魔王バルドVS勇者セージ ~極悪非道なバーコードハゲ魔王をフサフサ勇者がやっつけるお話~   作:ナオ3

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セージが帰還してから初めての会議
普通の会議の筈が異常が発生


幕間 魔王城の異常で普通な一日

セージが人間界へ帰還してから、数日。

魔王城に、 “幹部会議”の日がやってきた。

 

場所は魔王城・黒き円卓の間。

重厚な石柱が立ち並び、漆黒の玉座が中央に鎮座するこの広間は、かつて数百年に渡って幹部たちの血と汗と震え声が染み付いてきた、威圧と規律の象徴である。

 

しかし――

 

今日は、どこか空気が違っていた。

 

張り詰めた緊張は確かにある。だが、圧迫感は薄い。

空間に満ちる魔力の密度すら、どこか柔らかく――“穏やか”だった。

 

魔王バルド・コードは、久々に幹部たちを集めて定例の戦略会議を開いた。

会議といっても、今や魔界には大きな戦争もなく、各地の監視状況や内政報告が中心である。

 

だが――

 

かつてのこの会議には、もうひとつ“暗黙のルール”が存在していた。

 

それは、

 

「絶対に笑ってはいけない」

 

いや、正確には――

 

「魔王様を前に笑ってはいけない」

「“その髪型”に一瞬でも目が行ってはいけない」

「眉間の皺に集中し、髪には一切触れてはならない」

 

――という重苦しい沈黙の同調圧力であった。

 

特に何もしていなくても、髪の話題が遠回しに出た瞬間、

場に走る緊張、喉を詰まらせる咳払い、

目を伏せる参謀、震える声で報告する参謀補佐――

 

会議はまるで処刑前の儀式のような空気に包まれていた。

 

だが――今日は、違った。

 

魔王が入室し、席に着く。

 

玉座に座する魔王バルド・コードは、いつもと変わらぬ無表情で会議の進行を見守っていた。

その目に覇気はあるが、過去のような“威圧”とは違う。

 

誰も過剰に固まることはなかった。

近くに控えるメイド長キリナでさえ、どこか安心して会場を見渡せるほどだった。

 

幹部たちは背筋を伸ばしつつも、どこか自然な空気を保っていた。

そしてバルド自身も、無言で頷くだけで、余計な視線や圧を飛ばすことはない。

議題はスムーズに進んだ。

 

 

「東方の監視塔より報告。最近は特に動きなしとのことです」

「南部交易ルート、収支は安定しております。人族との接触もありません」

「魔獣の暴走も、前線部隊が抑え込んでおり、大規模な派遣は不要かと」

 

 

淡々としたやり取りが続く。

だが、妙に心地よかった。

 

空気が、軽い。

 

誰も笑っていない。

だが、笑いを堪えねばという緊張感もない。

 

そこにあったのは、“普通”に変化した魔王城の日常だった。

  

会議は予定よりも早く終わった。

 

解散の際、一人の幹部がぽつりと呟く。

 

 

「……誰も笑わずに済んだな」

「ええ、誰も……無理に耐えなくてもよかった」

「……変わりましたね、魔王様」

誰ともなく、そんな言葉が漏れる。

 

 

そう。

セージが帰ったあの日から――

 

魔王城にも、確かに**“風”が変わり始めていた**。

 

会議が終わり、幹部たちは魔王城西翼の専用通路から退出していく。

 

この通路は、“会議終了後のストレスによる暴走魔力”や“感情の発露による誤爆”を防ぐために、かつて魔術師団が特注で設計した安全構造になっていた。

正式名称は【静穏回廊】。

通称――**“余韻処理ルート”**である。

 

その終点。

重厚な扉の先にある待機スペースでは、各部隊の直属部下たちが整列して幹部を待っていた。

 

……全員、サングラスをかけて。

 

幹部の部下たちは常にサングラスの着用が義務付けられていた。

その理由はただ一つ。

 

なぜなら――上官が眩しすぎて直視できないからである。

 

魔王バルド・コードが呪いを発動してからというもの、会議後の幹部はまともに視認できない髪型が常態だった。

 

結果、部下たちの間では――

 

「上司を直視するにはサングラスが必須」

 

という不文律が生まれた。

 

パシィィ……と開いた扉から、幹部たちが一人、また一人と現れるたびに、部下たちは瞬きもせず固まった。

 

 

「……光って、いない……」

「副官殿……今日、ゲーミングじゃない……?」

「……誰一人、発光していない……!? これは……本物の静穏モードだ……!」

 

 

ざわめく部下たちの視線の先にいたのは、全員ノーエフェクト状態の幹部たちだった。

髪は普通。オーラもなし。誰一人として魔力を漏らしていない。

 

 

「……目に優しい……」

「これが……これが“平和な会議”か……!」

 

 

思わず感涙する者すらいた。

 

 

「……本当に、笑わなかったんですね……」

「はい。……全員、生還しました」

 

 

静かに頷いたのは、第一軍団長・ガラルド。

彼の肩には、普段なら雷のような紫光が走っているはずだが、今日はただのスーツ姿である。

 

 

「……今日は、魔王様のお心が穏やかだった。我々も、それに応えるだけだった」

「すごい……」

「むしろ……怖いです。副官殿が光ってないと不安になります」

「贅沢な悩みだな」

 

 

苦笑を浮かべながら、ガラルドは肩を竦めた。

 

他の幹部たちも、まるで山を越えた登山者のような安堵の顔で部下に手を振る。

中には「今日は焼き肉でも行くか」などと、まるで平社員のようなセリフを漏らす者までいた。

 

部下たちは、半ば神妙な面持ちでそれを見送る。

 

 

「……会議のたびに我々はサングラスを着けてますが……今日ほど無駄だった日はありませんね」

「いや、それでもいいんだ。光らない日は、最高なんだ……」

 

 

誰かがつぶやいた。

 

サングラスの奥の瞳は、皆少し潤んでいた。

魔王城の幹部たちは、“発光”が常態だった。

今や“ノーマルモード”の幹部を見ると、逆に動揺してしまう有様であった。

 

 

「……このまま……普通の日が続くといいですね」

「おい、それ死亡フラグみたいなこと言うなよ」

「やめろ! 今この静寂を楽しめ!」

 

 

部下たちは笑い合う。

そんな姿を、帰りがけの幹部たちは後ろからちらりと見やって――また、少しだけ笑った。

ゲーミングでも、発光でもない、ただの笑顔だった。

 

 

「まあ……ありがたいことだな。今日は、普通の顔で部下の前に立てる」

「ほんとにな。なんだか……ちゃんと、魔王軍っぽいよな」

「いつも、**『虹色軍団』**って呼ばれてたしな……」

 

 

会議が平穏に終わったこと。

誰も光らなかったこと。

部下たちが素顔を見られる日が来たこと。

 

それは“日常”としては些細なことかもしれない。

だが――魔王の呪い以降、初めての“静けさ”は、確かにこの日、城に刻まれた。

 

幹部の一人が、通りすがりに部下へそっと囁いた。

 

 

「……今日のことは、特に報告しなくていい。

 だが――記憶には、ちゃんと残しておけ」

 

 

部下は、思わず背筋を伸ばして頷いた。

 

――それは、魔王城に訪れた、束の間の平穏。

 

誰も暴走せず、誰も“発光”しなかった一日。

 

そして、そのきっかけは――

人間の青年、勇者セージの“ただの会話”にあったのだった。

 

 

「は~~……外の空気って、こんなにおいしかったか?」

「いつぶりだ、会議当日に外歩けたの……?」

「魔王様即位以来初じゃね?」

 

 

魔界首都“ヴェルデ=シェル”の中心街にある高級魔族専用バー『漆黒の盃(グラッセ・ノワール)』――

 

そして今――そこに集っていたのは、魔王城直属の幹部たち一同である。

 

スーツを着崩し、軽く酒を傾けながら、どこか信じられないような顔で互いを見渡していた。

そこに幹部一同がそろって顔を出したのは、実に異例の出来事だった。

なぜなら彼らは、*「会議直後に外を出歩くことは不可能」*という運命を背負ってきたからだ。

 

――理由は、髪である。

 

魔王バルド・コードによって世界に呪いがかけられて以来、

人の頭を見て笑った者は、髪が“ゲーミング発光”するという効果に苛まれてきた。

その光は、ただの光ではない。

虹色にきらめき、波打ち、動きに合わせてリズムよく点滅する。

 

 

「……なあ、本当に今日って会議あったよな?」

「間違いない。午前九時開始、四十五分で終了」

「早すぎて逆に怖かったぞ。だって……」

 

 

「俺たち、光ってないんだよな」

 

 

その言葉に、一同しん……と静まったあと――

 

 

「……乾杯するか」

「“ノーゲーミング”に、な」

 

 

全員がグラスを掲げる。

 

 

「「乾杯」」

 

 

――コトン。

誰もが、どこか感慨深い表情を浮かべていた。

 

3か月に一度の幹部会議。

 

それは“情報共有と方針決定”を目的とする極めて重要な集会ではあるが、幹部たちにとっては同時に――苦行だった。

 

なぜなら、その日の会議中に一度でも気が緩めば、“髪がゲーミングに光る”という容赦なき呪いが発動するからだ。

 

魔王の威圧、独特の空気、突如現れる魔王バーコードの視覚の暴力。

 

そのどれもが、笑いを引き出してしまうトリガーとなり、発光者が続出。

その結果、会議後1か月は市街を出歩くことができなくなるのが常であった。

 

 

「発光した状態で街中歩けるかよ……」

「先月の時なんか、“羞恥バーストピンク”で自宅警備1か月だぞ、俺……」

「それで“ピンク隊長”って呼ばれてたの、今思い出した」

「殺すぞ」

「……私なんかさ。前回の会議、虹色ドリルよ?」

「いやお前はまだいい。俺、左右非対称ゲーミングボブ。街歩くと子どもが泣いたぞ」

「発光パターン、“ギャラクシー流星群”だった時の俺に勝てる奴いるか?」

「お前それもう逆にかっこよかったろ」

「いやいや、嫁に3日口聞いてもらえなかったからな……!」

 

 

今までは、会議の後はすぐに帰宅し、発光が収まるまで市街を出歩かないのが暗黙の了解だった。

それも3か月に1度のペースであるため、“会議が終わった日”というのは、むしろ“地獄の始まり”だったのだ。

 

だが――今日は違った。

 

誰も光っていない。

誰も笑っていない。

誰も羞恥で床を転げ回っていない。

 

それどころか、皆が堂々と街を歩いている。

それは魔族社会にとって、革命的光景だった。

 

 

「マスター、俺の“闇の樽割り”を!」

「おい、こいつ酔ってレインボーにならねぇだろうな?」

「今日は大丈夫だ。俺は清浄だ。髪も心もクールビューティーだ」

 

 

乾杯の音が鳴り響く。

 

 

「光らなかった俺たちに!」

「そして……魔王様とフサフサ勇者セージに!!」

 

 

全員、勇者を崇めていた。

 

かつて人間界と敵対していた時代、勇者とは打倒すべき“希望の象徴”だった。

だが今、セージは違う。

 

あの魔王陛下と“対話”し、 “フサフサ”のまま帰ってきた。

 

それどころか――

 

“笑い地雷”として君臨していた魔王会議にすら、穏やかな風をもたらした。

 

 

 

 

「……セージ様の発言が脳裏にこびりついて離れない。

 『今日もフサフサです』――あの一文だけで酒が飲める」

「俺もうそれ座右の銘にするわ。刻印にして額縁に飾る」

「我々、魔族の精神訓練で最も困難とされる“耐笑訓練”を300年積んできたというのに……なぜあんな短文で笑いそうになるのか……!」

 

 

彼らの言う“耐笑訓練”とは――

 

魔界における、笑いを完全に制御するための狂気のような鍛錬である。

 

・魔王の過去の黒歴史を淡々と朗読する「封印詩暗唱訓練」

・動かないゴーレムが延々と転倒する「無限滑稽模写室」

・『もし魔王に普通の髪があったらのIfを作り出すホログラム』を見せられた後にバーコード魔王の姿絵を見せつけられる「笑心耐性試験」

等々

これらを超えて、なお笑わぬ精神を得た者のみが“幹部”として列席できるのだ。

それでもなお笑ってしまうのが魔王バーコードクオリティ。

 

グラスが重なり合い、上級魔族たちの歓声が夜空に響いた。

彼らは知っていた。

これはただの“会議後の打ち上げ”ではない。

自分たちは今、“恐怖から解き放たれた世界”に一歩、足を踏み入れたのだと。

 

 

 「なあ、お前ら」

 

 

不意に、誰かが言った。

 

 

「来期の会議も、光らなかったら……もう一回ここで飲もうぜ」

「おう。約束な。

 “光らなかった幹部は一杯無料”ってキャンペーン、マスターに掛け合っておくわ」

「何それ怖い……光ったら自己申告制?」

「ゲーミングは隠せねえだろ!?」

「いやワックスで抑えられるって噂あるぞ?」

「無理だろ! 輝度20万ルクスだぞ!?」

 

 

談笑は夜更けまで続いた。

彼らにとって、それはただの飲み会ではない。

 

“普通に会議を終えて、普通に酒を飲める”

 

――そんな日が、今まで一度でもあっただろうか?

 

ない。

今日が、初めてだった。

 

幹部たちはそれぞれ、深い安堵を胸に抱きながら、酒を酌み交わす。

ゲーミングに光らない頭を、互いに誇り合いながら。

それは、静かに始まりつつある――新しい魔王城の証だった。

 

髪は光らず、笑いも許される。

今日という一日は――魔王城にとっての、新たな時代の幕開けを告げるものだった。

 

――そして誰も、ピカらなかった。

 

 




笑ってはいけないと思えば笑ってしまうのが世界の真理(確信)
魔王様を直接見て笑うため光り方も特別仕様になっております。
過去の会議ではいつも笑ってしまうが、厳しい訓練を潜り抜けてきた彼らだからこそこの程度で済んでいます。
魔族の間では最早バーコードハゲやうんこヘアーは特異ではありませんがそれでも笑ってしまうのが魔王様のバーコードw
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