こんだけのガスであんな動き出来るわけないだろ! 作:山崎春のご飯まつり
35、
サシャが食われる直前にうなじを掻っ切った。
悪い勘が当たった、だけどギリギリ間に合ったらしい。本当に、本当に良かった。
落ちてくサシャを受け止め、身体を確認する。
内傷はともかく目立った外傷は見えない、強いて言うなら少し巨人のヨダレが付着してて触りたくないぐらいだろうか
念の為再度サシャの様子を隅々観察する。すると何か物言いたげに彼女は口を震わす
「………ぇ、え?な、なんでセラス…?け、怪我は?と言うか、わ…私は、死んだんでしょうか…?」
掠れた声でそう言う。そういえば確かに4日前まで寝てたし、仕方ないだろう。
それはそれとして───
「ふむ…少し錯乱してるな」
「へっ…?ど、どういう……い、いふぁい!いふぁいでふふぇあふ!」
思いっきり頬をつねってやった。多分現実と夢の区別がついてない、よくあるやつだ
「少しははっきりした?」
「うぅ、酷いですよ…」
赤くなったところで離すと、つねられた所をさすりながら軽口を叩く。
「…ずびっ、セラスゥ…」
軽口のすぐ後、サシャは鼻をすすり涙をポロポロ零す。その様子に一瞬にして冷や汗が背中を網羅した。
「…サシャ?そんなに痛かったか?ごめ」
「ぅぅぅぅ……セラスぅぅぅ!!!!」
「へ?いや、待て待て!!その状態で突っ込んで来るんじゃ───デジャぶふぇ!!」
死にました。
◆◆◆◆◆◆◆
「いやぁ…あ、あははは」
「何呑気に笑ってんだよ」
あの後散々締め付けられるように抱きつかれた、ちなみに巨人の唾液が付着したまま、お陰でベッタベタだ。
漏らしてることを指摘しなければ今も抱きつかれていたと思うとゾッとする。
「それはそれとして、簡単に振りほどけなかったのが一番タチ悪い」
「ふふん、セラスは乙女の力を甘く見すぎです、よ!」
さっきの泣き顔とはうってかわり、自身を乙女と言い張る小便漏らし。気にならないのだろうか。
「失禁してる女は乙女とは言い難「そ、それ以上は!!」冗談だよ…」
嘘、冗談じゃない。ベタベタの恨みは晴らしてやる。生きて帰ったらジャンとコニーに言いふらしてやろ。
「そんなことは置いといて、立てるか?」
「えぇそれはご心配なく、足腰には自信が───あれ?」
「うおっと、まぁ流石に無理か」
体勢を崩したサシャの脇に手を潜り込ませ、胴体を掴んで抱き抱える。
独りで精神的支柱もなく頑張ったんだ、安心して腰を抜かすのは当然だ。
ヘラヘラした様子で彼女はこちらを向く。
「助かりました…」
「いや、よく頑張ったよ。サシャ」
「っ……はい、はい…凄く、怖かったです…」
さぞ寂しい思いをしたんだろう。優しめの言葉をかけると涙をボロボロ出す。
何か安心させられる言葉をかけてることが出来ればいいが……あ、そうだ
「けどもう大丈夫、死んでも守るから」
「いやぁ…それはちょっと」
泣きから引きへの見事な表情のグラデーションだ。俺があの域に達したのは前世の10代前半…
とにかくリカバリーをせねば
「………いやだな、冗談だよ」
「セラスが言うと冗談に聞こえないんですよ…」
くそ…どういうことだ…上手い嘘の付くときは本当のことを混ぜれば信憑性が増すんじゃなかったのか…?
いや、今の本心しか言ってなかったわ。てへ
「まぁ私も言えた口ではないんですけど、セラスはもう少し自分のことを────あっ!!」
何かを思い出したかのように顔を真っ青にするサシャ、あたふたとしながら周囲を見渡す。
「せ、セラス!近くでこれぐらいの背丈の女の子を見かけませんでしたか?!」
立ち上がり自分の腰に手を当てて言う。多分途中で会った裸足の子だろう
「そのことならもうすぐ見えてくるよ」
「え!?ほ、本当ですか!というかなんで知って…」
「ここに来る道中に見かけてね、俺の馬に乗って待機してもらってる」
実際あの子が居なければかなりやばい状況だった。来たことのない土地で個人を探せるほどの勘はないし、運が良かった
「なら早く向かいま「サシャ!」ん…?」
サシャを呼ぶ男の声へと目を向ける、そこには馬に乗っている数人。先頭のウェスタンハットを被った男が手を振る。
「お、お父さん!」
よく見ると隣には俺の馬とさっきの女の子がいた、助かった。
サシャの方は一段落ついたな。
────────
「君がサシャを…ありがとう」
サシャの父は帽子を外し、馬に揺られながらこちらに感謝をする。
だが俺はすかさずそれを否定し、サシャの方に注目を寄せる。
「俺は何も。それに何より一番の功労者はサシャです、褒めるなら彼女を」
「うぇっ、わ、私ですか?!」
器用に片手で馬の手網を持ち、自分を指さすサシャ。
父の目線は、彼女自身に向けられた。
「あぁ、勿論だ。サシャ……誇らしく思う」
「───なんや…小っ恥ずかしか…」
優しい微笑みをサシャに向け、照れながらもそう返答する。
この和やかな雰囲気を壊すようで申し訳ないが、忘れそうなのでひとつ聞いておきたいものがある。
「えっと、サシャのお父さん?土地関連で少し良いですか」
この先の展開上、俺がウドガルド城組と合流しないとかなり不味い状況になる。戦士長と呼ばれているジークを刺激したんだ、万全を期す可能性が高い。
「アルトゥルだ、そう呼んでくれ。勿論かまわない」
帽子を被り直し、こちらを横目に手網を掴む。
ウドガルド城。確か2つの地区、今回だとクロルバとトロストの間にあるはずだが…方角がよく分からない、周りに見知った建物がないから方向感覚が狂ってしまった。
そのことについてアルトゥルさんへ質問を投げかける。
「ウドガルド城って、ご存知ですか?クロルバとトロストの真ん中らへんにある城の跡地らしいですが」
「……聞いたことねぇな。あーだが、クロルバとトロストの間と言ったらあの方角だな」
そう言いアルトゥルさんは明後日の方角を指さす。助かった。
「セラスはその、ウド…ガルド城?に何か用があるんですか?」
その俺の質問に疑問を抱いたのか、サシャが問いかけてくる
「ナナバさん達に伝言があるんだ、団長からの」
「そうなんですね……えと…怪我は、もう大丈夫なんですか?」
「ん?あ、あぁ、問題ないよ。気にしないで」
怪我の心配をするサシャにそう言うと「治りが早いんですね」と感心した顔で納得する。
まぁ、もちろん嘘だが。
というかたったの6.7日で完治するわけないだろ、巨人じゃあるまいし。
最低でも2週間は必要だ。
嘘をつくのは心が痛いが…どうせウドガルドで死ぬ可能性が高いし、まぁ誤差だろ。
それはそれとしてさっきの振りかぶりで傷が何ヶ所か開いた、感情に身を任せた動きをする癖が未だに直らない。困ったものだ。
後で包帯を巻き直さないといけない、ウドガルド城でコニーに手伝ってもらうか。
「じゃあここいらで失礼するよ、気をつけて」
「えぇ。セラスも、気をつけてください!」
そうして俺は一人、群から抜けて教えてもらった方角へと馬を早める。
─────────
Side サシャ
「好青年やったな」
お父さんはそう言う。
セラスのことだろう、私もそれに一部同調するように言葉を返す。
「うん。ところどころおかしいけど、よか人や」
「………はっはっはっ!人ば怖がっとったやつが、人の愚痴たぁな!」
自分の中で正当な評価をしたつもりなのに、それを聞いたお父さんは笑ってしまった。何がそんなにおかしいのだろう
「サシャ」
「な、なによ?」
柔らかい声色で名前を呼ばれる。
久しく見てないその表情に違和感はあれど不快には決してならなかった。
「立派になったな」
「────うん。ただいま、お父さん」
◇◇◇◇◇◇◇
一人一匹、広い草原を駆ける。
「────独りで寂しく死ぬ、か」
今から死にに行く自分に、果たしてそう思える時が来るのだろうか、と問いかける。
何度か死にかけている自覚はあるが、その一瞬一瞬に他人の温もりや視線、思考を欲した自覚がない。
ただあるのは大切な人を守れたか否かの結果を欲する自我だけ。
その事実で俺の存在は証明される。
必要だったのか、不要だったのか、その結果が俺に、俺の存在に対する判断材料となってくれる。
けどサシャはもっと違う、世界と自分を繋ぎ止める何かが消えるのを怖がった。親子の関係、同期との関係、色々なものが彼女を寂しいと思わせた。
つまり死に際に感じる寂しさは、まだこの世界に繋がりを求めている証拠……この世界に対する未練の現れだ。
それが無い俺は、一体なんなんだろう。
この世界を、この世界に住む人々を、俺はどう見て、どう受け止めているのだろう。
俺は自分のエゴで存在しないシナリオを作った。ジークと接触してしまった。
だからサシャがあんな思いをしてしまった。
だからこれから起こるウドガルド城戦が心配でならなくなった。
正しいことをしているんだろうか。
結末を知らないのに、身勝手なことをして、この世界のことを軽く扱っていないだろうか。
俺自身が、俺の存在を否定していないだろうか。今までは自分に酔っていて、独りよがりで浅はかなだけだったんじゃないだろうか。
────この世界に、果たして俺の役目は必要だったのだろうか。
やめろ。違う。悲観的になるな。
俺の役目は、全ての知識と能力をもってより良い未来にすること。
誰かが決めたんじゃない。俺が決めたんだ。
俺に価値が無くなった時、潔く自決するなり巨人の餌になればいい。
だから今だけは。自分に価値があると断言できる今だけは、目的を見失うな、セラス。
それがこの世に俺が生まれた理由なんだ。
ドチャクソガンギマリにしてしまいました。後悔はありません。
しかしよくもまぁ雑みたいに扱ってもすぐ直る雑巾なりましたね。果たして兵長は喜んでくれるでしょうか?(鼻ほじ)
ちなみに最終回のプロットはできたんでご心配なく。
あとセラス君強すぎと思う方いらっしゃると思いますが、諸刃の剣という言葉が大好きでして、ちゃんとその意向に沿った形でパワーバランスを調節するつもりです。
ではさいなら。
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