魔王バルドVS勇者セージ ~極悪非道なバーコードハゲ魔王をフサフサ勇者がやっつけるお話~   作:ナオ3

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物語は動き出しました、めっちゃスローテンポだけどwww


十一話 訪問準備課、全力稼働

夕暮れの色が、窓を茜色に染めていた。

その日、セージは市場からの帰り道、ふと思った。

 

 

(……最近、静かすぎるな)

 

 

魔物退治も日課。ギルドの依頼もこなしている。

それでも、どこかぽっかり空いた感覚が胸に残っていた。

 

――あの日、魔王バルドと交わした“なんでもない約束”。

 

“また会おう”と言われた。それだけなのに、やけに印象に残っていた。

 

家に帰宅したセージは、汗を流した後の一杯のハーブティーを片手に、くつろぎの時間を楽しんでいた。

 

家の中には、静けさしかない。

 

焚き火のように優しい明かり。

木造の床から伝わる微かな温もり。

肩から力が抜ける、穏やかなひととき。

 

 

(……やっぱ、ここが一番落ち着くなぁ)

 

 

ごろりと寝転がり、天井を見上げる。

 

この家は、セージが生まれ育った家だった。

両親の記憶も、この壁に、床に、匂いに染みついている。

 

 

そう呟いた、その時だった。

 

コンコン――。

 

家の扉が、控えめに叩かれる。

 

そんな折だった。

 

 

「……あれ?」

 

 

扉が軽くノックされた。

この時間帯の来客は珍しい。

知り合いなら大抵、昼のうちに来るし、ギルドの仲間なら先に通信が来るはずだ。

近所付き合いも希薄なこの場所で、突然の来訪者はそういない。

立ち上がり、扉を開ける。

そこに立っていたのは――

漆黒の制服に身を包んだ、魔王軍の使者たちだった。

礼儀正しく、背筋を伸ばした数名の男女。

その中の一人が、控えめに会釈する。

 

 

「セージ様。突然の訪問、失礼いたします。

 我らは魔王陛下の側近直属の使者――“訪問支援課”に所属する者です」

 

(訪問支援課!?)

 

心の中でツッコみそうになったが、ぐっと堪えた。

 

真面目な顔つきと、完璧な立ち振る舞い。

どうやら冗談ではないらしい。

 

 

一人の魔族が一歩前に出て、礼儀正しく口を開いた。

 

 

「実は、陛下の予定がひとつ空きまして……三日後、こちらに“遊びに来られる”とのことです」

「……!」

 

 

思わず目を丸くするセージ。

まさか、本当に来てくれるとは――

 

 

「念のためお伺いしますが――三日後のその時間、セージ様のご予定は?」

「そ、それは……もちろん、大歓迎です。特に予定も入ってません」

 

 

胸の奥が、ふっとあたたかくなった。

 

“また会おう”は、本当だったのだ。

 

 

「……来てくれるんだ……!」

「はい。ただし、陛下は……その、お姿を他者に見られることを、あまりお好みではありません」

「ああ……うん、なんとなくわかる。目立つの、苦手そうだし」

「そこでお願いがございます。もし差し支えなければ――

 このご自宅の庭に、直接陛下が転移されるための、専用の魔方陣を設置させていただけないでしょうか?」

 

 

セージは、ほんの少し考える素振りをした後――軽く笑った。

 

 

「もちろん。好きに使ってくれて構わないよ。」

 

 

その言葉に、部下たちは明らかに安堵の色を浮かべた。

 

魔王陛下は“人の目”を避け、必ず孤立地に転移を望まれる。

一般の町中に堂々と転移することは、絶対にありえなかった。

セージの理解と快諾は、何よりありがたい対応だった。

 

 

「感謝いたします。魔法陣は、目立たぬよう簡易型に設計いたします。結界処理も施しますので、魔族の侵入の恐れもありません」

「うん、大丈夫。信じてるから」

 

 

言ってから、セージは気づいた。

魔王に対して、こんなに自然に“信じてる”なんて。

それが、なんだか――不思議で、少し嬉しかった。

 

思わず苦笑しそうになって、セージはそれをぐっと堪えた。

 

部下たちは丁寧に頭を下げると、簡単な説明書と設計図を置いた。

 

 

「明日中には小型の陣を整備し、三日後には“誰にも見られずに訪問可能”となる予定です。

 万が一の際は即時撤去しますので、ご安心を」

「了解。気を遣ってくれてありがとう。なんか、すごいな……陛下のための“転移通路”が家にあるなんてさ」

「いえ、これはあくまで臨時措置でございます。

 ……それでは、失礼いたします」

 

 

使者たちは手際よく設置スケジュールを説明し、礼を尽くして帰っていった。

扉を閉めた後、セージは一人になった家の中で、ふっと息をついた。

 

 

(……三日後か。来るんだ、あの人が……)

 

 

思い返せば、あの短い時間で、ずいぶん多くのことを話した気がする。

言葉にならなかった思いも、ちゃんと伝わっていたような気がした。

 

 

「……ちゃんと掃除しとこうかな」

 

 

誰に見られるでもなく、そう呟いた。

その場に残されたセージは、改めて自分の庭を見つめる。

 

何も知らない。

――この家が、どういう場所なのかも。

 

 

(……母さんが、すごくこだわって作った家だってことくらいしか)

 

 

けれど、セージの中には、それでも確かに“安心”があった。

この家は、自分にとって――“帰る場所”だ。

何があっても、そう思ってきた。

 

そして、その“帰る場所”に。

三日後――あの魔王が、また来てくれる。

 

 

「……よし、風呂掃除しとくか」

 

 

セージは、そう呟いて笑った。

それは、心から楽しみにしている者だけが見せる、自然な笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

セージの家の庭には、数人の魔族たちが整然と並んでいた。

 

 

「……では、ここに“陛下専用転移ポイント”を配置します」

「作動時、風が少し吹きますが……敷地内の影響に留まりますのでご安心を」

「芝生が少し焦げますが、それは“仕様”です」

「ま、まあ大丈夫です」

 

 

セージは苦笑しつつも快く了承した。

朝から紅茶を淹れて見守っている彼の姿に、訪問支援課の隊員たちは皆ほっとしていた。

この勇者、変に気取らず、よく話し、よく笑う。

そして何より、魔王陛下の“唯一の友人”という立場におごりがない。

ある若い隊員が、魔方陣の紋様を描きながらふと漏らした。

 

 

「……それにしても、まさか本当に陛下が“遊びに行く”とは」

「ね。俺たち、最初“釣りか?”って思ったもん」

「でも、確かに……あの方が誰かと繋がったって感じは、ちょっと感動するよな」

「“誰か”と“ちゃんと会う”って、それだけで大事件だしね」

 

 

セージは、聞き耳を立てるでもなく、でもどこか気になって彼らの会話に耳を傾けていた。

 

 

「セージ様」

 

 

声をかけてきたのは、昨日と同じく落ち着いた口調の幹部級魔族・グラフト。

 

 

「今回の設置に関しましては、魔王陛下の“完全非可視入場”を優先する形になります。

 転移後、結界の中で姿を隠されたまま、屋内へと移動される予定です」

 

 

「あ、そういうのもできるんだ」

「はい。陛下は“姿を晒すこと”を大変にお嫌いになります。

 特に、街中などで一般魔族に気配を察知されることを、ひどく忌避されます」

「……そういえば、陛下って、あんまり外に出たがらないんだっけ?」

 

 

そう尋ねると、数人の隊員が、微妙な表情で顔を見合わせた。

 

 

「ええ、まあ……理由は、皆さんご存知かと」

「陛下が、呪いを掛けた理由って……ほぼ“察し”られてますからね」

「“髪”ですよ、“髪”。」

 

 

それは、セージもなんとなくわかっていた。

セージは、すぐにピンときた。

 

 

(……ああ、やっぱり)

 

 

魔王が世界中の男性にバーコードの呪いを掛けたという話は、あまりに有名だ。

ふと、セージは口を開く。

 

 

「そういえばさ、魔王様って……昔から、そういうの気にしてたの?」

「ええ、魔界では結構有名なお話です」

 

 

一人の女性隊員が、道具の設置を止めずに答える。

 

 

「“魔王様は極度の人目嫌い”――これは、魔界の小学生でも習うレベルですね」

「……えっ、授業で出るの?」

「副教材に“陛下を見つけても叫ばないための心得”ってあります」

「徹底してるな!?」

「というのも……陛下が“髪型に関して極端に繊細”であることが、早期に広まったためなんです」

 

 

セージは思い出す。

初めて会ったとき、確かに――どこか、髪に対して鋭敏な空気があった気がする。

けれど、それが“教育レベルで共有されてる”とは思わなかった。

 

 

「……じゃあ、あの“髪型呪い”も、そのせい?」

「はい。“バーコードハゲの呪い”が広まった当初から、魔界中では察する空気が流れていました。

 『あっ……これは完全にコンプレックスだ』と」

「そ、そうなんだ……」

「はい。……それと関係する、有名な事件がございます」

「事件?」

「……ちょっと昔、下級魔族のひとりが――」

 

 

当時まだ新人だった下級魔族の男が、文書の誤配を理由に魔王城の上層へと向かった。

 

本来、彼の階級では立ち入り禁止のエリア。

だが手違いで許可が下りてしまった。

 

彼は迷いながら進み、角を曲がった先で――

“ふとした偶然”で、魔王バルド・コードの私室に繋がる廊下へ出た。

そして、開きかけた扉の隙間から――

 

魔王の寝起き姿を、見てしまったのだ。

 

黒く、乱れたローブの隙間から現れたのは――

燦然と輝く、左右アシンメトリーなバーコード。

しかも、寝癖付き。

 

下級魔族の彼は――

 

 

「ぷっ……あ、あっはっはっはっはははははは!!!」

 

 

と、盛大に笑い転げた。

その場で転げ回り、息を切らして咳き込み、涙を流し、腹を抱えて悶絶した。

 

翌日。

彼は何事もなかったかのように業務に戻った――が、

その日の夕方、鏡を見て愕然とした。

 

自分の頭が、かつてないほど豪奢な“ゴージャス・バーコード”に変貌していたのだ。

光り、流れ、なびき、時に風に舞う髪の罠――

 

その状態が、丸三年、続いた。

本人は懺悔し、許しを乞い、何百回も頭を下げたが……

魔王陛下からの言葉は、ただひとつ。

 

 

「記憶に焼きつくほど笑ったのなら、それは“祝福”として残してやろう」

 

 

そして、その呪いは三年目の春――突然、何事もなかったかのように解除された。

彼は泣いた。

喜びでも、悲しみでもなく、ただ――燃え尽きた灰のように。

 

話が終わったあと、しばしの沈黙。

セージは、苦笑しながらもどこか納得していた。

 

 

「……そりゃ、人目嫌いにもなるわけだ」

「そうですね。我々としては、できる限り“静かに”“目立たず”を心がけております」

「なるほど、そりゃ“訪問支援課”とか必要になるな」

 

 

セージは少し想像してから、ふっと笑った。

 

 

「……まあ、そんなとこも含めて、俺は好きだけどな。あの人」

 

 

その言葉に、隊員たちの顔が少し和らいだ。

魔方陣は、予定通り順調に設置されていった。

 

  

作業は順調に進み、午後にはすべての魔方陣が完成した。

半径3メートル、魔力の余波を抑える簡易結界、転移後に即時起動する遮蔽術式――

すべてが完璧に整えられた。魔王がこの場所に現れるためだけの、極めて精密な“橋”だ。

 

 

セージは、のんびりと紅茶を口に運びながら、ふと思った。

 

 

(なんか……本当に来るんだな、あの人が)

 

 

思い返せば、魔界に行ってから、それほど時間が経っていない。

けれど、その時間がとても長かったような、あるいはごく短かったような……不思議な感覚だった。

あの人と話した時間は、たぶん忘れられない。

言葉にしづらい、でも、確かなものがそこにあった。

だから、また来てくれるのは、素直に嬉しかった。

 

 

 

そんな、ほんの少しだけ賑やかな、平和な朝。

魔王を迎える準備は、静かに着々と進んでいった。

 

――だがこのとき、セージはまだ知らない。

 

自分の家に眠る祈りを、

それを知ることになる“ある訪問者”の心が、どれほど動かされるかを。

 

 

 




とうとう約束が果たされる時が来ました。
魔族の間でゴージャス・バーコードの話は戒めとしてよく話題にされています。
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