普通の高校生たちによるクトゥルフのリプレイ 作:白痴イア
それから、夢はティアとたくさんの雑談をした。
それにより、ティアのことをたくさん知ることになった。
数万年の間、滅んだ地球を歩き回ったことで、現状の地球の地理をほぼ完璧に把握していること。
しかし、数万年前の記憶は忘れており、なぜ地球が滅んだか思い出せないこと。
それと本来の名前も、なぜ不老不死になってしまったのかも忘れてしまっており、今こうして正常なコミュニケーションが取れていることが奇跡に近いものだと認識して欲しいということ。
……本来、気が狂うほどの年月を1人で宛ても無く、只々歩き続けたのだから。
「え、名前忘れたの? それじゃ"ティア"って名前は?」
「適当に考えた名前よ」
それに地理についても教えてもらったが、現在地から東に数ヶ月歩けば、海を超えた先に氷に閉ざされた都市が見える。
それは、かつて科学よりも魔術で文明を発展させた都市だったようだ。
更に進路を変えて南へ数日進めば、2000年台には存在しなかった新大陸がある。
ムー大陸と呼ばれているその地には、科学文明を極めていた都市がいくつもあったようだ。しかし、今は住人から建造物に至るまでのほとんどが石になっている。
天を突く巨大なタコに似た邪神によって滅ぼされたように見えるが、 その邪神もティアが訪れた時には既に石になっていたらしい。
「石になってた……ね、それが滅んだ原因かな。詳しくは分からないけど」
そんなこんなで、夢たちは時間を潰していた。
……それと、気がついたことはもう一つ。
初日の夜に天を見上げたときに気づいたのだが、星空が違う。
土星が異様に近く、逆に月が遥か遠くに行ってしまっている。
「……? !?」
そして、かつて月があった地球の衛星軌道上には、月の代わりに水色に光る星が見えた。
花見夢【『目星』55→25/成功】
更にその星を注視した夢には、表面が波打っているように見えた。
「え、土星がなんでこんな近くに……!?」
「普通じゃないの」
「普通じゃないよ! 月も、どうしてあんなに小さく……」
「花見くんのことが大嫌いで、どうしても離れたくなったんじゃない?」
「意外と言うね君? それと理由も適当だね」
そんな会話もあった。
そんなこんなで2週間程の旅の後、海沿いに氷に閉ざされた大陸が見えてきた。
夢にはそれが、北極の映像とは違った神秘的な印象を受けた。
「行ってみましょう」
ティアの声に従って歩き出すと、夢は異様な冷気の波動を感じた。
その方向を向けば、大きな港をそのまま船にしたような、巨大な氷山が辺りを凍らせながら移動しているのが見える。
氷山の上には城塞が頭をのぞかせており、大きな建造物が凍った物だと分かった。
「ひえぇ、寒いね。ティアは平気なのかい……?」
「ええ、私は……──花見くん、下がって」
「え?」
ティアにどういうことかと問う前に、夢は理解した。何故なら一瞬にして辺りは凍らされ、氷山まで一直線に伸びる道ができあがっていたのだ。
直後、城塞の頂点からのそりと何かが這い上がってくる。
それは、ゾウアザラシほどもある巨大な蛆虫に似た怪虫だった。
円盤のような顔の端から端にかけて、舌の無い青白い色の口が開いていて、鼻腔の間に寄り合った二つの眼窩からは常に目玉の形をした血の色の球体がしたたり落ちている。
花見夢【『正気度ロール』75→68/成功】
花見夢【SAN : 75→74】
「なんだ……あれ……っ!?」
「ルリム・シャイコース。旧支配者であり、神よ」
「神……?」
「ええ、神。……たぶんね」
「たぶん……?」
「何か強いし、普通の生き物じゃないし、神なんじゃないかしら。知らないけど」
「適当すぎないかな……」
ティアの適当さに、夢は肩をすくめる。
「ルリグ・ヒャーケイズ……ね。神なんてものが、本当にいるなんて」
「違うわ。ルリム・シャイコースよ」
「え? ルリム・シャーベット?」
「ルリム・シャイコースよ。耳が腐っているの?」
「腐ってないよ! ……ルリム
名前が覚えられない夢は、もう諦めることにした。
「それよりも、"来い"と言ってるみたいよ」
「え、行くの!?」
「今すぐに襲ってくるような気配は感じないわね」
「そう、なの……? だが、神か……従わずに機嫌を損ねるよりは良いか」
「そうね。正直、私たち二人でもどうにもできないと思うわ。逃げても無駄ね」
「……選択肢が無いじゃないか」
仕方なく示された道に足を踏み出すと、ルリム・シャイコースは城塞の中に戻っていく。
その道の先には、氷山に空いた洞窟のような入口があった。
「……この道、巨木は入れないわね。置いていきましょう。ここで待っててね」
「大丈夫なの? その、危なくない?」
「巨木は私や貴方よりも全然強いわよ。心配要らないわ」
「ああ……それもそうか」
そうして二人は巨木に手を振って別れを告げて、氷山の中に入って行くのだった。