迅悠一が救われるまで   作:ミルクネコ

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未来視の兄と過去視の妹、相反するような彼らが現在を生きる物語。

絶対に読んで後悔はさせません。
どうか数話だけでも読んで、このワールドトリガーの世界に浸っていただければと思います。

※迅悠一のシスコン的描写、未来視の独自解釈(軽度)
※虐待、トラウマ、その他シリアス要素
※加古さんと影浦くんと夢主によるとんでもない悪口合戦
 (仲はいいし性格は変えていませんがキャラ崩壊と思われるかもしれません)


第1次大規模侵攻編
プロローグ


三門市もようやく静まり返り、街の灯りも遠のくころ。

唯華の部屋には、淡い間接照明の明かりだけが灯っていた。

 

シャワーを終えた唯華は、バスタオルを肩にかけたまま寝巻き姿でベッドの端に腰掛けていた。

髪の水気をタオルで抑えながら、ちらりと視線をドアの方へ向ける。

 

「……まだ帰ってないのかな」

 

つぶやいたそのとき、控えめにドアがノックされた。

 

「……唯華? 入ってもいい?」

 

低く甘えたような声。

 

唯華は一瞬うんざりした顔をしたが、すぐにため息混じりに返事をした。

 

「……開いてるよ」

 

ドアが静かに開き、部屋着姿の迅が顔を覗かせた。

肩まで落ちた前髪がやけに幼く見える。

不安を押し隠すような笑顔を貼りつけて──彼は、ベッドのほうへ歩み寄ってくる。

 

「今日も明日もその先も⋯叔母さんたちいないんだろ?泊まっていってもいいよな」

 

「明後日にはたぶん帰ってくるって。まぁ…いいけど。ソファに毛布あるから──」

 

唯華がそう言いかけた瞬間、迅はベッドの反対側に腰を下ろしていた。

 

「……は?」

 

「……ダメ?」

 

上目遣いに覗き込むその顔には、悪びれた様子はなかった。

 

唯華は明らかに引いていた。

 

「ちょっ……なにしてんの、うそでしょ。ベッドは無理。

だって私、女の子だし、お兄は男でしょ!? 家族だからってそれは無理だって……」

 

慌てて身を引きながら、唯華は半分冗談みたいに手を振った。

 

だが──迅の表情が、ふっと翳る。

 

「……おれ、今日、すごく頑張ったのに」

 

小さな声。

不意に落ちたトーンに、唯華の動きが止まる。

 

「ボーダーの仕事も今日は特に忙しくて……ずっと気を張ってたんだよ。

お前に会えて、やっと、力が抜けたんだ⋯⋯でも仕方ないよね。おれはソファで⋯」

 

そう言って、目を伏せる迅。

その横顔は、普段の軽薄さとはかけ離れた、あまりにも寂しげなものだった。

 

唯華は、口をつぐむ。

 

彼の肩が、少しだけ震えていた。

 

(ずるいなぁ……)

 

心の中で小さく毒づきながら、唯華は視線をそらし、それから口を開いた。

 

「……じゃあ、朝になったらすぐ帰るって約束して。

あと、絶対こっちには寄らないこと」

 

「チョロ⋯」

 

「布団の端から動かないで。喋らないで。

こっち見ないで。変なことしないで。熟睡してても私わかるから。」

 

「わかったわかった」

 

苦笑まじりに返す迅。

 

唯華は布団を引っ張って境界線を作ると、その反対側に背を向けてもぐり込んだ。

迅も黙って布団に入り、ほんの少しだけ身体を丸めるようにして横になった。

 

(ほんとに何もしないんだ⋯いや別にしてほしくはないけど⋯)

──その夜、2人の間には何も起きなかった。

 

ただ、背中越しに伝わる人のぬくもりが、

少しだけ、お互いを救っていた。

 

 

「最上さんたちが死んだのも、俺がこれから死ぬのも、なにもかも全部!お前のせいだ!」

 

あぁ、そのとおり。

「お前は知っていながらも俺らを見殺しにした!

代わりにお前が死ねば良かったんだ!この人殺し!」

 

男は怒鳴り続けていた。白いジャケットが真紅に染め上げられる最期まで。

先程とは打って変わって、荒れ果てた戦場では風の泣く音だけが聞こえていた。

 

「ハハハ...」

 

乾いた笑い声の出処はすぐ近く。

たった今死んでしまった男に冷たい視線を向けながら、笑っている少年からだった。

 

いったい何がおかしいというのだろう。

彼の仲間が死んで、尊敬していた師匠でさえもついさっき消えてしまったのに。

ひとしきり笑ったあと、彼はガックリと膝を着いて目を閉じた。

視界を閉ざしている間だけは、ほんの少しだけ未来を視なくて済む。

 

しかしズボンに着いた砂ぼこりを叩き落とす暇でさえも、彼には与えられなかった。

ガガガ...と不気味は機械音を立て、背後にトリオン兵が迫る。

 

顔を動かすことなくそれを斬り払った彼の名は迅悠一。

未来を見通す瞳を持って生まれた、数奇な運命に魅入られた少年。

 

そんな14歳の子供が今立っているのは殺伐とした戦場だった。

彼が所属している組織「ボーダー」は、

同盟国アリステラの危機に駆けつけそこで戦闘。

 

激しい攻防の末、どうにか敵部隊を撤退に追い込んだものの、

10名の死者と4名の重軽傷者を出してボーダーも撤退を余儀なくされる結果となった。

 

迅には仲間たちが死んで行く様相が視えていた。

当然その予知を大人たちに告げる機会はあったはずである。

 

しかし迅は、彼らを見捨てる選択を選んだ。より未来に繋がる道を選ばざるを得なかったのだ。

「しょうがないって、言われたいんだろ?自分のせいじゃないって。」

 

違う!否定されても苦しいだけだ!

「お前が殺した最上さんも、決してお前を許していない。だから風刃を遺した。」

 

あぁ、だからこそおれはしっかり未来を視てみんなを救わなきゃならないんだ。

「お前に求められているのは贖罪。」

 

そうだ。向き合わなければならない。

「遺された刃を用いて、自らの手で生涯を閉じるといい。それが償いだ。」

 

そう...だけど...

「人殺しのお前なら、自分で出来るだろ?ほら...手を握ってやる...」

 

「やめろ!やめてくれぇぇぇ!!」

手で思いっきり暗闇を突き飛ばす。当然感覚は無い。

 

一向にやってこない痛みに疑問を抱いたのか、迅は恐る恐る目を開く。

 

「お兄!私もう学校行くからね!」

真っ先に目に飛び込んできたのは緑色の刃ではなく明るい部屋だった。

 

「何だ唯華(ゆいか)か...いってらっしゃい。」

ベッドに腰かけて声をかけたのは迅悠一の妹、名は唯華。

 

「そうそう、朝ごはんはキッチンに置いてあるから。」

そう言い残すと、彼女はせかせかと玄関へ歩いて扉を開く。

「あ...」

 

迅が何かを言いかけた頃にはもう姿はなく、

行き場を失った言葉は外気と混じりあって霧散してしまった。

以前からあのような悪夢を見ることは多々ある。

 

今日のように迅が大声を上げた際、普通は多少なりとも驚くはずだ。

しかし唯華は1度たりともそんな表情を見せず、まるで何事も無かったかのように振る舞う。

 

「興味が無いだけか…でも何も言わないのはちょっとおかしいよな〜」

 

そんな疑念も、ツナマヨのおにぎりとウインナー入りだし巻き玉子と一緒に腹に収められた。

「さて、今日も暗躍いってきまーす!」

 

いってらっしゃい、そう返してくれる仲間はここにはいない。

唯華がいたら返事をしてくれただろうか、なんて考えながら迅は足を進める。

 

そこにいない人物に意識を向けられる暇があるなら少しでも多くの人を視なければ。

未来視サイドエフェクトを用いてボーダーに貢献する。

 

瞬時に思考を切りかえた彼の頭には、今やそれしかなかった。

 

第1次大規模侵攻まで、残り1日

 

 




物語は原作開始から4年前の第1次大規模侵攻からです。
最初はシリアス全開ですが、日常︰シリアス=8︰2で構成する予定です。
ピクシブにも投稿中
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