魔王バルドVS勇者セージ ~極悪非道なバーコードハゲ魔王をフサフサ勇者がやっつけるお話~ 作:ナオ3
――かつて世界は、美しかった。私の側にいたときは。
リリア・ノワール・ヘルフェン。
かつて魔族上流階級の誇りと称された、宝石のような少女。
今は、魔王によって全てを奪われ、世界から笑われる“晒し者”となった者。
「……罪って、何?」
かつて、私の家は輝いていた。
上級魔族として、秩序を守り、優雅に生きる。
下級魔族は仕えることで誇りを得、
一般魔族は使われることに喜びを感じ、
人間は繁殖のための家畜として役目を果たす。
それが“世界”だった。
私たちは優雅に、誇り高く――正しく生きていた。
そう、“正しかった”。
だが、それは一瞬で終わった。
理由は、たったひとつ。
――下級・一般魔族と人間への、“遊戯感覚の殺戮”
「……罪って、何?」
彼女の瞳に揺れるのは、復讐の炎か、壊れた悲哀か。
「下級魔族を少し狩っただけ。
一般魔族は普通に使い潰した。
人間を少し遊びで弄っただけ。
そんなの、どこの家でもやってたことじゃない……違うの?」
それが、“罪”とされた。
リリアにとって、それは信じられない“茶番”だった。
「あんな連中、道端の石と同じ。踏み潰しても、誰も気にしない。
なのにそれを“罪”と? ふざけてる……!」
「人間を殺戮したですって?…魔族と同類に扱うなんて何考えてるのあの変態?」
「やはり一番の悪は、あの男よ。魔王バルド・コード。」
その“裁き”を下したのは、バルド・コード。
かつて、リリアが“バーコードハゲ”と名付けて笑った男。
たったそれだけの悪戯を根に持ち、
自分の家族を“処刑”した、狭量で陰湿な復讐者。
リリアにとって、魔王は正義などではない。
ただの私怨に満ちた殺戮者だ。
「昔、ちょっと笑っただけじゃない。
ただの髪のことで。バーコードって、ちょっと言っただけじゃない」
「それがなに? そんなことで……世界を呪ったの?
王としての器もない、小さな男が――
自分の過去に執着して、逆恨みで世界を弄んでいる」
そもそも
「あんな頭で生まれてくる方が悪い!
外に出るのが悪い!!
私と会話しようとしたことが悪い!!!
笑われる方が悪い!!!!
存在そのものが悪だ!!!!!
ーーーーーー私は何も悪くない!!!!!!!!!!」
声が震えていた。
怒り、悔しさ、そして……たぶん、それだけじゃなかった。
それは――――正義
「私の家族は、誰よりも優秀だった。
誇り高く、美しく、強かった。
下等な魔族や人間をどう扱おうと、あれは**“上”の者の当然の権利”**だった」
「それを“罪”と裁いた? あの男に?」
「……誰が赦すものですか。絶対に、赦さない」
世界に、そして己に宣言する。
「魔族の秩序を壊し、誇りを汚し、他者の命を奪う魔王バルド」
「貴方は私が……」
現在、リリアの屋敷は静寂に包まれている。
執事も侍女もいない。
従うのは、魔力で制御された給仕用のゴーレムのみ。
使用人はもういない。
“上級魔族に仕える名誉”を、バルドに奪われた。
居並ぶのは無機質なゴーレムたち。
掃除も、料理も、話し相手も、感情を持たぬものたち。
「……滑稽ね。あの子たち、“私に仕えること”が誇りだったはずなのに」
鏡の前で、そう呟くリリアの声に、温度はない。
まるで世界を未だに受け入れていない“幽霊”のようだった。
リリアの決意は揺らがない。
私は折れない。
私の正義は消えていない。
この世界が歪んだのは、バルドの“被害者ごっこ”からだ。
あれが世界の主となった瞬間から、
“秩序”は、“被害者の声”によって壊された。
ならば私は、
彼の正義を否定する“声”であらねばならない。
これは私の戦いだ。
これは、**私の――“正義”**だ。
そして
——月に一度の地獄巡礼
かつて魔族貴族の中でも最高峰の家系に生まれた少女は、
今では、月に一度“地獄”を歩かされている。
今日はその日だ。
朝、専用ゴーレムが屋敷の扉を開く。
自動的に奏でられる、リリアがかつて作詞した中二病全開のBGM。
「我こそは漆黒の華、罪を超えし夜の麗姫(れいき)」が、町中にこだまする。
リリアの髪は、常時ゲーミング。
その日によって色が変わるが、今日は七色のグラデーションに黒薔薇の花弁のようなカールが付与されている。
足元は高級魔獣の皮で作られたブーツ、ドレスは豪奢で流れるようなシルエット。
否応なしに目立つ。
美しい。
それゆえに――滑稽だった。
町の広場にはすでに人だかりができていた。
下級魔族、一般魔族、子ども連れの家族、物売り、仕事帰りの若者。
皆が「今日か」とわかっていた。
そして、彼女が歩き出す。
「こんにちはァァァ!地獄の使徒、リリア様でぇぇぇす!!」
「ちなみに昨日の夜は一人で“昔の自作ポエム”を読み返して赤面してましたァァ!!」
わざとらしいハイテンションで、笑顔を振りまきながら、
自らの黒歴史を大声で叫ぶ。
「私! 昔、自分の涙を“堕ちた天使の雫”って名付けて集めてましたァ!!」
「それで香水作って“絶望の香り”って名前つけてましたァ!!」
辺りに笑いが起こる。
それは愉快な娯楽としての笑いではない。
“嘲笑”だった。
リリアは心の中で噛みしめる。
(そう……これは魔王バルドによる悪意。
彼が“過去の些細な悪戯”を根に持ち、我が家の誇りを踏みにじった逆恨みの結末)
リリアの目には涙など浮かばない。
もう泣くことさえ、くだらないと知ったからだ。
町の片隅で、子どもが母親に囁く。
「ママ、あの人、バカなの?」
母親は優しく微笑み、子どもの頭を撫でながら言った。
「いいえ。あれは魔王様の“許された罰”なの。
“悪いことをしたらああなる”って、きちんと見ておきなさい」
リリアはすれ違いざま、その言葉を聞いた。
心の中で静かに、哀れんだ。
(違うわ。あなたたちは魔王の被害者よ。
本来、下級や一般魔族に“自由な言葉”など許されない。
下級は奴隷、一般魔族は名前のない道具が正しい姿なの。
私の家が、その秩序を保っていた。
そして、あなたたちはそれを失った)
彼女は信じている。
いずれ、必ず“あの男”は間違いに気づく。
リリアこそが“正義”だったと。
そして、その日が来たとき――
「……貴方たちは私が必ず“救って”あげる。」
正義のためなら幾らでも耐えて見せる。
どれほどの屈辱を味合わされても正義は屈しない。
みんなの為に正義を貫いて見せる。
どれだけ笑われても最後は正義が勝つ。
私は正義に殉じる。
正義とは私で私は正義。
正義が…、正義に…、正義を…、正義の…、正義と…、正義、正義、正義、正義、正義、正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義正義セイギセイギセイギセイギセイギセイギセイギセイギせいぎ―――
彼女は優雅に踵を返した。
散策は終わり。罰は終了。
次はまた、ひと月後。
屋敷の扉をくぐると、静かにゴーレムが出迎えた。
無表情。無感情。だが、完璧な礼節。
かつては下級魔族の奴隷たちが、怯え、ひざまずき、彼女に仕えていた。
それは彼らにとって「名誉」であり、彼女にとって「当然」であった。
だが今――
リリアのそばにあるのは、命を持たない“石と魔法の模倣品”だけ。
寝室へ向かう。
広い。静か。完璧に整っている。
なのに、どこか寒い。
リリアは、ゆっくりとベッドに腰掛け、
光るドリルを片手で払いながら、吐き捨てた。
疲れ果てた彼女はため込んだ不満を吐き出す。
「……罪って、何?」
涙を流しながらつぶやき続ける。
「……なんで。なんでこんなことで、私の家族が殺されるのよ……?」
下級・一般魔族や人間を“ちょっと”遊んだだけ。
たかが数百、数千匹ほど。
苦しませることはあっても、私たちを楽しませることがあれらの存在意義だった。
自分たちは、優れた者であり、彼らは使い捨てる存在だった。
それが、この魔王には「罪」だったらしい。
「……バルド。くだらない“あの過去”を根に持って……。
まったく……どこまで狭量なの?」
怒りに染まる瞳。
「私の“些細な悪戯”を恨んで、こんな“呪い”まで……」
リリアの中で、世界の正義は一つしかない。
それは「貴族は貴族として正しく生きること」。
弱き者を治め、導くのが高位の役割であり、それを楽しむのは当然。
下級魔族は奴隷として仕え。
一般魔族は道具として活用し。
人間は消費されることこそがこの世界の“正義”であった。
だが今の魔族社会はそれを“悪”と呼び、
笑いながらリリアを晒し者にしている。
「……おかしいわ。おかしいのは、世界の方よ」
誰も彼女に共感しない。
同じ上流階級の者たちとは接触すら叶わない。
魔王に逆らえば、粛清される。
あの嗤った子供たちでさえ、同様の呪いを受けて、誰も寄り付かない。
「……ふざけないで。こんな結末、私は認めない……」
天井を見上げる。
その向こうにいるバルド・コードを思い浮かべる。
彼の目。声。気配。――そして、バーコード。
リリアは、小さく嗤う。
「滑稽なハゲね。……今度会ったら、ちゃんと笑ってあげなきゃ」
「私は、間違っていない」
「私は、正義を貫く」
「奪われたものを、取り戻す」
「世界を正しい形に戻す」
「――バルド、お前から、すべてを」
彼女の正義は、決して共感されることはない。
だが、だからこそ、強く、まっすぐだった。
そしてその正義は――
――かつての魔王と瓜二つであった。
彼女はまごうことなき正義の人です。
彼女は迷いません、正義だから。
彼女は諦めません、正義だから。
彼女は顧みません、正義だから。
――これは、彼女だけの“正義”の物語。