ゲマトリア所属の強欲の権化   作:ぬこぱんち

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○○○○・コ○○○○

 

「ぅ゛ああああああああああああああッッッッ!!?」

 

 ありえないありえないありえてたまるかッ!!

 

 どうして僕が日々こんな目に遭わなくちゃならないんだよ!?今の僕はゲマトリア所属の強欲の権化、レグルス・コルニアスだ!なりたくもない存在に成り代わって、平穏とは程遠い世界にたどり着いて、誰かにこの役割を変わってほしいとさえ願っている、この世で最も不幸かもしれない人間で、最も個として確立することが出来ない歪んだ存在であり、心身共にボロボロで、強制的にノミ以下の焼き印が押されてしまった男!

 

 その僕が普通に食事をしていただけで、なぜ店が爆発するんだ!?そしてなぜ僕は空に向かって吹き飛ばされているんだ!?また襲撃か、襲撃でもされたのかッ!?誰が、何のために!?でも、爆発する直前で入店した人物は居なかったから、襲撃できる隙なんて無かったはずだ。そもそも、あそこのラーメンは至高の一杯とも言える一品だった、不味いとももちろん思わなかった、もしかしてこの世界では不味かった店は爆発してしまうという現象でも起こっているのか!?だとしても、そんな事は起きるはずはない。だって間違いなく旨かったから、そんなことは起きないはずなんだ!それじゃあ犯人は誰だ、もしかして近くに居たのか?でも近くに居たのは四人の女性ぐらいしか居なかったはずだ。彼女らもおいしそうにラーメンを食べていた、だからこそ分からない。誰だ、本当に誰が爆発させたんだ!?

 

 そもそも今回のだって強欲ムーブしていなかったら僕の身体は肉片となって粉々になっていた。本当にノミ以下にふさわしいともいえる末路を辿るところだったんだ!どうせ僕がレグルス・コルニアスに成り代わるのなら強欲の権能をそのまま引き継いでいてくれよ、どうして人格依存型にしてしまったんだ。僕が好き好んで強欲ムーブをしているとでも思っているのか。それとも何だ、神は言っているのか、僕に死ねと!?だとしたら僕に何の恨みがあるんだ、どういう笑い話なんだッ!僕が何か悪いことでもしたというのか!?

 

 僕は悪くない、何も悪くない。この世界が、この世界が悪いんだッ!この世界が僕に理不尽のごとく試練を与えてくるから!

 

 ……何だ、どこからか視線を感じる。誰かが僕を見ている気がする……君たちか?もしかして君たちが僕のことを見ているのか!?

 

 笑っているのか、嗤っているのか、哂っているのか、呵っているのか!?だとしたらお願いだ、こんな僕を見ないでくれ!顔こそ傷一つなく綺麗なのかもしれないが、今の僕の顔はあのノミ以下と大差ない表情をしているんだ!そりゃそうだろう、怖いんだから!権能が無駄に発動してしまっているせいで僕の身体は留まる事を知らない状態だから、常に空に向かって飛んでいってるんだ!全く、どこまで不便なんだこの身体は。一つの衝撃だけでなぜこんなにも飛んでしまうんだ、ギャグマンガの世界じゃないんだからさあッ!!

 

 これだからキヴォトスはッ!!

 

「ぅ゛ああああああああああああああッッッッ!!?」

 

 とはいえ、愚痴をこぼしている場合ではない。

 

 このままでは、僕の身体は止まることなく空へと昇り続けてしまう。このままだと、どこかの星の衛星になってしまうかもしれない。あるいは、完全に大気圏を抜けて宇宙の彼方に消え去るか。

 

 冗談のようで、今の僕には笑えないほど現実的な未来だった。

 

 とにかくこの状況をどうにかしなければならない。こんなところで終わってたまるか。まだ僕には、平穏に暮らすという当たり前の事すら出来ていない。だというのに、こんな馬鹿げた事故みたいな形で退場なんて、納得できるはずがなかった。

 

 じゃあどうする、どうやって地上に帰る?

 

 ──仮にだ。仮に運良く、月に衝突できたとしよう。

 

 そこを反動にしてキヴォトスへ帰還する……というのは、あまりに楽観的すぎる考えだ。自分で言っておいてなんだが、笑ってしまいそうなほど非現実的だ。いや、笑ってる場合ではないが。

 

 強欲の権能は、ある意味『加減することが出来ない』こそが本質とすら言える。だからこそ、今のような事態を引き起こしたのだ。

 

 もしも、月に衝突してしまえばどうなるか。

 

 まず月そのものを木っ端微塵にしてしまう可能性が高い。そうなったら、キヴォトスの夜空から月は消え去る。ロマンも余韻も風情もなにもない。

 

 そんな世界になってしまったら、間違いなく犯人探しが始まる。そしてその時、犯人が僕だと知られたら……僕の平穏な日常はもう二度と手に入れることが出来ない。逃亡生活、果てしない追跡劇、どこかの空き部屋に潜みながら、日の光すら浴びられない暮らし──考えただけでも嫌になる。

 

「どうする……どうすればいい……」

 

 自問する。

 

 身体はなおも宙を舞い、雲を突き抜けて上昇している。空はどこまでも澄んでいて、それが逆に恐ろしかった。逃げ場のない青が、僕をどこまでも追い詰める。

 

 この状況から脱するには、強欲の権能を解除するしかない。でも、どうやって? 意識して止められるようなものではないはずだ。無意識のうちに欲望を膨らませ、無意識のうちに世界を巻き込む──それがこの力だ。

 

 だが、その時ふと閃いた。

 

「……そうだ、強欲ムーブを止めてしまえばいいんだ」

 

 思わず口に出してしまった。

 

 自分でも呆れるほど、あっけない解決策だった。なぜもっと早く気づかなかったのだろう。いや、無理もない。空に吹っ飛ばされた時点で、頭は混乱していたし、身体も心も状況に振り回されていたのだ。

 

 でも今、ようやく落ち着いて考える余裕が生まれた。周囲を見回せば、誰の姿もない。ここには僕しかいない。この空間は、僕だけの聖域といってもいい。だったら、他人の目を意識して見栄を張る必要なんてなかった。強欲ムーブなんて、最初から必要なかったのだ。

 

「空は、僕だけの世界だったんだ……」

 

 静かに、力を抜いた。

 

 強欲を、自分の内側から丁寧に手放していくような感覚。意識の奥で広がっていた黒く渦巻く欲望が、すっと消えていくのがわかる。すると不思議なことに、これまで歪んでいた世界の理が、少しずつ正しい形に戻っていくのを感じた。

 

 身体を包んでいた加速が止まる。旋回しながら上昇していた身体が、空中でふっと動きを止めた。風が、肌を撫でていく。だが、それは穏やかで、どこか懐かしい感触だった。

 

「……何で、こんなことに気づけなかったんだろう」

 

 誰に言うでもなく、そう呟いた。

 

 気づけば、心はすっかり落ち着いていた。

 

 爆発の犯人探し?そんなことは今はどうでもよかった。

 

 とにかく、早く地上に戻って家でゆっくりと眠りたい。

 

 ベッドの感触が恋しい。紅茶を片手に、のんびりと花に水やりでもしてやりたい。そんな些細な願いが、今はなによりの望みだった。

 

 僕は首を傾け、青空を仰いでいた視線を、ゆっくりと地上へと向けた。

 

 眼下には、信じられないほど美しい光景が広がっていた。

 

 どこまでも澄んだ大気の中に、キヴォトスの街並みが浮かんでいる。整然とした建物、青く光る海、点在する森と山。また、砂色の大地……あれはアビドスの砂漠だろうか。そのまた少し先に見えるのは、トリニティ自治区だ。

 

 空から見下ろすキヴォトスは、どこまでも美しかった。

 

 こうして俯瞰することでしか見えないものもあるのだと、少しだけ理解できた気がした。

 

 ──ん?

 

 そのとき、ふと嫌な予感が胸をよぎった。

 

 そうだ。強欲ムーブを止めたからといって、すべてが解決したわけではなかった。強欲の権能の効果がなくなった今、世界は正しい法則に従って、僕の身体を引き戻し始めていた。

 

「お、あ、あああああああああッ!!?」

 

 世界がぐるりと反転する。

 

 身体が重力に引きずられるように、猛烈な勢いで地上へと落ち始めた。まるで神の手でつまみ上げられた後、雑に放り投げられたかのような感覚で。

 

 風が耳を裂き、視界が一瞬で流れ始める。雲が下から迫ってくる。さっきまで美しかったキヴォトスの景色が、恐怖の対象に変わっていく。

 

 ──絶対に。

 

「絶対に許さないぞ、レグルス・コルニアスうううううッッッ!!」

 

 空に向かって、怒りと恐怖の絶叫をぶちまけた。

 

 僕の断末魔のような声が、空の奥深くへと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「……十二時の方向、それから六時方向……三時、九時……風紀委員会のさらなる兵力が四方から集結しています……!」

 

 緊迫した声で告げるのはアヤネ。ホログラムを通じて、アビドスの市街地にその声が響き渡る。

 

「……」

 

「"……これは、少々骨が折れそうだね"」

 

 ノノミは冷静に周囲を見渡し、先生が静かにそう呟いた。

 

 目の前に広がるのは、退路も進路も断たれた包囲網。アビドス対策委員会と便利屋68の面々は、今や完全に袋のネズミだ。

 

 柴関ラーメンの店舗が爆発したのをきっかけに、アビドスと便利屋の間での小競り合いが始まり、やがて戦闘に発展。そしてその騒動に、さらに第三勢力──ゲヘナ学園の風紀委員会が砲撃によって乱入してきたのだ。

 

 事態は泥沼。もはや、誰の制御も利かなくなっていた。

 

「少々やりすぎかと思いましたが……シャーレを相手にするのですから、これぐらいあっても困りませんよね」

 

 ホログラムに映し出されているのは、天雨アコ。

 

 ゲヘナ学園の風紀委員会であり、No.2に当たる行政官を務める生徒。今現在、その整った顔には一片の迷いもなかった。

 

「……ん、完璧に囲まれた」

 

 シロコが愛銃を静かに構える。

 

 焦りはない。だが、緊張感は肌を刺すように鋭かった。

 

「包囲を抜けたと思ったけど……二重だったか……」

 

 カヨコが悔しげに歯を食いしばる。

 

 ここまで巧妙な包囲が敷かれていたとは、予想していなかったからだ。

 

「……シャーレは不確定要素が多すぎます。私たち風紀委員会の庇護下にお迎えしたいのです」

 

  アコが淡々と宣言する。

 

「先生を連れていこうだなんて、そうはさせないんだから!」

 

 セリカが睨みを利かせながら、アコに真っ直ぐ視線をぶつける。その目には怒りと決意が宿っていた。

 

 ──そう、当然ながら受け入れられるものではない。アビドス対策委員会の面々は一斉に反発の気配を強めた。

 

「……やっぱりこういう展開になりますか……ゲヘナ風紀委員会は、必要でしたら戦力を行使することもあります。当然、そこに一切の遠慮はありません」

 

「──っ!」

 

 アコの声が、市街地に響く。

 

「"さて、どうしたものか……"」

 

 先生の声が僅かに揺れる。

 

 包囲網を突破するには、それ相応の戦術、戦闘指揮が必要になるだろう。得意ではあるが、はたして勝てるのかどうか……正直、なんとも言えないところだ。

 

「──あの生意気な風紀委員会に一発食らわせないと気が済まないわ!」

 

「……あはー」

 

「アル様……っ!」

 

 その声が、戦線の均衡を打ち破った。

 

 ──叫ぶように宣言したのは陸八魔アル。その言葉に呼応するように、アビドス対策委員会と便利屋のメンバーの表情が一斉に引き締まる。

 

 風紀委員会をコテンパンにする、先生の盾になれ、などといった会話をし、互いに意気投合した。

 

「まさかここまで意気投合が早いとは……まあいいでしょう。風紀委員会、攻撃を開始します。対策委員会と便利屋を制圧して、先生を安全に確保してください。先生は怪我をさせないように、十分注意してくださいね」

 

 アコの命令が風のように隊列に伝わり、風紀委員会の隊員たちが動き出す。

 

「よくもショットガンの乱射なんて決めてくれたな……覚悟しろ!!」

 

 イオリがハルカを睨みつけ、銃口を突きつける。

 

 ──そして、アビドスの市街地を舞台にした小規模の戦争が始まろうとした、その瞬間。

 

「敵、包囲を始めています!皆さん、気を付けてとっぱ……!!?」

 

 アヤネが突如、通信を切り裂くような叫び声を上げた。

 

「"アヤネ、どうかした?"」

 

 先生がすぐに彼女の様子を窺う。

 

「──み、皆さん!前に進まないでください!……今、交差点の中心に生体反応を検知しました!こ、これは……!?」

 

 アヤネの声が震えていた。ありえないという確信と、信じたくないという恐怖が混ざり合っていた。

 

「……ん、別に誰も居ない」

 

 シロコが交差点の中心を見つめる。しかし、そこには誰もいなかった。ただの石畳、ただの道路でしかない。

 

「……っ!?皆さん、今すぐ交差点の中心から離れてくださいッ!」

 

 今度はアコが叫ぶ。彼女の瞳にも確かな危機感が宿っていた。

 

「お、おいアコちゃん!急にどうした!?」

 

 イオリの声が追いかけるように続く。

 

 全員が交差点の中心を見つめる。だが、そこには何もいない。空虚な静寂が張り詰めていた。

 

 ──不気味なほどに、何もなかった。

 

 しかし、二人の表情がより緊迫したものになった、その刹那──

 

『『──空から誰かがこちらに接近していますッ!』』

 

 声が重なり、周囲の空気に震えが走った。

 

 その直後、空を切り裂くような圧力が頭上から降りてきた。

 

 誰もが反射的に顔を上げるより早く、何かが真っ直ぐに落下してきた。

 

 次の瞬間、交差点の中心に重い質量が叩きつけられる。

 

「──っ!!?」

 

「──と、飛ばされる……っ!」

 

 アスファルトが砕け、大地が沈み込むように凹み、衝撃が波紋のように広がった。あたりの空気が激しく押し出され、耳を打つ振動が鼓膜を圧迫する。

 

 細かい破片が周囲へ弾け飛び、煙が視界を奪う。近くのビルの窓が共鳴し、硬質な音を響かせながら軋んだ。凄まじい風圧が広がり、その場にいた全員が本能的に叫び声を上げながら身を伏せた。

 

「っ、な、なにが……!?」

 

 そんな中、アルが咳き込みながら顔を上げる。

 

 煙の中、黒い影がゆらりと立ち上がった。

 

「──本当に、どうかと思うんだよね」

 

 その声が、場の空気を一変させた。

 

 柔らかく落ち着いた口調。

 

 だが聞いた瞬間、チナツ、アビドス対策委員会、便利屋68の面々が、反射的に目を見開いた。無意識のうちに背筋が伸び、体がこわばる……いや、何故かアルだけ目をキラキラとさせているように見えるが。

 

 その声を聞いたことがあり、その者はただ者ではないことを、どこか知っていたからだ。

 

「どこまでいっても話し合いだけで解決しようとせず、最終的には武力で解決しようとする。拳銃、爆弾、戦車とその手段は様々だ。それを当然の選択肢みたいに使おうとしてる時点で、やっぱり僕とはちょっと感覚がズレているみたいだ」

 

 声の主は、瓦礫の中心に立っていた。

 

 服にこびりついたアスファルトの欠片を軽く払うと、手を後ろに組み、まるで散歩の途中のような余裕を見せる。瓦礫の山の上に立つその姿は、異様に静かで──だからこそ、不気味だった。

 

「もちろん、君たちにも事情があるのはわかる。話し合いじゃ解決しない状況だってあるし、そうせざるを得ないこともある。それは仕方がないことだよね。僕にも理解できることだってあるとも」

 

 響く声は穏やかで、丁寧ですらある。だが、その理解は断罪の一歩手前にある予感を含んでいた。まるで、最後の猶予を宣告するかのように。

 

「そう、僕は優しいからさ、その程度のことぐらいちゃんと汲んであげる。理解しようって努力もしてあげる。でもね、それでも限度があると思うんだよね。そもそも、ここは市街地なんだよ君たち。常識的に考えて一般人がまだいるかもしれないって分かるよね?まさか、何も考えてなかったなんて言い訳の言葉を並べたりしないだろうね」

 

 その語り口は、優しさの仮面を被った冷徹な刃だった。聴く者の心に、じわりと冷たいものが染み込んでいく。

 

「僕もそのただの一般人の一人なんだけど。拳銃なんて触ったこともないし、爆弾を使うなんて冗談じゃない。そんなもの、僕の人生に一ミリも関係ないし、関わりたくもない。僕はただ、平穏に暮らしたいだけなんだからさ」

 

 小さなため息が、沈黙の中に落ちた。

 

 その瞬間、今まで立ち込めていた煙が、まるで爆風に吹き飛ばされたかのように一気に晴れる。視界が開けると同時に、そこに立つ男の姿がはっきりと浮かび上がった。

 

「僕は優しいからさ、多少のことは目を瞑ってあげる……でもさ、君たちが今からやろうとしてることは、僕と僕以外の一般人が持つ『平穏に暮らす権利』の侵害だと思うんだよね。だから……」

 

 瞼が静かに開かれる。

 

「──これは、いかに寛容な僕でも見過ごせないなあ」

 

 その目に灯るのは、鈍い輝きを放つ金色。瞳に宿った光が、まるで何もかもを見透かすように、周囲を射抜いた。

 

 この場において、彼の口から直接聞いたことがあり、名を知る者が二人いた。

 

 ──先生と、チナツだ。

 

 二人は驚愕を隠せぬまま、同時に名を口にした。

 

『『レグルス・コルニアス……!?』』

 

 ──今この場に、第四勢力が君臨した。

 

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