魔王バルドVS勇者セージ ~極悪非道なバーコードハゲ魔王をフサフサ勇者がやっつけるお話~   作:ナオ3

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考察回です、魔王ではないバルドとは何か?


十五話 バルドとは?

夕方――。

風が止み、ほんの少しだけ、沈黙が庭を包んでいた。

セージは、マグカップの中の紅茶を見つめていた。つい先ほどまで、そこには“魔王”が座っていた。

彼の残した言葉の余韻が、まだ胸のどこかに引っかかっている。

 

 

──「……ありがとう。……迎えてくれて」

 

 

「……ほんと、変な人だよなあ……魔王様って」

 

 

そう呟いて微笑んだ、そのときだった。

――控えめなノックの音が響く。

 

 

「……はーい」

 

 

のんびりと扉を開けたセージの目に飛び込んできたのは、よく見知った制服の一団だった。

セージは驚きつつも笑顔で迎えた。

魔王直属・訪問支援課。その中の一人が、穏やかな口調で頭を下げる。

 

 

「まず、本日のご接待、誠にありがとうございました。陛下より、深く感謝の意が述べられております」

「お、おう……いや、そんな大げさなもんじゃないけどな。座ってお茶飲んでっただけだし」

「いえ、陛下にとってはそれが……特別なことだったようです」

 

 

それに、と幹部は軽く咳払いしてから言葉を継ぐ。

 

 

「はい。陛下からの命により、庭に設置した転移魔方陣は本日をもって完全撤去いたします」

「へぇ、なんか意外。あれ、便利だったのに」

「陛下が“もう私用としては使わぬ”と仰られました。……代わりに、別の拠点を新設したいとのご希望です」

「……本日は、ひとつご相談がございます」

「相談?」

「はい。“隣地に、小規模な離れを建設してもよろしいか”という伺いでございます」

 

 

セージは一瞬、きょとんとした顔をしてから、思わず笑い出した。

 

 

「……あはは、なんだよそれ。お隣さんが魔王様ってか?」

「……はい。可能であれば、静かに過ごせる“別荘”的なものを建設させていただければと」

 

 

一瞬、沈黙 セージはぽかんとした顔になった。

 

 

「……あの人、マジで“別荘”建てる気か……」

「はい。仮称、“第二黒曜の間”」

「やめろ物騒な名前つけるな。せめて“バルドさんち”にしとけ」。

 

 

次の瞬間――セージは、ぷっと吹き出した。

 

 

「っははははっ……! なんだよそれ……隣に魔王様が住むって、そんなアホな話あるかっての……!」

 

 

笑いながらも、頭の中では現実が追いついていた。

セージの家は郊外にぽつんと建てられている。周囲に家はなく、鳥の鳴き声と風の音しか聞こえない静けさの中にある。しかも、その周囲の土地はすべて――

 

 

「……いや、そうか。うちの土地だからか」

 

 

セージの両親――ジョージとセレーナがこの家を建てた際、周囲の数十メートルの土地も一括で買い取っていた。

つまり、セージが持つ土地に魔王の別荘を建てるには――セージの許可が必須だった。

 

 

「……なるほどね」

 

 

セージは腕を組み、うーんと唸る。

お隣さんが魔王。それも、バーコード呪いの元凶にして、今ではちょっと人見知り気味な不器用さん。

 

 

「……お隣さんが魔王様って、なんか、すごいな」

「ご不快でなければ、建物の設計はできるだけ景観と調和させ、音や光の配慮も――」

「建てていいよ。むしろ、建ててくれたら嬉しいかもしれない」

「……本当によろしいのですか?」

「うん。どうせあの人、また来るでしょ? だったら“来やすい場所”を作ってあげた方が、お互い気楽でしょ」

 

 

セージは肩をすくめて苦笑した。

そして、ふと外を見やる。

青空の下、広がる草原と遠くに連なる森の稜線。人の気配はほとんどない。

セージは苦笑しながらも、心の中ではどこか温かいものが膨らんでいた。

“あの人”が、この場所を特別だと感じてくれたこと。

自分の「帰る場所」が、魔王にとっても「立ち寄る理由」になるということ。

それが、なんとなく――嬉しかった。

 

 

「……隣に魔王が住む家、か。」

 

 

セージは、ふと湯気の立つカップを見つめながら、あの男の姿を思い浮かべていた。

 

――何の変哲もない家の、使い込まれた椅子に深く腰掛け、粗末ではないが決して高級とは言えぬ紅茶を口に運ぶ魔王の姿。

 

どこか所在なさげで、けれど確かに“安心”を探しているかのようだった。

思い出せば、あのときのバルドはほんの少し眉をひそめ、少しだけ困ったような顔をしていた。

舌に合わないわけではない。空気や雰囲気に馴染めないわけでもない。

ただ――初めてすぎたのだろう。穏やかで、無害で、あまりにも人間的すぎる“日常”に。

 

あの人は、どんな人生を歩んできたのだろう。

 

セージは目を閉じ、改めて思い返す。わかっているのは、ごくわずか。それでも――その“わずか”が、あまりに重すぎた。

 

――三百年前、世界を変えた男。

 

当時の世界は、混沌そのものだったという。支配者は“魔族”――だが、魔族にも上下があり、頂点に君臨していたのは“上級魔族”と呼ばれる者たちだった。

 

彼らは気まぐれに人間を捕らえ、弄び、殺し、悦楽のために命を奪った。人間だけではない。魔族の中でも、力を持たぬ者たちは差別され、奴隷のように扱われ、飢えと恐怖に縛られた。

 

地上には理不尽しかなかった。

笑う者は高みにあり、泣く者は地を這った。

 

そんな世界に――突如として現れたのが、“彼”だった。

 

魔王バルド・コード。

 

孤独に育ち、ただ理不尽を嫌った。それだけの存在が、やがて“王”と呼ばれるに至る。

理由は一つ。

 

――殺したからだ。全てを。

 

上級魔族を。腐りきった特権階級を。笑いながら命を弄ぶ全ての存在を。

 

その粛清は、暴風のようだったという。

裁きではない、慈悲でもない。ただ、終わらせた。

 

怒りを以て、嘆きを以て、涙も流さず、ただ“正す”ためだけに。

だが、そこに快楽はなかった。誇りもなかった。あるのは孤独と、失ったものの残滓。

 

そうして、バルドは“王”になった。

 

王になった後、彼は“和解”という道を選んだ。

虐げられていた下級魔族や人間たちを迎え入れ、“共に歩む”ことを宣言した。

 

最初は誰も信じなかった。

 

だが――バルドは、裏切らなかった。

 

一つ一つ、苦しみに向き合い、暴力でなく、制度で、赦しで、信頼で、世界を変えていった。

 

世界が静かになった。

人が、人として歩けるようになった。

命が、ただの遊び道具ではなくなった。

平和という言葉が、現実に届く場所まで降りてきた。

その礎に、“あの人の人生”がある。

セージは、自分の家で紅茶を飲んでいた男の姿を思い浮かべる。

少し緊張したように、けれど静かに笑おうとしていた、その顔を。

 

 

(あの人は……何を犠牲にして、それを成したんだろうな)

 

 

セージの胸に、ふと痛みのようなものが走る。

彼は世界を救った。

けれど、誰もその“代償”を知らない。

そして、本人も語らない。

そういう生き方しか――できなかったのだろう。

 

 

(お隣さんが魔王様、か……)

 

 

セージは、そう呟いて、窓の外を見つめる。

あの人が、何を思ってこの世界に残っているのか。

どこまでを“赦し”として歩んでいるのか。

それを――少しずつでも知ることができたなら。

 

 

(部下の魔族たちも、“個人のバルド”を知らないんだろうな)

 

 

彼が偉大すぎるから。

近づけない。触れられない。

尊敬と畏怖の殻に閉じ込められて、誰もその内側を覗こうとしなかった。

 

 

(……俺も、最初はそうだった)

 

 

あの頃、彼の姿はまるで“彫像”のようだった。

完璧で、非の打ち所がなくて――圧倒された。

 

でも、今ならわかる。

あの人は、“ただのバルド”になりたがっていたんじゃないかって。

静かな時間に身を委ねて、紅茶の香りに微笑んで、隣に誰かがいることを嬉しく思って。

そんな“当たり前”を、知らずに生きてきたんじゃないかって。

だから、あの一杯の紅茶に戸惑い、笑った。

その小さな戸惑いが――セージには、どうしようもなく愛しかった

 

――あの人は、“バルド・コード”としての人生を、どれだけ過ごしてきたんだろうか。

 

肩書きは“魔王”。

それも、名ばかりの支配者じゃない。

世界を変えた、本物の王。

 

 

思い出すのは、初めて対面した時の空気。

 

圧倒的な存在感、練り上げられた威圧、王の中の王。

近づくのも憚られるような、完璧に整った“魔王”としての仮面。

 

あのとき、自分も確かに“魔王バルド”としか見ていなかった。

その影に、どんな感情があるのかなんて考えもしなかった。

 

けれど、今は違う。

 

家に来て、粗末な木の椅子にぎこちなく座って、紅茶をすする姿。

湯気で眼鏡が曇って、それを拭きながら不器用に笑ってみせたあの瞬間。

 

あれは、“魔王”じゃなかった。

ただの、“バルド”だった。

 

 

(――あの人、きっと……真面目すぎるんだ)

 

 

なんでも背負い込むような人だ。

誰よりも強くて、誰よりも正しくて、誰よりも傷ついているのに、それを絶対に誰にも見せない。

 

そうじゃなきゃ、あんな呪いを作ったりしない。

あんなに感情に染まった、鋼より重い呪いなんて――。

 

 

(……誰かの“王”である前に、“誰か”だったはずなんだ)

 

 

でもその“誰か”が、きっともうどこにもいない。

殺したのか、埋めたのか、それともただ消えてしまったのか。

 

セージは窓の外を見た。

風に揺れる草。空の色。

どれもバルドには――きっと、縁のないものだったろう。

 

 

セージは、冷めかけた紅茶をそっと口に含みながら、ふと思い出す。

自分には関係あるようで無くなったから忘れていた

魔王バルドと言えばこれだけは絶対に外せない。

 

――髪型の呪い。

 

あの男が、世界中の成人男性に放った、悪名高き呪詛。

額から後頭部にかけて綺麗に残る“島”、側頭部と後頭部の“海”、見事なまでに整列した“線”。

 

誰もが髪を失い、誰もが滑稽になった。

でもそれ以上に、人々は“魔王の感情”を見せつけられた。

あれは――完全に、理屈を超えた“感情の呪い”だった。

 

誰が言ったか、いや――誰が“名付けた”か。

 

 

(……バーコードハゲ、か)

 

 

セージはひとりごとのように呟き、肩を震わせる。

笑ったわけではない。ただ、その言葉の“力”を改めて思い知らされていた。

 

 

「語呂が良すぎるんだよな、あれ……」

(……あれほどの呪いをかけるってことは、やっぱり何かあったんだろうな)

 

 

セージもよく知っている。成人男性の髪を奪い、バーコードの如き姿にする“髪型の呪い”。

 

女性にも異様な“うんこヘアー”という外見的苦痛が与えられた。

 

当時は、当然大問題だった。世界中が恐慌に陥ったとも聞く。

 

――けれど、争乱の終結に比べれば、それはあまりにも些細な事だったのだ。

 

 

セージは目を伏せる。

詳しいことは誰にもわからない。

魔王本人すら語らない。

 

ただ、一つだけ――

バルドが“魔王”になる前に、自分の髪について相当深い傷を負っていたのは、もはや通説だった。

 

理由はどうであれ、その傷はあまりにも深く、決して癒えることはなく、

彼の“呪い”として世界を覆った。

 

どこかで聞いた話では、あの言葉は“ある魔族”が最初に使ったらしい。

嘲るように、あるいは見下すように。

 

 

(たしか、リリア……ノワール・ヘルフェン)

 

 

そう、かつての上級魔族。今では“晒し者”にされた存在。

当時は絶大な力と影響力を誇り、バルドと真っ向から敵対した女。

 

彼女が口にした“バーコードハゲ”という単語。

 

まるで呪文のように流行し、魔界全土どころか人間社会にまで浸透した。

誰もがそれを当たり前のように使い、そして定着した。

 

“バーコードハゲ”――語感の破壊力が強すぎた。

それを最初に聞いた時、セージは思わず笑ってしまったほどだ。

 

だが今となっては、魔王本人にとって、それがどれほど屈辱的だったのか――

 

 

(……最初に謁見したとき、俺はその髪形なんて、気にも留めなかったんだけどな)

 

 

目の前にいたのは、“世界の王”だった。

誰も逆らえない、絶対的な威厳を備えた存在。

セージにとっては、髪型なんて“どうでもいい”ことだった。

 

でも――

 

それが、彼にとっては“すべて”だったのかもしれない。

 

他人が忘れても、自分では忘れられない。

誰も気にしていなくても、心の奥では抉られ続ける。

 

その呪いがどれほどの“痛み”から生まれたかを。

魔王バルドが、“魔王になる前”に――どれだけ髪のことで苦しんでいたのか。

 

それが、ただのコンプレックスじゃない。

人生を変えるほどの、否――人生を“終わらせかけた”ほどの、深い、深い、トラウマだったことを。

 

けれど、誰も問わなかった。

 

ただ、「変な呪い」と笑い、「変な髪型」とネタにし、

“バーコードハゲ”という音の響きを、面白がって使い続けた。

 

――その代償が、世界規模の呪いだった。

 

(……くだらないって思うけど、くだらないからこそ、救われないんだよな)

 

誰もが笑い話にする。

誰もが冗談にする。

――けれど、当の本人にとっては、それが“人生を壊した一撃”なのかもしれない。

 

セージはそっと自分の髪に触れた。

 

フサフサと、変わらずそこにある髪。

世界中の男たちが失った“希望”を、自分はなぜか保ち続けている。

 

呪いが自分に効かない理由。

その真相は未だに不明だけれど――

 

 

(……あの人が、俺を見て、何を思ったのか……ちゃんと、聞いてみたくなったな)

 

 

バルド・コード。

その孤独の核にある、“髪”という存在。

 

それが、彼にとってどれほど重く、痛く、苦しいものであったのか。

 

セージは、ゆっくりと椅子の背にもたれた。

目を閉じ、かつて誰もが笑い飛ばした魔王の痛みを、ただ静かに思った。

(あの人の傷は……三百年経っても、まだ癒えてないんだな)

だからこそ。

セージは、静かにカップを置いた。中身はとうに冷めていたが、そのことにすら気づかなかった。

あの、世界を覆った“髪型の呪い”。

バルド・コードが魔王として放った、途方もない規模と重さを持つ負の結晶。

 

――なぜ、あの呪いは自分に発動しなかったのか。

 

世界を覆った呪いだ。

男という男、すべての髪を奪い去り、例外を許さなかった。

信仰も魔術も霊薬も、どんな権威も意味を成さなかった。

“魔王の呪い”――それは、単なる呪術ではない。

もっと深く、もっと暗く、もっと――哀しいものだった。

 

 

(……俺に呪いが発動しなかった。それって……)

 

 

セージは目を伏せる。

 

 

(……あの呪い、きっと“闇”なんだ)

 

 

セージはそう思う。

バルドが胸の奥に溜め込んだ、誰にも触れられなかった感情。

怒り、憎しみ、悲しみ、孤独、絶望。

それらすべてが、ただ“髪”という象徴に注がれて、世界にぶつけられた。

 

それは、誰かを滅ぼすためではなかったのかもしれない。

きっと、誰にもわかってもらえない苦しみを、世界に“わからせる”ために。

 

そんな呪いが――

唯一、自分にだけ発動しなかった。

 

 

(……信じられないよな)

 

 

自分は特別な血統でもない。

神の加護を受けているわけでもない。

何かすごい修行をしたわけでもない。

ただ、普通に育って、普通に生きてきた。

それでも、呪いは自分を避けた。

 

それが、どれほどバルドにとって“予想外”だったか。

 

 

(……あの人にとっては、自分の“闇”が通じなかったってことだ)

 

 

誰にも届いた“闇”が、自分だけには届かなかった。

 

それはきっと、彼にとって――救いにも、混乱にもなったはずだ。

 

誰よりも完璧に放たれた呪い。

誰にも避けられなかった絶望。

それを打ち砕いたのが、誰でもない――“自分”だったということ。

 

 

(……きっと、あの人は困惑した)

 

 

当たり前じゃない。

奇跡でも、偶然でもない。

あれは、魔王にとって――“絶対”の力だったはずだ。

 

彼の怒り、彼の孤独、彼の絶望――

それらをすべて叩き込んだ、いわば“彼自身の闇”そのもの。

 

魔力とか、術式とか、そういう理屈じゃない。

心の底から湧き出た情念が、形を取って世界を呪った。

 

誰もが避けられなかった。

どんな王も、神官も、賢者も、研究者も。

 

なのに――自分だけは、発動しなかった。

 

セージは、そこにある意味を考えた。

 

 

(あの人にとって、それって……すごく、すごく大きなことだったんじゃないか?)

 

 

自分の呪いが、通じなかった。

自分の“心の闇”が、ある一人の人間に届かなかった。

 

それは、否定とも、拒絶とも違う。

――あるいは、癒しだったのではないか。

 

 

(魔王の闇が、俺には届かなかった。

 だからこそ、あの人は思ったんじゃないか――“もしかしたら、自分はもう、乗り越えていたのかもしれない”って)

 

 

誰にも届かなかった救いが、ひとりの青年に届いた。

誰にも赦されなかった罪が、ひとりの人間には許された。

 

それが、“希望”に変わったとしても――不思議じゃない。

 

セージは、心の奥に浮かんだひとつの像を見つめる。

 

――自分の呪いが、効かなかったと知った瞬間の、バルドの顔。

 

驚愕。困惑。

けれどその奥に、ほんの一滴だけ、希望の色が差していた気がした。

 

魔王であることを否定されたのではなく。

魔王の“苦しみ”が、誰かに届いたのだと。

 

セージは思う。

 

自分にそんな力があるのか。

そんな大それた“希望”になれるのか。

 

 

(……わからない)

 

 

何があの人を救ったのか。

何が、あの闇を拒絶したのか。

――正直、まるで見当もつかない。

 

けれど、それでも――

 

 

(俺は、俺のままでいる)

 

 

肩肘を張るつもりもない。

特別なことをしようとは思わない。

無理して理解しようともしない。

ただ、あの人の前に立ち、言葉を交わし、同じ空間で笑っていたい。

 

それでいい。

それが、きっと――“届く”。

 

 

(あの人なら、見つけてくれる)

 

 

自分の中にある、理由すらわからない“何か”を。

あの人の呪いを弾いた、“何か”を。

そしてそれを、“希望”と呼んでくれる日が来るなら。

 

だから、自分にできることがあるのなら。

バルドという“人間”に、できるだけ寄り添っていきたいと――心から思った。

 

 

(……呪いが届かなかった。それは、たぶん“はじき返した”んじゃない。

 あの人の中の、どこか優しいものが、俺のことを“選んでくれた”んだ)

 

 

セージはそっと、自分の胸に手を当てた。

 

温かさを、感じた。

 

それは――たしかに、希望だった。

かつて世界を呪ったその人が、たった一人の未来に手を伸ばしている。

 

なら、自分は――その手を、握ってやりたいと思った。

 

今度会ったときは――

セージは少し、踏み込んでみたいと思った。

その“傷”にではなく、その“人”に。

 

 




バルドがセージを観察しているようにセージもまたバルドを観察していました。
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