こんだけのガスであんな動き出来るわけないだろ! 作:山崎春のご飯まつり
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装備を付けぬままサシャは馬で駆ける。
目的は北区域の住民の避難警告。土地勘のある彼女が自分の意思で志願した
その方面はサシャの故郷付近。物事に対し臆病な彼女でも一族…もとい父が心配だからという気持ちが大きかった
そしてサシャはつい先程、上司に当たる調査兵と離れ単独行動に移ってすぐ森に入っていく
整備のされていない森は土地勘のない者では人命救助どころか自身の命すら危うくさせる
四方八方が樹木によって情報が遮断され、突発的な脅威から身を守ることを強いられる
つまりは並外れた直感と森に慣れ親しんだ彼女が適任であるのだった
(あれから3年、帰ってない…きっと異変に気づいて、もう逃げてるはず…)
一族の身を暗示しながらも道なりに沿って馬で駆けていく。そして周囲を警戒しながら、極めて早い速度で目的地に向かうサシャ
その途中、彼女は不吉なモノを目の当たりにする
(っ…嘘でしょ。もうこんな奥まで来てるなんて…しかも数が…!)
見つけたのは巨大な人型の足跡
それも少なくとも2体以上の量が彼女が進んでいる方面につま先を向けていた
その事実にサシャの手綱を握る手は震える
(ここはもう…人が住めるとこじゃない…)
視界が開けてくる前方に目掛け、ただ駆ける。
そして強まってく光にも目を逸らさずに集中する。
「…!あれは…新しい村?」
不穏なまでの曇り空のお陰か、彼女の目はすぐ光に慣れた。
サシャの馬は軽快なステップで中途半端に架けられた可動橋を飛び越える
「はっ…はっ…だ、誰か!居ませんか!」
村の中枢の道路を辿りながら叫ぶ。
しかしその努力に見合う成果は来ず、ただ地面に蹄を叩く音が虚しく響くだけだった
「誰も…居ない…?」
再び周囲を見渡すと幅の広い小屋を見つけた。下には藁が敷かれてあり、馬の飼育がされていた場所だと何となく理解する。
(だけど馬がない…?)
近くまで移動し、小屋辺りを見渡す。
すると多くの人の足跡が地面に残っていた、その量はサシャでなくとも分かる程に鮮明だった。
(みんな逃げたということでしょうか…なら、私が今すべきことは…)
逃げ遅れた人の確保、及び護衛。
3年前、ずっと森に籠っていた彼女だったらその可能性すら考えず逃げていただろう。
しかし外に出て他人と交流した兵士としての3年間は、曲がりなりにもサシャを守られる側から守る側へと意識を変えた。
だがそれでも心の内にある臆病さはそう簡単に払拭できず、無意識に巨人の足跡を注目していくと、見つけてしまった。
「……あっちに向かっている」
奥へ奥へと続いている巨大な人型の踏み跡。
しかし巨人は人が多くいる方へと近寄る習性がある。つまり巨人に注意しながら動向を辿ればあるいは人のいる場所が特定できる可能性がある
(怖いですが…行くしかありません…)
足が重く感じる。だがその足枷は使命感で無理やり引きずって行った。
そして辿っていった巨大な足跡は一棟の民家で途絶える
「…っ」
近づかなくてもわかる、血の匂いだった。
かつて仲間の死体処理を経験したサシャはそれだけで勘づいた、この中に巨人がいると。
そして案の定、彼女が無意識に紐付けた仮説は現実となった。
「ひっ…!」
脱力した女性が今まさに苦しみながら4m級の巨人にゆっくり食べられている光景が目に入る。
その目を瞑りたくなるほどの痛々しい姿と、自身の無防備すぎる姿に『次は自分の番かもしれない』という想像がサシャの脳裏を通りすぎる
(助けないと…けど、ど、どうしたら……)
巨人によって乱暴に破壊されたドアの前でキョロキョロと周りを探し始める
そしてサシャは外の切り株の上に斧が刺さっているのを見つけた
(これで…!)
再び玄関前に忍び足で戻り、巨人の後ろに立って斧を振り上げる
「ふんっ!!」
腰をしならせ、巨人のうなじに目がけて斧をめいっぱい振り下ろす。
ビチッと肉を断つ音が部屋中に響き、血があちこちに飛び散る。
しかしその血は巨人うなじと同様に蒸発していく
(ダメ…壊れたとこから治っていく…!)
人体のみによるの斬撃では速度は乗らず、到底うなじの破損には程遠かった
ましては刃こぼれした斧と筋力が低い女性(ミカサを除く)によって繰り出される斬撃は巨人のうなじに致命傷は与えられなかった。
(ここで必ず…仕留めるっ!)
「ふっ!ふんっ!」
斧を振る、血が飛び散る、斧を引く、斧を振る、血が飛び散る、斧を引く
慣れない武器を使えばもちろん手は痛むし疲労も溜まってくる。
そして1分が経った頃、サシャにもついにその時が来てしまった
一瞬握力が弱まり、持ち手に付着した飛び血でズルリと手元から引っこ抜かれた。
振りかぶった勢いのまま斧は天井に刺さり、またしてもただの小娘に成り果ててしまった
「へっ?あっあ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"っ!!!!」
思わず大声でシャウトするサシャ。
その時はただ涙目で天井に刺さったままの斧を見上げるしかほかなかった
しかしその声にすら反応せず、ただひたすらに女性を食らっている巨人を見たのか、サシャは冷静を取り戻し辺りを見渡す
(何か…!何かないかっ…!)
日当たりが悪く真っ暗な部屋を用心深く見る。
武器になりそうもの
小細工がききそうなもの
巨人を惹き付けられそうなもの
かすかに動くものが見えた。そこをサシャは注視すると
「こ、子供?!」
部屋の奥に小さく蹲っている少女がいた。虚ろな目で女性が食われている様子を眺めていた
(…っ、どうしろっていうんですか…!)
一か八かで巨人を倒して2人とも助けるか、女性を犠牲にして確実に女の子を助けるか
一刻を争う中、サシャに課された残酷な選択
彼女が選んだのは─────
「………っ、ごめん、なさい…」
「はっ、はっ、はっ…」
無気力な少女の腕を引っ張りながら走り、もと来た道を辿る。
「も、もう大丈夫ですからね!」
「……」
焦りのあまり馬に見捨てられたサシャは、不安にさせないよう努めて平静を保ちながら語りかける
しかし、後ろには今にも食う勢いで口を開けている巨人が2匹。大きな一歩がゆっくりとサシャ達との距離を縮めていた
(考えろ考えろ!何か、何か策をっ…)
狩人の知恵、
自然に対する勘、
座学落第寸前の頭脳、
頼れる人間が周りにいない本当の意味での窮地の中、サシャは培ったそれらを脳内で巡らせていた。
(罠は…間に合わん。材料も足らん。撒くんも無理に近か。他は…他は…)
死、死、死、死、死、死、死、死、死。
サシャの思考の背景を占めるのはおぞましい程に具体性のある死の数々。
半身を食われたマルコ。潰された班の隊長。
身近な死、呆気ない死。
それら強烈なイメージが再びサシャを兵士から引きずり落とそうとしていた。
ふと、脳裏に過ぎる懐かしい記憶。
もう戻れない、小さな幸せ。
『サシャ!お前はずっと人の目を気にして、作った自分で生きてくつもりかよ!』
『いいじゃねぇか!お前はお前で!お前の言葉で話せよ!』
『もう!誰しもユミルみたいに無神経じゃないんだよ!』
『これがサシャが決めたサシャなんだから、今だってありのままの言葉でしょ?』
『私はそれが好きだよ。ね、セラスもそうでしょ?』
『え、俺?まぁ、俺はどっちのサシャも好きだよ。それら引っ括めてサシャ・ブラウスだし』
それは訓練兵時代の、何気ない会話の一場面。
けどそれはサシャの胸を巨人の恐怖から遠ざけた。
(思い出すのは、取りに足らない、いつもの日常……そんな、思い出ばっかり)
決意が固くなる。
サシャは少女の方を向き、言った。
「ねぇ、聞いて?」
少女は虚ろな眼で、そう言って微笑むサシャをただ見つめる。
「大丈夫だから、この道を走って」
『弱くてもいいから』と、気遣うように優しく問いかける。
少女は何も答えない。理解できない。
全てに絶望し、待ち受ける未来に希望はないと決めつけているかのように、ただ黙っていた。
「あなたを助けてくれる人は、必ずいる」
いる訳ない。少女は思った。
『そんなのがいたら母は助かっていた』、『足の悪い母は食われずに済んだ』、『期待を抱かせないで』と。
「すぐには会えないかもしれないけど、それでも会えるまで走って!」
少女は疑問を抱かざるを得なかった。
『分からないのになんで希望を抱けるの?』、『なんで諦めないの?』、『諦めた方が、楽なのに』と。
しかしそれらの言葉が口から出ることはなかった。無責任な言葉なのに、少女はサシャの言葉に耳を傾けてしまった。
「さぁ、行って!」
途端、少女は前方へと放り捨てられる形で引っ張る手は離され、呆然とサシャの方を見る。
「走って!」
その声が、自分を思ってのことだと実感し、少女の中で木霊する。
巨人に相対するように弓を引き、背中を向けるサシャ。
その光景が、行動が、少女の網膜を焼き尽くす。
「走らんかい!!」
足が動いた。生きたいと、少女は思えた。
だから走った。言われた通りに、後ろを向かずに、ただ走った。
懸命に、居るかどうか分からない『助けに応じてくれる人』を目指して、少女はただ足を早めた。
─────────────
side サシャ
走り去った少女を確認し、巨人に警戒する。
(巨人の顔が違う気がするけど…さっきは暗闇ん中やったし、気のせいかもしれん…)
(いや…今は目の前の巨人。両目ば潰せば、ぐっと時間ば稼げる。とにかく距離を取って、少し上から狙うっ!)
「ふっ!」
踏ん張る声と共に大きな段差を飛び越え、視線が4m級の巨人と同じぐらいの高さになる。
(狙うは…右目!)
弦に張った矢を手放す。同時に矢は巨人の頭部目掛けて飛んでいき、耳を掠める。
「ちっ…!外した…」
(あと2本!)
滴る冷や汗をものともせず、ただ眼前の巨人に集中する。
(落ち着け…あの獲物は、大きくて…)
やり慣れた狩猟をイメージし、再度矢の乗った弦を強く引く。
(動きが──のろい!)
放たれた矢が巨人の左眼球を射貫く。
巨人は受けた衝撃で微かによろけ、僅かに動きを止める。
(やった!)
心の内で希望が生まれ、同時に緊張が走る。
(あ、あと1本…もし、これを外せば…)
迫り来る現実に弓の持ち手が震え始める。指先は冷え、迫り来る巨人に対し狙いがブレる。
(逃げられない…外したら、私と…あの子がっ…)
「それだけはっ、だめぇ!」
いつの間にか弓を捨てていた。
「うぉおおおおっ!」
矢の中心を強く掴む。
気合いを入れ段差を超えてくる巨人の顔に突進し─────
「はぁあああああっ!!!」
やじりをもう片方の目に目掛け突き刺す。
ぶしゃー、と血が吹き出す音が上部から聞こえ、頬や手に生暖かいものが付着する。
「──なっ!く、ふっ……!…う、うぅ…」
しかし次はあちら側が両手で圧迫させるように抱き締める。
その拘束に、サシャは反応するように右手を顎に引っ掛ける。そして伸ばすと同時に上体を下げて、血の滑りを利用して抜け出す
(返り血で滑って助かった…とにかくあの子を捜さないと)
そのまま段差を滑り降り、先に走っていった少女の後を追うように走る。
(セラスも、こういう気持ちだったんですね。だから、あそこまで体ば張れたんですね)
身を挺して守って、自分を犠牲にする同期が脳を過ぎる。その彼に少し近づけたことに、サシャは心做しか高揚感を覚える。
(けど、さすがにあそこまではできませんが…)
・・・・・
「はぁ、はぁ、一先ず…危ない所は切り抜けたようですね」
走る速度を緩めず、しかし息を整わせるように呼吸の間隔を一定にさせる。
(運が良かった。今回は1体だったから良かったけど、もし複数いた、ら───複数?)
引っかかり。疑問。違和感。
敵は一体。
襲ってきたのを確認できたのは────────そう。一体のみ。
疑問は反例を受けなければ生まれてこない。
違和感は意識して考えないと浮かんでこない。
サシャを襲う酷い悪寒。見落としの予感。
フラッシュバックのように過去、違和感を覚えた場面が脳内でこだまする。
─────『嘘でしょ。もうこんな奥まで来てるなんて…しかも数が…!』
─────『巨人の顔が違う気が…さっきは暗闇の中だったし、気のせいやろ』
多種の巨人の足跡。
民家で遭遇した顔の違う巨人。
もし装備を整えていたら留めておけたかもしれない、山勘も働いたかもしれない。
「ア"ア"ァ"ァ"」
「ひっ───ごはっ…!」
脇に見える森を振り向いた次の瞬間、視界に現れる巨大な手のひらがサシャに襲いかかる。
「くっ…ふ…抜け、出せないっ…!」
咄嗟の出来事に整えてる最中の息が口から漏れる音が響く。
(巨人の接近に気づかなかったっ……あの足跡、顔の違和感、あの村には…巨人は複数いた…!)
まだ思考する余裕のあるサシャは、見に置かれている状況を整理する─────が、それも長く持たず、次第に息が荒くなっていった。
「あ"…かはっ…はっ…はっ…」
森の中から姿を表したもう一体の巨人は、サシャの首と体を掴み、その息苦しさの不快さが脳に伝達する。
同時に感じる、先程とは比べ物にならない程の、強烈な死の恐怖。
危機を越え、疲弊し、憔悴した精神に迫りくる越えられない絶望。
仲間はいない、仲間も、頼れる同期もいない。
「──ひぃっ…!」
とてつもない静寂は、自分の苦しむ声では紛らわせない。怖さを和らげるナニカも存在しない。あるのは果てしないまでの孤独。
眼前でこちらを見つめるは確定された死。
口は開かれ、徐々にその血生臭い方向へと向かっていく。
「ぃ、い…いや…い、や…ま、まってくださっ…!」
話は通じない。無意味なのはわかっているのに、首を横に必死に振る。
「だれかっ…!誰か助けてください!だれか…!」
泣く。鳴く。啼く。哭く。
必死に、僅かな可能性を信じて、自分の位置を知らせるように、声を張り上げた。
「たすけ…ぃや……じに…だぐ、な…い…!ひぐっ…だれか…!」
少女に希望を持たせたように、自身も最後の最後まで希望を捨てなかった。
────僅か数秒が経過した。
断頭台のように、巨人の上下の歯はサシャの腹部を捉えた。
視界は一面、巨人の口内だった。
誰のかも分からない髪の毛、血、骨。
そこは悲惨な墓場だった。
何度も願っても、結局何も起こらなかった。
誰にも、届かなかった。
神は、微笑むどころか、見てすらいなかった。
世界は────残酷だった。
(───────あ、涙)
散々声を張り上げて泣き疲れたのか。はたまたこの状況を受け入れたのか。ようやく頬に大粒の涙が伝っていることに意識が向いた。
(はは…ここまでか……あの子は、逃げられたんやろか…?いや、きっと助けられたはずや。あの子は…きっと無事や…)
(おかしな話やな…さっき言ったばっかなのに、結局セラスと同じことしとるんやから…まぁ、私はこのあと死んでしまうんやけどな)
(ずいぶん絆されたもんやな…最後に肉やなくて、人のこと思い出すなんてな…ほんと、らしくなか)
(お父さんに、会いたかったな…)
なんて、心穏やかな最期。
目を閉じる。
気楽で、流れてくる思い出に頬を緩ませる。
(あ、けど。さよならできなかった、なぁ)
瞬間。心にあったナニカが、サラサラしたものからドロドロになった気がした。
無意識に泣き疲れた喉が震えた。
連動するように、口が綻んだ。
「ひぐっ、せ、ぁぅ……せあすぅ…」
────────
────
─
しかしその声は、届いた。
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァ"!!!!」
肉を断つ聞き慣れた音、そして間近で発せられる咆哮に息を呑む。
痛みはなかった。
断たれたのは自分じゃない、らしい。
「……ぇ」
体の拘束が緩み、落ちていくのが分かる。
そのあまりの状況の変化に思わず顔を上げ、閉じていた目を開けた。
風で靡く濃い緑の布が、涙でぼやけた視界に映った。
それは巨人の手から落ちていく自分に素早く距離を詰めてきた。
「っ!…」
そんな馴染みのある声と同時に、抱き寄せられる感覚を覚える。
「はぁ…はぁ…ギリギリ、無事…だな。良かった」
来れるはずのない彼は、冷や汗を垂らしながら真剣な眼差しでこちらを見つめる。
「……セラ…ス…?」
夢を見てるようだった。
というわけでサシャ回でした。少し物足りないのでバタフライエフェクトらしきものを付け足してみました。
オリジナル展開作らないようじゃ無理か?オリジナル展開はね、作っとかないと。
え、にしては拙い?
今後に期待ってことで。
自信なさすぎて予防線張りすぎダサwとか思っただろ。
その通りだ。作者は弱虫で気弱なマンボウなんだ。蝶よりも花よりも、丁重に扱ってくださいお願いします。
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