普通の高校生たちによるクトゥルフのリプレイ 作:白痴イア
「……起きて、花見くん」
目が覚めたら、目の前に美少女がいました。
そんなくだらないことを考えている寝ぼけた夢は、何度か瞬きをすると今までのことを思い出した。
「あら、起きた?」
「あ、うん……おはよう」
「うん、おはよう」
あんなことがあって良く眠れたものだと自画自賛したいところだが、そろそろこんな場所からは去りたい。
そもそも、またルリム・シャイコースが襲ってくる可能性だってあるのだ。
昨日は簡単に退散してくれたが、全力でぶつかるとなると正直厳しいだろう。
「ほら、そろそろ出よ」
「そんな急がなくてもいいでしょう……? まだ眠いのよ……」
「マイペースだね、こっちはいつ襲われるか不安で仕方がないっていうのに」
「そんな事言いながら、ちゃったり安眠してたのは誰よ」
「うっ……!」
痛いところを疲れた夢は、ごまかすようにオーバーリアクションで立ち上がる。
「さぁ、行こうか」
「そうね」
そうして、夢とティアは入口までやってきた。
そこには、待たせていた巨木もいる……はずなのだが。
「塞がってない?」
「塞がってるわね」
二人が入ってきたはずの入口は、分厚い氷で閉ざされていた。
「ど、どうする?」
「少なくとも、あのルリム・シャイコースを正面から倒すのは無謀ね」
「分かってる。……少し、考えよう」
それから、二人は脱出方法を考え始めた。
だが、特に良い案は何も思いつかない。
そうして途方に暮れていたとき……
花見夢【『聞き耳』60→89/失敗】
ティア【『聞き耳』37→32/成功】
「……待って、花見くん。何か聞こえるわ」
「え? 何かって……何が?」
「なんでしょう、これ。悲鳴のような……鳴き声?」
「ここに僕たちの他に誰かいるのかな」
「それは無いと思うわ。だから、これはルリム・シャイコースの声よ」
夢とティアは目を合わせる。
それだけで、お互いの言いたい事が通じ合っていた。
「他に出口があるかもしれないし、その怪しい声が聞こえた場所からは離れよう」
「何かがあるかもしれないし、今すぐに声が聞こえた場所に行ってみましょう」
「「……え?」」
前言撤回。二人は、全く持って通じ合えていなかった。
「まだ行ってないところがあるし、ひとまず離れた方が良くないかい……?」
「でも、何かの手がかりになるかもしれないのよ?」
「っ……でも、危険もあるかもしれないし……」
「何も知らない状態で歩き回る方が危険よ」
「……それも、そうかな」
そうして説得された夢は、ティアに従って悲鳴の方へと向かうことにした。
……少し歩いた先に、悲鳴の主がいた。
そこに鎮座していたのはルリム・シャイコース。
「……え」
悲鳴は相変わらずルリム・シャイコースから聞こえているが、夢はその姿に矛盾を感じた。
ルリム・シャイコースは、穏やかに眠っているようだからだ。
花見夢【『聞き耳』60→76/失敗】
その悲鳴の声から夢は何も聞き取れず、ただその光景に圧倒されるばかりだった。
「……なるほどね、分かったわ」
「え、何が」
「この悲鳴の主の言葉よ」
「そんなの聞き取れたの……? それはすごいな。良かった教えてほしいんだけど、どうかな」
「別に構わないわ。この声が言うには──『この白蛆はルリム・シャイコースと呼ばれている。ルリム・シャイコースは、魔術において全知全能に近い力を持つといわれているが、その所以は、魔術師の捕食で成り立っている。魔力の高いものをその知識事取り込み、己の力とするのだ。私たちは、ルリム・シャイコースの中で生きている。ここには、かつてルリム・シャイコースに捕食された魔術師の魂がいくつも残っており、彼らはルリム・シャイコースの唯一といえる弱点を知っていた。それは、月光が弱まった時に休眠状態に入るということだ。この辺りがハイパーボリア大陸と呼ばれていたころ、エヴァグという偉大な魔術師がこの方法で撃退したという。今この時が、憎き白蛆を倒す唯一のチャンスである!』……とのことよ」
「……つまり、ルリム・シャイコースを倒せって言われてるのかな」
なんだその無理ゲーは。
「……やりましょう、花見くん」
「嘘でしょ? ……いや、その顔は本気だね」
夢は、ティアの顔を見る。
それは、わくわくしてたまらないという顔だった。
「……ああっ、もう! 付き合ってあげるよ!」
花見夢【『こぶし(パンチ)』50→29/成功】
眠っているルリム・シャイコースに向けて、夢は持ってきていたベッドの破片を刺す。
ルリム・シャイコース【HP:32→27】
『■■■■■■■■■■〜〜ッ!?』
そして傷口から黒い液体を噴出しながら、ルリム・シャイコースは悶え始めた。
花見夢【『回避』22→63/失敗】
「い──ッ!?」
避けきれなかった夢は、その黒い液体に触れてしまい痛みを感じた。
花見夢【HP:16→9】
その液体は夢の肉体を溶かし、周囲の氷は触れた先から溶けていく。
そうして氷でできたこの要塞は、瞬く間に崩れて行く。
「あれ……これ、ヤバい?」
「逃げるわよ」
崩壊する氷の城塞に押しつぶされないように、二人は全力疾走で逃げ出した。