魔王バルドVS勇者セージ ~極悪非道なバーコードハゲ魔王をフサフサ勇者がやっつけるお話~   作:ナオ3

7 / 26
しばらく静かな交流が続きます。


六話 平凡で、ありきたりで、つまらなくない答え。

玉座の間に、静寂が戻っていた。

魔王は、セージの瞳をまっすぐに見つめながら、静かに問いを投げかけた。

 

 

「貴様に問う。

 呪いが発動しなかった理由について、何か心当たりはあるか?」

 

 

問いかけに、わずかの間があった。

セージは眉を寄せ、少しだけ俯いてから、

はっきりと顔を上げ、迷いのない声で答えた。

 

 

「……いいえ、ありません。

 本当に、自分でもまったくわからないんです。

 何かをした覚えも、しなかった覚えも、特別なことは何一つ……」

 

 

言葉は簡潔だった。

だが、その語気には**虚飾のない“実感”**が宿っていた。

 

魔王はその言葉を、静かに、慎重に、全身で“聴いた”。

 

魔力の感知。

思念の揺らぎ。

声の抑揚、呼吸のリズム、鼓動の僅かな高まり——

 

 

(……嘘はない)

 

 

魔王は確信した。

これは、本物の“無知”であり、“真実”である。

 

セージは、何もしていない。

誰にも弄られていない。

特殊な祝福も、加護も、干渉の痕跡もない。

 

——つまり、

 

完全にただの一般人である。

 

だがその“ただの人間”が、

唯一、魔王の呪いを受けなかった。

 

それは、この世界にとって、あまりにも異常な事実だった。

 

魔王は、玉座から立ち上がる。

 

歩を進め、セージの目の前まで来る。

高い天井、揺れる魔導の炎。

魔王のローブが床を擦る音が、静寂に重なる。

 

その場にいたすべての者が、息をのんで見つめていた。

 

魔王は、その声を響かせる。

 

 

「私、バルド・コードの名において——」

 

 

静寂が、さらに深まった。

 

 

「この者、セージ・クローネは——

 完全なる一般人である。

 いかなる干渉も影響も受けておらず、

 呪いの発動しなかった理由は、

 “不明”であるがゆえに、真なる例外である。」

 

 

その声が響いた瞬間、玉座の間にどよめきが走った。

 

 

「……っ、例外……!?魔王陛下が……公式に……」

「えっ、じゃあ、あの人間が……“抗った”わけでもなく……ただの“運”……!?」

「いや、“運”ですらない……存在そのものが、“呪いを逸れた”…!?」

「魔王の呪いは絶対だったはず……その前提が……崩れる……?」

 

 

部下たちは皆、困惑を隠せなかった。

 

魔王の呪いは、理であり、真理だった。

それが、たった一人の一般人によって例外として“崩された”。

 

この日、世界は静かに、そして確実に変わった。

 

セージ・クローネという名が、

歴史に刻まれる一歩目となった瞬間だった。

 

だが、その当人は——

 

 

「……なんか……すごいことになってます?」

 

 

ぽりぽりと後頭部をかきながら、

ピンときていない顔で、首を傾げていた。

 

それを見て、魔王はほんのわずか、口元を緩めた。

 

 

(この男……本当に、何者なのだ)

 

 

玉座の間に、静かな声が響いた。

 

 

「……セージ・クローネ。

 お前は、当面の間、この城に滞在せよ。

 我が呪いを逸れた“例外”として、直接の監視と観察の対象とする」

 

 

魔王バルド・コードの命令は、明確だった。

それは選択ではなく、命令。

拒否の余地など、本来は存在しないはずの言葉だった。

 

そして、場にいる全ての魔族たちは、当然のようにそう理解した。

 

——だが、セージは。

 

 

「いえ、帰ります」

 

 

あっさりと、言った。

 

魔王城が静まり返った。

 

一秒。二秒。

石像のように硬直する部下たち。

魔導の灯火だけが静かに揺れていた。

 

 

「……え?」

「…………えっ?」

「今、“帰ります”って言いました?セージ様……?」

「いやいやいやいや、ちょっと待て、それはやばい。

 “お断り”のテンションじゃなかった?今、魔王様に?この場で?この空気で??」

「感情震度が……くるぞ……今度こそ、くる……!」

 

 

幹部たちが全身を硬直させるなか、

魔王は、一歩、セージに近づいた。

 

 

「……理由を、聞こう」

 

 

怒気はなかった。だが、静かすぎる声に、かえって緊張が走る。

 

セージは、ほんの少しだけ口ごもってから、

それでも、しっかりと顔を上げて、答えた。

 

 

「……あの家には、父と母との思い出があります」

 

 

魔王の目が、僅かに細められる。

 

 

「父が亡くなって、もう何年も経つけど……

 壁に傷があるのも、古い床が軋むのも、

 昔一緒に修理した棚とか、父が作った椅子とか……」

「母の事は父から聞いただけでしか知らないけど、3ヵ月ほど過ごした過去がある」

「……そこに、俺がいる理由がある」

 

 

セージは、肩を竦めて笑ってみせた。

 

「大げさなこと言ってるつもりはありません。ただ……あの家、俺の居場所なんです」

 

 

その言葉には、誇りでも、抗いでもなく、

ただ平凡な“人間”としての真実が宿っていた。

 

魔王は、しばらく黙ってセージを見つめていた。

 

言葉にすれば、つまらない。

特別でもなく、壮大でもなく、ただの“思い出”の話。

 

けれど。

 

 

(……どうしてだろうな)

 

 

魔王の胸の奥が、わずかに軋む。

 

かつて自分にも、そんな日々があっただろうか?

一瞬だけ、脳裏をかすめた気がした。

 

セージの言葉は、魔王の呪いにも、魔力にも、触れていない。

ただ、人間として当たり前の、心の居場所の話だった。

 

魔王は、ゆっくりと息を吐いた。

 

 

「……そうか。ならば仕方あるまい」

 

 

ざわっ、と周囲が再び騒然となる。

 

 

「えっ!?」「えっ今、“仕方ない”って!?」「そんなの初めて聞いたぞ!?」

「誰か録音してた!?あとで回覧板に回そう!!」

「魔王様、あの魔王様が“個人の気持ち”を尊重してる!?ありえん……!」

 

 

動揺する部下たちを他所に、

魔王はほんのわずかに視線を伏せた。

 

 

(……なぜ、こんなにも“つまらない理由”に、

 少しだけ、安堵しているのだ……私は)

 

 

理解できない感情が、魔王の胸に残った。

それはきっと、“人としての温もり”に触れてしまった違和感だった。

 

——だが、もう遅かった。

 

魔王の心のどこかで、

このセージという青年を、もっと知りたいと思ってしまったことを、まだ気づいていない。

 

 




世界を支配する絶対強者に帰りますを言えるセージ君。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。