普通の高校生たちによるクトゥルフのリプレイ   作:白痴イア

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第十四話『それはエルダーサインね』

「ほら、そろそろ目を覚ましなさい」

 

「痛っ」

 

 パチン、という軽い音を立てて、夢の頭をティアがひっぱたく。

 

花見夢【『幸運』80→40/成功】

 

「って……え、あれ……?」

 

 その衝撃で正気へと戻った夢は、先程まで狂乱していた自分を思い出し頭を抱えた。

 

「…………何やってんだろう、僕」

 

「知らないわよ。急に叫びだして……とうとう本当に気が狂ったかと思ったわ」

 

 それまでの奇行に対して恥ずかしくなってきた夢は、ひとまずティアの意識を逸らそうと空元気の笑顔を見せる。

 

「そ、そんなことよりも……ほら! あの扉の奥に……なんだっけ、【冥王星の薬】? それがあるらしいし、行ってみないかな?」

 

「【冥王星の薬】……? 何よ、それ」

 

「え? あのサニドとやらが言ってたじゃないか。奥の扉にそれがあるって」

 

「私はそんなこと聞こえなかったけど……良いわ、行ってみましょう」

 

「うん、それがいいと思うよ」

 

 上手く自分の醜態から意識を逸らせたと内心ガッツポーズを取りながら、夢は駆け足で扉へと向かった、

 

 そうして扉を開くと、中は宗教的な外観に似合わず、極めて近代的な内装の上、綺麗に整理された部屋だった。

 

 見渡してみると、近未来とオーパーツの中間をいくような、奇妙な物が沢山ある。

 

 また、様々な歴史的文献や研究レポート等もあるようだ。

 

 管理されやすいようジャンルごとに分けられており、『冥王星の薬』を見つけることはたやすそうだと夢は思った。

 

花見夢【『目星』55→67/失敗】

 

 思った……のだが、なかなか見つからない。

 

「あれ? この辺りだと思ったんだけど……」

 

花見夢【『幸運』80→40/成功】

 

 予想が外れ、ヤケクソとばかりに適当な場所に目を向けると、なんとそこには『冥王星の薬』が保管されていた。

 

「ここかぁ……よし、見っけ。ティア、なにか見つけた?」

 

 『冥王星の薬』を手にとった夢は、ティアにそう問いかける。

 

「そうね……」

 

 ティアは周囲を見渡して、あらゆる所を視界に入れて……。

 

ティア【『目星』55→87/失敗】

 

ティア【『幸運』60→80/失敗】

 

「特に何も」

 

「みたいだね……」

 

 薬を4本懐に入れた夢は、他に使えそうなものを探してみることにした。

 

花見夢【『目星』55→19/成功】

 

「……ん? これは……」

 

 次に夢が見つけたのは、中央に目立って保管されていた、人ひとりが入れそうなカプセル型の装置だ。

 

 ジロジロと観察するように見てみるが、どんな装置なのかはサッパリだ。

 

「なんだこれ……全自動人間改造装置?」

 

「そんな訳ないでしょ」

 

 夢にツッコミを入れるティア。

 なんにせよ、今はまだ分からなそうな代物だと夢は判断した。

 

「他には何かないかな」

 

花見夢【『目星』55→5/決定的成功(クリティカル)

 

 ぶらぶらと探索していると、夢はいくつかの資料と、小型のよく分からない機械が目に止まる。

 

 その一つには、【コールドスリープ装置、取扱説明書】と書かれていた。

 

「あ、さっきのやつはコールドスリープ装置なんだ……これの指示に従えば起動させられそうだね」

 

 取扱説明書によると、これはムー大陸の技術の粋を結集してようやく完成した、たった1機の装置らしい。

 

 ガタノソアの事件が無ければ、コスト削減、量産化等の工程を踏み、グロースの接近によって滅びが決まった地球で、人類が存続でる可能性を秘めていたそうだ。

 

 現状の問題点は、使用した場合、外部から取り出す者がいなければ解除不能であるということのようで。

 

「今の僕たちには無用の長物かな」

 

 夢はそう結論づけた。

 

「こっちの資料は……」

 

 いくつかの資料の一つを手に取る。

 

 そこには、【ゾス三神第二柱の権能による、疑似コールドスリープへの応用】というタイトルがあった。

 

「疑似コールドスリープ……さっきの装置のことか。さて、内容は……」

 

 “地球で眠っていたゾス星系異星人『クトゥルフ』の第1子『ガタノゾア』の細胞硬化能力が凶悪であることは言うまでもない”

 

 “目を合わせるだけで、強制的に発動するこの能力に抗える例外の人間は存在しなかったからだ”

 

 “しかし、かの能力は人類を存続させる希望にもなり得る”

 

 “ガタノソアに細胞硬化(以下:石化と呼称)された者の脳が、被術以降も活動していることがわかった”

 

 “これは、石化=死ではなく、眠っているような、一種の仮死状態であると考えられる”

 

 “世界最古のシュメール神話から逆算するに、古代惑星配列から人類最盛期の惑星配列に変化するまでに、最短でも45万年を要する”

 

 “この期間、人類が仮死状態で肉体と精神を保つことができれば、再び復興することも現実味を帯びてくる”

 

 “問題は、脳が生きている=意識がある場合、数十万年動けず、眠ることもできず、地獄の退屈の中で生き続けることになる”

 

 “人間の精神で耐えることは不可能だろう”

 

 “この疑問は、石化した者と意思疎通を図ることができれば、簡単に答えに辿り着ける”

 

 “テレパシーの研究も並行して進めていく”

 

 “また、ハイパーボリアの魔術師が使用する〈銀の光線〉は石化解除には使用できないことが判明した”

 

「…………」

 

 藻武夫のことを思い出し、夢は改めて彼の精神力の強さに震えを覚えた。

 

 だって、待っていたのだ。自分のことを必要とする者を。

 

 そんな人が本当に来るだなんて確証も無いのに……いや、例え来たとしても良い人間とは限らない。

 

 それでも、藻武夫はその可能性に賭けて、長い時間と言うことすら憚られるほどの年月を過ごした。

 

 ……それだけの決意があれば、できることなのか。

 

「……いや、今はいいか。それよりも、次の資料を……」

 

「夢くん、一人で見てないで私にも見せなさいよ」

 

「うわっ!?」

 

 ぶつぶつと言いながら次の資料に手を伸ばそうとしていた夢の背後に、いつの間にかティアは居た。

 

「いつから居たのさ……ビビったよ」

 

「それよりも、私にも読ませなさいよ」

 

「あー……ごめん。じゃ、これどうぞ。僕はもう読み終わったから」

 

 そう言って、夢は【ゾス三神第二柱の権能による、疑似コールドスリープへの応用】を手渡した。

 

「ありがとう、読んでみるわ」

 

 資料を受け取り、横に座り込んだティアを尻目に、夢は次の【太陽の活性化に向けて】というタイトル付けられている資料に手を伸ばした。

 

 “近年、太陽の熱エネルギーが減少してきている”

 

 “グロースの接近によって生じた惑星大移動により、本来13億年後に訪れるはずだった太陽の寿命が短くなっていることが原因だろう”

 

 “これは恒星内部で起こっている核融合に必要な水素が、太陽に接近した惑星の引力に引っ張られ、絶対量が減っていることが原因だ”

 

 “我々は、今一度科学だけでなく、宗教的観点からこの問題を見直す必要があると考えた”

 

 “旧約聖書に始まり、ギリシャ神話、北欧神話、シュメール文明、どの教典にも惑星を神と扱っていた節があり、後に神々が地球から去ったという記述がある”

 

 “そして、各神話や伝承等から察するに、現在の惑星配列が古代太陽系と同一であることが観測されている”

 

 “このことから、神話には元となった歴史的大転換が存在し、古代文明の惑星配列から人類最盛期(西曆以降)の惑星配列に変化したと推測できる”

 

 “土星太陽說、木星大移動等の都市伝説レベルの文献も、かつて地球の傍にあった惑星(神)が、 離れていったとすれば信憑性が増す”

 

 “これらを正解とするならば、我々が目下目指すべきは引力のコントロールである”

 

 “かつて魔術と呼ばれていた精神エネルギーの物理干渉技術の共有を、イイーキルスの魔術師達に要請するべきだ”

 

「……よく分からないな」

 

 太陽の寿命が短くなっている……ということだろうか。

 

 天文学の知識などを、夢は持っていない。

 専門用語などはあまり無いとはいえ、それでも夢からすれば難解な代物だった。

 

「これが最後の……【水星- GJ1214B -】か」

 

 ラストの資料を手に取り、目を通す。

 

 “惑星移動以降、地球の衛星軌道上に乗った青い星だ”

 

 “一見月より大きく見えるが、実際の質量は月と変わらない”

 

 “では、何故二回りほど大きく見えるかといえば、この星の表面の98%が水だからだ”

 

 “水が星の重力に引っ張られて張り付いているという方がわかりやすいだろうか”

 

 “この水の中には、微生物が含まれているのが観測された”

 

 “現在は公転周期によって、地球の引力に引かれ、大粒の雨のように水を引き寄せる”

 

 “この惑星の水は、海面が極端に下がった地球への施しの雨になるかもしれない”

 

「施しの雨、ねぇ……」

 

 この時代で目覚めてからは、あの気持ち悪い色の水しか見ていない。

 なので、もし透明な水の雨でも降ってくれるのなら嬉しいが……。

 

「知ったからと言って、何かできることがあるわけじゃないか」

 

 現状には他の資料と同じく、あまり役に立つようなものではないと判断して、夢は軽く立ち上がった。

 

「後は、これか……」

 

 夢が見つめているのは、何故か気になり、ふと手にとって見た代物。

 

 奇妙なマークが描かれた、御札のような何かだ。

 

「ティア、このマークがどんなものか知ってるかい?」

 

ティア【『クトゥルフ神話』98→80/成功】

 

「……ああ、それはエルダーサインね」

 

「エルダーサイン……? 何だい、それ」

 

「簡単に言ってしまえば、魔除けの象徴のようなものかしら。ここを見て。五本の枝が中央から伸びてるでしょう? これは旧き神々の恩寵を象徴としている……みたいな感じの筈よ」

 

「最後適当だね……ひとまず、持っておくとしよう」

 

 そう呟いた夢は、エルダーサインとやらが刻まれている、御札のようなものを懐に入れた。

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