──場所は、ゲヘナ学園の敷地内にひっそりと佇む、一軒の小さな喫茶店。
「お待たせしました。注文の、珈琲二つになります」
「ありがとう」
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
ヒナが軽く礼を返すと、ロボットの店員は金属特有の音を響かせながら、店内へと戻っていく。
「──ここのお店、個人的に気に入っているの。ゲヘナ学園の全体を巡回している時に、小休止できる場所がないか探していたら偶然見つけて……小さなお店だけど、人の出入りも多すぎないから、落ち着いて一息つけるのが良いのよ。どう?雰囲気だけでも、気に入ってくれたかしら」
テラス席には、柔らかな日差しを受け止める大きなパラソルが立っており、その影の下には二脚の椅子が向かい合うように置かれ、ヒナとミカはそこに腰を下ろしていた。
『──私と、一緒にお茶でもどうかしら?』
つい先ほど、そんなふうにヒナから誘われたのを、ミカは、断るつもりでいた。
この誘いを受け入れてしまえば、ゲヘナの敷地に足を踏み入れることになる。それは、ほぼ避けられない未来だと分かっていたからだ。
……だからこそ、決めていた。何があっても、断るぞ!と。
しかし、ヒナの瞳を真正面から見つめた瞬間、その決意はあっけなく揺らいだ。そこには一切の曇りも、打算もない、澄み切った光だけが宿っていたのだから。
それでも断ろうと口を開いた──かと思えば、躊躇して閉じる。また開いて、閉じて、開いて、閉じて……。
そんな奇行を繰り返すミカを前に、ヒナは不思議そうに首を傾げた。そして、先ほどと変わらぬ、純粋で綺麗な瞳をこちらへと向けてくる。
それを見た瞬間、ミカの中で何かが静かに崩れ落ちた。
『良…………い…………よ…………☆?』
ミカは、己の決意に敗れた。
「う、うん。確かに良い雰囲気かもしれないね!でも、お茶するのは別に今日じゃなくても……モモトークでもいつでもお話は出来ると思うし、こうして気を遣わなくても良いんだよ?」
「ううん、私がしたくてこうしてるの……ダメだったかしら?」
そこにあったのは、善意以外の何ものでもない言葉だった。
これを受け取らないのは、人としてどうなのだろうか──そんな疑問が、ミカの胸を刺す。
「──誰か、私を助けて……」
トリニティである私を、この場所で一人にしないで!
そんな想いを込めて、ヒナに聞こえないよう、ミカはか細い声で助けを求めた。
──しかし、誰も来なかった。
「……ごめんなさい。もしかして、何か予定でもあったかしら?」
ミカの反応が薄いことに不安を覚えたのか、ヒナは少し視線を落とし、おずおずと問いかける。
その瞬間、ミカは弾かれたように身体を動かした。慌てて両手をぱっと前に突き出し、左右にぶんぶんと振って否定する。
「っ!?ううん!特に予定はないよ!?全然!本当に!」
「──それなら、良かった」
ヒナはほっとしたように微笑んだ。
何とか誤魔化せた……と言っていいのかは分からないが、ミカもまた胸に手を当て、小さく息をつく。
ミカは、ちらりと横目で周囲を見渡した。
──なるほど、ヒナの言う通りだ。人の出入りが少ないためか、店内にいる客の数も控えめとなっている。
……だからこそ、この場において聖園ミカという存在は、どうしても目立つ。
ゲヘナの生徒には存在しない大きな天使の翼。白を基調とした服装。
性格はさておき、見た目だけを比べれば、ここにいる誰とも正反対と言っていい。その事実が、ゲヘナ生徒たちの視線を引き寄せる要因になっていた。
──し、視線が気になる……!
結果として、ミカは店内にいる数少ないゲヘナ生徒たちから、じわじわと注目を集めることになる。
ゲヘナの事だ。こうして背中を見せていれば、刺されるかもしれない。撃たれるかもしれない。最悪、爆破される可能性だってある。
だからこそ、常に警戒を怠るわけにはいかない。ミカは、ほとんど睨みつけるような視線で周囲を牽制していた。
──その最中だった。
「……やっぱり、気になってしまうかしら?」
「へっ!?」
間の抜けた声が喉から転げ落ち、ミカは思わず肩を跳ねさせた。
反射的に視線を戻すと、そこにあったのは怒りでも責めでもない。ただ、少し申し訳なさそうに眉を下げたヒナの表情だった。
「ごめんなさい、彼女たちがこちらを見てくるのは、私と一緒だからだと思うわ。きっと、私が誰かと居るのを珍しいと思っているのかもしれないわね……お茶する場所、間違えてしまったかしら……」
「い、いやいや!本当に大丈夫だよ!?ヒナちゃんが誘ってくれたの、私も嬉しかったし!」
「……そう。もし本当に気になるようなら、いつでも言ってちょうだい」
「う、うんうん!」
ミカは慌てて首を縦に振り、全力で頷く。
確かに、何人かのゲヘナ生徒がこちらを見てはいる。だが今のところ、殺気や悪意といったものは感じられない。せいぜい、珍しいものを見るような好奇の視線──それだけ、だろう。きっと。多分。
この際、無理やりにでもそう納得しておかないと、ずっと警戒し続けてしまう。それはヒナに迷惑をかけるのと同じことだ。
──今は、居ないものとして扱おう。
「最近……と言っても、最後に会ってからあまり時間は空いていないけれど。大丈夫?ストレスとか溜めていないかしら?」
開口一番に飛んできたのは、そんな気遣いの言葉だった。
そういえば、初めて会った時にも『エデン条約のことで、色々とストレスが溜まっているのかもしれないわ』と言われた気がする。
……やっぱりこの子、良い子すぎない?
ミカは、改めてそんな風に思う。
「──んーん。特にストレスとかもないし、大丈夫だよ。もしかして、私のこと心配してくれてたの?優しいね!」
──しかし、ミカは嘘をついた。
ストレスは、今もなお全身に渦巻いている。
実際に手を下したわけではない。だが、百合園セイアを殺してしまったという事実は、時間とともに薄れるどころか、逆に輪郭を強め、心の奥底に沈殿していた。
眠りにつく直前。あるいは、何の脈絡もない瞬間。
その事実が、言葉にならない後悔が、容赦なく浮かび上がってくる。
「……ああ、でも。一つあるとしたら、あれかなっ」
「一つ?」
ヒナは、相談に乗ると言ってくれた。
けれど、人を殺めてしまった罪人に、それを打ち明ける資格などない。話すわけにはいかない。
──だから、話題を逸らす。
これは実際に感じているストレスだ。嘘ではない。本当のことだ。
「ヒナちゃんも知ってるでしょ?あの男──レグルスのことだよ!」
「……レグルス?」
首を傾げるヒナに対し、ミカは「そうそう!」と勢いよく頷き、机を両手で叩きながら身を乗り出した。
「ヒナちゃんも聞いてたでしょ!?あの男が私に向かって言った罵倒!ひどいと思わない?『捻くれピンク髪』とか変なあだ名を付けたり、『脳みそは全部筋肉で出来てるのかな?』とか、いっちばん腹の立つ顔で馬鹿にしてきたり!それに『ロールケーキをぶちこむぞ』とか──!」
ロールケーキの台詞や下りはナギサのものではないか?
レグルスの数ある罵倒の中でも存在しない罵倒を勝手に捏造するミカ。これにはレグルスも『捏造するな!』とキレ散らかすことだろう。
「──あんなふうに、あそこまで私を罵倒してきたの、あいつが初めてなんだから!」
ぷんぷんと怒りを露わにしながら前のめりになっていたミカは、ようやく椅子に深く腰を下ろした。
一通りぶちまけ終えたのを見届けて、ヒナはぱちぱちと数回瞬きをする。やがて、困ったように眉を下げ、苦笑いを浮かべた。
「本当に……気が合わないのね、二人は」
「あいつと気が合うことなんて、今後も絶対にないよ!」
ミカは確信に満ちた様子で、何度も大きく首を縦に振る。
ヒナが知っているのは、レグルスとミカが言葉を交わした、あの一度きりだ。
二人はヒナの知らないところでも会話をしたらしいが、その時に何があったのかまでは分からない。ミカが突っかかったのか、レグルスが突っかかったのか……あるいは、別の誰かが口火を切ったのか。
いま、分かるのはただ一つ。先日の罵倒の応酬が、凄まじかったという事実だけだ。
「……まだ、レグルスのことをよく知らないだけじゃないかしら。確かに、普通の人とは少し違うし、話し方も独特だけど……でも、悪い人じゃないことだけは確かだと思う」
「ええ~?それ、ヒナちゃんが贔屓してるだけじゃない?あれは絶対に悪い大人だよ!じゃなきゃ、あんなに人のこと罵倒しないって!」
「贔屓なんかしていない。私が感じた事をそのまま言っているだけ……それに、私はあなたの事も悪い人じゃないと思っているわ。こうしてお茶を誘っても断らずに来てくれたから」
「うぐっ」
思わぬ方向から矢を射抜かれたような声が、ミカの喉から漏れた。
レグルスを庇われたこともそうだが、それ以上に、自分まで悪い人じゃないと同じ言葉で括られたその事実が、ミカの心臓を強く射抜いていた。
「……で、でもでも。あいつって、正直怪しい要素しかないと思わない?ほら、ヒナちゃんも知ってるでしょ?聞いたことあるはずだよ。あいつが名乗る時、いつも言ってる──」
「……えっと、『ゲマトリア所属の強欲の権化』かしら?」
「そうそれ!強欲の権化はよく分からないけど、『ゲマトリア』って言う組織?って聞いたことないでしょ?最近話題になったカイザーと同じで、きっと悪い大人が集まってるに違いないよ!」
奇しくも、その推測はほぼ正解だった。
確かに、カイザーもゲマトリアも、悪い大人の集団だということに間違いはない。
カイザーは大企業でこそあるが、その実態は利益を出すならば詐偽まがいの事も厭わない集団。ゲマトリアは、生徒を利用して各個人がそれぞれの崇高を目指すというイカれた集団だ。
「まあ、確かに不思議な名前だし、聞いたこともない組織だけれど……」
──しかし、ヒナ自身はそれに対し、当たり前かのように答えた。
「──レグルスが、悪い大人とは限らないから」
「ぬぐぐっ……」
無理やりレグルスを悪い大人に仕立て上げようとしたミカの試みは、あっさりと失敗に終わった。
──ヒナは、組織で人を見ていない。あくまで個人として見ているのだ。たとえ周囲がどうであっても、レグルスはレグルス。そう結論づけているのだろう。
きっと、どれだけ言葉を重ねても、どれだけ誘導しようとしても、ヒナの認識が変わることはない。
「……だって、もしレグルスが悪い大人だったら、その……」
「え?」
どうにか別の切り口はないかと、ミカが普段あまり使わない脳を必死に回転させていると──
ヒナは、突然頬をほんのりと赤く染め、視線を逸らした。そのあまりにも唐突な変化に、ミカが首を傾げると──
「わ……私のことを、愛玩で可憐で……清楚で……麗姿、なんて……言わないと思うし……」
「えっ」
「その、レグルスの様子を見る限り、多分、本音で言ってくれていると思うし……あなたも、私をとても良い子だって褒めてくれたし……」
──なんだ、この可愛い生き物は?
「だから、私にとって、二人とも悪い人じゃないのかなって、そんな風に思うことが出来るの……そういう意味では、もしかしたら二人は気が合うかもしれないかなって……」
──私よりも、悪い大人に騙されたりしないだろうか。
ふと、そんな不安がよぎる……だが、その心配は杞憂だろう。
ヒナは、本音の褒め言葉と、嘘の褒め言葉をきちんと聞き分けられる。だからこそ、今こうして恥ずかしそうにしながらも、心から嬉しそうなのだ。
「……いやいや。それでも気が合うことはないよ。きっとまた会えば、言い合いから始まると思うし……私とあいつは、そういう関係性だから」
「まだ会って二回……だったかしら?それならまだまだ分からないわ。レグルスってわりと神出鬼没だから、ふとした時に出会って、言い合いから始まったとしても……聖園ミカにとって、何か変わるかもしれない」
「ええ~、想像できないよ、そんなこと」
「私がそうだったから。もしかしたら、その可能性も充分あると思うわ」
そう言い切ってから、ヒナはようやく珈琲の入ったカップを手に取り、中身を喉の奥へと流し込んだ。
──そういえば、ヒナちゃんが珈琲を頼んでくれたんだっけ。
ヒナの珈琲を飲む様子を見ていると、ミカ自身も喉の渇きをようやく自覚し、早く水分をよこせと喉が訴えかける。
しかし、珈琲は紅茶と比べて苦いため、ミカはあまり珈琲を好んでいない。だが、せっかく頼んでくれたのだ。一口も飲まないのは、さすがに失礼だろう。
ミカはおずおずとカップを持ち上げ、ヒナにならって珈琲を口にする。
「──あれっ、美味しい?」
苦味があまり感じられず、舌の上に広がったのは、思っていたよりも柔らかなコクと、ほのかな甘み。鼻に抜ける香りもきつくなく、むしろ落ち着くような温度で胸の奥へと沈んでいく。
「このお店の珈琲は、酸味も苦味も抑えめなの。誰でも飲みやすいように作られているから、苦手な人でも気軽に頼む人が多いんだ。気に入ってくれた?」
「う、うん。正直に言うと、普段飲んでいる紅茶よりも好きかも」
ティーパーティーとしてあるまじき感想を口にするミカ。ナギサがそれを聞いたら、泣きながらその小さな口にロールケーキをぶちこまれるぞ。
ミカの率直な感想に、ヒナはふっと微笑んだ。
満足してもらえたことを、心から喜んでいる──そんな曇りのない表情だった。
……彼女は、ゲヘナの生徒であるというのに。どうして、ここまでしてくれるんだろう。どうして、喧嘩を売らずに仲良くしようとしてくれるんだろう。どうして、こんなどうしようもない私を──
「……?聖園ミカ?」
じっと見つめていたことに気づいたのか、ヒナが小さく首を傾げる。
その仕草すら可愛いな、と内心で思いながら、ミカは口を開いた。
「……ミカ」
「え?」
「ほら、私はヒナちゃんって呼んでいるのに、ヒナちゃんからフルネームで呼ばれるのは少し寂しいというか、なんだか距離を感じちゃうっていうか……とにかく、ミカって呼んでほしいなって!」
素直にそう答えた。誤魔化すことも、笑って流すこともせずに。
ヒナは一瞬だけ目を瞬かせると、カップをそっとテーブルに置き、少しだけ姿勢を正してから、静かに口を開く。
「ミカ」
「──うん!」
その呼び方を聞いた瞬間、ミカは嬉しそうに何度も頷いた。
ほんの少し感じていた距離が、一気に縮まった……そんな気がした。
「……うん」
ミカはおもむろに目を閉じる。
心の奥に、確かに温かなものが宿っていくのを感じた。
不安も、警戒も、罪悪感も。すべてが消えるわけではない。
けれど、今この瞬間だけは、その重さを忘れていられるような気がした。
「……よしっ」
小さく気合いを入れるように、ミカは拳を握る。
──もしかしたら、この子なら。ヒナちゃんなら。
私が犯した罪を、打ち明けてもいいのかもしれない。
胸の奥で、言葉になりかけた想いが、ゆっくりと形を成していく。
セイアちゃんのこと。
あの日、選んでしまった選択と、その取り返しのつかない結果のこと。
彼女は言ってくれた。何かあれば、相談に乗ると。ならば──こんなどうしようもない私の話でも、真剣に聞いてくれるのではないだろうか。
ミカは、唇を噛みしめる。
喉の奥が、きゅっと縮こまる。
もし、すべてを話してしまったら。
この穏やかな時間は、壊れてしまうのではないか。今、目の前にいるヒナの表情が、変わってしまうのではないか。
──怖い。
許されないかもしれない。
軽蔑されるかもしれない。
でも、それでも──
「あのね、ヒナちゃん──」
ミカは目を開ける。周囲に人がいることすら忘れ、胸の奥に抱えていたものを吐き出そうとした。
──しかし。
「──え?」
正面を見ると、切迫した焦燥の表情を浮かべたヒナが、こちらに身を乗り出し、手を伸ばしているのが見えた。
「──ミカっ!!」
次の瞬間、けたたましい轟音が、想いのすべてを掻き消した。
◆
「──」
──ああ、吹き飛ばされたんだ、私。
そう理解するまでに、時間は掛からなかった。
「ふざけんなっ!あいつら、私達の憩いの場を爆破しやがった!」
「なんだなんだ、喧嘩でも売ってんのか!?上等だ!あの戦車をボコボコにしてスクラップにしてやる!」
テラス席は原形を留めず、窓ガラスは砕け散り、店の一部は無惨にも崩れ落ちている。瓦礫に半ば埋もれながら、ミカは俯き、状況を整理した。
──そっか。邪魔されたんだ、ヒナちゃんとのお茶の時間。
まるで、それが許されないかのように。あってはならないかのように。無慈悲な砲弾が、テラス席の周囲へと撃ち込まれていた。
利用者がゲヘナ生徒だけだったこと、店を営むロボット達が偶然にも被弾範囲に居なかったことだけが、不幸中の幸いだろう。それでも、被害に遭った生徒達は銃を掲げ、騒動が起きている場所へと突撃していく。
──そっか。やっぱりゲヘナって、どこまでいっても野蛮なところなんだ。
瓦礫を退かしながら、ヒナが駆け寄ってくる。その手によって、身体の自由が戻った。
「ごめん……私がここでお茶しようって言ったばかりに……!」
ゲヘナでは日常茶飯事。けれど、トリニティではあり得ない光景だった。
「怪我はない?私の手を掴んで、引っ張り上げるから……ミカ?」
──そっか、そっか……そっか。
「──ううん、私は大丈夫!身体は頑丈だからね!怪我も特にしていないし、この通り、元気ピンピンだよ!」
伸ばされた手を掴み、立ち上がる。服についた埃と瓦礫を払い、無理やり笑顔を作った。
「ありがとう、ヒナちゃん」
「お礼を言われることじゃ……ごめん、少しだけ離れるね……私よ、アコ。今すぐに状況を説明して」
ヒナは通信を始め、少し離れた場所で会話を交わす。
「……了解。私が鎮圧する。後で合流してほしい」
通話を終え、こちらへ戻ってくる。
「ごめん、ミカ。私は向こうで起きている騒動を鎮圧しないといけなくなった。だから、それが終わり次第、あなたを風紀委員の医療チームのところに案内して──」
「──ううん、そこまでして貰わなくて良いよ。ヒナちゃん、大変でしょ?早く鎮圧しないといけないだろうし、後処理もしないといけないだろうし……」
「それは──そう、だけど……」
「ほら、私は特に怪我もしていないし、邪魔しちゃ悪いからさ、今日のところは帰ることにしようかなって!……お仕事、頑張ってね!大変かもしれないけどっ」
「……ごめん、いつか絶対に埋め合わせするから」
そう言い残し、ヒナは羽根を広げ、ロケットのようにこの場から飛び去っていった。
「──うん。ここに居ても、しょうがないよね」
背を向け、トリニティへ帰る道を歩き出す。
「……ヒナちゃんって、いつもあんなふうに忙しいのかな?」
背後で響く銃声と爆音、叫び声を聞きながら、顎に指を当て、首を傾げる。
「それってさ……ゲヘナの野蛮な連中が勝手に暴れて、問題を起こして……結果的に、ヒナちゃんに全部押し付けてるってことだよね?」
──ああ、それは。
「そんな奴らと平和条約なんて……冗談にも程があるよ。本当に、ゾッとする」
──なんて、酷い話なんだろう。
「頑張り屋で、可憐で、清楚で、綺麗なヒナちゃんと違って……私はもう、取り返しのつかないことをしちゃってるし。今さらだよね!うんうん!」
──仲良くする必要なんてない。やっぱり、私たちトリニティとゲヘナは、どこまでいっても敵同士な事に変わりは無いんだ。
「あっ、でもヒナちゃんの友達には手を出さないようにしようかな?それ以外の、野蛮で迷惑しか掛けない奴らを全員あぶり出して、徹底的に駆除すれば……ヒナちゃんの負担も減って、自由な時間が増えるよね!きっと!」
──ゲヘナをキヴォトスから消すのはやめてあげよう、さすがにそこまでするのは可哀想だから……ゲヘナの連中で、どこまでいっても野蛮で救いようがない奴らを全て駆除しよう。きっと、それが正しい事なんだ……そう、思いたい。
「どうせ、私はもう戻れないんだし……」
──もう、聖園ミカという人間は救いようがないはずなのに、どうして涙が溢れるんだろう。皆のため、私のため、ヒナちゃんのためにやろうとしているのに。
答えは出ない。それでも、やるべきことは決まっている。
だから、その疑問をミカは無視して──
「……あはっ☆」
──ただ、笑った。
いつもお気に入り、評価、感想、誤字脱字報告等ありがとうございます。とても励みになります!
まず始めに、明けましておめでとうございます(遅刻)
最近、最初の頃よりも投稿ペースが落ちてしまい、待たせてしまって申し訳ないです……。
第三章の『赦されたエデン』の結末までの流れはほぼ完成していますので、どうか気長に待っていただければと思います。これからもよろしくお願いします!
……そんな記念すべき新年一発目にこのような話を投稿してしまうことになったのは、作者の執筆が遅かったからですね。
必要な事でしたので、心を鬼にして執筆しました。
これがレグルスだったら、全く心が痛まないんですけどね!