普通の高校生たちによるクトゥルフのリプレイ   作:白痴イア

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第十一話『それだけで、私は満足なのだ』

「だいたいは理解できたと思います。……それで、このムー大陸とやらが滅んだ理由はなんですか? ここだけ石像ばっかりなのは少し、違和感があるんですけど」

 

『聞かれると思っていたよ』

 

 それは旧暦3000年頃、再び浮上したムー大陸は各先進国の協議により、 領土を分配することになった。

 

 ある程度予想されていたことだろうが、様々な国、宗教が入り乱れたムー大陸は戦争が頻発した。

 

『だが……その中でも、大きな問題があった』

 

「大きな問題、ですか?」

 

『宗教戦争だ』

 

「うわぁ……」

 

 途端、嫌な予感が夢の中を駆け巡る。

 

 宗教だなんて、日本人である夢からすればロクでもないという認識なのだ。

 

 藻武夫によると、ムー大陸の墓所であるルルイエに眠る大いなるクトゥルフ等を崇拝する客人神信仰と、豊穣の女神シュブ=ニグラスを崇拝する土着神信仰で大きく二分されたらしい。

 

 ゾス星と呼ばれる外銀河に属す星から飛来したとされるクトゥルフ(ゾス星系)の一行は、主神クトゥルフ、第一子ガタノソア、第二子イソグサ、第三子ゾス・オムモグの4 柱おり、いずれも神というよりは特殊な能力を備えた異星人というのが科学的な見方だった。

 

 中でも、クトゥルフの第一子とされるガタノソアは、細胞の動きを停止、硬化させる恐ろしい能力を有しているといわれ、かの生物を刺激しないように取り扱っていた。

 

 しかし、ガタノソアの脈動を抑えるという大義名分を得たゾス派の一団は、政治的にも大きな立場を獲得し、次第に既得権益を守る方向へシフトしていった。

 

「……なんか、もう嫌な予感しかしない」

 

 そこでこれらを抑えるために立ち上がったのが、シュブ=ニグラスを信仰する一団の神官だ。

 

 ハイパーボリアの魔術と最新科学を合わせ、入念な準備の後、ガタノソアを討伐する作戦を実行する。

 

 いざとなれば、彼らの主神であるシュブ=ニグラスに顕現いただく覚悟をしていた彼の成功を疑う者はいなかった。

 

 しかし、シュブ=ニグラス派は失敗する。

 

 時を同じくして、ムー大陸の天文学者達は、グロースの電波を受信してしまったのだ。

 

 ガタノソアが眠る、死火山であるはずのヤディス=ゴー山は噴火し、かの神が目覚める。

 

『……その後の顛末は、現状を見ての通りだ』

 

花見夢【『心理学』60→100/致命的失敗(ファンブル)

 

 何を言ってるんだ、こいつ。何がなんだか分からない。

 

 突然アホになった夢は、愚かにもそう考えた。

 

「……ちなみに、ガタノソアとやらが再び目覚める可能性は?」

 

『ヤディス=ゴー山が噴火すれば、ほぼ確実に目覚めるな。そうなれば、今度は地球全土でここと同じ事が起こるだろう。 火山灰をまき散らしていることから、ヤディス山は既に小規模の噴火を繰り返しているようだ……つまり』

 

「つまり?」

 

『ガタノソアは、いつ目覚めてもおかしくない。それが私の見解だ』

 

「絶望に満ちた意見をありがとうございます! ……どうしよう」

 

 思っていたよりも不味い状況だったことに、夢は思わず頭を抱える。

 

『君が今後どうするにしても、ガタノソアの目覚めを阻止しなければ、生きたまま石化させられ、無限の退屈を味わうことになるのは想像に難くないな』

 

「ですよねぇ……」

 

『だが、ゾス派の一団はこの事態を想定していた筈だ』

 

 その一言に、夢は顔を上げる。

 

『拠点となっていたルルイエ神殿なら、内部が無事かもしれない。そこにはガタノソアに関する資料、またその他の文献はゾス派が押収して、神殿に保管されているだろう』

 

「そこに、打開策があるかもしれない……?」

 

『あくまで、可能性の話だがな。行ってみる価値はあるだろう』

 

 ふぅ、と。藻武夫の息を吐いた音が聞こえた。

 

 魂だけなので、あくまでそういうイメージと合うだけのことだが。

 

『ああ、楽しかった。本当に久しぶりに、他人と話せたよ。ありがとう』

 

「いえ、こちらも重要な話を聞かせてもらえましたし……」

 

『これで、私の未練は果たされた……』

 

 すると、体内にあった異物感がなくなっていく感覚がして。

 

「ま、待ってください! ……いいんですか、それで」

 

『ああ、構わないとも。君と出会ったことで、私がこれまでの永遠のような時間を耐えてきたことに意味ができた。それだけで、私は満足なのだ』

 

「……そう、ですか」

 

『そう寂しそうな顔をするな。花見夢、だったか……ありがとう。人類は、まだ滅びきってはいなかったのだな……』

 

 すると夢の肉体から、うすぼんやりした青白い光が抜けていくのが見えた。

 

「…………」

 

 数万年もの間、誰かが現れるかもしれないという可能性にかけて意識を保ってきた男。

 その魂が終わりゆく景色を前に、夢はただ立ち尽くすしかなかった。

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