ぼろ布のほつれ(切り札の相棒ヤリモンを試合で温存してたら病んだ件) 作:もう助からないゾ♡
本当に?
身を焦がすような熱い陽射し、煌めく風、砂浜に打ち寄せる波音が心地よい。
ここはどこだったか、潮風の心地良さを感じるばかりで白昼夢のように思い出せない。
「…レア、フレア、大丈夫?暑さでのぼせてない?日焼け止めはさっき塗ってたよね?」
「?……大丈夫」
聞き覚えのある声、見覚えのあるTシャツ短パンの少し小太りな少年。
ふと少年の視線の先、自身の胸元へ視線を落とすと、血色が感じられない白い肌と白いフリルビキニ。
…そうだ、私は相棒と二人で南のリゾート島にバカンスに来ていたんだ。
浜辺の方に目をやると、水着の観光客達がたむろして遊んでいる。
ギャルもサーファーも、ライフセーバーも皆この陽射しに慣れているのか、肌は綺麗な小麦色に焼けている。
私達の横を、先ほどまで浜辺にいた際どいビキニのギャルが横切った。海風で金髪が棚引き、爽やかな、いや少しばかり主張が激しい制汗剤の香りがふわりと鼻孔をくすぐる。体は豊満な肉付きで、肌は健康的で瑞々しい。
…比べて私の肉付きは肋が浮き出るほど貧相で、肌に至っては図鑑で見た深海生物みたいに色素が抜けて、見るからに不健康そうだ。それがコンプレックスで、思わず目を背けてしまう。
「どうしたの?」
心なしか目からハイライトが消えかかっていた私を気遣ってか、相棒が心配そうに声をかけてくる。
(私が付いていきたいって言った癖に、勝手に劣等感感じて落ち込んで…馬鹿みたい)
「あの、相棒…」
「?」
「私の水着…どう?浮いてない?」
…我慢できずに聞いてしまった。変って思われてたらどうしよう…
「いや、めっちゃ似合っているよ。浮いているかどうかは…良い意味で目立ってるんじゃない?圧倒的に綺麗だし」
………へぇ…そ、そーなんだ。そう相棒には見えてるんだ。
「ふひ、えへへ…!」
然もありなんと言い切った相棒を前に、思わず口元がにやけてしまう。
不意に焦げたソースや、甘いフルーツの良い匂いが漂ってきた。
私達二人は人混みに流され、いつの間にか浜辺の屋台の近くに来ていたらしい。
(西暦のころは、もうこんな屋台は残ってなかったなぁ…)
…いや、あるにはあったのだろうけど、ついぞ食べる機会はなかった。なにせ、実験体として半幽閉状態だったもので。
古い漫画越しに密かに憧れていたシチュエーションを追体験し、少しテンションが上がるのを実感する。
「フレアは、何食べたい?」
「うーん、またパフェが食べたい、かな」
今日は連れのヤリモンも他の女もいない。
周りを出し抜いた感じで少し罪悪感も感じるが、それ以上に相棒を独り占めできた嬉しさが勝っている。
「トッピングはどれにする?」
「私は前と同じイチゴデラックスにしよっかな。相棒は?」
「僕?うーん、そうだな…今回はチョコバナナにしてみようかな。…屋台のチョコバナナって妙にうまいんだよなー」
「ふふ、なんか特別感あるよね」
「そういうフレアは、チケープの頃からイチゴばっかだよね」
「パフェはイチゴって相場は決まっているもんね」
「どこの情報だよ…。西暦の頃からイチゴは好きだったの?」
「…うーん、どうだろ?私達の頃は物価が高騰してて、生のフルーツなんて手が出なかったから」
「……そっか。西暦で食えなかった分、こっちで存分に味わってよ。パフェ一つとは言わずにさ」
「ありがと。…相棒のチョコバナナも一口頂戴?」
「なんかいかがわしく聞こえる…(う、うん)」
そんな談笑?をしているうちに、いよいよ順番が来て、私たちはそれぞれのスイーツを手に入れた。イチゴパフェの甘酸っぱい香りが鼻をくすぐり、思わず笑みがこぼれる。
「いただきます!」
近くのパラソル席に二人並んで座り、私はパフェ頂上のイチゴを口に運んだ。
その瞬間、口の中に広がる甘酸っぱい、幸せとさえ思える味わい。甘さと冷たさが、まるでこの楽園のような時間を象徴しているかのようだった。
…そして妙に
チケープの姿の時一回食べたきりだというのに、まるでかつて毎日食べていたような…
「……おーい相棒?」
私がパフェにがっつく横で、いつもは食欲旺盛な筈の相棒が一口も手をつけてない。スプーンを持ったままフリーズして、どこか虚空を見つめている。
「どうしたー?相棒の方が体調が悪くなったか?」
「……ごめん、フレア。チョコバナナは
残り全部
「…え…?」
思わず相棒の顔を覗き込む。
額の皮がばっくり割れて、傷から血がとめどなく流れている。
目の焦点が合わず、顔から血の気を失っている。
体中傷だらけで、左肩の肉がえぐれ、片脚があらぬ方向に曲がっている。
「ひッ…!」
顔が引き攣った拍子に取り落としたパフェグラス。零れるイチゴは砂浜を赤黒く染めた。
口に残るイチゴの甘さも、鼻腔をくすぐる潮の香りも、全て鉄色に変わっていた。
私がさっきまで食べていたのは…
「ゲェッ、おええ、ひぐッ」
嘔吐する私をよそに、相棒はふらりと立ち上がり、砂浜へ、波打ち際へと、折れた片足を引き釣りながら独り歩いていく。
「ま、待っで、行がないで」
「…………」
私のゲロまみれの掠れた声など意に介さず、相棒は海に向かって歩を進める。
力尽くでも止めないと…
「お姉ちゃん」
「⁉」
不意に目の前に現れた、白いワンピースを着た亜麻色髪の女の子。
迷子?俯いて表情が分からない。でも、そんなのに構っている時間なんて…
「お姉ちゃんはさ…
どうして
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「ひっ、ひっ、っひ、ごめん、ごめんなさッ、ひッ、っゼひ、ヒッ……」
「お嬢様ッ⁉すぐにクリスターからお出しします!
救急カート用意!メロン博士も交代お願いします!」
「おけおけ総帥、直ぐ入るわー」
緊急事態ではある、しかし今やそこまで珍しいことではない。
正八面体のクリスターの中から運び出されたのは、過呼吸に喘ぐ黄色と青色のツートンカラーの少女。そう、フレアお嬢様だ。
「相棒…ひっ、っひッ」
「…大丈夫です。少年殿は、あの部屋で貴女を待っています。
ゆっくり息を吐くように意識してください」
器質的な疾患を持たない、パニック発作による過呼吸。呼吸を整えるように、安心させるように彼女の背中をさする。…それだけでは、もはや効果が薄い。
結局抗不安薬を静注し、暫くしてようやく彼女の呼吸は落ち着いた。
5年前のあの日、白の神と私が人類を安楽死させようとしたあの日、2千年ぶりにお嬢様に相まみえることとなった。
しかしあろうことか、愚かな私は白の神の走狗として彼らと争った。ヤリモンとして蘇ったお嬢様に気付かず、お嬢様のパートナーであった少年殿の説得も無碍にし、かつてのお嬢様の理想を踏みにじった。騙されていた、洗脳されていたなど言い訳にもならない。白の神が復活する準備を整えていたのは紛れもない私だ。
そして、お嬢様と少年殿が白の神を制し、人類は滅亡の憂き目から救われた。
全世帯のインフラを担う動力源たるクリスターを破壊するほどの激しい攻防であったが、結果的に言えば、一連の騒動で人間側の死者は出なかった。
…そう、
旧ヤリモンによる白の神勢力の加勢を単騎で防いでいたチャンピオン及びその相棒のヴレイジン、閉鎖エリアの先行偵察を行い、後続組のアシストを担ったクエム殿が軽傷を負った。
破壊されたクリスタ―についても、お嬢様の能力による応急的な補修が間に合い、いくらかの影響はあったものの、インフラ停止による死者は今のところ確認されていない。
…そして白の神相手に、10匹近いヤリモンを使役し激闘を繰り広げた少年殿は、白の神の攻撃からお嬢様を庇い、意識不明の重傷を負った。
いつ亡くなってもおかしくない重体であったが、救護班の到着が早かったこと、彼のヤリモンの一匹であるゴーゴーギンが光線剣を電気メス代わりに、適切に止血をしたことが奏して一命は取り留めた。
しかし5年たった現在もなお、呼吸・循環こそ維持されているものの植物状態のままだ。精密検査の結果、脳虚血による脳損傷、頭部外傷に伴う頭蓋内血腫、脳挫傷、軸索損傷を始めとする諸々の原因疾患の所見は確認できず。
回復する兆しもないままに、唯々延命治療を続けているのが現状だ。
彼の延命治療について、彼の肉親を始めとして多くの関係者は継続を嘆願された。
彼が年若いこともあり、原因が不明であっても回復する見込みそのものは低くないといった事情もある。
…「セントラルは信用できないから、傘下経営の病院の最新設備で治してみせる」と申し出る某企業のご令嬢達もいたほどだ。しかし、現状彼の治療はセントラル地下の、かつてのフレアお嬢様の居た部屋で継続している。
これにはいくつかの理由がある。
一つに、少年殿の容態の安定のため。
というのも、セントラル、特にクリスターから離そうとすると、少年の容態が急激に悪化してしまう。原因はよく判っていないが、魂を目視できるお嬢様が言うには、クリスターからいくらかの魂エネルギーが少年の体に供給されているようだ。その影響かどうかわからないが、5年たった今でも本来寝たきりであれば起こるはずのるい痩が、少年の体には起こっていない。
これが延命に直接関わっているかは不明であるが、クリスター内で触媒となっていたお嬢様の体も2000年間腐ることなく維持されていたことを鑑みると、全くの無関係とは言い難い。
二つ目として、これがセントラル企業として最も大きい理由となるが、少年殿がお嬢様以外のクリスター触媒適正者を増やすことが可能な媒介者であったこと。
詳細は割愛するが、魂エネルギーをお嬢様に供給していたために、魂レベルでお嬢様と深く融合していた少年殿が、
…尤もこのことに気づいたのは、少年殿のお仲間による半ば事故のようなものでもあったのだが…。
少年殿は、先ほどお嬢様と交代してクリスターに入っていったメロン博士をはじめ、結果的に多くの適正者を残してくれた。
しかし、彼女らの魂のパスが恒久的につながっている保証はない。そして今後も適正者さえ増えれば、お嬢様がクリスター触媒として拘束される時間を大きく短縮できる。
今後のクリスター運用の安定性向上とお嬢様の自由時間確保、その2点において、少年殿の復活は必要不可欠の急務だ。そして、万が一でも外部の反セントラル機関の人間に少年殿の肉体を破壊・奪取されるリスクを負うわけにはいかない。
そういった人的セキュリティの面では、インフラ供給を長く担ってきたセントラルコーポレーションは世界最高峰だと自負している。…私が言えた義理ではないが。
そして、3つ目は…
「テ…レサ」
「お嬢様、咄嗟に鎮静薬を投与しましたが、お体のほどは?」
「うん、もう大丈夫。また、迷惑かけちゃった。ごめんなさい。」
「……お嬢様が謝ることなど」
「ううん。いつもテレサには助けられてる。」
「………」
「今日も夢を見たんだ。自分の体が人間の頃の時点で、夢だって分かったはずなのに、結局都合のいい部分ばかり見て…。そしたら、最後に相棒がいなくなっちゃって…バチが当たったんだなって。」
「……天罰など…。お嬢様に裁かれる謂れなどございません。」
「………」
お嬢様は無言で首を振った。
「……相棒は?」
「…意識こそありませんが、今日も各種バイタルは安定しています。」
「……そう…よかった。…もうこんな時間だ、相棒の体の向きを変えにいかないと…」
「職員にやらせています、お嬢様は休んでいてください」
「大丈夫、大丈夫だから」
「………」
そう言ってゆらりとベッドから起き上がるお嬢様。
チケープの体の名残であった黄色い肌は艶を失い、ショートに切りそろえられていた金髪も今やぼさぼさ。暗く沈んだ目に光が無く、頬はこけ、まるで幽鬼のような出で立ちだ。
「大丈夫」
そう言って、にこりとぎこちない笑顔を浮かべたお嬢様は、自動ドアの奥へと消えていった。
…お嬢様は、言葉にこそしないが心の底では私を恨んでいる。あの日、白の神の手先として立ちはだかったのは間違いなく私だ。私が少年殿の声に素直に耳を傾けていれば、もっと穏便に解決した可能性は高い。少年殿も重症は負わなかったかもしれない。
私はお嬢様の望みをかなえるどころか、お嬢様の心に癒えない傷を作ってしまった。
それでもお嬢様は私を傷つけまいと、なお気丈に振舞おうとしている。
そして、それ以上に、これ以上なく、未だにあの日のご自身を責めている。
元々お嬢様は、一見物事に深く頓着しない性格に見えて、その実、他者幸福のためにはどんな自己犠牲も厭わない。
裏を返せば、自分の力不足で誰かが不幸に陥るのを極端に恐れる、人一倍責任感を感じやすい、繊細で優しい、あるいは臆病な性格ともいえる。
そんなお嬢様がよりにもよって、最愛の人に庇われ、このような結末に至ったとなれば、一体どうお考えになるか、もはや想像するまでもない。
きっと、お嬢様はこれからの人生を全てを、守れなかった贖罪と、少年殿の覚醒のために捧げるのだろう。
…かつて私が白の神にそうしたように。
私はお嬢様の選択について、何か言う資格も立場もない。
――ただ、思わずにはいられない。
お嬢様はいつ報われるのか、いつ幸せになれるのか?
「……せめて、何かできることがあれば」
お嬢様が背負っている苦しみを、少しでも和らげる方法はないのか――――。
唯一の希望があるとすれば――――
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「ふふっ、相棒、涎垂れてる」
持ってきたハンカチで、涎をぬぐう。
元々国家機密級の私が幽閉されていた部屋だけあって、ここの病室は防音性抜群、とても静かだ。相棒につながれたモニター心電図が、一定のリズムで相棒の心臓が今なお動いていることを教えてくれている。
クリスターから流れ込む力のおかげか、肌の血色自体は悪くない。やせ細ってもいない。
経鼻チューブやモニターさえついていなければ、今にも起きだしそうな気さえする。
「……ねぇ、相棒覚えてる?」
「………」
「初めて相棒と修行で森に入った時のこと」
「あの時は、トレーナーを倒さないと、
「それでも強くなりたくて、何度も野生のヤリモンと戦ったっけ」
「……でも、例えそれが唯の無駄骨でも…」
「無性に楽しかったんだ。相棒と一緒に戦えたから」
「………」
植物状態でも、覚醒と睡眠のサイクルそのものは残っている。
今、相棒の目は開いている。…でも、その目に映っているのは虚空だけ。
どれだけ話しかけても再び視線が合うことはない。
「今日も、生きててくれて、ありがとね」
病衣の胸元を開き、首、胸、お腹を清拭する、次にズボンを降ろして…
「…やっぱり大きいなぁ」
女の子泣かせの暴君だ。でも、今はカテーテルに貫かれて、なんだか見るだけでも痛々しげだ。
…もし、今日も無事でいたら、一緒にバトルに行って、適正者を増やして回っていたのだろうか。
(後ろも拭かないと…)
相棒の体を横に倒し、背中とお尻を濡れタオルで拭く。床ずれは見当たらない。まぁ、セントラル付きの医師と看護師が見ているんだから万が一もないのだけれど…
…この脇腹の古傷は確か…。
「ヤリモンをスターディスク以外の、くくり罠で捕獲しようとしたこともあったね」
スターディスクで捕まえられないなら、力づくでも捕まえようと罠を用意していた。その用意むなしくヤリモンを捕獲することは叶わず、相棒は大怪我をした。
その、古傷だ。
「……私が弱かったから、私が魂を食べていたから、本当に迷惑かけたね。
ごめんなさい」
―――もし、相棒と私が出会うことなく、白の神と対峙していたらどうなっていたのだろう。
相棒は、私抜きのパーティーでも白の神相手に優勢に進めていた。
私が魂を貪らなければ、早い段階でもっとたくさんのヤリモンを仲間にできていたはずだ。トレーナーとしての経験ももっと積めたはずだ。
そうしたら、きっと……
今も昔も、私は弱かった。力が足りなかった。相棒の足を引っ張り続けた。
共に戦う資格など、無かった。
そして相棒の魂を貪り尽くした結果が、これだ。
もはや届かぬ謝罪の言葉を送り続けて、自分を慰めようとするのが今の私だ。
「…せめて、相棒の守りたかった世界は、これからも支えていくから」
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相棒の清拭が終わり、暫く病室の椅子に座っていた。最近、何をするにもひどく疲れてしまう。
ふと、コンコン、と病室のドアをノックする音が聞こえる。
「入るわよ」
「あ…」
返事をする前に、有無を言わさずドアを開けられる。
病室に入る大小二つの影。
「……フレア、あんたまたやつれたわね。」
「……大丈夫だよ」
亜麻色の髪をポニーテールでまとめた若い女性。ヒカリ。
――――相棒の幼馴染の一人で、当たりがきつかった方。
必殺技を覚える前の私にリスをけしかけてボコり、相棒から99000円むしり取った女。
……相棒の初体験の相手。
月日が経つにつれて、背が伸びて、発育も良くなって、最近はルナ博士にそっくりだ。
――そして、
「フレアおねえちゃん、きょうもあそぼ?」
母譲りの長い亜麻色の髪。幼いながらも整った顔も母親譲りだろう。
…そして、夢の中で感じたイチゴの香り。
煌々と力強く光る魂。スタートレーナーであるヒカリとも一線を画す、かつての相棒の魂を想起させる魂の光量。
「コラ、レイ。遊びに来たんじゃないでしょ?パパのお見舞いに…」
「えー、でもフレアおねえちゃん。ママよりやさしいもん。」
「……あはは」
ヒカリと相棒の娘、レイ。
この子が、今の私の生き甲斐、だ。本当に?
清拭のシーン、碌でも無いNGシーンがたくさん浮かんできました。(すぐフレアがサイコヤンデレ化する)
以前のも併せて、いつか、まとめて出そう。