特異114514課   作:特異ξ紳士

8 / 10
8話:マキマを殺せ

 鴨川の河川敷。

 

 “血域“が崩壊し、鈴木は元いた位置に戻っていた。

 

「くぅーっ! 中々面倒な相手だったな……」

 

 そして道には、“血域”で見かけた女の子の死体が横たわっている。

 

「……南無」

 

 アナルアサシンは撃破された。

 同時に、血の悪魔も封じ込めた。

 しかしなぜだろう、勝った気がしなかった。

 左足はいまだ血を滴らせている。

 

「やっぱり、民間人が犠牲になるのはキツイな……」

 

――その時だった。

 

「げほっ……げほっ。うぬの攻撃は最悪じゃのう」

 

 死んだはずの少女の身体が動き出す。

 鈴木は「二連戦目かよ……!」と愚痴りながらも姿勢を整える。

 だが、それは杞憂だったようで。

 

「なに、うぬはワシのことをまた糞だらけにする気か?」

「…………何者だ」

 

 鈴木は警戒を強め、死体であった少女に気をゆるさない。

 

「ふむ、いいだろう! 名乗ってやるのもやぶさかではない。ワシの名前はパワー! 今さっき、うぬと戦っていた者に力を貸し与えていた世界サイキョーの悪魔じゃ!」

 

 つまり状況を整理すると。

 先ほど倒した血の悪魔が、死体に乗り移ったというわけだ。

 

「魔人か」

「そうとも言うのか?」

「魔人だな」

 

 鈴木は考え込んだ。

 血の悪魔が少女の死体に乗り移ってしまった。

 放置するわけにもいかない。

 

「おい、パワーって言ったか?」

「様をつけよ人間」

「俺について来い」

「いやじゃ」

「じゃあ、死のうか」

「そ、それはダメじゃ!」

「じゃあついて来い」

「……仕方ないのう」

 

 そういうわけで鈴木は、この少女(魔人)を一旦、連れて帰ることにしたのであった。

 

 

 京都デビルハンター分室にて。

 

「かくかくしかじか、これが血の悪魔みたいです」

 

 鈴木は上司であるマキマに報告を行っていた。

 紅の髪の上司は、それを淡々と聞き、処遇を判断していた。

 

「わかりました。では、このパワーちゃんは一旦私が預かりましょう」

「イヤじゃ」

「じゃあ……殺される?」

「それもイヤじゃ!」

 

 マキマとパワーが問答を繰り広げている。

 鈴木は間に口を開いた。

 

「あの〜マキマはん。その娘……は保護してやってください」

「でも、君が殺してもいいんだよ?」

「それは、その……。何というか」

「あっ、ふーん……(察し) 鈴木くん、この娘に“情”が湧いたんだね?」

「そ、そういうわけじゃ!」

 

 こほん、とマキマが咳をつく。

 

「鈴木くん、君。大事なこと忘れてない?」

「大事なことって一体……」

 

 鈴木は考えを巡らせる。

 アナルアサシンは倒した、死体の少女にも悪魔が宿った。

 他に見落としていることは……。

 

「あっ‼︎ 三浦と木村がいない!」

「そうだよ?」

 

 こくりと首を傾げる可愛らしい姿。

 だが鈴木はそれどころじゃなかった。

 

「あいつらまさか……! 俺のこと置いて帰ってたりしてませんよね⁉︎」

 

 もしかすると、自分の姿が消えたあとに特に気にすることもなく、京都でお土産を漁ったあとに、二人仲良く新幹線に乗って先に東京に帰ったんじゃなかろうか。

 そんな疑念が鈴木の中で生まれる……しかし。

 

「いいえ、違います」

 

 鈴木は安堵した。

 自分を置いてくなんて薄情な事はなかったのだと安心した。

 

「よかった……じゃあ、二人はどこに?」

 

 当然の疑問。

 

「……聞きたい?」

「それは、もちろん」

 

 するとマキマは仏頂面のまま、しかし僅かに微笑みこう答えた。

 

「現在二人の消息は不明です。ちょうど君がAAと戦い始めてから」

「……消息不明⁉︎ ど、どういうことですか! マキマはん⁉︎」

 

 鈴木はマキマに詰め寄る。

 するとマキマは胸ポケットから“とある手紙”を取り出した。

 

「はい、これ。君宛てのようです」

 

 鈴木は急いでそれを読む。

 

『二人の身柄は頂いた。返して欲しければ地図に示したところまで来るといい。もちろん、タダというわけにはいかない。制限時間は明日の朝、8時10分まで。条件は、“マキマの死体”を持ってくること。間に合わなければ、二人の命は無い。――平野源五郎より』

 

「──って、どういうことだよコレぇぇッ!」

 

 鈴木は震える手紙を机に叩きつけた。

 インクがにじむ地図には赤×、そして “8 : 10” の手書き。

 マキマは肩を竦めると、パワーの角をそっと掴んで横へどかす。

 

「落ち着いて。まず状況整理だね」

 

1. 誘拐犯:平野源五郎。

2. 要求:三浦・木村の命と引き換えに、マキマの死体。

3. 期限:明朝8:10、地図に示された場所。

 

 書面はただそれだけだった。

 

「ふざけやがって……!」

 

 憤怒のあまり、鈴木の顔はまるで仁王のように変化する。

 

「――で、どうする? 鈴木くん」

 

 静かな声に、鈴木の拳がきしんだ。

 

 

---

 

 

 一方その頃、三浦と木村はというと……。

 

「おいKMRァ! 起きろゾ‼︎」

「……うーんむにゃむにゃ。何で起きる必要があるんですか(眠り声)」

 

 謎の部屋に閉じ込められていた二人の内、先に意識を復活させていた三浦が、後輩の木村を起こそうと必死になっていた。

 

「いいから起きろゾ! ――プッ! よし、これできっと目覚めるゾ」

「ん? 何を……ってく、くっさっ――!」

「もう一発いくかゾ。――ブッ!」

「ちょ先輩! 何してるんですか⁉︎ やめてくださいよ!」

 

 木村は半ば咳き込みながら上体を起こし、周囲を見回した。

 

「ここは……まさか」

「そう、そのまさかだゾ」

 

 ――畳敷きの床、壁は年月で黄ばみが増した薄茶色の板張り、壁際には布団が三つ、乱雑に積まれていたここは、“過去”に汗を流した懐かしの。

 

「……これ、僕たちの“部室”じゃないですか」

「そうだよ(同意)」

 

 木村はハッとすると、手を狐の形にしてみた……が。

 

「契約が……繋がらない」

「ポッチャマもだゾ。これは完全に閉じ込められているゾ〜これ」

「そんな呑気にしている場合じゃ……」

 

 と――部屋の奥の方から扉が、何者かによって開けられた。

 

「起きたようだね、二人とも」

「「なっ……!」」

「私の名前は平野源五郎。君たちを攫ったのだよ」

 

 平野源五郎。

 声は柔らかいが、吊り上がった口角が薄く嗜虐の色を滲ませていた。

 彼は部屋へ一歩踏み込み、懐から小ぶりな懐中時計を取り出す。

 

「午前1時14分。――“鍵”となる君たちが無事で何よりだ」

「テメェ……俺らをどうするつもりだゾ」

 

 三浦が低く唸る。

 

「どうもしないさ。ただ待ってもらうだけだよ。鈴木くんが“正しい土産”――マキマの首をここへ届ける、その刻限までね」

 

 そして平野は微笑だけを残し、障子の向こうへ消えた。

 再び閉ざされた室内で、二人は薄い呼気を重ねる。

 

「……どうします、先輩」

「決まってるゾ。ここから脱出する策、捻り出すゾ」

 

 

---

 

 

 ――で、どうする? 鈴木くん。

 

 マキマの問いは淡々と落ち着いていた。

 けれど鈴木の胸を打つ鼓動は、耳鳴りのようにうるさかった。

 

 時計を見れば時刻は午前1時14分。タイムリミットの “8:10” まで、残りは七時間半しかない。

 

「二人を見捨てるなんて出来ねぇ。でもマキマはんを殺すなんて――」

 

 思考が空回りし、拳は震えたまま机を握りしめる。

 すると、マキマは人差し指を口元に当て、いたずらっぽく微笑んだ。

 

「殺せないんだ、仲間のためなのに」

 

 拳がきしんだ――その瞬間、鈴木は机上の書類押さえる、ずしりと重い真鍮の塊を無意識に掴み上げていた。

 肉厚の金属塊。

 中央には公安デビルハンターの紋章が彫り込まれている。

 脳裏を灼くのは「三浦」「木村」の二つの名前だけ。

 思考より先に脚が動き、金属を握った右腕が振りかぶられる。

 

 殺して奪うしかない。

 

 床板を蹴った瞬間、世界の色が一段濃く沈んだ。

 マキマは正面を向いたまま小首を傾げている。

 鈴木は二歩で目の前により、振り下ろす――はずだった。

 

 ――が。

 

 がしり、と腕が途中で止まった。

 いいや止められた、との表現が適切かもしれない。

 心臓が一拍遅れて脳天を叩き、視界が脈打つ。

 

「鈴木、マキマを殺すのは今じゃない」

 

 その声に振り向くと、そこには――。

 

「き、岸辺はん……」

「その気概は嫌いじゃない」

 

 最強のデビルハンター、岸辺が鈴木の腕を掴み立っていた。

 

 真鍮塊を握った鈴木の腕を、岸辺のごつい指がぎゅっと挟み込む。

 爪が食い込み、骨まで冷えるほどの握力――その一瞬で殺気が宙へ抜けた。

 

「落ち着け。お前は今、冷静さを欠いている」

 

 蛍光灯が一瞬だけチカ、と瞬いて静まる。

 深夜の分室は窓の向こうで降り始めた小雨の音を吸って、しんと冷えていた。

 岸辺は鈴木の手首からそっと力をゆるめ、掌の真鍮を机に戻させると、ポケットからスキットルを取り出した。

 蓋を開ける金属音がやけに大きく響く。

 

「飲むか?」

「……いりません」

 

 鈴木は乾いた声で断る。

 拳を握り直すたび、汗がにじむのを鈴木は感じていた。

 岸辺は一口だけアルコールをあおり、喉を鳴らす。

 

「どうして……岸辺はんが京都に?」

 

 鈴木はようやく落ち着いてきた脳みそから言葉を搾り出す。

 

「酒を飲んでいると、急に旅行に行きたくなる時がある」

「は、はぁ」

「アルコールは頭のネジを緩めるのに丁度いい」

「そ、それで……?」

「歳を取ると情が湧く……」

 

 岸辺の言葉は支離滅裂だ。

 鈴木は岸辺が何を言っているかよくわかっていない。

 だが一つ確かなのは……。

 

 

「――お前らを助けにきてやった」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。