迅悠一が救われるまで   作:ミルクネコ

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踏み出した未来へ

「はぁ⋯何が悲しくてあなたと食事しなきゃいけないのかしら」

テーブルに座った3人の間には、

炊きたてのご飯でも消せる程度の空気の重さがあった。

 

「それはこちらのセリフですよ、

こんなところであなたの野暮ったい顔面を拝まなくてはならないなんて」

 

唯華は視線を上げ、箸をおいてから返す。

口調は至って静かだが、その実態はまるで鋭いナイフのようだ。

 

「罵倒するときまで敬語を使うの?いい感じに小物感が出ていいわね」

 

加古は余裕の笑みを浮かべながら応じる。

フォークにパスタを巻き付けるその仕草すら、挑発的だった。

 

「天下の東隊にしては口が悪い。少しはお上品に出来ないんですか?」

 

唯華はにっこりと笑って見せたが、目は笑っていなかった。

箸の先でご飯粒を丁寧に集め、見せつけるかのようにおしとやかに食べる。

 

「ごめんなさいね。視界にゴミが入ると返事を返すのも嫌になるの」

 

「頭痛が痛いみたいなことを言わないでくださいよ。

こんなのが我が校の先輩だなんて恥ずかしいです」

 

「うるせーなあ、2人とも揃ってバカみてぇなケンカすんなって」

 

そしてこのメンバーで最も治安が悪い男⋯影浦が口を開いた。

 

手にしていたお茶碗をテーブルにドンと置き、面倒そうに肩をすくめる。

 

「ババアの言葉選びはいちいちキショいし、

ユイカはイキりすぎで見てらんねーんだわ」

 

「後者は納得だけど、前者は意味分かんないわね」

 

「お?やっと認めたのかぁ?」

 

ニヒルな笑みを浮かべる影浦に、加古は指を指す。

 

「いくらなんでも読解力なさすぎでしょ。

意味わかんないのはあなたのことよ。あ、唯華ちゃんもね。」

 

呼応するように、指摘された両者の眉が動いた。

 

「あなた最近調子乗ってない?

10000ポイント行ったからって、私に勝てるとでも思ってるの?」

 

「ひがんでいるんですか?劣等感抱いてるんですね。加古さんより強くてゴメンナサイ」

 

「は?」

 

優雅な微笑みがわずかに歪む。

 

「ちょっとイラッとする言い方するようになったわね。玉狛仕込みかしら?」

 

「いえ、勝手に磨かれたんです。周囲の愚劣な会話に触れすぎたせいで」

 

笑い出す影浦はまたもや2人に火種をばらまく。

 

「おいババア、ご自慢の厚化粧が崩れてんぜ?

そしてユイカ。お前、言葉の重みが軽すぎて中身ねぇんだわ」

 

「見ようともしないくせによく言えますね。

ろくに任務もこなしてない隊員にだけは言われたくないです」

 

「は?俺の任務はお前みたいなチンケなメスガキに圧をかけて泣かせることだわ」

 

「……カゲセンって本当に気持ち悪いですね。

もう少しマシな存在意義を探してみては?」

 

「おうおう、言ってくれるじゃねぇか。言葉じゃねぇ、戦場で証明してやるぜ?」

 

加古が、トレイのフォークをそっと置いた。

音は立てないように――だがその手の甲には力が入り、白く浮き出ていた。

 

「どうやら、自分の立場がわかっていないようね」

 

彼女に呼応するように、唯華は口元に笑みを浮かべる。

 

「2人とも惨めですね。その虚勢、痛々しいですよ」

 

椅子の脚が、床を擦る音。その場にいる誰もが目を向け、確実に“その時”を感じ取っている。

 

「俺をババアと一緒にすんな。同族嫌悪なら勝手にしてろ」

 

「じゃあ、ランク戦(ド突き合い)しましょうよ。

本当に惨めなのはどっちか、見極めさせてください。」

 

加古が、やれやれと肩をすくめながらも立ち上がる。

 

「惨めなのはあなたの方でしょ?……まったく、子供のお守りは大変だわ」

 

唯華の表情は微動だにしなかった。ただ淡々と立ち上がり、制服の袖を直しただけ。

 

――戦闘ではなく、舌戦の果てに訪れた静かな嵐の始まりである。

 

3人はトレーを片付けてテーブルを拭き、

静かにシミュレーター室へと歩いていった。

 

彼らの背中には、言葉以上の火花が激しく散っていた。

 

 

無事に設定を終え、3人は仮想空間に転送される。

 

生成されたステージは、見捨てられた市街地。

 

瓦礫により足場が悪く、建物の残骸により死角も多い。

まさに三者三様の能力がぶつかるにはうってつけの舞台だ。

 

開始のカウントがゼロになり、ブザーが開戦を告げる。

 

「ったく、ババアもガキもどこ行った……」

 

舌打ちを漏らしながら影浦はスコーピオンを体に引っ込め、壁伝いに疾走する。

 

彼の感覚は鋭敏だった。

相手の感情を感じ取れるというサイドエフェクトが、わずかな敵意を鋭く捉えていく。

 

(右⋯!)

 

反射的に身を翻すと、誘導弾(ハウンド)が彼のいた場所をなぞった。

 

ビルの影から姿を現したのは加古望。

大量に分割されたトリオンキューブを浮かばせ、

すでに追尾弾(ハウンド)の第2波を準備している。

 

「やっぱり正面からじゃ当たらないのね」

 

「黙ってろババア。お前の弾うっとうしいんだよ」

 

暴言に対して、加古は冷笑を返す。彼女の戦法は常に複層的で、

追尾弾(ハウンド)の挙動すら戦術の布石に過ぎない。

 

「ならもうひとつ、サービスしてあげるわ」

 

手のひらで分割したキューブが、四方向に展開した瞬間、

全方位からハウンドが撃ち出された。影浦は一度下がるが、そこで違和感を覚える。

 

「っ、下かよ!」

 

シールドを広げて跳躍した瞬間、足元の爆風が視界を白く染めた。

 

爆発したのは炸裂弾(メテオラ)。起爆のタイミングと場所は完璧だった。

 

「やっぱりユイカか……!」

 

煙の中から音もなく現れた唯華が、迷いなく影浦へと突っ込んだ。

弧月を両手で構え、切っ先を鋭く下段から突き上げる。

 

彼はスコーピオンで受けようとしたが――わずかに反応が遅れた。

 

「チッ……!」

 

刹那、唯華のブレードが左腕を切断する。

 

彼の腕はスコーピオンと共に地に落ちた。

 

「一本、もらいました」

 

唯華の表情は変わらず、感情の読めない目が淡々と敵を見据える。

 

「甘ぇ」

 

左腕から刃が伸び、振り終わりの彼女を強襲した。

 

しかし指を数本飛ばしただけで、致命傷には程遠い。

怯んだ唯華を放置して、影浦は即座に身を隠す。

 

「忘れてもらっちゃ困るわね」

 

しかし上空から飛来した追尾弾(ハウンド)が、影浦の逃げ道を塞いだ。

誘導弾は正確無比に軌道を変え、背後からも包囲する。

 

「チッ……」

 

舌打ちと同時に全防御(フルガード)を展開し、彼は追尾弾(ハウンド)を防ぎ切った。

 

そして着地と同時、加古はスコーピオンを突き出す。

 

影浦は必死に身をひねる。

結果的に直撃こそ避けたものの、背中を薄く斬られてしまった。

 

「あまり動かないでよ。的がズレたら当てにくいじゃない」

 

「よくしゃべるなァ!」

 

混乱の最中、距離を取った唯華は冷静に拳銃(ハンドガン)の狙いを定める。

(まともに撃っても、カゲセンには当たらないからなぁ⋯)

 

状況は拮抗していた。影浦の回避能力と瞬発力は圧倒的で、捕えるのは困難だ。

加古の弾による制圧力は健在であり、接近戦だって割り込みされる可能性がある。

 

戦闘開始から2分が経過し、

すでに全員が8000ポイント超えの猛者たちであることを感じていた。

 

彼女は少し考えた後サブトリガーを炸裂弾(メテオラ)に切り替える。

 

「視界を無くす⋯」

 

射出音に遅れて爆音が響き、白煙が戦場を覆った。

刹那、3人の姿がかき消える。

 

「おいおい!ビビってんのかぁ!?」

 

煙の中、影浦の声だけが響く。

その声の位置を頼りに、加古の追尾弾(ハウンド)が再び襲いかかる。

エメラルドに光る弾道が、煙の切れ目を鋭く走った。

 

彼女はすでにその場を離れ、影浦のシールドを削りにかかっている。

 

(唯華ちゃんも射程で仕留めにかかるでしょうし⋯とりあえずこのままね)

 

離れた瓦礫の影に身を潜めつつ、炸裂弾(メテオラ)をばらまく唯華。

 

そこに突然、スコーピオンの斬撃が迫った。

いつの間にか煙幕をすり抜けていたのだろう。

 

唯華の回避はギリギリ。影浦の刃が腹をかすめ、トリオン体に亀裂を走らせた。

しかし次の瞬間――

 

「予想通りね」

 

背後から加古の声がしたと同時に、ハウンドの一斉射が彼らを襲う。

 

影浦は咄嗟に背中にシールドを張り、最低限の防御のみで唯華に突っ込んだ。

そのまま両手のスコーピオンが閃き、

唯華に振り下ろされる。しかしその刃は空を斬った。

 

「は?」

 

目の前にいたはずの唯華は、既に右に回り込んでいる。

 

まるで視界の死角に滑り込むようなその動きは、まさに消えるようだった。

 

彼女の逆袈裟が走り、今度は影浦の右手が寸断される。

 

そして背中のシールドも割れてしまい、

追尾弾(ハウンド)が彼の胸を貫いた。

 

「くそっ……」

 

『影浦、緊急脱出(ベイルアウト)

 

息つく暇もなく、唯華の身体が動いた。

 

(……くる!)

 

加古が先ほど足元に仕込んでいた置き玉、

追尾弾(ハウンド)のトリオンキューブを過去視で確認する。

 

それを発動するなら⋯

うっすらと脳裏をかすめた瞬間――唯華は反射的にシールドを張る。

 

薄く半透明の楯が、彼女の右側面を覆う。

 

直後、追尾弾(ハウンド)が一斉に展開。

時間差で起動されたそれらが、迷いなく唯華のシールドへと集中砲火を浴びせる。

 

射程を犠牲に威力が上がっているのだろう、

彼女のシールドが、ひび割れ始める。

硬直したその場で唯華は身を低く構え、新たな追尾弾(ハウンド)の飛来に備えた。

 

しかし――

 

「読んでたわよ、唯華ちゃん」

 

新たなトリオンキューブを構えた加古が、真正面から距離を詰める。

 

(なにかおかしい⋯?)

それに合わせて唯華はシールドを展開したが、

次の瞬間、スコーピオンが一直線に突き出された。

 

刃はシールドの中心に向かって突き立てられ⋯

 

「っ――!?」

 

硬質な音とともに、シールドが砕ける。

 

キューブ(これ)はフェイクよ」

 

スコーピオンが、唯華の胸部に達した瞬間、彼女の身体が光に包まれる。

 

『「迅、緊急脱出(ベイルアウト)」』

 

アナウンスに合わせて加古は呟く。

 

崩れ落ちるように地に沈む光の粒。唯華の気配が戦場から完全に消えた。

 

「過去視ってすごい能力だけど……"思考の一歩先"までは読めないのよ」

 

彼女は細く息を吐く。

スコーピオンを腕に戻し、わずかに肩を竦めた。

 

静寂の仮想空間から退出した加古は、

ロビーで影浦と言い合いをしている後輩の姿を視界の隅で捉えた。

 

 

戦闘の余韻を身体に残したまま、唯華が長く息を吐いた。

胸元を押さえて軽く咳をしてから、周囲を見渡す。

 

「……終わりましたね」

 

「随分ラクだったわ」

と加古が肩をすくめる。

 

「潰し合っててくれてありがとね、2人とも♡」

 

甘ったるい彼女の声は、彼らの神経を逆撫でさせる。

 

影浦はその場に腰を下ろし、無造作に頭を掻いた。

 

「ムカつくが……射程が足んねぇの、やっぱキツいわ」

 

「サブウェポンとして弾でも入れたらどうですか?」

と唯華が棒読みで言い返す。

「あれでよくこれまでやってこれましたよね。」

 

「お前は剣に銃に弾とか欲張りすぎんだよ。

もっとガツガツ来いよユイカ、影からチクチクしてねぇでよ」

 

唯華は鼻で笑った。

「⋯三つ巴でガツガツ行ってたら、大きな隙を晒すだけです」

 

加古は2人の間に割って入るようにして話し出した。

 

「それはそうね。私はまだ正面からの斬り合いは勝てないし……

だからこそ、影浦くんを唯華ちゃんにぶつけて、

巻き込んでまとめて仕留めるのが一番効率よかったわけ」

 

「使い捨てみてぇに言いやがって……」

影浦が睨みをきかせるが、彼女は涼しい顔で流す。

 

「勝負なんだから当然でしょ?そもそもあの煙幕、唯華ちゃんが自分で張ったのよ? 

それを利用しない手はないじゃない」

 

「……」

唯華は視線を伏せ、頬を引きつらせる。

「堅実に行き過ぎたかもしれません。もうちょっとリスク取ってもよかった……」

 

「ってかお前、途中で逃げたろ」と影浦が口を尖らせる。

 

「なんで加古の方に行かなかったんだよ」

 

「それはこちらのセリフですよ。

カゲセンが変な方向に突っ込んでくるから、こっちは防御に回るしかなかったんです」

 

「言い訳かよ。ほんと、ちっちぇえな」

 

「それはあなたの器の話でしょう。」

 

「……ハァ!?」

 

口論の雰囲気になりかけたところで、加古がパンッと軽く手を叩いた。

 

「はいはい、静かに。本当に手がかかる後輩ね。

チーム戦ならわかりますけど……言うほど戦略で勝敗決まりますか?

なんて甘いこと言ってちゃ駄目よ?」

 

唯華は眉をひそめつつ、視線を泳がせる。

「それ1週間前の話ですよね。もう自己解決しましたよ」

 

「相手の動かし方とか、個人戦でも結構使うの。

影浦くんをあそこに追い込んだのだって、あなたの射線と距離を読んで追い立てた結果。

無計画に動いてるように見えても、()()ちゃんと見てるの」

 

「やっぱり隊に入るといいわね。戦術が鍛えられるし、全体を見て動ける。

あなたたちみたいな猪突猛進タイプには特にね」

と、加古は影浦に笑みを向けた。

 

影浦は鼻を鳴らす。

「……あのスカした追尾弾(ゴミカス)ばっか使ってるくせに、偉そうに言いやがって」

 

「お褒めにあずかって光栄ね。

感情まかせに突っ込んでリタイアするだけの人には、どうせ理解できないでしょうけど」

 

2人の応酬に、唯華は両手を広げてわざとらしく溜息をついた。

 

煽り文句が頭に浮かんだが、彼女は目を細め思案する。

 

戦闘中のシーンが脳裏にフラッシュバックした。

 

(やっぱり⋯まだ強さが足りない⋯)

 

自分が戦場で迷ったこと、判断を一手遅らせたこと、それが決定打となったこの試合。

 

どれだけ情報を持っていても、“勝つための位置”に動けなければ意味がない――

そのことを今日、改めて痛感した。

 

「次は、勝ちますから」

 

その言葉に、加古がちらりと視線を送った。

 

「期待してるわよ。唯華ちゃんは、(胸以外)すぐ成長する子だから」

 

 

三つ巴の戦闘が終わり、ロビーでの言い合いが一段落ついた頃、重厚な足音が響いた。

振り返ると、太刀川慶が堂々とした歩幅でこちらに向かってくる。

その姿に、唯華は反射的に背筋を伸ばした。

 

「お疲れ〜今日もバチバチやってんなぁ」

 

加古と影浦も自然と会話を止め、彼の方に目を向ける。

 

「お疲れ様です、太刀川先輩」

 

唯華が軽く会釈すると、太刀川は真っ直ぐに彼女を見つめた。

その眼差しに迷いはなく、

まるで既に決めていたことを実行するかのような確信に満ちている。

 

「俺さ、部隊を作ろうと考えてるんだ」

 

太刀川は前置きもなく本題に入った。言葉に無駄がなく、彼らしい直接的なアプローチだった。

 

「チームを組まないか?オペレーターは国近、

今んとこメンバーは俺、烏丸、出水。お前が入れば4人になる」

 

唯華の目が見開かれた。

太刀川隊への勧誘など、想像もしていなかった展開だった。心臓が一瞬早鐘を打つ。

 

出水公平——たしか天才と呼ばれる射手(シューター)の名だ。

圧倒的センスとトリオン量で、瞬く間にB級に昇格した凄腕である。

 

次に烏丸京介——ボーダーNo.1イケメンの新人攻撃手(アタッカー)

 

最近万能手(オールラウンダー)を目指してるという噂は唯華の耳にも入っている。

 

そして太刀川慶——言わずと知れたNo.1アタッカー。

 

 

「太刀川先輩⋯烏丸くん⋯出水くん⋯」

 

唯華は指を折りながら呟き、眉をひそめた。

 

「⋯攻撃手(アタッカー)2人に射手(シューター)1人の編成ですよね。

だったら、私よりもスナイパーを入れた方がバランスが良いと思います」

 

太刀川の表情に一瞬の困惑が浮かんだ。

彼は明らかに、即座に承諾されることを期待していたのだろう。

 

「私では役に立てないと思います」

 

唯華はそう言って、一歩後ろに下がった。

辞退の意思を示すように、軽く頭を下げる。

 

「それに太刀川先輩、今年受験でしょ?

チームランク戦してて大丈夫なんですか?」

 

太刀川は少し考えてから、やや曖昧な表情で答えた。

 

「ボーダー推薦?があるらしい?から大学はいける」

 

その微妙な語尾の上がり方に、唯華は小さく笑いそうになった。

普段の太刀川からは想像できない、少し頼りない響きだった。

 

「私の心配はしてくれないの?」

 

突然、加古が口を挟んだ。彼女は腕を組み、唯華を見つめている。

 

「加古さんはバカだけど頭いいでしょ」

 

唯華は当然といった様子で答えた。

加古の学力については、普段の会話からも十分に伺えた。

 

「それより、やっぱり私は——」

 

「ちょっと待てよ」

 

影浦が低い声で割り込んだ。彼は唯華の肩に手を置き、軽く引き寄せる。

 

「お前、何遠慮してんだ?」

 

「は?チーム構成が悪いよねって——」

 

「経験も積まない真のバカになるつもりか?」

 

影浦の言葉に、唯華は困惑した表情を浮かべた。

彼がこんなに真剣に背中を押してくれるとは思わなかった。

 

「私の東隊だって、万能手(オールラウンダー)1人、射手(シューター)2人、

狙撃手(スナイパー)1人よ?三輪くんしか前衛いないもの」

 

加古が具体例を挙げながら説明した。

彼女の声には、唯華を説得しようという意図が明確に込められている。

 

「それに、あなたの能力があれば、チームの幅が広がるんじゃない?」

 

唯華は加古の言葉に、心の中でざわめきを感じた。

確かに、東隊の構成を考えれば、太刀川隊の布陣も決して不自然ではない。

 

「過去視は⋯「お前に任せる。出水たちにも言ってないぜ」

 

太刀川は黙って彼女の反応を待っていた。

その静かな佇まいに、唯華は彼の本気度を感じ取る。

 

「本当に…私でいいんですか?」

 

唯華の声は小さく、不安を隠し切れていない。

しかし頬が微かに赤らんでおり、心音は確かに高鳴っていた。

 

「お前は俺に合わせられる。連携は忍田さんのオスミツキだろ?

判断力も、技術もそして何より——」

 

太刀川は一瞬言葉を止め、真剣な眼差しで唯華を見つめた。

 

「諦めない姿勢が気に入った」

 

その言葉に、唯華の心臓が大きく跳ねた。

太刀川先輩から、そんな評価を受けるなんて。

 

「私…」

 

唯華は下を向き、両手を握りしめた。

迷いと期待が入り混じって、胸の奥がざわついている。

 

「⋯で、どうする?」

 

影浦が軽く肩を叩く。

 

「やってみなさいよ」

 

加古も微笑みながら言った。

普段の皮肉っぽい口調とは違う、温かみのある声だった。

 

唯華は顔を上げ、太刀川を見つめた。彼の表情には、変わらぬ確信と期待が宿っている。

 

「…太刀川隊の攻撃手(アタッカー)として⋯よろしくお願いします」

 

小さく、しかしはっきりとした声で、唯華は答えた。

頬の赤みが深くなり、ドギマギとした様子で太刀川に向かって深くお辞儀をする。

 

太刀川の口元に、満足そうな笑みが浮かんだ。

 

「こちらこそ、よろしく頼むぜ」

 

その瞬間、唯華の新しい章が始まった。

太刀川隊の一員として、そして一人の戦士として——。

叔母さんたちを再登場させるか(唯華の給料目当て)

  • 登場させて恥をかかせよう
  • 登場させてボロクソ言ってやろう
  • 不快なので登場させないで
  • 迅悠一が裏で殺す
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