。

 

失礼な奴だな。

ライナーとベルトルトにしかやる訳ないだろ。

俺を無差別に股間を蹴るやつみたいなレッテルを貼るな死に急ぎ野郎。

 

 

「ははっ…そうかもしれないね。まぁいいや、久々にいいもの見れたし、1回だけなら。来なよ」

 

小さく笑い、口角を上げるアニ。

どうやら了承したらしい、珍しい。

 

「そう来なくちゃな!」

 

 

この結論にあまり納得はいってないが…女型の件もあるし、観察がてら2人の動きでも見てるか

 

決して面白そうだからという訳では無いことは明記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはっ!」

 

そんな嗚咽声を出し、恥ずかしい体勢で地面に打ちのめされるエレンを目の当たりにする。

 

 

「満足した?じゃあ私はこれで「待てよアニ」しつこいね…次はなんだい」

 

エレンを見下しながら仕事を終えたように淡々と吐き捨てるアニ。無表情のまま回れ右をする最中、エレンはアニを呼び止める

 

「まだセラスが居るだろ。お前もやるよな?」

 

 

………………………え"

 

 

「え"?」

 

「セラス…兵士なら腹決めろよ」

 

真剣な眼差しで語りかける。コイツは何を言ってるんだ。

 

「いや俺は別に「いいよ」え"」

 

2度目の潰れた声が響く。

どの頼みを了承したのか分からないアニは片膝を軽く上げ、両肘を顔の前に置いたフォームを取り言う。

 

「あのバカを痛めつけたお礼だよ。来ないならこっちから行くよ」

 

「っ、あっぶな!!」

 

 

(はやっ!いつの間にか目と鼻の先にっ…くそ、距離の詰め方が異常だ…どんな技術持ってやがんだよコイツっ!距離をとって体制を

 

「離れようってのかい?寂しい、ねぇ!」

 

 

動きが見破られていたのか、逃げる方向を潰すように鋭い蹴りが横から迫ってくる。

 

 

(くそったれ、防御を───)

 

「ぐっ!」

 

「へぇ、これも防ぐんだ。久々に本気でやれそうだよ」

 

 

寸前で膝と腕で胴体目掛けた蹴りを和らげる。

 

初見じゃないから対応できたが、凄まじい勢いで土埃を巻きながら横へと引きずられる。

 

しかも防いだはずなのに左手足が痺れている、何度も食らったらこの後の訓練に支障が出るに違いない。

 

やるしかないのか…いや、どの道やらないと対応できなくなる。

 

 

「……決着の仕方は?」

 

「やっと乗ってきたんだ。降参したら負けでいいよ、ルールとか面倒だし」

 

そう言い戦闘態勢に入るアニ。こちらも眼前の敵に集中する。

 

イメージと外れたが好都合だ、この際コイツのあらゆる癖をしらみ潰しに覚えてやる。

 

「シュッ!」

 

向かってくる右フックに手を紛れ込ませ、肘に入れて中断させる。

 

続いて左ハイキック。利き足じゃないせいか右より少し遅く感じるが、それでも早いので右手の前腕部に打ち当てて相殺する。

 

一瞬フリーズした。その隙を狙ってのみぞおち目掛けて突くように蹴り、砂埃を撒き散らせ後退させる。

 

「チッ…慣れてるね、得意なのかい?」

 

 

今の一撃はまぐれ、相手の小手調べに噛み付けただけだ。

 

まずは目を慣らせ。その上で足の曲げ方、重心の置き方、腰の動かし方、全部頭に叩き込め。1発1発が即死と考えろ、でないと人が死ぬ。

 

 

「……無視、してる割に随分と熱い視線を向けて来るもんだ…まぁ悪い気はしないけ、どっ!!」

 

 

来た。右のローキック、防御。左のフック、防御。右の肘打ち、防御。腕を掴まれた、肘を折り曲げて力を逃がす、手首を回して強引に引き剥がす。

 

重い打撃が続くがお得意の関節技は少ない。

 

 

関節技は基本相手のして来た動きに合わせて型を使う、つまり守りに徹してる今の俺相手には相性が悪いということ。これで効率よく目を慣らすことができる。

 

だがそれでも攻撃の重さが減ることはない

 

 

(目が慣れるのが先か、腕が折れるのが先か…)

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

(ほんとやりにくいね…)

 

内心アニは眼前の男に対して愚痴をこぼす。

 

何度か挑発じみた発言をするもセラスは無視。時間が経つに連れ最初にあった焦りも消え、迷いのない守りが目立つようになる。

 

(…イラつくほどに冷静な目つき。対応は雑だけど着実にこっちの予備動作で反応するようになってきてる)

 

 

分析し、対応を早める。

鏡を見ているようでアニにとっては厄介な系統にセラスは入っていた。

 

だがこれまで培った経験上、そういう相手には自身の理屈が通じると理解している。

 

だから対処できるし、焦ってもいなかった。ただ時間がかかって面倒だと、淡白な気持ちであった。

 

 

(だけど今回はもっと単純、純粋に時間の問題。相手は巨人じゃなくて人間、痛みも感じるし、受けた損傷は蓄積する。心を折れば勝てる)

 

今回の勝敗とも系統が似てる点から、その思い描いた勝ち筋はアニの中で明るくなっていった。

 

 

(ただひたすらに攻める。骨を折れば殆どの奴は戦意を喪失する。今まではそうだったし、そいつの目を見れば大体わかる)

 

だから蹴る。だから殴る。

 

任務のことも、故郷のことも、何も考えずただ持つ全ての技術を持って技を繰り出す。

 

全てをぶつける。

それは秘密で塗り固められたアニにとって、唯一本音を出す行為に等しかった。

 

それでもセラスはそれらを全て受け止め、一向に変化しない攻防が続く。

 

彼女にとっては平凡で感情の起伏のない作業。だがその行為に本気を出すことは、アニ本人には無意識に心地よく思っていた。

 

どんなことを経験しようと、中身はただの生娘。

裏切ったら心は痛み、殺したら憂鬱な気分になる。

 

幼いながらに重大な任務を背負わざるを得なかった、強く見せてるだけの普通の人間だ。

 

だから格闘技を通じての本音の吐露は、アニにとって重いものを一時的に脇に置ける、息をできる時間だった。

 

 

ゴキッ

 

 

 

その時間は突如として終わりを迎える。

 

何気ない蹴りの一撃は彼の腕に深くめり込み、そのままセラスを十数メートル吹き飛ばす。

 

(…終わり、か)

 

名残惜しさを残しつつ、数滴の汗を流しながら淡々とこの状況を受け入れる。そしてゆっくりと土埃が立っているセラスの方へ歩みを進める。

 

(骨は折った。その年でこれは堪えるでしょ)

 

冷静に分析し、常人を基準とした予想を立てるアニ。

 

そして彼女の足は膝をついて息を切らしているセラスの前で止まり、言う。

 

「降参しな。悪いと思ってるけど、その腕じゃどの道勝負にならないよ」

 

「……」

 

だがその呼び声にセラスは反応せず、少し曲がった自身の左腕を無表情のまま凝視する。眉間を寄せ、一点に注目していた。

 

しかし最初のも含めそれらの無反応にアニは痺れを切らし、無造作にうなじを擦りながら言い放つ。

 

「……はぁ、いい加減何か言ったら?そろそろくどいんだけど」

 

 

少しピリついた発声と同時にセラスの肩を雑に押す。

 

その接触でピクリとセラスの体が少し跳ねる。そしてゆっくりと顔を上げてアニを見上げる

 

「……ん。悪い、考え事してた」

 

「…あっそ。で?アンタが降参しないと終われないんだけど」

 

 

突き放す言い方で返す。

その裏でアニはセラスのぶっきらぼうな反応に呆れ、内に籠った熱が冷めてくのを感じる。

 

 

(この期に及んで考え事…?目もまだ死んでないけど…いや、ただの強がりだね。しょうもない)

 

意地を張って強く見せようとする。強さを誇示して自身の立場を上げようとする。

 

それらの行為は戦場において無駄死にの着火剤にしかならない。

 

 

生きることが何よりも大事なアニにとって、無意味に見栄を張って死に急ぐ眼前の男は十分に軽蔑対象であった。

 

(ほんとくだらない…生きなければそこで終わりなのに)

 

 

酷く冷たい表情のままアニはセラスを見下ろし、言い放つ。

 

「さっさと言わないなら次は右腕を折るよ」

 

 

まるで人を殺すようなアニの鋭い物言いに、エレン含めその様子を見ていた何人かは息を呑む。

 

だが決して仲裁はしない。

セラスが降参と言えば済むのに、態々蹴られる可能性のある行為を進んでやるやつは居なかった。

 

ましてアニとセラスの攻防を見てやるやつは尚更だった

 

そんなわずか数人の張り詰めた空気の中、当事者のセラスは口を開く。

 

 

「何言ってんだ、勝負はここからだろ」

 

「そ。ならお望み通り折ってやる…よっ!」

 

その二言で空気は沈静なものから喧騒なものへと再度変化した。

 

「シュッ!」

 

アニは素早く足を振り上げ、セラスに先程同様の蹴りで襲う。

 

 

 

 

だがその蹴りはセラスには接触せず空を切る。

否、受け流される。

 

「っ……」

 

少し驚きつつも続けて二発目を打ち込むアニ。

 

そしてそれを的確なタイミングで受け流すセラス。

 

 

(まぐれじゃない。なら最初は本気じゃなかった?いやありえない、初めは明らかに反応が遅れてた。なら……)

 

「まさか…もう私の動きに慣れた…?」

 

 

アニは一旦距離を置き、そのままの姿勢で呟く。それに呼応するようにセラスが口を開く。

 

「さっきの左腕でようやく重さと速さがわかった。だからやっと合わせれた」

 

「っ…」

 

アニ本人はまさかの発言に驚く。

それもそのはず、今まで攻防戦で無口を貫いていた相手からまさかの返答が来るのは全くの想定外だったからだ。

 

「ちっ……数回流せただけでもう大口叩くんだ?調子乗ってると全身持ってくよ」

 

「そうかい。物騒な言い方してると嫌われるぞ」

 

「減らず口だねっ!」

 

 

それを皮切りにアニはセラスに接近して数回の連撃を行う…がセラスは絶妙なタイミングでそれらを受け流すか身を捻って躱す。

 

(鬱陶しい…けどさっきのが本当なら、普通わかってて自分の腕を折らせる…?)

 

素直に納得できないセラスの返答に脳のリソースを割くアニ。あたかも故意で骨折したと捉えられる発言に幾ばくかの疑問を抱かずにはいられなかった

 

(…なんでこんなので体を張るの。大が付くほどの負けず嫌いなのかいアンタは?全然意味わかんない)

 

少し距離を取り、直立不動のままセラスを問いかける。

 

「…ねぇセラス、さっき考え事してたって言ってたけど、何考えてたの?」

 

 

アニの脳内に渦巻く理解できない気味悪さ。

その一端を晴らすため、数十秒前のセラスの意味不明な発言の意図を探った。

 

「さっき?…なんの話?」

 

「アンタが座り転けた時のやつだよ、呆けるにはまだ若すぎるんじゃない?」

 

先程の意趣返しも込めて溜息をついてアニは皮肉めいた言い返しで説明する。

 

少し目下をピクっとさせながらも思い出したように「あぁあれか」とセラスは呟く。

 

 

「あれは…突然の出来事で気が散ったなって反省してただけだ」

 

「…なにそれ。じゃあわざと折らせたの?」

 

「どっちでもある」

 

けどそっちの方が慣れるし、と付け加えるセラスを、アニは余計わからなくなった。

 

 

彼女は滅多に人に興味を示さない。

任務の際の判断を鈍らせないため、いつでも切り捨てるため、そして罪悪感で自分が潰されないようにするため。

 

それは裏を返せば、任務に支障をきたす可能性のある人物───ミカサ、エレンといった戦闘面、精神面で頭ひとつ抜けてる者達には少なからず興味を持つということ。

 

そして今この場で彼女の攻撃を読み始めたセラスは、対応能力の早さからその対象に入ってしまった。

 

「…なんでそこまでやれるの?こんな評価も何も得られない訓練に。ふっかけといてなんだけど、すぐに降参すれば良かったじゃん」

 

態々本気でやらず適当に取り組めばそんな怪我せずに済んだのではないか、何がセラスをそうさせるのか、思慮深いアニはその行動原理が知りたかった。

 

「それともなに、意地?見栄?はっ、だとしたら長生きしないよアンタ」

 

普段の彼女ならありえないような熱量で捲し立てる。まるで考えを否定された子供のように、自身の意見を押し付けてしまった。

 

それを聞いたセラスは一瞬暗い顔になる。

しかし今のアニには悟られることはなく、誰にも気づかれないまま顔を上げ直す。

 

そしてただ一言、アニの疑問に答える。

 

 

「アニの格闘術を、もっと知りたいからだ」

 

 

「……………………………は?」

 

開いた口が塞がらなかった。

それはあまりにも直球で、アニに思考させる余地を与えないほど単純な動機だった。

 

故に先程まで抱いてた疑念、わだかまり、苛立ち、アニの思考を渦巻くあらゆるものが霧のように離散し、それらが興味として目の前の男に集まった。

 

「本気で言ってるの…?」

 

遅れて思考を巡らし、真偽を確かめる。

 

「本気だ。嘘偽りない」

 

セラスの即答さと緩みのない表情に呆れたのか、彼女は体の芯から力が抜ける。

 

「……あーもう…疲れた」

 

この男に真面目に返すのがバカバカしく感じ、アニは解放されたかのように重苦しい溜息を吐く。

 

「もういいよ、降参。私の負けでいい」

 

「…どういう意味だ」

 

その提案にセラスは訝しげな様子で意図を問うと、アニは何か言いたげな仕草ではぐらかす。

 

「はぁ…察しが悪いね、言葉通りだよ」

 

ゆっくりと座り込むセラスに歩み寄り、アニは手を差し伸べる。

 

「知りたいんでしょ?これ以上やって本当に壊れたら元も子もないよ」

 

「早く肩貸しな」と強引にセラスの右手を掴んで支えながら立ち上がらせる。

 

「は?それってどういう──痛っ…急に動かすなよ」

 

「我慢しな。…ったく、これじゃまるてあの時と同じじゃないか」

 

呆れた表情をしながらも満更でもないような口ぶりで過去を懐かしむアニ。

 

それを横目に全く検討つかず乱暴するアニをセラスはジト目で見つめる。

 

「…なんだいその顔は、言いたいことがあるならはっきり言ったら?」

 

「怪我させられた奴に介抱されてるのは複雑な心境だ」

 

至極当然の感想だった。

黙っていた周りも行動のギャップ差にまさに風邪をひきそうであった。

 

「…それは反省してるよ。流石に本気になり過ぎた」

 

多少の罪悪感があったのか、少し申し訳ない感じでセラスから顔を逸らすアニ。

 

「別に責めてるわけじゃない、寧ろ本気でやってくれて嬉しかった」

 

「…………ほんっとに、つくづく読めないよ、アンタは」

 

二度目となる諦めの溜息は既にヒリついた雰囲気を和ませる何かになっており、互いの警戒心を下げていた。

 

「やっぱりアニは優しいな」

 

「……気まぐれだよ。勘違いしないで欲しいね」

 

そう言いながらもセラスの歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれるアニを見て、男はこれ以上何も言わなかった。

 

「調子乗ってると次回の訓練、アンタが後悔するぐらい叩き込んでやるから」

 

そっぽを向いたままのアニの横顔には、西日に照らされたせいだけではない、微かな赤みが差していた。

 

 

 

 

 

「………なら尚更早く覚えないといけないな」

 

 

 

隣で歩く男が、自分の弱点を探っているとは露知らず、彼女の内心は久々に波打っていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




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