魔王バルドVS勇者セージ ~極悪非道なバーコードハゲ魔王をフサフサ勇者がやっつけるお話~   作:ナオ3

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セージ君の日常


九話 フサフサ勇者

 

朝の風が、顔に心地よい。

 

木々の揺れる音を背に、セージは大きな剣を担いで街へ向かっていた。剣の刃先から、血の雫が一滴だけ垂れて落ち、砂地に赤い染みを作る。

 

背中には狩ったばかりの魔物の尻尾。今日の依頼は、森の外れに出没する中型魔物《トグルウルフ》の討伐だった。

 

魔物の群れは五体。数こそ多かったが、一体一体は油断さえしなければ特に手こずる相手ではない。

 

セージは、冷静に敵の動きを見極め、急所を正確に突いて倒していった。動きは鋭く、無駄も少ない。

 

若くしてギルド上位ランクに食い込んだだけのことはある。

 

現在の実力は「上の中」、若年でその域に達する者は殆どいない。

 

 *

 

ギルドに戻ると、ちょうど清算の時間帯だった。

 

冒険者たちが報酬や素材の売買、依頼の更新でざわつく中、受付嬢が笑顔でセージを出迎えた。

 

 

「おかえりなさい、セージさん。……本当に、無傷ですね。すごい」

「これくらいの相手なら、油断しなきゃ平気だよ。群れてても、動きに癖がある」

「今日の報酬は、討伐報酬が銀貨30枚、それと素材分で追加が――っと……」

 

 

手慣れた動きで書類と金を受け取り、セージはその場を離れる。肩の力は抜けているが、動きは無駄なく静かだった。

 

 

と、そのとき。

 

 

「よぉ、フサフサ勇者! また一人で行ってきたのか?」

 

 

声をかけてきたのは、同年代の冒険者仲間・レオだった。明るく、人当たりも良い青年で、セージと臨時で組むことも多い。

 

年齢はセージと同じくらいだが、すでに頭頂部は見事なバーコードをさらけ出している。

魔王の呪い――20を超えた男の頭から“希望”を奪う、半年前のことだ。

 

あの時のレオの落ち込み様は今でも記憶に新しい。

 

「……やめてくれ、その呼び方」

「ははっ、何言ってんだよ。ギルドが正式に二つ名つけたんだぜ? “フサフサ勇者”。ちゃんと名簿にも載ってるって、受付のメアが言ってたぞ」

「いや、そもそも生還って言うのも変だろ。俺、魔王と戦ったわけじゃなくて、ただ話して帰ってきただけなのに」

「いやいや、あの魔王と“話して帰ってきた”ってのがすごいんだろ? しかも、20過ぎてもフサフサ。どこぞの剣士たちが羨ましがってたぜ。魔族の間でも有名だって噂だぞ」

 

 

セージはげんなりとする。

 

 

「……だから、やめろってその呼び方」

「ははっ、悪い悪い。でもなぁ、実際フサフサじゃん? マジで信じられねぇわ、20過ぎても髪の毛に裏切られないとかさ」

 

 

冗談交じりに笑いながら、セージの髪に指を突っ込んできた。

 

 

「なあ、お前なんかやってんの? 育毛魔法? 特殊なトニック?」

「いや、何もしてねえよ」

「嘘つけよ! あんな魔王と面会して生還とか普通ありえねえし! もしかして魔王にフサフサの秘儀でも教えてもらったのか?」

「……話しただけで、“生還”って言われてもな。殺されてたらギルドに帰ってないし」

「でもよぉ、普通、あの魔王と会って無事だった奴なんていねぇんだぜ? ギルド内でも話題だったぞ。“新時代の英雄”とか“フサフサの希望”とかさ」

「フサフサ関係なくない?」

「いや関係ある! 俺たちの世代じゃあ髪は生命線だからな!」

 

レオは寂しそうに自分の頭を撫でる。

 

「……俺さ、本当は“雷撃のレオ”とか、そういうカッコいいのが欲しかったんだけどなぁ。

結局、つかないまま前線下がって……そしたらお前が“フサフサ勇者”とか言われてんだもんな。なんか悔しいわ」

「知らんて。俺が頼んだわけじゃないし」

「いや、頼んでないのはわかってるけどよ。なんか、くやしいんだよなああああ!!」

「俺だって伝説の冒険者“孤狼(ローン・ウルフ)”みたいな称号が欲しかったよ・・・」

 

(いや、ほんと……俺がフサフサだからってなんで泣かれなきゃいけないんだ)

(……頼むから、普通に“セージ”って呼んでくれよ)

 

 

ため息をつきながらも、セージは微笑を隠せなかった。

なんだかんだで、こうして日常が戻ってきている。それが、どこか嬉しかった。

 

 *

 

今や冒険者というのは、何でも屋のような存在だ。

魔物討伐はもちろん、迷子探し、荷物運び、果ては町の警備まで。依頼の内容は様々だ。

セージは単独で動くことが多かったが、時折、臨時パーティを組んで協力することもある。

だが彼は、自分のやり方を貫くことを選んでいた。

無理はしない。だが、手を抜きもしない。

 

 

「そういえばさ、セージ。次、ちょっと面倒な護衛依頼が入ってるんだけど、良かったら組まないか?」

「うーん、ちょっと考えさせて。今日の報酬で食料品も補充したいし、洗濯もたまってるんだ」

「マジメだなぁ……。まぁ、お前が出てくれたら安心だし、また声かけるわ」

「そのときは“フサフサ勇者”じゃなくて、“ただのセージ”として呼んでくれよ」

「はいはい、わかったよ、“フサセージ”」

「いや、それもダメだろ」

 

 

軽口を交わしながら、笑い合う二人。

 

戦いのない時間にも、彼の日常は動いていく。

 

ギルドの外に出ると、太陽がちょうど真上に差しかかっていた。

 

ふと、風が吹き抜ける。

 

サラリと揺れる前髪に、セージは指を通して整えながら、小さくつぶやいた。

 

「……ほんと、何なんだよ。“フサフサ勇者”って」

 

でも、どこか満更でもない。

 

少なくともこの街では、セージは“世界を救った勇者”ではなく、“なんでもこなすフサフサ冒険者”として愛されていた。

 

その背を見送りながら、街の子どもが囁いた。

 

 

「あの人が……セージさんだって。かっこいいねー!」

「ねえ、どうしたらフサフサでいられるのかなぁ?」

 

 

セージは聞こえないふりをして、肩をすくめながら歩き出した。

いつも通りの、少しだけ騒がしい日常。

 

でもそれが、今の彼にはちょうど良い。

平和という名の、ささやかな戦場の中で。

 

  

冒険者としての生活に戻って、一か月。

思っていたよりも、平穏だった。

 

 

 ――研究所からの干渉は、ほとんどない。

 

 

たまに街の宿舎に調査員が来て、「体調に変化は?」「夢に魔王は出ましたか?」などとヒアリングされる程度で、監視や軟禁といったものは一切なかった。

 

 

 (……たぶん、魔王が止めてくれたんだろうな)

 

 

そう思うたびに、セージは少しだけ苦笑いを浮かべる。

 

銀ラメのスーツを着せられ、寝ても覚めても魔力測定と精神干渉実験。休憩時間には食堂で謎の栄養ゼリー。

 

あの研究所の日々は、いま思い返しても胃がキリキリする。

 

 

だから――

 

 

 

 「……ありがとうな、魔王」

 

 

 

 独り言のように呟いて、セージはベッドに寝転がる。手には、魔王とのメールのやり取りが表示された魔導端末。

 

 週に一度のやり取りは、今も続いている。

 

________________________________________

 

 

【魔王バルド・コードからのメール】(本文抜粋)

件名:近況について

セージ

その後の生活に問題がないのであれば、安心した。

私の方でも研究所に対し、最低限の報告義務以外の接触は不要と通達している。

冒険者としての活動を再開していると聞いたが、過度な無理はするな。

 

 

必要があれば、また連絡を。

魔王バルド・コード

魔王府第一筆頭

(フサフサ推進課 特別監査役)

 

 

________________________________________

 

 

【セージからの返信】(本文抜粋)

 

件名:Re: 近況について

 

バルドへ

 

相変わらず文章がカッチリしてるね。読んでると、こっちまで背筋がピンと伸びるよ(笑)

でも、連絡ありがとう。あれ以来、研究所の連中もすっかり大人しくなった。

こないだ来た調査員なんて、俺の髪を見た瞬間に妙なテンションになってたくらいで、それ以上は特に何もなかったよ。

 

冒険者の仕事は、いつも通りって感じかな。今日はトグルウルフを5体狩ってきた。

問題なく、フサフサのまま帰ってきたので、そこはご安心を。

 

……それと最後にひとつだけ。

 

あんたのメールの署名、突っ込んでいいかな?

 

**「フサフサ推進課 特別監査役」**って、あれ一体なんなんだ……!

 

セージより

 

 

________________________________________

 

 

 端末を閉じて、セージはふっと笑う。

 

 魔王とのやり取りは、以前のような緊張感はもうない。

 かといって、馴れ合いでもない。

 

 普通に友人とメールで会話するだけ。

 

 

  

「……次に会うときは、何を話すかな」

 

 

 

 窓の外を眺めながら、セージは眠りに落ちた。

 

 風が静かに吹き抜ける夜、街は穏やかな光に包まれていた。

 

 

 

――そして、フサフサ勇者は今日も平和である。

 

 

 




山も谷もない日常回でした。
あとフサフサ勇者とからかわれ易い称号は嫉妬や怒りによる被害を防ぐためでもあります。
二つ名持ちはギルドが注目している証左であり、セージ君を守るためでもあります。
魔王城からの圧力もあったりなかったり・・・
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