ぼろ布のほつれ(切り札の相棒ヤリモンを試合で温存してたら病んだ件)   作:もう助からないゾ♡

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原作における重大なネタバレに注意
気になる方はブラバして、原作をプレイしよう(推奨)


道程

 オイラはチケープ。ここは全世帯のエネルギー供給するセントラルタワー。

 そして今日に限って言えば、相棒とオイラの参加する、ヤリモンバトルトーナメント決勝の開催場所でもある。

 

 果たして、次は決勝トーナメントの決勝。

 相棒は1回戦の社長令嬢(マキ)も、準決勝のヒカリもあっさりと打ち破った。

 今回もオイラの出番は無い。それどころか両試合とも1番手の、クラゲ型色ボケ宇宙人:ジェイリアンによる余裕の3タテだ。

 戦術が分かっていても、対策しても止められない。正しくエースの風格がある。

 会場の観客の大半も、相棒のエースはコイツだと思っていることだろう。

 …全くその通りだから笑えない。

 

 でも、次の相手はチャンピオン「アテナ」。先刻、実妹のレオを接戦で制した才色兼備の女傑だ。

 リゾート島のレンタルポケモン同士で戦った時には僅差で相棒が勝利した、言わずもがな強敵だ。

 彼女の手持ち次第では、オイラの出番もあるかもしれない。

 いや、相棒が優勝するのが一番大切だけども…

 

「…?ちょげぷ?(…?どうした、相棒?)」

「いや、さっき大声出してレオ君応援したから喉が…。それと緊張も興奮もしているんだけど…ちょっと、いや本当に眠い」

「…ぷいー、ちょぷぷぷい(…変な夢や地震の所為で、最近あまり深く眠れてないもんな)」

「ぷいっぷ!(待ち時間の間、オイラのやわらかボディをクッションにして仮眠しな!)」

「いや、控室のレオ君に何か、話さないと……」

「ぷるすすすっ、ぷい(相棒が寝不足で負けたらあっちも立つ瀬がないだろ…って寝てる」

「Zzz…」

「…ぷいーぷ(…図体が大きくなっても、寝顔は変わらないな。)」

 

 ふにゃふにゃの胴体を枕に、首だけで相棒の顔を覗き込むと、寝不足の所為か隈ができていた。

 エネルギーとか新生物とかの時と同様、昨日も相棒はオイラと同じ夢を見ていた。…内容は中々ショッキングなものだった。

 

 夢の中で、フレア、白髪の少女が例の実験によって死んだ、というか研究員達に殺された。

 フレアは超人的な超能力こそ有しているものの、体そのものは人間だ(多分)。その体力的限界のせいで、魂エネルギーを利用可能エネルギーに連続的に変換する実験は遅々として進んでいなかった。

 そして、研究員達はその責任を、フレアの実験に対する非協力という形で転嫁した。理論上は、「フレアの体の一部」でも半永久的にエネルギーに変換するための役割は果たせるはず、それができないのはフレアが実験に協力的ではないからだ、と結論付けたのだ。

 そうして、実験の事故に偽装して殺された。

 

 彼女のメイドロボット「T-03(テレサ)」はこの処置に対し激しく憤慨し、抵抗した。しかし他の警備ロボット達に取り押さえられ、無力化された。そして、この「感情」を発現させたロボットは新たな研究サンプルとして、冷たい物置の中に「保管」された。

 

 そして魂を失ったフレアの死体は、生前と同じく魂エネルギー変換回路「クリスタ―」の中に再び収容され、実験は継続された。

 そして、理論通りフレアの肉体は死体であっても、民衆の魂エネルギー変換の触媒機能を発揮することが判明した。

 これらを指示した実験責任者のCEOはほくそ笑んだ。それは実験が予想通り成功したため、だけではなかった。

 

 …クリスタ―は全人類の魂から溢れるエネルギーを収集する回路である。その回路は同時に、全人類の魂に干渉する回路にもなりうる。そこにCEOの意思を逆流させれば、全人類を思い通りに洗脳することも可能である、と企んでいた。

 

 しかし、そこでCEOさえ予想していなかった2つの事態が起こった。

 1つは、死んだ筈のフレアが生き返った。否、フレアの死体に「フレアではない別の存在」が入り込んだのだ。

 そしてもう一つの誤算、クリスタ―は全人類の魂に干渉する回路であったが、それは同時に全人類の魂に干渉される(・・・・・)回路でもあった。夢の世界の全人類が無意識の中に臨んでいた穏やかな死の願望が、フレアではない何かに干渉し、洗脳し、その願望を成就させようとした。

 

 それは、「幸福な死」。クリスタ―から放たれた「人類安楽光線」はCEOを始めとする夢の中の住人に降り注いだ。光を浴びた人類は幸福に包まれ、次々と光となって消えていく…

 

 夢はそこで終わった。いや、恐ろしくて目が覚めたというべきか。

 夢の中の話のはずなのに、他人事のようには思えなかったのだ。

 

(…それに開会式のセントラル総帥の顔、どこかで)

 ヤリモントーナメントの開催地でもある、ここセントラルタワーで、開会式の挨拶を務めたセントラル総帥。あの黒髪長髪長身女は以前、和の里で見かけたが、それ以前にも会っていた、ような気がする。

 記憶が朧気で思い出せないが…ッ………!!?!?!?!?

 

「……!?チケープ伏せるよ!」「うわっ!?」「なんだこの揺れ!?」

「ひっ!?」「うわああああ!?」「ヤバイ、大きいって‼」

 

 突如、視界が、否会場全体が揺れた。最近やたらたくさん起こっていたが、その中でも今回の揺れはとても大きい。

 咄嗟に跳ね起きた相棒に抱きかかえられて、観客席の下で揺れが収まるのを待つ。

(アイツが、来る…いや、あい…つ?アイツってダレだ?()は一体…?」

 

 ーーーーーーーーー

 

 揺れが収まったあと、最新技術で設計されたバトルステージも照明が落下したり、床に亀裂が入ったりと決勝戦どころではなかった。

 スタッフの誘導に従って外に出ると、セントラル職員と話し込むチャンピオンの姿が見えた。

 

「人類安楽死光線」

 セントラルの危機感知システムがそれを警告していたらしい。

 …既に夢の世界で聞いたことのある物騒な言葉だ。それが、現実の世界の言葉として現れてしまった。

 詳細は職員にも分からない。総帥の座に就いて長いあの女なら何か知っているとのことだが、その総帥も開会式以来行方不明。外に出た形跡もなく、いる可能性のある場所は施設内に限られている、はずだ。

「閉鎖エリア…?」

 チャンピオン(アテナ)の呟きに職員が同調する。

 このセントラルタワーの地下には以前より「開かずの間」が存在する。内部がとても危険なため、立ち入りを禁じている、らしい。

 そして、上階で見つけられないということは、その閉鎖エリアにいる可能性はかなり高い。

 チャンピオンは、冒険家としての側面も併せ持つスタートレーナー「クエム」と、その相方兼遠隔オペレーター「パイス」と即席でチームを組み、閉鎖エリアの突入を試みることなった。

 夢の世界の惨状を思い出し、居ても立ってもいられなくなったオイラと相棒は、戦力としての同行を志願した。当初、チャンピオンは危険の高さから難色を示していたが、「チャンピオンの勘」とやらで、同行を許可される運びとなった。

 さらに幼馴染のヒカリとレオも、相棒と同じく動向を志願。勝手に着いて来られる方が危ないと、半ばチャンピオンが折れる形で加入することとなった、

 捜索は、パイス持ち込みのドローンで最低限の安全を確認したのち、クエムが単独で先行、得られた情報をもとにチャンピオンと相棒、ヒカリ、レオが後発する形となった。

 

 ロックを解除し、閉鎖エリアに侵入した。地下空間は当初の予想よりも遥かに広大で、太陽光など届かないはずなのに森林さえあった。

 道中、オイラ達後発組は見慣れないヤリモン達の襲撃を何度も受けた。

 先行したクエム曰く「かなり古い型のヤリモン」らしい。…少なくとも外の世界に生活しているヤリモンと比べると随分とグロテスクな見かけをしている。一応現代ヤリモンの面影自体はあるのだが…

 そして、そいつらは決まってオイラを集中的に狙ってきた。力量(レベル)差もあり、危なげなく返り討ちにできたが…

加えて、なぜかオイラ(・・・)はソイツらの動きや癖を知っていた。…現在のヤリモン達の面影があるからか?それとも…

 原生ヤリモン、夢の世界の中で聞いた新生物実験、そしてフレアの幽閉されていた|オイラと同じ姿をしたヤリモン。点と点が繋がりそうで、繋がらない。

 

 不意に先行していたクエムからの連絡が途切れる。

 相当数の原生ヤリモンの襲撃に遭い、戦闘中らしい。

 慌てて施設の奥に進むと、薄暗い通路の手前で負傷したクエムが座り込んでいた。

 周りには無数の原生ヤリモンの死骸、そしてクエムの相棒ガルルガンがクエムを守るように周囲を警戒している。辛うじて窮地は脱したようだが、負傷したクエムはこれ以上進めそうにない。

 ここで後発組はチームを二つに分け、ヒカリ・レオはクエムと通路手前で、原生ヤリモン達の足止めを担当。チャンピオンと相棒とオイラは通路の奥を探索することになった。

 

「………」

「チケープ…?」

 薄暗い通路の突き当りの扉に、オイラはどこか見覚えを感じた。そのまま吸い寄せられるように足取りが進む。

 頑丈そうな鋼鉄のドア。でも、わずかに隙間が空いている。

 

「…アテナさん!チケープとこっちのドアの奥を探すので先に進んでください!」

「…!分かった!」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 部屋の奥、無機質なベッド、椅子、机。内装はあの頃の(・・・)まま。

 暫く放心していた。そして、思い出した。

 

 

 オイラ、いや()が、「フレア」だ。フレアだった。

 かつて実験体として、この部屋に幽閉されていた。いや、自ら望んで実験に協力していた。…実験が成功すればエネルギー不足で飢える人・苦しむ人が減ると信じていたから。

 

 そして、死んだ。いや、死ななかった。

 私の体から離れた自身の魂は、ペットとして預けられていた「新生物」の試作品、「チケープ」と融合していた。

 

 そしてその姿のまま、私の本来の体に乗り移った何か、確か白の神と呼ばれていた、人類総安楽死を望む何かと戦った。

 洗脳された原生ヤリモンの加勢もあり、白の神を倒すことは適わなかった。しかし、いくらかのダメージを与え、休眠させることに成功した。

 

 人類は99%以上は光の柱に還ったが、いくらかは生き残ることができたらしい。

そして、自身の魂のエネルギーを使い尽くした私は、戦闘の余波によるものか、宙にできた黒い渦に、抗うこともできず吸い込まれた。

 

 再び目が覚めた時、私は地下室にいた。ついの今まで気づかなかったが、私は人類99%安楽死の過去から、2000年程先の未来にタイムスリップしていたらしい。

 しかし、そんなことどうでもよくなる程に、私は飢え切っていた。魂のエネルギーが枯渇していた。

 しかし、周りに人間は誰もいない。この体では、誰かにエネルギーを貰わなければ生き延びることさえ…

 私は今度こそ死を覚悟した。

 

「大丈夫?」

 しかし、そこに文字通りの光明が現れた。

 今まで見たことのない程に、強い魂の輝きに満ちた少年。そう、今の相棒(フッ太)だった。

 

「たすけて」

 腕も足も無い私は、呻くように呟くことしかできなかった。そして、それはきっと人間には伝わらない言語でーーーー

「…?いいよ」

 その呻きは相棒にだけは届いていた。

 そして、私を心配そうに抱える相棒の魂の、溢れんばかりのエネルギーを、

 

 私は食べた、飢えた野良犬の様に、はしたなく食べ尽くした。

  

 …今分かった、分かってしまった。旅に出る直前まで、相棒のスター鉱石が光らなかった理由が。

「私が…ずっと食べてたんだな。相棒の魂のエネルギー」

 ヤリモンとの意思疎通の道具足るスター鉱石は、魂から溢れるエネルギーを用いて初めて機能を発揮する。エネルギーは発生した端から私が食べ尽くしていたのだから、鉱石に回せるものなど無かったのだろう。

 そして、相棒が苦しむこととなった。ヤリモンは弱い私以外使えず、旅に出るまでは、野生のヤリモン相手に死にかけることさえあった。…何が「相棒のパートナーヤリモン」だ、ただの疫病神じゃないか。

 

「………ぎゅむご(相棒、ごm「総帥、テレサさん、を正気に戻さなきゃ、だろ?」

「……‼︎」

 

 …そうだ、もう一つ思い出したことがあった。

 2000年前にフレア()の面倒を見ていたメイドロボット、T-03「テレサ」の行方だ。

 今、探している総帥こそ、テレサだった。だから、長い就任期間中でも、まったく容姿が変わらなかったんだ。

 おそらくテレサは今もなお、私の体を操る「白の神」をフレアだと思い込んで、行動を起こしている。

 2000年前から変わらぬ忠誠心(頑固さ)で、人類総安楽死を望む白の神の復活のために。

 

 後悔して、腐っている場合じゃない。

 止めるしかない。

 信じて私を待っていてくれたテレサが少しでも報われるように。

 そして、相棒と出会えた、この世界を守るために。

 

 …というか、相棒もさっき思い出した記憶を見てたんだな…

 今までの夢が過去の自分事だと気づくと、相棒にも見られていたことが何だか恥ずかしくなってしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 通路に佇むチャンピオンの元に急いで合流する。一方は直進、もう一方は左折の分かれ道。

 チャンピオンは直進通路の先を睨みながら、険しい表情を浮かべてこちらを待っていた。

「キミとのリベンジマッチ、楽しみにしてたんだが、残念だ…レオのこと。これからも頼むよ」

「…アテナさん?」

「…いや、何でもない、大丈夫だ。私はこちらの道を行くから、もう一つの方を探してくれないか?」

 どこか腹を括った様な顔だ。アテナが向かおうとする先に嫌な気配を感じる。

 多分、大丈夫ではない。でも、恐らく時間も残っていない。

 

「……チケープ、行くよ。…アテナさん、すぐ終わらせて、決勝戦待ってます。」

「…あぁ!任された」

 私と相棒は暗闇の中、仄暗い光が続く通路へと駆け出した。

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