魔王バルドVS勇者セージ ~極悪非道なバーコードハゲ魔王をフサフサ勇者がやっつけるお話~ 作:ナオ3
――セージが帰宅してから三日後
魔王バルド・コードは、自室の椅子に腰掛けたまま、窓の外をぼんやりと眺めていた。
(……静かだ)
三日前。
この城を訪れていた青年――勇者セージは、魔界の奥地での対話を終え、無事に人間界へと帰っていった。
あれほど激しいやり取りの末、まさか“なんでもない約束”だけを交わして別れることになるとは、夢にも思わなかった。
だが今、魔王の心には――空虚ではなく、妙な余韻だけが残っていた。
「……ふむ」
ふと、手元に置かれた“魔導通信端末”に目がいく。
セージが使っていたものと同じ機種だ。彼が帰る際、通信コードを交換してくれた。
「よく使うものだと言っていたな……たしか“メール”だったか」
バルドは、静かに端末を手に取った。
この三日間、セージに連絡を取ろうか迷っていた。
だが、何を話せばよいかわからなかった。
“友達”というものが、どういう存在なのか――わからなかったのだ。
(だが、放っておけば……このまま縁が切れてしまうのではないか?)
それは、嫌だった。
理由はわからない。けれど、そう思った。
そして、意を決して、文字を打ち始めた。
「……くっ……何を、どう書けばいいのだ……」
完全武装の魔王が、机に肘をついて頭を抱えている。
威厳も覇気もない。ただ、ひたすらに悩んでいる。
その時、控えめにノックの音が響いた。
「失礼いたします、魔王様。お茶を――」
「キリナッ!!」
「は、はいっ!?」
まるで戦場に召喚されたかのように、メイドのキリナはビシィと姿勢を正す。
バルドは、まるで最後の希望を掴むように彼女を見つめた。
「……見てくれ。このメール文面。どれも、どこかおかしい。私は……わからないのだ。友とは……どういう文面が適切なのか……!」
「は、はあ……では、拝見いたしますね」
(ついにこの時が来たか……魔王様、友達メール、初挑戦……!)
キリナは魔王の手から端末を受け取り、画面を確認した。
渡された魔導端末の画面を覗き込んだ瞬間――キリナの笑顔が、ピキリと固まった。
表示されていたのは――
【宛先:セージ】
「セージ。昨日の君の言葉が、私の脳内で反芻され、まるで甘美なる蜜のように精神を潤している。
君が発する一語一句は、まるで永劫を越えて響く調べのようだ。
君の存在が、私の人生に新たな色彩を与えてくれたことに感謝している。
これからも、私のそばに――いや、いや、そばというのは語弊があるな。
ともかく、また君と会話できる日を楽しみにしている。魔王バルド・コード」
(ねちゃあ……!)
キリナの脳内で赤い警告ランプが点滅する。
(ねちゃああああああああああああああ!!)
思考回路が泡を吹きそうになるのを、執事仕込みの理性で押さえつける。
「……ま、魔王様。これは……その、やや表現が……いえ、非常に情緒豊かではありますが……」
「……不快か?」
「いえ、不快というわけでは……ただ、あの、初めてのメールですし……もう少し、その、魔王様らしい“威厳”や“品格”を感じさせるような内容の方が、かえって自然かと……」
「ふむ……つまり、今の内容は……?」
「……少々、“濃厚”です」
バルドはしばらく考え込み、やがて静かに頷いた。
「わかった。では、修正案を聞こう。……できれば、早めに送っておきたい。……こういうのは、遅れると意味を失う気がする」
数分後、魔王とキリナは共同で文章を練り上げた。
完成したメールはこうだ。
【宛先:セージ】
「セージ、先日は対話の時間をありがとう。
君の率直な意見と、誠実な態度に敬意を表する。
今後も、何かあれば相談してくれ。
魔王バルド・コード」
「……固いですね」
「……私もそう思う」
キリナとバルドは、微妙な表情で画面を見つめる。
だが、今さら“蜜”とか“潤い”とかを復活させるわけにもいかない。
バルドは一度、大きく息を吸い、送信ボタンを押した。
送信完了の表示が浮かび、部屋に静けさが戻る。
時計の音がやけに大きく響く気がした。
――数分後、返信が届いた
。
【セージからの返信】
「こちらこそありがとう。
でも、魔王様……ちょっと固いかな(笑)
もっと気楽に連絡してくれて大丈夫だよ」
バルドは画面を見て、じっと沈黙する。
やがて……ふっと、唇の端をわずかに緩めた。
「……そうか。これが、友というものか」
「……魔王様?」
「こうして、普通に返ってくるものなのだな。……文字というのは、こんなにも……温かいものだったのか」
「ええ、魔王様。良いお返事でしたね」
キリナもそっと笑う。胸をなでおろしながら、心の中では叫んでいた。
(よかったあああああああああああああああ!!)
「よし……では、次の返信もすぐに……」
「ま、魔王様!? 少しだけ、時間を置くのも、礼儀かと!」
「……なるほど。キリナ、教えてくれ。友達とは、一日に何回まで連絡してよいのだ?」
「ええと、それは……一般的には、内容によりますが……」
「内容次第……よし、次の文面を考えよう。今回は……“今日の空が君の髪のように清らかだった”という書き出しでどうだ?」
(ねちゃあああああああああああああああああ!!!!)
再び警報が鳴り響くキリナの脳内。
だが彼女は、プロのメイドとして、微笑みながら静かに言った。
「……まずは、天気の話題など、もう少し“万人向け”の内容から始めてはいかがでしょうか?」
バルドはうんうんと頷く。
「なるほど。友とは奥深いものだな。……ふふ、学ぶことが多い」
(……セージ様、本当にありがとうございます。どうかこれからも、魔王様のお友達でいてください)
キリナは、心からそう願った。
――それは、魔王にとって初めての“日常の一歩”だった。
2日後
「……よし、今日も送るか」
魔王バルド・コードは、机の上に置かれた魔導通信端末を手に取ると、真剣な表情で指を走らせた。
“友達とは、こまめな連絡が大切である”――どこかの本で読んだ。
だが、魔王である自分にとって、“こまめ”という概念は未踏の領域だった。
セージ。君の存在がこの数日、私の心に静かに浸透していくのを感じる。
まるで黒夜に降る白雪のように、君の声が思い出され、私は眠りに落ちる前、幾度となくその音色を反芻している――
「……完璧だ」
バルドは満足げに頷き、送信ボタンに手を伸ばす。
が、その瞬間――静かに扉が開く音がした。
「魔王様。お茶の用意が整いま――あっ」
現れたのはまたもメイドのキリナ。
その目は端末を見た瞬間、数秒だけ固まった。
「キリナ、ちょうど良い。確認してくれ。今回の文面は、抑制を意識して書いたつもりだ」
「……そ、そうでございますか……拝見いたしますね」
(“黒夜に降る白雪”……? “音色を反芻”……!?)
(相変わらずネチャネチャしてるぅぅぅぅぅぅぅ!!)
内心で叫びつつも、キリナは冷静を装いながら、そっと言葉を紡ぐ。
「……魔王様、以前のように、少しだけ……ほんの少しだけ、“感情の表現”を抑えてみるというのも……試してみませんか?」
「……む? だが、セージからすこし固いと返信があったから感情をこめてみたのだが?」
「もちろんです! もちろん、魔王様のお気持ちは尊いものです。ただ……」
キリナは一歩踏み出し、ゆっくりと微笑む。
「メールというものは、“相手がどう受け取るか”も大事です。セージ様は、魔王様の真面目で礼儀正しい一面を好ましく思っておられたご様子でした。
ですので……無理に“相手に合わせよう”とされるよりも、魔王様らしく、“少し固いくらい”の文面の方が、かえって安心感があるのではないかと……」
「……私らしさ、か」
バルドはしばし考えた後、ふっと小さく笑った。
「……なるほど。セージは、私の固さを“気楽”と受け取っていた節があるな……」
(ああ、セージ様……! 本当にありがとうございます……!)
魔王は再び端末を開き、キリナの助言を受けて文章を書き直した。
セージ。体調に問題はないだろうか?
私は変わらず、執務に励んでいる。
そちらの情勢に何か変化があれば、遠慮なく知らせてくれ。
魔王バルド・コード
送信。
数分後――返信が届いた。
【セージ】
魔王様、メールありがとう。こっちは大丈夫。
相変わらず魔王様らしい、丁寧な文が安心するよ。
あんまり無理して砕けすぎないでね(笑)
バルドは画面を見つめながら、ゆっくりと頷いた。
「……なるほど。私らしく、でいいのだな。ならば、次も“私らしく”書こう」
「ええ。魔王様の誠実な文章は、きっとセージ様にも届いております」
「では、次は“本日の魔界情勢報告”という形で……」
「そ、それは日記になってしまうかと!」
「む? ……では、“本日のハゲ情勢”などはどうだ?」
「やめておきましょう!!」
キリナの全力の制止が響く中、魔王は少しだけ、肩の力を抜いた。
自分を曲げすぎず、それでいて、誰かと繋がるということ。
それは思っていたよりも、心地よいことだった。
「……感謝する、キリナ。君がいてくれて助かる」
「とんでもありません、魔王様。こちらこそ……お仕えできて光栄です」
キリナは丁寧に頭を下げ、心の中で静かに思った。
(――メール一通で、こんなに成長する魔王様。なんていとおしいのでしょうか)
こうして魔王バルド・コードは、自分らしい“固いけど丁寧な友達メール”という形を手に入れた。
そして今日もまた、ちょっとお堅い文章が、セージのもとに届く。
魔王様は魔族の中でもまだまだ子供のお年頃w
魔王様のネチャネチャメールはAI君が書いたのそのまんまコピペしました、僕は弱かった・・・