魔王バルドVS勇者セージ ~極悪非道なバーコードハゲ魔王をフサフサ勇者がやっつけるお話~ 作:ナオ3
セージは、与えられた部屋のベッドに横になっていた。
黒と銀を基調とした調度品に、分厚いカーテン、静かに灯る魔法の燭台。
どこか重々しくも、気遣いのある設計がなされているこの部屋は、
魔王城の一室としては“異様に居心地が良い”部屋だった。
だが、そんな内装よりも、今のセージの頭を占めていたのは——
魔王バルド・コードのことだった。
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「……なんなんだ、あの人……」
天井を見つめながら、ぽつりと呟く。
ただ“バーコードの魔王”なんて噂話を、どこか他人事のように聞いていた。
恐ろしく、強大で、狂気をはらんだ存在——そう思っていた。
でも、実際に会ってみた彼は……
確かに、威圧的で、強くて、冷たくて、近寄りがたかった。
でも同時に……
人だった。
「……俺が帰るって言った時……止めなかった」
ただそれだけのことが、ずっと頭から離れない。
世界を支配している“絶対者”が、
一人の、ただの青年の「帰りたい」という意思を——
真正面から受け止めて、尊重してくれた。
その時、自分を無理に引き留めることもできたはずだ。
理由なんて、いくらでもつけられた。
この魔王城で、あの人が“NO”と言えば、世界はそれに従う。
でも——しなかった。
(……すごいな、あの人……)
そしてもうひとつ。
思い返せば思い返すほど、不思議だった。
魔王は、自分と“対等に”話してくれた。
地と天ほども、いやそれ以上の差があるはずの存在なのに——
彼は、自分を一人の人間として見ていた。
「呪いを逸れた者」として、異物としてではなく。
それが、どこか嬉しかった。
(……もっと、話したい)
その想いが、ふと湧いた。
別に、呪いのことをどうこうしたいわけじゃない。
誰かを助けたいとか、そんな立派なことでもない。
ただ——
(もっと、知りたい)
この世界の“頂点”に立ちながら、
誰よりも深く孤独を知っているような、あの目を持つ男のことを。
そして、いつか言いたい。
「あなた、笑われるような存在じゃないですよ」って。
セージは、目を閉じた。
眠りはまだ遠い。
でも今夜は、不思議と悪い夢は見なさそうだった。
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魔王城・最奥の私室。
他のどの部屋よりも静かで、どこよりも広く、
それでいて——どこよりも“空虚”な空間だった。
煌びやかな装飾もなければ、豪奢な寝台もない。
あるのは、最低限の机と椅子、そして黒曜石の床に映る、魔王の影だけ。
バルド・コードは、椅子に座り、じっと床を見つめていた。
誰もいない部屋の中、心を満たしているのは——
セージ・クローネという名の、あの青年の存在だった。
(……何なのだ、あの男は)
初めて顔を合わせたときの光景が、頭から離れない。
髪型で人を値踏みし、笑うことを禁じられたこの世界で、
誰もが魔王を恐れ、気を遣い、あるいは侮辱し、あるいは崇めた。
だが、あの青年は違った。
「対等だった」
下から見上げるでもなく、上から見下すでもなく。
彼はただ、自分を“ひとりの存在”として見ていた。
魔王でもなく、支配者でもなく、
ましてや**“バーコードハゲ”**などという烙印ではなく——
ただの「誰か」として、真正面から向き合ってきた。
(理解できん……)
彼は唸るように呟いた。
セージに、特別な力はない。
魔力も平均的、血筋も凡庸。
人を惹きつけるカリスマも、天賦の美貌も持たない。
なのに。
(なぜ、あれほどまでに……気になるのだ)
まるで心に残った“ささくれ”のように、引っかかって離れない。
今までは、憎しみと怒り、呪いと絶望だけが、己を支えていた。
それで十分だった。
それだけで、世界を支配できた。
——だが、セージを見た瞬間、胸の奥が“うずいた”。
苦しいような、温かいような、
わけがわからない感覚が、心をかき乱した。
(……憎しみでも、怒りでもない)
(これは、なんだ)
魔王は初めて“感情”というものの複雑さに戸惑っていた。
誰かに興味を抱くこと。
誰かと話したくなること。
誰かの目線が、なぜか心地よかったこと。
(くだらない……)
(だが、もっと……話がしたい)
心の奥で、微かな声がそう囁いた。
理由などいらない。
ただ、あの青年と——話がしたい。
それだけが、今の自分を動かしている。
そして、玉座の間ではない、公式でも儀礼でもない場所で——
再びセージと向き合いたいと、
ひとりの“バルド”として思った。
誰も知らない。
二人の胸に灯ったこの想いを、誰も知らない。
だがその夜、魔王城の空は、
どこか柔らかな月の光に照らされていた。
まるで、誰かの心が誰かの心に、
そっと寄り添おうとしているかのように。
夜が更けていく。
音もなく。風もなく。
ただ、静かに——
二人の思いが、重なっていった。
セージは“特別ではない”からこそ特別で、
バルドは“絶対的”だからこそ脆い。