特異114514課   作:特異ξ紳士

5 / 10
おまたせ、待った?(王者の風格)


5話:抜刀! 葛城蓮

 東京の夜明け前。

 まだ人々が活動をしていない時間に、三人は集っていた。

 

 場所は『Cocoa HABH』

 珍しくも、二十四時間営業の珈琲屋である。

 

 彼らは先日の仕事を思い返しながら、ここで一服している。

 

「はあ〜辞めたくなりますよ仕事〜」

 

 カフェラテを片手にそれを口に愚痴と共に含むのは鈴木。

 鈴木は、目の前で投降していた人が殺される、という場面を目撃してしまい意気消沈中であった。

 

 それでもカフェラテは優しく彼を包み込む。

 まろやかなミルクに溶け込む、ほろ苦い珈琲の余韻。

 柔らかな温もりが、舌の上で静かにほどけた。

 

「ぷっはあ〜。……おい木村、お前はどうなんだよ」

 

 鈴木に声をかけられる木村。

 どう、とは先のマキマの件であろう。

 

「僕は……その、まあ。仕方がなかったんだと思います」

「仕方ない〜? タクヤは殺されたのにか」

「はい、ですが確かに気持ちのいいものではありませんが……」

「じゃあどういうことだよ」

 

 鈴木は若干八つ当たりのように後輩を詰める。

 それでも木村は冷静に応答する。

 

「マキマさんの仕事……つまり僕たちデビルハンターの仕事は悪魔を狩ること。タクヤさんは人間でしたが悪魔と契約して悪用していた。それは事実です」

「それが納得いかねぇんだよ!」

 

 鈴木の拳がテーブルを叩き、スプーンが跳ねた。

 

「タクヤさんの件は……マキマさんの“合理性”そのものだった。僕らが正義感で揺らいでも——公安は結果で動く組織です……癪ですが」

 

 三浦は腕を組んだまま、沈黙を貫いている。

 彼の目の前にはブラックコーヒーが湯気をあげて鎮座している。

 

「三浦はん、三浦はんは今回の事どう思ってるんですか?」

 

 鈴木は三人の中で最年長の先輩に声をかけた。

 三浦は静かに、目を瞑ったまま神妙に座する。

 

「……三浦はん?」

「先輩……?」

 

 鈴木と木村は、三浦のことを真剣な表情で眺める。

 

 三浦の目の前に置かれたブラックコーヒーの湯気が揺れる。

 そしてその香りが三浦の鼻元を掠めた瞬間――。

 

「おいちょい砂糖出せ」

「えっ……あ、はい」

「よし、じゃあぶち込んでやるぜ!」

 

 小瓶に入っていた角砂糖をひっくり返すと、全部ブラックコーヒーに溶かし込んだ。

 

「み、三浦はん?」

 

 鈴木の困惑したような声。

 三浦は鈴木の方を向くと……。

 

「いいゾ^〜これ。甘くて口の中でカフェインが引き締まるゾ」

 

 嬉しそうな顔を浮かべ、ゴクゴクもはや砂糖水を摂取する三浦。

 

「三浦はん! 話聞いてました⁉︎ 今俺たちすっげえシリアスな話してたんですけど‼︎」

「……? ポッチャマはコーヒーがいい感じの温度になるのを待っていただけゾ?」

「はあ⁉︎ これだから三浦はんは困るんですよね〜肝心なところで役に立たないから」

「あっ、おい待てぃ! 聞き捨てならないゾ、ポッチャマとやる気かゾ? 鈴木ィ」

 

 両者立ち上がり剣呑な雰囲気が流れる。

 一触即発なその空気。

 

 木村は慌てて二人のあいだに身を滑り込ませた。

 右手で鈴木の胸を押し返し、左手で三浦の肩を制する。

 

 その顔は、怒りでも呆れでもない――ひたすらに、疲れていた。

 

「いい加減にしてください……もう……」

「ぐっ、KMRァ! お前この喧嘩止めようとしてるだろ」

「なんで喧嘩する必要なんかあるんですか(正論)」

「あっ、そっか……(納得)」

 

 正論で一刀両断され、三浦は黙った。

 鈴木も口を尖らせながら椅子に腰を落とす。

 

 しばらく、静けさが店内を包む。

 BGMのジャズ(迫真)が、心地よく反響していた。

 

「……それにしても」

 

 と、木村が小声でぽつり呟く。

 

「この店……なんか、妙じゃないですか?」

「はぁ? どこがよ?」

「……気づいてないんですか? 先輩」

 

 木村が控えめにチラチラと目線で視線誘導をする。

 その先には、淡いエプロン姿の店主がいた。

 

「……帯刀してますよ、あの人」

 

 木村の呟きに、鈴木の目が点になる。

 

「たい、とう……って、おい、刀か⁉︎」

「静かに……! はい。腰の左、エプロンの下から微かに鞘が覗いています」

 

 緊張が高まっていく。

 三浦も黙ったまま、カップの縁からそっと視線だけを送る。

 たしかに、カウンター奥に立つ店主――その腰には、長物らしき“黒い柄”が、エプロンの隙間からちらりと見えていた。

 

「飲食店で刃物を持ってるって、包丁の話じゃないだろうな……?」

「いえ、あれは――日本刀ですね」

「……くせぇな」

 

 鈴木が低く唸るように言った。

 三浦も同意するように小声で話す。

 

「一般人が刀を帯びてたら“銃刀法違反”案件だゾ」

 

 木村は頷く。

 

「歩き方も妙でした。あの人、右足を出すときに、必ず半歩引くクセがある。あれ、居合の構えを身体に染み込ませてる人間の動きです」

「ただの元剣道部とかじゃないのか?」

「で、あればいいのですが……」

 

――その時、店主がこちらに振り返った。

 

「……!」

「お客さん、どうかしましたか?」

 

 店主からの言葉、それに鈴木が代表して答えた。

 

「その……刀が、刀みたいなものがあるんですが。それ何かな〜って?」

 

 すると店主はニコリと笑い、「ああ、これですか」と言うと。

 

「これはねえ……なんか最近買ってみたんですよ」

「か、カッコいい(適当) すごい、やっぱ振り回してるんですか?」

 

 鈴木からの曖昧な感想にも、嬉しそうな笑みを浮かべると。

 

「いや、振り回すと捕まっちゃうんで。室内の中でだけですね……」

 

 店主は懐かさと悲しさが混じった顔を浮かべた。

 

 三人は、その表情に言いようのない違和感を覚えた。

 笑っているのに、目が笑っていない。

 

 どこか、空っぽな決意のようなものが、そこにはあった。

 

 木村が静かに身構え始めるのを、三浦と鈴木も気配で察する。

 店主――いや、“この男”は、確実に何かを隠している。

 それは、刀の存在だけではない。

 

 カラン、と厨房の扉が揺れた。

 その音に誘われるように、店主はゆっくりとカウンターから出てきた。

 

「実はね……君たちに、ずっと会いたかったんですよ」

 

 その言葉に、三人は一斉に椅子を引いて立ち上がった。

 店内のジャズが、少しだけ音を外した。

 

 まるで、それが“合図”だったかのように。

 

「鈴木さん、三浦さん、木村くん――でしたよね?」

 

 男は名指しした。

 その声音は、優しさすら帯びていた。

 けれど、それ以上に――冷たい熱を孕んでいた。

 

「……誰ゾ、お前」

 

 三浦が低く、短く問いかける。

 

「蓮……。おじさんはね、タクヤさんの親友なんだ」

 

 その名を聞いた瞬間、空気が変わった。

 鈴木が一瞬だけ息を呑む。

 膨大な殺意がこちらに向けられている。

 

「タクヤが死んだって、聞きましたよ」

 

 蓮――かつてのタクヤの親友を名乗る男は、

 エプロンの腰帯をほどきながら、静かに言葉を続けた。

 

「しかも……投降した後に殺された。そんな話を、どこかで耳にしてね」

 

 布が地面に落ちる音がした。

 同時に、鞘が露わになる――。

 

ガシャリ。

 

 蓮の手が、鞘に添えられる。

 その刹那、珈琲の香りを引き裂くような、金属の冷たさが漂う。

 

「ずっと考えてたんです。……公安ってのは、そういうもんなんですかね」

 

 静かな語り口だった。

 けれど、その声音の底には――煮え立つような怒りが潜んでいた。

 

「正義とか、任務とか、合理性とか……あんたらの言い訳、ひと通り聞いて、頭では理解したんです。でもね――」

 

 刀の柄を、ギリ、と握る蓮。

 

「――心は理解を拒んだままなんですわぁ!」

 

 ギャリィッと音を立てて、刀が一寸、鞘から抜ける。

 その音に、鈴木が反射的に指を鳴らし、警戒態勢に入る。

 蓮は口角を上げたまま、だが目は血のように赤く染まっていた。

 

「怒らしちゃったねぇ! 俺の事ねぇ! おじさんの事本気で怒らせちゃったねぇ‼︎」

 

 声が裏返る。

 喉の奥から、怒りと喪失と狂気が一気に噴き出した。

 

 鈴木が覚悟を決め、静かに問う。

 

「珈琲の代金は……」

 

 ニヤリと蓮は笑う。

 憎しみと狂気のまま。

 

「命‼︎ あんたらには命で支払ってもらおうかなァ!」

 

 銀閃。

 抜刀一閃。

 

 鈴木がとっさにカウンターを蹴り飛ばして防ぐが、木端微塵に弾け飛ぶ。

 

「なっ⁉︎ こいつマジだ‼︎」

「全員構えろゾ! こいつ、相当な手練だゾ‼︎」

「はい……!」

 

 三人は即座に散開した。

 公安デビルハンターとしての本能が、戦闘の幕開けを告げていた。

 

 

 蓮の一撃――。

 抜刀からの斬撃は、鈴木の頬をかすめてカウンターの奥を薙ぎ払った。

 

 棚ごと吹き飛び、グラスが木っ端微塵に砕ける。

 コーヒー豆の袋が破れ、店内に焙煎の香りが一斉に舞った。

 

「クッソ、やべえゾこいつ!」

「当たり前ですよ、真剣持って突っ込んできてんですから!」

 

 蓮は二の太刀を振り抜く。

 刃が空を裂き、ついさっきまで三浦が座っていた椅子の背を斜めに断ち割った。

 

 木屑が飛散――その向こう、鈴木が拳を固めて踏み込む。

 

「喰らええッ‼︎」

 

 渾身のボディブロー。

 蓮は左肘で受け止めたが、肉に鈍い衝撃が走る。

 その瞬間、木村が側面へ跳び込み、テーブルの脚で蓮の膝裏を払う。

 

「っ……!」

 

 僅かにぐらつく足腰。

 そこへ三浦のアッパーが刃の下から突き上げられた。

 

 鉄槌のような拳――。

 しかし蓮は首を捻り、肩で受け流すと同時に鞘で三浦のこめかみを殴打する。

 

「ぐはッ!」

 

 三浦が大きく横転した。

 その間に蓮は体勢を整え、再び真剣を構え直す。

 息は荒いが、殺気はむしろ鋭さを増していた。

 

「三人がかりでその程度か…! 友を失った痛み――お前らじゃ測れねえ!!」

 

 蓮の足が床を蹴り、滑るように接近してくる。

 突きの初動を読んだ鈴木がカウンターを狙い拳を振るが、刀身がわずかに軌道を逸らし、鈴木の腕に血線を刻む。

 

「ちッ…!」

 

 燦と血が吹き出すが、鈴木はそれを気にせず次の攻撃へと移る。

 

「おらよっと!」

 

 鈴木が肘で刃を押し下げつつ膝蹴りを浴びせた。

 蓮は刀の鍔元で受け止めたものの、胸に衝撃が残る。

 

 からの追撃の前蹴り――追いの木村、加速します。

 

「はっ、そりゃ‼︎」

 

 木村の体術は無駄がない。

 つま先が蓮の右脇を抉るが、蓮は痛覚を抑え込み、木村の足首を掴んで投げた。

 

ガッシャン!

 

 木村が棚を割って転倒する。

 それでもすぐ起き上がり、割れた受け皿を逆手に取った。

 

 ひゅん、と木村が皿の破片を投げつけ、蓮の視界を奪おうとする。

 目を保護するために一時的に腕で顔を隠した蓮に隙が生まれた。

 

「今だゾ‼︎」

 

 機を見計らっていた三浦が突進を敢行する。

 拳ではない、両腕でのフルタックル。

 

 蓮の上体が大きく仰反る。

 からの刀が振り下ろされる――前に、鈴木が飛び膝蹴りを叩き込んだ。

 

ゴッ!

 

 蓮の手から刀がこぼれる。

 銀色の軌跡が床へと突き刺さった。

 

 しかし蓮は倒れない。

 鼻から流れる血を袖で拭い、鬼火のような眼で三人をにらみつけた。

 

「真ん中来いよ、えぇ!? 真ん中来いよ!!」

 

 叫びと同時、彼は床を蹴り――。

 あえて刀を拾わず、“拳一つ”で中央へ突っ込んで来た。

 

 鈴木が構えて踏み込む。

 右の振り抜きと蓮のストレートがぶつかり、鈍い衝撃音――鈴木は半歩退きつつ、すかさず左ショートアッパーを顎先へ滑り込ませると、蓮の首が跳ねる。

 と同時に、鈴木の身体は遠く床に投げ飛ばされる。

 

「チッ……!」

 

 続いで木村が低い姿勢のまま滑り込み、胴回し蹴りを放つ。

 乾いた骨鳴りとともに蓮の肋骨がきしむ音がする。

 

 しかし蓮は蹴り足を抱え込み、逆足のカーフキックを木村の脛へ叩き込んだ。

 木村が肩から転倒し、「がはっ……!」着地の瞬間。

 木村は反射的に転がったテーブル破片をつかみ、蓮の脛へ突き立てた。

 

「ぐあっ⁉︎」

 

 木の棘が肉に食い込み、蓮が短く呻いた。

 再び三浦が猛然と距離を詰めていく。

 それは三浦の硬い骨を使った頭突きである。

 前傾姿勢から鋭く鈍い一撃を喰らわさんとする。

 

「興奮させてくれるねぇ!」

 

 蓮は前腕で頭突きを受けた。

 だが三浦はそのまま組み付き、押し潰さんばかりに体重を預ける。

 そしてそのままタックルで蓮を抱え込み、カウンターへ叩きつけた。

 割れた食器が跳ねる。

 

 意識が一瞬混同して動かぬ間に、木村と三浦は蓮の身体を押さえ込む。

 蓮の激しい抵抗が訪れるかその瞬間――鈴木が現れ……。

 

ゴンっ!

 

 みぞおちに一発、マッハの勢いで拳を蓮の腹にめり込ませた。

 

 ビクリと蓮の身体が一瞬痙攣する。

 と同時に、ぐったりと肉体はぐったりと抵抗を失った。

 

 

---

 

 

「やりましたね……やりますやります……」

「意識は失ったみたいだゾ」

「これで一件落着ですね……」

 

 三人とも、制服は一部裂けたり、肌は血で滲んでいる。

 息をぜえぜえとついており、いかに今回の戦いが大変だったかを物語る。

 店内は破損した棚や椅子やテーブルに皿でいっぱいだ。

 

「で、“コレ”どうします?」

 

 鈴木はぐにゃあと身体を弛緩させている蓮の方を指差した。

 

「どうもこうも、公安に引き渡すしかないゾ」

「でも悪魔使いではないですよね? この場合は警察なのでは?」

 

 三浦と木村がどちらに蓮の身を引き渡すか考えている。

 

――その時だった。

 

 チリンチリンと鐘が鳴る。

 

「ふぉっふぉっ……蓮がやられるとは、大したものよ」

 

 突如謎の人物が入ってきて、三人の元に近づいてきた。

 そして三人の誰もが気付かぬ間に、不意にすっと顔を近づけてくると。

 

「ふむ……公安のデビルハンターくんたちはがわ“い”い“な”ぁ“」

 

 そんな奇妙なことを口走ってくる。

 三人が困惑していると。

 

「ふぁっ⁉︎」

「いつの間にゾ⁉︎」

「……‼︎」

 

 ほんの瞬きの間、視界がコートの裾で遮られ──。

 その刹那、蓮の姿が消えていた。

 

「ワシの名前は平野源五郎、また会う日があれば幸いじゃな。若き公安のデビルハンターくんたち。さらばじゃ、次に相まみえる時は……敵じゃなければいいのう」

 

 平野と名乗る謎の人物は、そう言い遺すと、影ごと輪郭を失い――店から掻き消えた。

 

 

 開きっぱなしのドアが、夜明け前の風にきい、と軋む。

 冷えた珈琲の匂いの中、三人はその風が背を押すまで動けなかった。

 




マキマがラスボスなのか、平野店長がラスボスなのか……もうこれ分かんねえなあ?

助けてチェンソーマン!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。