魔王バルドVS勇者セージ ~極悪非道なバーコードハゲ魔王をフサフサ勇者がやっつけるお話~   作:ナオ3

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ついに2つの運命が混じる時。


五話 バーコードハゲとフサフサ、運命の邂逅。

魔王城へ向かう黒い馬車は、まるで貴族の使う高級車のようだった。

 

重厚な漆黒のボディ。

金と銀で細工されたエンブレムは、バーコードを模した高貴な紋章。

車内にはふかふかの椅子、カーペット、ハーブティー、極上の毛根ケア用ミストが完備されている。

 

しかも、護衛は魔王直属のエリート魔族兵たち。

何一つ、手抜かりはなかった。

 

普通ならば——

この状況を、緊張や恐怖で震えながら迎えるのが“正解”だった。

 

だが、馬車の中。

その空気を根本からぶち壊している男がいた。

 

 

「は〜〜〜……っはああ〜〜〜……外の空気うめぇ……」

 

 

魔王の使者に丁重に座らされながら、座り方も姿勢も何もかもやさぐれている青年。

彼こそが、“呪い未発動者”セージ=クローネ。

 

完全に荒れていた。

 

 

「足を組まないでください」

「靴を脱がないでください」

「ハーブティーのポットに顔を突っ込まないでください」

 

 

次々に注意されるが、まったく効かない。

 

 

「いやぁ……なんていうかね……魔王城がどうとかじゃなくてさ……」

 

 

セージは車窓を眺めながら言った。

 

 

「外に出られるだけで、もう勝ちなんすよ。

 2週間……あの地獄みたいな研究所で、毎日“寝癖の角度”で怒られてた俺からしたら、

 もう魔王城だろうが、火山の火口だろうが、全部楽園ですわ」

 

 

使者たちは、微妙な顔をして見つめる。

 

 

「お、お気持ちは理解しますが……緊張感というか、ですね……陛下は偉大なお方で……」

「大丈夫です。知ってます。バーコードの方ですよね?」

 

 

護衛全員の顔色が変わる。

 

 

「すみません、そういう意味じゃなくて!!いや、正確な記述として!事実確認!!」

「命にかかわりますので、発言には十分お気をつけください!!」

「ゲーミングどころじゃ済まないですよ!?」

 

「……言われ慣れてそうじゃない?」

 

「言わないでぇぇぇえええ!!!」

 

 

セージはため息をついた。

 

 

「……本当ならさ、もっと怖がったりするのが“普通”なんだよね。

 でも、なんかもう、“怖い”とか“緊張”のラインがとっくに壊れたんだよな……」

 

 

目元にはクマ、髪には乾燥ダメージ、魂には微かなひび割れ。

 

 

「だって俺、髪の声を聞く機械に3回入れられて、

 中で“本日も異常ありません”って表示されてるの、もう見たくなかったもん……」

「…………」

 

 

護衛たちは黙っていた。

目の前の青年が、“何かを乗り越えてきた人間”であることはよく分かった。

 

 

「……でもまあ、行くよ。魔王城。

 バーコード様がなんだって? 俺に会いたいんだろ?

 いいよ、行ってやるよ。魔王のバーコード、拝んでやろうじゃないか……」

 

 

風が吹いた。

荒んだ目を細めるセージ。

魔王城は、すぐそこだった。

 

 

 

 

 

魔王城・正門前。

 

黒い城壁が空を覆うように聳え、全身を包むような重圧が周囲に満ちていた。

だが、その重厚な空気の中で——

 

 

「いやー広いねー魔王城。バトル施設でもあるんかな?魔法演習場とか開放してる?

 いやマジでちょっと観光させてくれたら許すよ。検査二週間我慢したし」

 

 

やさぐれセージは、元気に心がすさんでいた。

護衛の魔族兵たちは、胃の位置を思わず手で抑えるような緊張の面持ち。

 

 

「……せ、セージ様、あの、お願いですから、その軽口は城内では……」

「我らが陛下はお優しい方ですが、“笑われること”に関しては、非常に……繊細で……」

「光りたくないです、また……!!」

「はいはいわかってますって〜。ほら、さっさと面会して帰りましょうや」

 

 

やる気ゼロ、帰宅希望120%。

魔王城に招かれた人間としては前代未聞の態度である。

 

そして、セージが門に一歩踏み出した瞬間だった。

 

——重厚な音を立てて、魔王城の大扉が開く。

 

 

「ん?」

 

 

次の瞬間、誰よりも早く、誰よりも堂々と歩み出る一人の男がいた。

魔族兵たちが揃って凍りつく。

 

 

「え……陛下!?」

「まさか……お迎えに……直々に……!?」

 

 

場の空気が、ガラリと変わった。

 

それはただの“王”ではなかった。

歩くだけで、地が鳴り、風が避け、空が沈黙する。

 

魔王バルド・コード。

 

漆黒のマントを翻し、鋭く、優雅で、どこか哀しみを宿した気配を纏いながら。

額には、確かにバーコード状の髪が存在する。

だがそれが、どこか荘厳な王の紋章のようにさえ見える。

 

その眼差しは、燃えるように深く、冷たい湖のように澄んでいた。

すべてを見透かすような、そして……すべてを背負ってきた者の眼だった。

 

セージは、立ち尽くしていた。

 

やさぐれた疲労も、愚痴も、ギャグも、

すべてが一瞬で吹き飛んだ。

 

 

「…………」

 

 

セージは、初めて“魔王”という存在を理解した気がした。

 

圧倒的な孤高さ。

理解されぬ悲哀。

絶対者としての宿命。

 

——この男は、本物だ。

 

何かが、胸の奥で静かに鳴った。

 

セージは、自然と姿勢を正した。

 

 

「……セージ=クローネ、参りました。

 本日は、お招きに預かり、光栄に思います」

 

 

魔王は、一歩だけ近づき、静かに言った。

 

 

「……ようこそ、我が城へ。

 “呪いに抗った者”よ」

 

 

セージはその言葉に、思わず息を飲んだ。

 

やさぐれていたはずの自分が、

心の奥底で、この男に“認められたい”と思ってしまった——

その事実に、戸惑いながらも。

 

________________________________________

 

玉座の間。

深い沈黙が支配していた。

 

煌びやかでもなく、派手でもなく。

静謐で、冷たい空気に包まれた、王のための空間。

そこに並び立つのは、ふたり。

 

魔王 バルド・コード。

呪い未発動者 セージ・クローネ。

 

セージは背筋を伸ばし、真っ直ぐに魔王を見つめていた。

その顔には、怯えも驚きも、ましてや笑いもない。

 

——そのことが、魔王を最も戸惑わせていた。

 

 

(なぜ……)

 

 

魔王は静かに目を細めた。

その姿を見て、笑わなかった者など、過去に存在しなかった。

 

どれだけ畏怖されようと、どれだけ尊敬されようと——

最後には、視線は“ここ”に来る。

 

額に横たわる、滑稽な数本の髪。

完璧な顔立ちの中で最も“浮いた”存在。

 

呪いの源にして、彼の原罪。

その頭部を、青年は——

 

一瞥もしなかった。

 

 

(本当に……見ていないのか?)

 

 

魔王は、己のすべての感覚を総動員して、セージを観察する。

 

瞳の動き、呼吸の間隔、無意識の視線の揺れ——

一切、逸れていない。

真正面から、彼を“魔王”として見ている。

 

そこにあるのは、畏れ。

だがそれは、“髪型”への恐怖ではない。

 

そして、確かに宿っているのは——敬意。

 

 

(何だ、これは……)

 

 

バルド・コードの胸中に、初めての感情が生まれた。

 

怯え。

 

かつて魔の頂点に立ち、神を斃し、人を跪かせ、

世界のすべてを呪いに沈めたこの身が——

 

ただ一人の青年の、無垢な目に押されている。

 

 

(私は……引いているのか? この私が……)

 

 

ほんの数秒。だが、王には永遠に等しく長かった。

 

 

 

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その様子を、玉座の間の端から見つめる部下たち。

 

 

「……おかしくないか……?」

「……え、誰も光ってない……? 笑ってない……?」

「てか、セージって……バーコード見てないよね!?」

「いやいやいやいや、どういうメンタルしてんの!?

 第一印象で爆笑しないとか、ありえる!? 生まれて初めての存在じゃない!?」

「なんか今、陛下が……少し下がったように見えたんだけど!?」

「見間違いだろ!?あのバルド様が!?神々にすら喧嘩を売るあの陛下が!?

 人間相手に一歩下がるとか、地震くるよ!?感情震度9いくぞ!?」

「感情震度は……今、静かすぎる。逆に怖い……!」

「え、もしかして……セージって、王の“天敵”なんじゃ……!?」

 

 

空気が、完全に混乱していた。

 

 

 

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そして、沈黙を破ったのは魔王だった。

 

 

「……セージ=クローネ。」

 

 

その声は低く、だがどこか静かな重みを持っていた。

 

 

「貴様は、私の呪いを逸れた。

 だがそれだけではない。」

 

 

「貴様は——私を、笑わなかった。」

 

 

セージは、ゆっくりと頷いた。

 

 

 

「はい。笑えませんでした。……何となくですが、

 あなたのことを、冗談で片付けていい存在じゃないと思ったからです。」

 

 

魔王の瞳が、一瞬だけ、揺れた。

 

 

(……なぜだ。なぜ、こいつは……)

 

 

静かな戦慄が、王の中に広がっていた。

 

そして今、世界で最も謎に満ちた男と、

最も呪われし王の間に、奇妙な“理解”の芽が生まれ始めていた。

 

 

 




現在のセージ君の心境。
「バーコードとか関係ねぇ、こいつ……“王”だ……」
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