ゲマトリア所属の強欲の権化   作:ぬこぱんち

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第一章:ゼロから始める強欲生活
ノミ以下になった今日この頃


 

 目を覚ましたとき、最初に感じたのは喉の乾きだった。

 

 まるで砂を飲んだかのような渇きが、喉から胃にまで張り付いている。

 

 唾を飲み込もうとしても焼け石に水で、空気がただ熱く、乾いていた。

 

「……っ、は……」

 

 声にならない声を漏らしながら、僕はゆっくりと身を起こした。

 

 背中に感じたのは、冷たく、ざらついた感触。

 

 薄暗い視界に映るのは、荒れ果てた室内。天井はひび割れ、壁の一部は崩れ落ち、窓枠にはガラスの欠片がかろうじて引っかかっているだけ。

 

 ここがどこなのか、思い出せない。

 

 だが、それ以前に──

 

「……なんだ、この体……?」

 

 喉の乾きよりも厄介な異物感が、今度は自分の“中”から湧き上がってきた。

 

 自分の手を見下ろす。指先まで綺麗に整っていて、色白すぎるほど白い。

 

 触れた顔の皮膚は冷たく、まるで血が通っていないようだった。

 

 感覚は確かにあるのに、どこか“自分”ではない。自分の体なのに、自分の体じゃない。

 

 立ち上がろうとすれば、膝が思うように曲がらない。無理に力を込めると、ぎこちなく立ち上がれた。壁に手をついてバランスを取りながら、乾いた息を吐く。

 

「……これは、夢か……?」

 

 呟いた声は落ち着いていて、大人びていて、どこか冷ややかだった。

 

 それだけで背筋がひやりとする。

 

 ふと足元に目を落とすと、砕けたガラスの破片がひとつ。

 

 比較的大きめな欠片を拾い上げ、己の顔を覗き込む。

 

 映った男は、どこにでもいそうで、どこにもいないような顔だった。

 

 中肉中背を絵に描いたような体格。

 

 長すぎず、短すぎず、奇抜に整えられていない銀髪。

 

 白を基調とした服装は、華美でも貧相でもない。

 

 顔立ちは整っている。だが、印象には残らない。

 

 街中ですれ違えば十秒で記憶から抜け落ちるような、凡庸そのものの青年。

 

「……誰だよ、お前は……」

 

 鏡面に映る男に問いかける。だが返ってくるのは、己の声。

 

 しかし、間違いなくどこかで見たことのある顔だ。思い出せそうで思い出せない。

 

 ゲームだったか、アニメだったか。目の奥がざわつく。

 

 ──そして、そのざわめきの奥から浮かび上がってくる名前。

 

『レグルス・コルニアス』

 

 それは、突拍子もない名前のようでいて、不思議なほどしっくりときた。

 

 まるで、その名前が“魂の名前”であるかのように。

 

「まさか……僕が……」

 

 呆然と呟く。喉の渇きも、周囲の廃墟も、今はどうでもよくなった。

 

 自分の中にある確信だけが、どうしようもなく不快で、それでいて胸の奥を染めていった。

 

 ──僕は、『レグルス・コルニアス』になっている。

 

「いや、そうはならんやろ」

 

 我ながら情けないほど小さな声だった。

 

 当然、返事など返ってこない。誰もいない。廃墟の中は、再び乾いた静けさに包まれていた。

 

「いやいや、待て待て。こんな漫画みたいな話……。寝て起きたら異世界で、気づいたらレグルス・コルニアスって……」

 

 声に出してみても、現実が変わるわけでもない。

 

 鏡の欠片に映る銀髪の男は、黙ってこちらを見返しているだけだ。

 

「だいたい、よりによってレグルスって……! 他にいただろ、もっとかっこ良くて、強そうなやつが……!」

 

 それこそ、あの赤髪の剣聖とか。

 

 僕は思わず天を仰いだ。だが、そこに見えるのはひび割れた天井だけ。視線の先には、神も仏もいない。

 

 自覚するしかなかった。

 

 ──僕は、ノミ以下になってしまったんだって。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「……水だ。とにかく、水」

 

 喉が──とにかく乾いている。

 

 思考を言葉にしたことで、かえってその渇きがはっきりと自覚された。

 

 ここがどこで、なぜこんなことになったのか。そんなことよりも、まずは生理的な欲求が最優先だった。

 

 ふらつく足取りで、廃墟の扉を押し開ける。ミシリと軋む音とともに、外の世界が現れた。

 

「───────………………は?」

 

 ……そこは、どこか見覚えのある砂漠だった。

 

 ただ、すぐ近くには整然と整った街並みに、無機質なコンクリートとガラスのビル群。道端では生徒風の少女たちが銃を背負って走っている──

 

 ──銃を背負って走っている?

 

 突如として、視界の端で信号を無視して突っ込んできた車を、武装した少女が片足で蹴り飛ばすのが見えた。

 

 空中で車がスローモーションのように舞い、隣のビルの看板をへし折って落ちる。

 

 そして、その側では身に付けている銃を乱射し、叫び声を上げている見るからにヤバい女子生徒も見える。

 

「……ぶるー、あーかいぶ?」

 

 こんな事が起きても、警察も来ない、通報すら起きない。

 

 この、狂った世界の“日常”としてそれは成立していた。

 

 先程の女子生徒達の頭上には、なにか輪っかのようなものが浮かんでいた……そう、ヘイローだ。

 

『ほら、このキャラが空崎ヒナだよ。あだ名でゲヘナシロモップと言われていて可愛いんだよ。ほら、ヘイローもでかくてかっこいいだろ?しかもこれで3年生でブルアカの中で最強キャラでさあ──』

 

 前世の頃の友人の声が、遠い記憶の中から引きずり出される。そうだ、そういえば一度だけ、そんな話を聞いたことがある。

 

 ──そう、ブルーアーカイブ。確か、友達がやたら勧めてきたゲームの名前だった。

 

『透き通る世界とは裏腹に、美少女版GTAみたいなもんって言われてるらしいぜ。一般人だったら秒で死ぬかもしれんって言われてる』 

 

『物騒すぎないか?』

 

 そんな物騒な紹介をされたせいで、結局手を出すことはなかった。日常も忙しかったし……でも、結局少し気になって、ティザーPVだけ見た記憶がある。

 

「……ここ、ブルーアーカイブの世界なんだな……」

 

 こんなことなら、もっと予習するべきだった。

 

 完全に現実を突きつけられ、頭が重くなる。

 

 しかし、喉の乾きがそれを許さなかった。どんな地獄だろうが、水がないよりはマシだ。

 

「あの某ゲームでももうちょっと倫理感があるぞ……」

 

 こんな狂った世界に閉じ込められて、どうすれば生き延びられるのか。

 

 ただ歩くだけで弾が飛んでくる。生徒同士の争いの中で、こちらを見向きもせず、ただ銃を撃って楽しんでいる様子が目に入る。まるでゲームのNPCのように、無意味に暴れている。

 

 決して目立ってはいけない。

 

 銃声が響く方からはなるべく遠ざかりながら、こっそりと歩いていくしかない。

 

 足を速めることなく、冷静に、できるだけ目立たないように進む。

 

 銃声が鳴り響く中、進むべき道を選びながら、周囲に注意を払い、影に隠れるように歩き続ける。

 

 そうして少し歩き続けると、見覚えのある白と青の看板が見えてくる。コンビニだ。もと居た世界と外観は違うが。

 

 幸運にも先程の暴動に巻き込まれた建物ではなく、ドアもちゃんと機能して自動で開いた。

 

「……普通のコンビニだよな?」

 

 店内には商品がずらりと並び、明るい蛍光灯の下でごく当たり前に営業している。

 

 冷蔵庫を開け、無造作にミネラルウォーターを一本手に取る。

 

「……で、金は……」

 

 ふと、ポケットに手を突っ込んでみると、何かが入っていた。スマートフォンだ。

 

 スリープを解除すると、なぜか顔認証が通り、ロックが外れる。

 

「顔パス……?そんなもの設定した記憶ないんだが?」

 

 アプリ一覧の中には見覚えのないクレジットアプリがひとつ。そういえばこいつ金持ってるんだろうなと思いつつ、恐る恐るタップしてみると──

 

「……は?」

 

 表示されたのは、“残高:1,273,985,440クレジット”。

 

 ざっくり12億。宝くじ1等当てたら貰える金額だった。

 

「レグルスって、どんだけ資産持ってんだよ……!」

 

 今の自分はレグルスだろうが、何言ってるんだ。

 

 そんな混乱の中、水を持ってレジへと進み、セルフレジで購入を済ませる。

 

 端末が「ありがとうございました!」と無機質な声で告げ、袋詰めされた水が自動で出てきた。

 

 そして、コンビニから出て、どこかで落ち着ける場所はないかと歩き出す。少し歩いた後、視界の先にちょうどよくベンチがあるのが映った。

 

 僕はそのベンチに腰を下ろし、買ったばかりのボトルの蓋を勢いよくひねり、そのまま水を流し込んだ。

 

 喉へと注がれる冷たい水。

 

 あまりにも久しぶりの感覚に、ほっと息が漏れた。

 

「……生き返る……いや、死んでないけど……いや、僕は死んだから転生したのか?確かにこいつは死んだけど」

 

 レグルス・コルニアスの姿、ブルーアーカイブの世界。12億のクレジット。

 

 すべてが異常で、すべてが現実だ。

 

 この時ばかりは、冷たさと共に喉を潤す水だけが、唯一の救いだった。

 

「──おい、兄ちゃん」

 

 最も、そんな救いなんて一瞬で消え去ったが。

 

 喉に残る冷たさと安堵感が、あっという間に吹き飛ぶ。

 

「……僕に、話しかけているのか?」

 

 目の前に立つ、ヘルメットを被った姿をしている生徒。こちらからはその表情を伺えないが、悪びれた笑みを浮かべているのが想像できる。

 

「あんた以外、誰がいるんだよ」

 

 ぞろぞろと、物陰から現れる影。いつの間にか、周囲をヘルメット姿の生徒たちに囲まれていた。彼女らの手には、黒く無骨なアサルトライフル。それが一斉にこちらへと向けられる。

 

「へへへっ……有り金全部よこせよ。お前、見るからに金持ってそうな見た目してるからな」

 

 ……まさに理不尽極まりない展開だった。

 

 おいおい、どうなってんだこれ。マジで?こんなベタな絡まれ方する!?

 

 内心、焦りで喉が詰まりそうになる。背中には冷たい汗が伝っていた。けれど、ふと──ある考えが脳裏をよぎる。

 

 待てよ……今の僕は、レグルス・コルニアスだ。だったら、“獅子の心臓”を……使えるんじゃないか?

 

 強欲の大罪司教、自称『平和主義者』。あの狂った理屈と絶対的な不死性を持つ、最悪の怪物。

 

 そして今の自分には、その奴の肉体に宿っている状態。

 

 つまり、権能を使えるはずだ。

 

 もう一つの権能である『小さな王』は使えるか分からないが、この状況、『獅子の心臓』の制限時間である5秒もあれば、時間を稼げるはずだ。場を混乱させてその隙にダッシュで逃げてしまえば良い。

 

 そう、無敵の権能があるなら、こんな不良達にビビる必要はない。

 

 少しずつ、胸の奥から余裕が戻ってくる。そして僕は──思わず調子に乗ってしまった。

 

「撃てるものなら、撃ってみろよ……」

 

 口角を上げ、ゆっくりと立ち上がる。言葉とは裏腹に、膝がわずかに震えていた。だが、それを悟られまいと虚勢を張る。

 

「な、なんだコイツ……」

 

 不良たちは戸惑いの表情を見せたが、次の瞬間にはニヤリと笑った。

 

「ハッ、バカかこいつ。じゃあ、撃たせてもらうぜ!」

 

 そうして、不良は宣言通りに引き金を引き、乾いた銃声とともに、弾丸が放たれる。

 

 ──頬をかすめ、皮膚を裂く熱と痛みが走る。鋭い感覚が一瞬遅れて脳に届いた。

 

 ……は?

 

「ンギッ!?!?」

 

 慌てて頬を押さる。手の感覚には、鮮血特有のぬめりが広がっていた。

 

 おかしい、なんで発動しない!?“獅子の心臓”って、自分の意思で使える権能じゃなかったのか!?

 

 焦燥が一気に噴き出す。冷静を装う余裕はもうない。

 

 目の前の不良たちはそんな俺を呆れたように、次第にクスクス、ガハハと笑い出した。

 

「見たか?ビビってやんの!」

 

「イキってたくせに、このザマかよ!」

 

「撃ってみろよ、だってよ、プッハハハ!」

 

 笑い声が、頭蓋の奥に刺さる。視界が赤く染まりそうになり、腹の底から込み上げる怒りが、己の血を逆流させる錯覚に陥る。

 

 ……ふざけんなよ。誰がこんな世界に転生したかった?誰がレグルスになりたかった!?

 

「……僕はなッ、望んでこんな体になったわけじゃないんだよォ!」

 

 怒りが、喉奥から言葉となって噴き出す。

 

「君たちは何も知らないくせに、勝手に笑うなよ!僕がどれだけ、この世界に戸惑ってるか……怖くて、わけもわからないまま銃突きつけられて、必死に生きようとしてんだぞ!そんな僕を笑って、踏みつけて──これは、僕という個人が生きようとする権利の侵害だ!」

 

 歯を食い縛りながら、拳を握りしめる。

 

 ──内から溢れる“強欲”が、自身の心臓の鼓動を早める。

 

「冗談じゃないッ!僕がいつ“レグルス・コルニアス”になりたいって言った!?誰が望んでこんな役を引き受けた!?ふざけるなよ、おかしいだろ!?理不尽だろ!?こっちはただ、無欲に溢れながら普通に生きて、普通に死にたかっただけなんだッ!それなのに、勝手にこの世界に転生して、与えられた肉体ががこんな狂った怪物ってわけ!?誰かの勝手な理屈で僕の人生を決めるなッ!そんなの、あんまりじゃないかとは思わないわけ!?」

 

 不良たちは一瞬、僕が一気に捲し立てたせいか、呆気に取られていたが──すぐに嘲るような笑みで返す。

 

「……うわー、泣き言かよ。クソダセェ~」

 

「マジ、可哀想アピールとか、ウケるんですけどぉ」

 

「おい、こいつさっさとシメしまおうぜ。こんな金持っていそうな見た目、逃したら次会えるか分からないからなぁ!!」

 

 銃口が再びこちらへと向けられる。

 

「なあに、銃弾でそう簡単に死ぬわけない!この私直々に遠慮なく撃ち込んでやるよ。さっさと気絶して有り金全部よこしやがれえ!」

 

 引き金が引かれる。こちらの眉間を正確に狙って放たれた一発。

 

 ──その瞬間。

 

 ドクン。

 

 音がした、心臓の鼓動。

 

 ──いいや、違う。自分自身の心臓ではない。それは、どこか自分の心臓の外側から響いてくるような──身体の奥底を打つような、低く重い鳴動だった。

 

 これは──!

 

 銃声とともに、僕の額へと飛んだ弾丸は──僕に触れることなく空気の中で止まり、虚空へと弾かれた。 周囲の風が、一瞬静止したのを感じた。

 

「……あ?」

 

 不良の一人が、間の抜けた声を漏らした。

 

 不良達にとって、目の前に立っていたのは額に弾痕ひとつない、まるで何事も無かったかのような静けさをまとっていたから奇妙な男に映ったからだ。

 

 僕は、確かに撃たれた。 だが、そこにはただ、何も受けなかったかのように立つ僕の姿があった。

 

「…………」

 

 ──もしかして。

 

 額に当たるはずだった弾丸は、空中で止まり、ポトリと音もなく地面に落ちる。

 

 僕は微動だにせず、それを見下ろしていた。

 

「なるほど、君たちの性質は充分に分かったよ。愚かにも銃を振り回す脳しか無いってことがさ。だけどまあ、銃を持てば偉くなれるって勘違いしちゃう気持ち、まったく理解できないわけじゃない。社会に弾かれて、仲間を作って、強さを誇示して──弱さを隠すためにね。悲しいよ、ほんとに。僕、そういうのには涙が出そうになるくらい寛容なんだよ?」

 

 その声は静かで、冷たく、妙に丁寧だった。

 

「でも、そこが許せないんだよ。そこだけはどうしても認められない。弱さを隠すために、他人の尊厳を踏みにじることを選ぶって、どういう神経しているのかな?僕が君たちより優れているのはそこなんだよ、わかる?僕は、誰かに銃を向けなくても、自分の価値を疑ったことなんて、一度もないからさ」

 

 不良たちが、言葉を失う。

 

「君たち、常識って知ってる?他人の人生に土足で踏み込むのは、いけないことだって──普通の人間なら、わかるはずだよね?義務教育を受けてきたんだからさ。でも、君たちは人の気持ちを考えるっていうそんな当たり前のこと、どこで捨ててきたかな?」

 

 そして、口元に笑みを浮かべた。

 

「……僕は優しいからさ。君たちの過ちも、一度くらいは見逃してやろうって思ってたよ、最初はね。ほんの少しだけ、僕の寛容さの中で泳がせてやってもいいかなって。寛大で慈悲深い僕なら、それくらい朝飯前だからさ」

 

 目が光る。怒りでも憎しみでもない。もっと根源的で、底知れぬ『欲』が、そこにはあった。

 

「でも、さすがに限度っていうものがあるんだからさあ。分かるよね?僕の人格を、存在を、命そのものを踏みにじるような真似をしておいて、何一つ責任を取るつもりがないなんて、どうかしてるよ。ねえ、君達はそれについてどう思うのかな?それって、僕の命という“権利の侵害”だよね?」

 

 僕の周囲の空気が、音もなく圧を変える。世界が僕を中心に、ひしゃげていくような錯覚すらあった。

 

 「僕は、自分のものが奪われるのが何よりも嫌いなんだよ。時間も、空間も、尊厳も、命も──僕のものは全部、僕だけのものなんだ。君たちには、一秒たりとも渡したくない。理解できる?いや、理解しなくてもいい。これは“僕が嫌だから”駄目なんだ。僕の世界に、君たちみたいなノイズは要らないんだよ」

 

 小さく息を吸い、そこで僕の内心は切り替わる。

 

 ──時間稼ぎはここまでだ。

 

「──調子に乗るなよ三下がぁ!!」

 

 怒声が轟く。氷のように冷たい語り口から一転、雷の如き咆哮が放つ。そして、僕は片足をわずかに上げ──

 

 ──ドクン。

 

 強欲の権能である、獅子の心臓を発動し、そのまま足を振り抜いた。

 

 その瞬間、足元のアスファルトが爆ぜた。重力も摩擦も、あらゆる制限を無視して跳ね飛ばされた破片が、不良たちへと叩きつけられる。

 

「ぐぁ!? おい、何が起き……ぎゃ!?」

 

「うぎゃあ!?」

 

 破片は避けようのない速度で突き進み、不良たちの手に握られていたライフルを木っ端微塵に粉砕する。さらに、衝撃でヘルメットに罅が入り、彼女らの大半は声すら出せずに崩れ落ちた。

 

 ──獅子の心臓の発動時間はおよそ五秒だったはずだ!

 

 もう一つの能力である『小さな王』による疑似心臓の寄生は出来ていない。何か条件があるのかもしれないが、少なくともこの不良達に寄生することは出来なかった。

 

 つまり、このままだと自分の心臓が停止して死ぬ可能性が高いし、どっちにしてもここにずっと居たら命が持たない。

 

「僕に生きる権利をおおおおーッ!!」

 

 そう叫びながら、停止させた空気を踏み台にして、地面を離れ、まるで新幹線が風を切るような凄まじい加速でその場を去った。

 

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