こんだけのガスであんな動き出来るわけないだろ! 作:山崎春のご飯まつり
ではどうぞ
33、
団長からの命令から十数分。準備を終えた俺は今ローゼ内の壁沿い、場所で言えばエルミハ区とヤルケル区の中間を目指していた
団長の命令はミケさん達の補助、つまり隔離施設にいる104期の護衛ということになる。
俺の行動は本来原作にないもの。となるとゲームのシナリオ通りと予想されるため体力勝負になる。
女型、駐屯兵の増援、サシャの援護、そして正念場のウドガルド城護衛。最大で4…いや、ライナーとベルトルト戦もあるから5連戦になる可能性がある
だがそれらは最悪その場しのぎ、もしくは原作通りになれば上々
俺が思うにそれ以上に注意すべき点が存在する
獣の巨人、ジークの存在だ。
コイツが及ぼす影響は計り知れない
原作ではリヴァイ兵長を甘く見てた、言わばジークの舐めプのお陰で作戦が成功したと言っても過言では無い
もしリヴァイ兵長との実力差を理解してみろ、俺がアイツの立場だったら無垢の巨人を壁にして後ろから投石オンパレードだ。さすがの兵長でも1回は逝く
だからこそジークとの接敵は細心の注意を図るべきだ。その点ライナーとベルトルトは知ってもそれを上回る程の特殊能力はない、言うは易しだがその場しのぎの対処で問題ない敵だ
ジークを刺激しないのが最善の手。
それを第一にと心に誓ったはずなのに……
「いや!いやぁだぁ!!やぁめろぉ!!」
「ミケさんっ!!」
目の前に間に合うトラウマがあったら、嫌でも体が動いてしまうのは仕方ないと思う
─────────
後ろから肉を断つ音が聞こえた
しかも連続してだ。
久々に命の危機を感じたから鳥肌が立っちまった、まぁ…猿だけどよ
あの金髪大男の仕業かと思ったがすぐに切り捨てた。あの量を機動力なしで刃1本…しかも折れた状態で倒せる訳がない
拝借した機械を片手に振り向くと、予想通りだったが想定外だった
彫りが浅く幼さが残ってる顔に黒髪。蒸発しかけてる血液を浴びてることから恐らくだがやったんだろう、やるじゃないか
にしてもあの量をあの一瞬で…まぁ巨人らの視覚外だったしあの程度妥当か…いや妥当か?
まぁいい。マーレに居たら大層優秀な候補生になっていたのに…生まれた場所が悪かったな
だが子供相手でも容赦はしない
悪いがこっちは切羽詰まってるんでね、相手も巨人が話せるとは思わんだろうしその隙に殺らせて貰うよ
〘君はそれの仲間かな?いやぁ悪いことをしたね〙
うずくまってる情けない兵士を指さす
無様だなぁ、人間が巨人に勝てるわけないのに。
まぁけど、装置は多い方が仕組みを理解しやすいし。さっさと殺してピークちゃんに届けよう
黒髪の兵士は顔を目線を上げてこちらと目が合う。最後くらい顔は拝んであげ─────はっ
全身の毛が逆立った
殺気だとか緊張感の人の本能から来る反応じゃない。別の本能から感じた奇妙な異物感。
な、なんなんだコイツはっ!
まるでこの瞬間だけアイツが得体の知れない何かに見えた。
分からねぇ…オレだけか?それとも気のせいか?くそっ…本能に従った方がいいか?
それに感情と状況の整理がつかねぇ…幸いあちらも相方の介抱で手一杯だ。目的の物も手に入った事だ、今はとにかくあのガキから離れねぇと!
───────────
「離れて、行った…?」
体を丸め頭を抱えているミケさんを背に、ジークが離れていくのに全神経をかける
だが依然としてその行動に揺らぎはなく、猿が姿勢よく走り去っていくのみだった
「っ!ゴホッゴホッ…はぁ、はぁ…」
息が詰まって呼吸を忘れていた。
自分のせいで全員が死ぬと考えると流石に緊張でストレスが溜まる、とてつもなく気分が悪い
後ろを振り向く。
そこには未だ震えながら涙と鼻水を零し、鼻を鳴らしているミケさんの姿があった。
その変わり様に声をかける
「ミケさん、大丈夫ですか」
「ぃ………ぃ…」
こちらへの返答は来ない…いや口は動いている、何かをボソボソ言っているようだ。
ミケさんの口元に耳を近づけて今度は注意深く聞く。すると何かを復唱しているのがわかった
「スンスン!スンスン!分からない分からない…匂いが分からない…スンスン!」
…………やばいかもしれない
・
・
・
・
・
安全な壁の上に移って暫く。備蓄の兵糧を食べる俺の隣には、下を眺めてぼーっとしてるミケさんがいる。
傷の手当をしながら念の為再度状態を聞いてみた
「…大丈夫ですか」
そう話しかけるとボサボサな前髪から目が合い、返答してくる
「……あぁ、少しだが落ち着いてきた。みっともない姿を見せたな…助かった」
「本当なんですかね、それ」
振っておいてなんだがどう見ても無事には見えない、多分だけど巨人に甘噛みされて下半身折れてるし。ついでにメンタルも折れてるな
「……ふっ、新兵に心配されるほどとはな…」
「…どうですかね。ほとんどの新兵は自分で手一杯ですから」
「……ではお前は少なくとも手一杯ではないんだな」
「言い返す気力はあるんですね」
食いかけの兵糧を半分に折り、手渡す。
貰ったミケさんは、哀愁漂う表情のまま明後日の方向を見る。その方向はちょうどジークが去った方角と同じだった
「…お前は、あれを見てどう思った」
「恐怖以外の回答を待ってるのならエレンや兵長に振ってください」
「ふっ…流石のお前でもそういった感情はあるんだな」
「……別に好き好んで怪我してる訳じゃないんですよ」
後に「結果のついでに怪我が付いてきただけです」と付け加えて返す。するとミケさんはただ一言「強いな」と返答した
心地のいい風が吹く。先程感じたストレスが嘘のように消え去って行った
横にいるミケさんは重苦しい表情だった
「オレは…負けた。戦い続けることが出来なかった」
ポツリと、いつもの頼もしさは鳴りを潜めていた。それほどまでに憔悴しているのが分かる
そして自身の鼻を指さし、自嘲する
「もう何も、嗅ぎ取れなくなった…奴ら相手に、戦うことを辞めてしまった…」
くしゃりとした顔のまま、ポツポツと小粒の涙をこぼす
それは恐怖に屈服された人の顔だった。何度も何度も立ち向かって、その上で圧倒的な死の予感に押しつぶされた人の顔だった
「…死んだ仲間を思い出した。目の前で食われたのを思い出して、奴らに憎悪が湧いた」
拳を強く握るが、すぐに解いてしまう
「だがさっきの自分を思い出した。情けない自分に嫌気がさした」
その拳に震えが生じ始める
明確だった。この人は既にジークによって巨人への強い恐怖を植え付けられてしまったんだと
恐らく嗅覚の麻痺も、フラッシュバックを防ぐための防衛本能かもしれない
だとしたらこの人は、次の戦いで冷静な判断を持ったまま巨人と相対することは難しくなる
けどこれ以上はミケさんの問題だ
俺が成すべきなのはその人にとって幸せな道に進ませることだ、自身で望んだ死を止めることじゃない。その死がその人によっては幸せかもしれないから
まだ軽い腰を上げて、下にいる馬の位置を確認する。遠くに行ってないようだ
「信煙弾は撃ちました。恐らくもう少しで到着するでしょう」
「……行くのか?」
「えぇ、伝言があるので」
「…どうやら今期の新兵は心も強い奴が多いようだな。オレと違って」
どうだかね。死に直面したら殆どが怯えるのではと思うけど
それにみんな強く見せてるだけに感じるからわかんないや
「…気をつけろよ、セラス」
「……そうさせてもらいます」
その前にミケさんのボンベ貰っちゃお
「確かここら辺のはず…」
ミケさんと別れたあと、ジークと会った地点まで戻っていた。ここにはミケさんの残したガスボンベが転がっていると思うんだが…
「あれは…ビンゴ。ガスボンベだ」
一対のボンベを発見した。
走り寄ったら途端に激痛でズッコケる
「っってぇ……クソっ…無茶しすぎた…!」
左の腕と脇腹周辺から徐々に漏れ出る赤い血
当たり前だ、ほぼ食われる寸前だったんだ。ミケさんに群がった3体を同時に、確実に殺す必要があった。力加減なんて気にかけれる訳がない
それにアニと殺しあった直後だ、疲労も溜まる
「ふぅぅぅ…よし、さっさと回収してサシャのとこ行くか」
確かサシャは北…ヤルケル区付近の村とミケさんから再確認した
女型戦終わりの戦いだ、極力セーブしなければ…
「お、結構残ってんじゃん」
ガスは半分入ってた。まだ舞える気がしてきた
お久しぶりです。
のんびり書かせてもらってます。
ちなみに初期の段階でどういう流れにするのか全部決まってるんで完結はします。(未定)
気長に待ってくだちい
byみつを
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