『……30秒後に銀行のブレーカーを落とします。そのタイミングで出ていってください』
「おっけー」
やあ、俺は今春イツキ。銀行強盗をする30秒前だ
いつもアビドスからお金を巻き上げているカイザーローン*1の悪事を暴くために、銀行を襲ってその証拠を手に入れようとしている。正直犯罪行為をするのは少しだけ気が引けるが、仕方ないと割り切ることにした。でもまあ、ちょっとだけ面白そうだと思う自分もいる
「ううっ……なんで私はこんなことしてるんでしょうか……」
うん、それに関してはほんとどんまい。でも、学校サボってブラックマーケットに来たヒフミも大概だしなぁ
「まあまあ、それはもうあきらめなよ。……それよりさ、なんでイツキはこっち側なの?」
「いやだってあっちいてもやることないだろうし……それにちょっと楽しそうだから」
「さすがイツキ、わかってる」
そんな話をしていると、セリカが焦った表情をして言った
「ちょっとみんな!もうそろそろで30秒よ!」
あ、そういえばそうだったと思い出す。一応心の準備だけはしておこう、そう思った次の瞬間————
バッ!
「今」
暗くなった瞬間にシロコが合図をした。なぜか慣れているように見えるが、気にしないでおこう。
「な、何ですか!?……停電?」
「い、いったい誰が!?パソコンの電源も落ちているじゃないか!」
ザワザワ……
銀行にいた行員、客を構わず声を荒げた。行員の中には、『みなさま落ち着いてください!』とパニックになっている客を宥めている奴もいたが、それも無駄になる。なぜなら………
ダダダダダダダッ!ダダダッ!
「銃声っ!?」
シロコが威嚇射撃を行ったことにより、パニックの和はどんどん広がっている。そんな中だったら、警備を倒すのはとても簡単だ
「うわああっ!」
「な、何が起きて……うぐっ!」
姿は見えないが、声からするに警備がバッタバッタと倒されていることがわかる。そんなことがあるので、ここにいるものたちはいつ自分がやられるかわからない恐怖に陥った
バチ、バチバチッ
電気が点滅し、闇が明ける。すると、警備がいたであろう場所には6人の武装した覆面集団が堂々と君臨していた
「全員その場に伏せて、持っている武器は捨てろっ!」
「言うこと聞かないと、痛い目にあいますよ☆」
「あ、あはは……みなさん、怪我しちゃいけないので……その場に伏せてくださいね………」
こうして3人が強盗の決まり文句のようなものを言ったがやはり気になる。あの中でシロコだけ声色や口調を少し変えていて、やっぱり自分たちの知らないところでこういうことやってたんじゃ?と思ってしまう。まあバレるのもよくないからそれでいいんだけど……
「ぎ、銀行強盗!?」
あれ?アルだ。そういえばここにお金を借りに来てたなあ………そう思ったが、やることがあるから一旦後回し
「非常事態発生!非常事態発生ッ!」
「無駄だよー。外部に通報できる警備システムの電源は落としちゃったからねー」
「ひいっ!」
「変なこと考えるなよ。もし何かしたら……」
ダァン!
シロコと同じように威嚇射撃をする。これで変なことやる気は起きなくなるだろ
「ほらそこっ!伏せてってば!下手に動くとあの世行きよっ!!」
怪しいそぶりをみせたものが一部いたため、一応ここにいるやつらの通信機器を回収したり、監視カメラをハッキングしてもらったでもう多分大丈夫。これで外部に通報される確率が格段に下がっただろう
「みなさん、お願いだからじっとしていてください……」
「よし、ここまでは計画通り!次のステップに進もう!リーダーのファウストさん、指示を!」
ここまでにかかった時間はおよそ5分。とても初めてやったとは思えないほど順調にことが進んでいる
「えっ!?ふぁっ、ファウストって私ですか!?リーダー………私がリーダー!?」
「はい、リーダーです!ボスです!ちなみに私は………覆面水着団のクリスティーナだお♧」
「うわ、何よそれ!いつから覆面水着団なんて名前になったの!?それにダサすぎだし!」
「……」
うん、まあダサいのは否定しない
そこまで落ち込んでいないと思うが、ノノミの背中をさすっていちおう励ました
「うへ、うちのファウストさん怒ると怖いんだよー?言うこと聞かないと怒られちゃうぞー!」
「あう……リーダーになっちゃいました……これじゃあ、ティーパーティーの名に泥を塗ることに………」
「……それはもうどんまいとしか言いようがない」
ほんとにかける言葉が見当たら————あれ?あそこにいるのって便利屋か
柱の物陰でコソコソとこちらを観察している3人組、ムツキ、カヨコ、ハルカがいる。いやまあアルがいた時点で当たり前だったし、そもそも知ってたからなんだけど……
「ん、ブツを手に入れた」
「おっ、ナイス〜」
"それじゃあみんな、逃走経路はこっちで言うからそれに従って"
「りょうか〜い。じゃあ全員撤収だー!」
「アディオ〜ス☆」
「け、怪我人はいないようですし……すみませんでした、さようならっ!」
*****************
あのあと、なんどかマーケットガードと応戦することになったが、なんとかまくことができた。ちなみに今は先生とアヤネに合流し、安全なところへと向かっている
「はー、はー……次はどっち?先生」
"そこを右に曲がって"
「おー、やっとついた………」
逃走時間約30分、ようやく安全な場所まで来ることができた。みんなも安心したようで、着々と覆面を外している……一部を除いて
「はひー、息苦しかった……」
「いやー、なんとかなるもんだね」
「あはは、たしかにそうですね……もう封鎖地点を突破したのである程度はゆっくりできます………」
ここまで来る道中で証拠になるものやマーケットガードは全員消してきたので多少ゆっくりしていても問題はない
「……さ、というわけでシロコ、集金記録の書類は?」
「ん、ばっちり。でも少し問題が…………」
シロコがもっていたバッグを開ける。すると中には目的の集金記録の写真、そして1億は優に超えるであろう札束が入っていた
「……へ?なんじゃこりゃ!?カバンの中に……札束!?」
「うええええっ!?シロコ先輩、現金盗んじゃったの!?」
カバンの中には札束、札束、そして札束。正直ここまで多くの現金を彼女たちは見たことがない。今まで稼いだお金を全部持ってくれば届くかもしれないが、それはもうすでにカイザーローンの手の中にナイナイされてしまっている
「ち、違う。これは目当ての書類をカバンに入れてもらうときに銀行の人が勘違いしただけ」
すぐにシロコがブンブンと首を振った。彼女も銀行強盗を楽しんではいたが、そういう
「どれどれ……うへ、軽く1億はあるね。ほんとに5分で一億稼いじゃったよー」
「やったあ!!みんな何ぼーっとしてるの!さっさと運ぶわよ!」
「はいストップー!」
「な、なによどうして止めるの!?」
「逆に止めないと思ってたの??」
「せ、セリカちゃん、そのお金を使っちゃったらそれは犯罪だから……」
アヤネの言った通り、そのお金を使ってしまったらそれはもう犯罪だ。あいつらと同類ということになってしまう
「は、犯罪だから何よ!?このお金はそもそも私たちが汗水流して働いたお金なんだよ!それがあの闇銀行に流れてったんだし!それに、そのままにしておいたら犯罪者の武器や兵器に変えられてたかもしれない!悪人のお金を盗んで、何が悪いのよ!」
「……」
「私はセリカちゃんの意見に賛成です。犯罪者のお金ですし、私たちが正しい使い方をした方がいいと思います」
「ほらね!これさえあれば、学校の借金をかなり減らせるんだよ!」
……セリカの意見も一理ある。これさえあれば借金を減らせることができるが……
「でも、俺たちに必要なのは書類だけ。お金じゃない」
「うんうん、そのとおり。今回は悪人の犯罪資金だからいいとして、次はどうする?その次は?」
「……」
「こんな方法に慣れちゃうと、ゆくゆくはきっと平気で同じようなことしちゃうよ。そうしたらさ、この先またピンチになった時……『しかたないよね』とか言いながら、やっちゃいけないことに手を出しちゃうと思う。私はね、かわいい後輩ちゃんたちがそんなことしちゃうのは嫌なんだあ。そうやって学校を守っても、なんの意味もないしね」
「っ!……」
セリカが言葉を詰まらせる。互いにアビドスを守りたいという意志は同じだが、こうも入れ違いしてしまう。———そして、ホシノの言葉を納得している自分がいる。今までコツコツと一生懸命働いたのはなんのため?アビドスを守るためだ、この美しい思い出の場所を。でも、もしこの汚れたお金を使ってしまったら?……アビドスは、楽しい思い出いっぱいのアビドスでは無くなってしまう。そんなのは彼女もいやだ
「だから、このカバンは置いていくよ。頂くのは必要な書類だけね。これは委員長としての命令だよー」
「……あぁもう!わかったわよ!!みんなこういう変なところだけ真面目なんだからっ!」
「はい、委員長の命令は絶対ですね☆」
「……あ、そうだイツキ」
「ん?どした?」
「私さっきので疲れちゃったからイツキで休憩させて〜」
ホシノがイツキの胸へと飛び込んだ。まあでも疲れたのはわかるが、おそらくそれを言い訳にして抱きつきたかっただけだろう
「ははぁ、委員長様の仰せのままにー」
「うむうむ、くるしゅうないぞー」
「……あ、でも俺汗かいてるよ?」
「!……すんすん…」
あれぇ?
「あのー、ホシノさん?俺、汗かいてる、臭い、OK?」
「……」
「ん、私も嗅ぐ」
「!?」
シロコまでこっちにきた……目をキラキラさせるな嗅がせないぞ!………というかちょっとまって?なにどさくさに紛れて先生も嗅ごうとしてんの!?え?『前におんぶしてもらった時いい匂いしたから』だって?……やっぱこの人の性癖いかれてる………
"イツキ、ちょっとだけ、先っぽだけだから……"
「いやいや、先っぽだけでもアウトだろ!……というか先っぽだけって何!?」
「すんすん……」
わいわいと、先ほどまでの雰囲気が嘘のように4人が楽しく?戯れている。アヤネはそんな様子を見て苦笑を浮かべると同時に安心もした。まだ学校に帰れてはいないが、あまりいつもと変わらない彼らの様子を見ていると自然に落ち着いてくる………
ピピッ!
「!」
だが、その束の間の平穏を崩すかのように彼女の持つ端末から通知音が鳴った。ということはつまり……何者かが接近してきていると言うことだ。なのでアヤネは皆に聞こえるよう大きな声で言った
「何者かがこちらに接近中です!」
「……!!もしかして、追っ手のマーケットガードですか!?」
「いえ、敵意はないようです……。調べてみますね、あれは………便利屋のアルさん!?」
彼女はたしかに銀行にいたが、まさか追ってくるとは思っていなかったので驚いた
「はあ、ふう……ま、待って!!」
「!」
自分達の正体が先ほど銀行を襲った人物とバレないよう、覆面を被る。まあバレているかもしれないが、念の為だ
「あ、落ち着いて。私は敵じゃないから……」
「何であいつが……!?」
「撃退する?」
「どうかな、戦う気がないって言う相手を叩くのもねえ。……いや、やっぱり私のイツキとの時間を邪魔したからいいかも」
「だめですからね!?」
「……え?みなさんってもしかしてあの人とお知り合いですか?」
「んー、話せば長くなるけど一応知り合い」
「あ、あの……大したことじゃないんだけど……銀行の襲撃見せてもらったわ。ブラックマーケットの銀行をものの5分で攻略して見事に撤収……あなたたち、稀に見るアウトローっぷりだったわ!」
「!?」
みんなは、自分の耳を疑った。正直銀行強盗のことについて咎められると思っていたのに、それとは反対に褒められたからだ
「正直、すごく衝撃的だったというか、このご時世にあんな大胆なことができるなんて感劇したというか……」
「なんか、すごい褒められてね?」
"うん、犯罪行為を褒められるのはなんかアレだけどね……"
「だ、たから私も頑張るわ!法廷や規律に縛られない、本当の意味で自由な魂!そんなアウトローになりたいから!」
「……これって何の話?」
「そういうことだから……な、名前を教えて!」
「名前……!?」
「名前なんて、何にも考えてないけど……」
さっき行った銀行強盗は計画的なものではなくその場で決まったもののため組織名や各自の名前などは全く考えていない。だからこそどうするか……と悩んでいたが、そんな中でノノミが声を上げた
「はい、わかりました!」
「ちょ、ノノミ先輩!?」
「私たちは人呼んで……覆面水着団!」
「覆面水着団!?やばい!超クール!かっこよすぎるわ!!」
「……」
アル……もといノノミの感性が少し飛んでいることがわかった
「うへ〜、本来スクール水着に覆面が正装なんだけど、ちょっと緊急だったから今日は覆面だけなんだー」
「なんか妙な設定を付け足してる!?」
「そうなんです!普段はアイドルとして活動してて、夜になると悪人を倒す正義の怪盗に変身するんです!そして私は……クリスティーナだお♧」
あ、これって前の対策会議でやってたやつだ……と先生は思った。やっぱりやりたかったんだね……
「だ、『だお♧』……!?キャラも立ってる……!」
「うへ、目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く。これが私たちのモットーだよ!!」
「な、なんですってー!!」
楽しそうだね、とアビドスとじゃれあうアルの様子を眺める3人。本当、特撮映画に連れて行ってもらった子供のように大はしゃぎしている
「ほら、もういいでしょ?サッサっと逃げようよ!」
「わかりました、それじゃあこの辺で。アディオ〜ス☆」
「行こう!夕陽に向かって!」
「夕日……まだですけどね………」
「じゃ、またな」
補足
イツキは本人が思ってるより社畜体質です。というか過去アビドス編でマルチワークとか寝不足に慣れちゃったせいで『こんぐらいなら大丈夫!』とか言いながら24時間働くことがザラにありますから。……まあ、そんなことしたらアビドスのみんなに強制でお昼寝させられますけどね
補足2
イツキはいいにおいです
次の章はどれにしますか?(どれにしろ数話挟んでからのスタートです)
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パヴァーヌ編
-
エデン条約編
-
アビドスリゾート編