迅悠一が救われるまで   作:ミルクネコ

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和やかな未来へ

翌日の放課後、唯華は本部の会議室に足を踏み入れた。

そこには既に太刀川隊のメンバーが集まっている。

太刀川慶、出水公平、烏丸京介、そして——

 

「女の子だ〜!仲良くしようね〜!」

 

明るい声で迎えてくれたのは、オペレーターの国近柚宇だった。

彼女のおっとりとした笑顔に、唯華の緊張が少し和らぐ。

 

「それじゃあ、改めて自己紹介しようぜ」

 

太刀川が手を叩いて注意を引いた。

 

「はじめまして、中三攻撃手(アタッカー)の迅唯華です。」

 

唯華が丁寧にお辞儀をすると、出水の眉がぴくりと動いた。

 

「あれ?迅って…まさか」

 

「はい。迅悠一の妹です」

 

唯華の答えに、会議室内の空気が一瞬凍りついた。

 

「迅さんの妹!?」

 

「本当ですか?」

 

烏丸も驚きを隠せない様子で身を乗り出す。

無表情は崩れ、明らかにいつもの冷静さを失っている。

 

「はい、実の妹です」

 

唯華が頷くと、太刀川が豪快に笑った。

 

「あいつ兄妹の話しないもんな〜、驚くのも無理はないぜ」

 

唯華はうれしそうな表情を浮かべ、緩んだ頬を引き締める。

 

「でも確かに、よく見ると雰囲気が似てるかも」

 

出水はそう呟いて、彼女の顔をじっと見つめた。

 

「そうですかね⋯?」

真正面から見つめられると、誰だって目を逸らしたくなるのだ。

唯華も例に漏れず、少し困ったような表情を見せた。

 

「すみません、出水先輩は女たらしなんですよ」

 

烏丸が真面目そうな顔をしながらフォローを入れる。

 

「ちげぇよ!変なこと言うなバカ!」

 

後輩の頭を撫でながら、出水は顔を赤らめた。

 

そんな彼らを見て、国近はのんびりと笑っている。

 

「それでだ、こいつにはすげぇサイドエフェクトがある」

 

太刀川が話を本題に戻した。彼の表情は真剣そのものだった。

 

「なんすかそれ」

 

通販番組を思わせるタイミングで、烏丸の質問が入る。

 

「過去視⋯つまり私には他人の過去が視えるんです」

 

全員の視線が自分に向いている、緊張をぐっと堪えて唯華は話し始めた。

 

「〜それで過去視で他の人の記憶を覗くことができるのですが、

それをリアルタイムで行うことで、現在の状況を把握できます。」

 

出水は腕を組みながら首をかしげている。

 

想像より深刻な雰囲気じゃないのは、唯華にとって救いだった。

 

「私はオペレーターの視界を覗けるので、支援が無くとも動けます。」

 

「それって4人部隊の欠点、(オペレーター)の負担が減るってことかな〜?」

 

国近の発言を受けて、唯華がゆっくりと頷く。

 

「それはすごい⋯な?」

 

太刀川は理解しているのだろうか。

確かめるような呟きは誰にも拾われること無く消えていく。

 

「でも、それって他人の記憶を覗くってことだろ?それって大丈夫なの?」

 

「えっと、表面的な記憶だけ、

要するにプライベートな部分までは見ないよ。安心してね」

 

心配そうな烏丸の疑問に、唯華は微笑みながら答えた。

 

「いや⋯そういうのじゃなくて⋯

ほら、迅さんもだけど、サイドエフェクト持ってる人って辛そうだからさ」

 

彼の心配は大当たりである。

常時発動してしまう過去視⋯

実際にはかなりの精神的負担があるのだが、唯華はそれを口にするつもりはなかった。

チームの足を引っ張りたくない一心で、メリットだけを強調する。

 

「まぁ少し疲れたりはするかな」

 

「ほうほう、それは心強いね〜」

 

国近が嬉しそうに手を叩くが、唯華は全員に受け入れられてはいないようだ。

 

「⋯別に今のままで1位とれるでしょ。連携崩れるじゃないですか」

 

少し不機嫌そうに呟いたのは出水である。

 

「出水」

 

太刀川が軽く諌めるような声をかけた。

 

「まずは実際に動いてみましょうよ。話はそれからでしょ」

 

烏丸の進言により、一行は仮想空間に移動する。

 

 

唯華は胸の奥で小さな緊張を感じていた。

太刀川隊のメンバーとして初めての実戦形式の訓練。

自分がどこまで役に立てるのか、不安と期待が入り混じっている。

 

仮想空間に入ると、そこは見慣れた市街地が再現されていた。

ビルが立ち並び、路地が複雑に入り組んでいる。

リアルな質感の建物や道路が、まるで本物の街にいるような錯覚を与えた。

 

「んじゃ、臨機応変に行こうぜ」

 

みんなを鼓舞するように、拳を突き上げる太刀川。

 

彼の表情は普段の豪快さを残しつつも、どこか真剣な色を帯びている。

きっと隊長としての責任感が、そうさせているのだろう。

 

「訓練開始」

 

無機質な合図と同時に、唯華は過去に意識を向けた。

片目を閉じて意識を集中させ、国近の視界をリアルタイムで覗き見る。

 

オペレーターの目を通して見える情報が、一気に自分の中に流れ込んできた。

マップに映るトリオン反応や地形の詳細。

太刀川たちの視覚情報も含めた——あらゆるデータが脳内で整理されていく。

 

国近は既にコンソールの前に座り、指先を軽やかにキーボードの上で踊らせていた。

 

彼女の並列処理能力はボーダーでもトップクラスで、

複数の情報を同時に処理しながら、出水たち4人の動きを追跡している。

その集中した横顔は、普段ののんびりとした印象とは大きく異なっていた。

 

「戦闘開始⋯だな」

 

太刀川の号令が発せられると同時に、仮想空間の各所からトリオン兵が出現した。

白い装甲に身を包んだバムスターたちが、不気味な金属音を響かせながら迫ってくる。

 

真っ先に駆け出したのは太刀川慶。

その動きは迷いがなく、直線的で力強い。

 

最短距離で敵に向かうのは浅慮ではあるが、

彼の実力ならバムスターなど障害にすらならないのだ。

 

果敢に弧月を振るう隊長。

その一方で烏丸は、突撃銃(アサルトライフル)で中距離から攻撃。

より慎重に動いていた。周囲の状況を確認しながら、太刀川のサポートに回る位置を取る。

 

出水はビルの屋上に陣取り、射程距離を確保していた。

しかし、敵の動きを観察する唯華の目には、彼が置かれた状況の不利さが見えてくる。

 

シューターとしての出水の能力は確かに高いが、

近距離戦闘に持ち込まれると途端に脆弱になってしまうだろう。

 

「出水先輩の援護に回ります」

 

唯華が国近に告げると、彼女は頷いた。

 

「分かった〜。太刀川さんたちは私が見てるね〜」

 

国近の声は相変わらずのんびりとしているが、その手元の動きは非常に正確だった。

複数の画面を同時に監視しながら、それぞれのメンバーに適切な情報を送り続けている。

 

「唯華ちゃん唯華ちゃん、

モニターに誘導経路出しといたけど、視えてるかな〜?」

 

「バッチリです。助かります!」

隊員の視界に直接表示させるのが普通だが、唯華にはそれが必要ない。

オペレーター的には手間のかかる作業であるため、国近は安心してタグ付けをする。

 

足音を殺しながら建物を使って駆け上がり、手っ取り早く唯華は屋上に到達。

そこで出水は両攻撃(フルアタック)で正面の敵を一掃していた。

 

「出水くん、前だけ見てて」

 

「え?」

 

出水が振り向いた瞬間、ビルの端から白い影が跳躍してきた。

モールモッドが屋上に着地し、鋭いブレードを振りかざして襲いかかってくる。

 

唯華は即座に弧月を引き抜き、出水の前に立ちはだかった。

硬質化されたトリオン同士がぶつかり合う鋭い音が響き、軽い火花が散る。

 

「うお!危ねぇな!」

 

出水が体勢を立て直している間に、

唯華は拳銃(ハンドガン)を生成。

 

至近距離から速射された通常弾(アステロイド)がモノアイを撃ち抜く。

トリオンが漏れ出る音を最後に、モールモッドは活動を停止した。

 

「大丈夫?」

 

唯華が振り返ると、出水は少し息を切らしていた。

 

「⋯あぁ」

 

出水が見せたのは、先ほどまでの調子に乗った様子はなかった。

バツが悪そうな⋯獲物を取られて不機嫌なのだろうか。

 

下では太刀川と烏丸が連携して敵を制圧していた。

太刀川の豪快な斬撃が次々と敵を両断し、

烏丸が彼の死角を補って的確に攻撃を加える。

 

「次くるよ〜」

 

建物の陰から新たなトリオン兵の群れが現れようとしている。

 

「ここじゃ砲撃の的だな⋯俺たちも降りよう」

 

出水が提案し、2人は建物から飛び降りた。着地と同時に、新たな戦闘が始まる。

 

今度は敵の数がさらに増えていた。

バムスターやモールモッドに加えて、

装甲車のようなトリオン兵も混じっている。

 

複合的な攻撃パターンに対応するため、

チーム全体の連携がより重要になりそうだ。

 

唯華は出水の近くをキープしながら、

彼が射撃に集中できるよう周囲を警戒していた。

 

敵が近づいてくると、すかさず前に出て迎撃する。

一方で、太刀川と烏丸の動きも注意深く観察し、必要に応じてサポートに回る準備をしていた。

 

戦闘が激しさを増す中、唯華の動きは次第に洗練されていった。

過去視で読み取った情報を元に、味方の動きを把握する。

その情報処理能力は、まさに迅悠一の妹と呼ぶに相応しいものだった。

 

「すげぇな」

 

太刀川が戦闘中に呟いた。

唯華の動きを見ていると、まるで戦場全体を俯瞰しているかのような的確さがある。

 

「位置取りが上手い⋯本当に凄いですね」

 

烏丸も感心していた。

唯華の援護があることで、出水が本来の実力を発揮できている。

 

ものの10分で、全てのトリオン兵が機能停止にされた。

 

「訓練終了〜お疲れ様でした〜!」

 

国近の宣言と共に、敵の残骸が消失した。

 

 

 

仮想空間から現実に戻ると、5人はそれぞれ椅子に座る。

 

「お疲れ様〜」

 

国近は冷蔵庫から飲み物を選び出し、戦闘員たちに差し出してくれた。

 

「ありがとうございます」

「サンキュー」

「「あざっす」」

 

「いやーよかったよかった」

 

太刀川が満足そうに言った。

 

「特に出水の支援が完璧だった。あんなに安心して斬れたのは初めてだ」

 

彼は部下達を見つめながらそう述べる。

 

「俺はその⋯唯華さんが守ってくれたから⋯」

「唯華って呼び捨てでいいよ。」

 

「うん⋯別に今のままで1位とれるでしょ、なんて言ってごめん」

 

「挽回できたようでよかった⋯

これで『出てけ』って言われたらどうしようかと思ったよ」

 

唯華は懸念を飛ばすように首を振った。

 

「それはないですね。」

 

烏丸が穏やかに言った。

 

「単純に⋯先輩の技術が高いですから」

 

「ほんと!?うれしいこと言ってくれるねぇ」

 

唯華の表情が少し和らいだ。

 

「迅さんとも()り合ってたんでしょ?戦績どんくらい?」

 

「10戦勝負だとだいたい7対3で、勝ち越したことは無かったかな」

 

「すげぇ⋯太刀川先輩とは?」

 

「基本7対3、最高記録は36連勝だよ」

 

圧巻の記録に驚く出水。

しかし太刀川が不貞腐れた表情で口を開く。

「あれは⋯俺が2刀流初めてだったからだろ。昨日は8対2で圧勝したし⋯」

 

 

こうして、太刀川隊に新たなメンバーが加わった。

唯華の持つ過去視と、チームメンバーとの信頼関係が、

これからの戦いに新しい可能性をもたらすことになる。

 

空虚な隊室を出る時、唯華は少し⋯物憂げな表情を浮かべた。

今日の訓練を通して、自分が太刀川隊の一員であることを実感しているのだろう。

 

迅や小南を筆頭に、ここまで鍛えてくれた者たちへの感謝の気持ちも湧いてきた。

 

「これからよろしくお願いします」

 

唯華が深々と頭を下げると、4人は温かい笑顔で答えた。

 

太刀川隊の新しい挑戦が、今始まったばかりだった。

夕日が差し込む訓練室で、5人の絆が確かに結ばれた瞬間だった。

 

 

 

玉狛支部の訓練室では、

昼過ぎの静けさを破るように、激しい金属音が響き渡っていた。

 

黒のロングコートを翻し、唯華は低い姿勢から迅悠一の懐へと踏み込む。

 

足音ひとつ立てず距離を詰めると、

右手の白い弧月は流れるような軌道を描いて横薙ぎに斬り込んだ。

 

「――視えてるよ」

 

余裕の声と共に、悠一の足元からエメラルドグリーンの風が湧き上がる。

 

仕込まれていた斬撃が爆発的な速度で発動、

唯華は即座にバックステップしつつ、腰のホルスターから拳銃を引き抜いた。

 

「視えてるよ⋯だっけ」

通常弾(アステロイド)が連続して迅を狙い撃つ。

 

悠一は風刃のブレードをひねるように回し、弾丸を薙ぎ払った。

反撃の起点としてブレードの先端からさらに別の斬撃を仕込み、周囲の壁を伝わせる。

 

唯華は片膝をついてから跳ね上がると、炸裂弾(メテオラ)を地面に叩きつけた。

シールドを張ると同時にそれは爆ぜ、濃い煙が周囲を包む。

 

視界がゼロになった瞬間、悠一の表情が僅かに緩んだ。

 

「それは悪手でしょ」

 

だが次の瞬間、煙の中から唯華の気配が消えた。

 

とっさに彼は身を翻し、風刃を頭上に構える。

背後の壁に緑線が走り、隠してあった斬撃が解き放たれた。

 

しかし唯華は壁から半身を滑らせるように現れ、その斬撃の内側へと飛び込む。

 

「この前とおんなじだね」

 

弧月の切っ先が迅の喉元を狙う。

彼はすぐに顎を引き、刃を唯華の下半身を断つべく振るった。

 

唯華は体勢を崩しつつも、地面を蹴り回転しながら距離を取る。

 

「あっぶな⋯」

 

「未来視に頼りすぎ⋯って私が言えることじゃないか」

 

2人は瞬時に距離を詰め直し、再び鍔迫り合いへ。

白い弧月と緑の風刃が火花を散らし、コートの裾とブレードのラインが交差する。

 

唯華は機動力で揺さぶりをかけつつ、

迅の死角から踏み込み、逆袈裟を狙う。

 

その一撃は左足を引かれたことによって流され、

迅は風刃のブレードを瓦礫延ばしてカウンターを狙うが、

唯華はそのタイミングを完全に読んでいた。

 

「あ、炸裂弾(メテオラ)が⋯」

わざとらしくトリオンキューブが両者の間に落ちる。

 

「シールド無いのは辛いなぁ」

 

迅は勢いよく下がるが、

唯華は全防御(フルガード)して距離を詰めていた。

 

「「あ」」

気づいた時にはもう遅い。白い弧月は迅の胸を貫いていた⋯

 

と同時に薄緑の斬撃が唯華の胴を寸断する。

 

ポイントは4対4からの相打ち。

その結果に満足したのか、迅は口元がわずかに笑みを浮かべる。

 

「唯華がタイツ履いてなかったら、俺、負けてたな」

 

「……変なこと言わないでよ。

お兄はノーマルトリガーの方が強いんじゃない?」

 

「それ言えるの、たぶん唯華だけだよ。」

 

どちらも決して譲らず、互いの長所と力を存分に発揮。

その結果は堂々の引き分けだった。

叔母さんたちを再登場させるか(唯華の給料目当て)

  • 登場させて恥をかかせよう
  • 登場させてボロクソ言ってやろう
  • 不快なので登場させないで
  • 迅悠一が裏で殺す
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