迅悠一が救われるまで   作:ミルクネコ

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喰らいついた未来へ

太刀川隊作戦室のモニターには、市街地Aの全景と各隊のデータが並んでいた。

 

チームランク戦梅雨シーズン、B級下位グループROUND1。

転送前のわずかな待機時間。静寂を破ったのは国近だった。

 

「最終確認するよ〜。敵は水木隊と赤川隊、両方ともB級下位だけど、動き出しは早い方。

水木隊は初動からガンガン前に出る攻撃手(アタッカー)3人で、

赤川隊は射手(シューター)2人に攻撃手(アタッカー)1人の編成だね〜」

 

椅子にもたれかかっていた出水が口を開く。

「射程でゴリ押せそうじゃん。適当に暴れていい?」

 

すると小さくため息が聞こえた。

最年少にして一番落ち着いている烏丸は、正面を見据えて静かに返す。

 

「……いえ、今回は自分が作戦組ませてもらってるんで。

全員、開幕からバッグワーム装着。位置取り優先で動いてもらいます。」

 

すぐさま出水は、面倒くさそうに苦言を呈した。

「いや⋯さすがに慎重すぎでしょ」

 

「それでもです」と烏丸は譲らず、冷静に説明を続けた。

 

「市街地Aは広いですし、敵はバッグワームに慣れていません。

レーダー無効状態でこちらが位置を取れば確実に初撃は優位に立てます。

敵の行動予測だって、情報処理に秀でた太刀川隊(ウチ)なら簡単でしょ」

 

モニターを眺めていた太刀川がひとつ欠伸をする。

「ま、そういうことなら従うけどよ。

最終的には俺らの実力でどうとでもなるんじゃねぇの?」

 

「太刀川先輩……それはそうですが、一応隊としての動きも……」

 

「はいはいはい、真面目だなぁ、烏丸は」と出水がニヤけたまま頬杖をつく。

「まぁいいや、バッグワーム着てるだけなら我慢できる。」

 

「正面戦闘で負けることはないと思うから、

相手のペースに呑まれないように行こう。」

 

水木隊のログを倍速視聴する唯華。

彼女は穏やかな笑顔を浮かべているが、実のところ一番緊張しているのである。

 

「了解、唯華先輩は落ち着いていますね」

そう口にした烏丸には、焦りの色が全然なかった。

 

「えへへ⋯うん、落ち着いてるよ⋯」

返されたのが生返事であることを、彼は気づくのだろうか。

 

相変わらず話が横道に逸れまくっているが、

注意事項やトリガーセットの確認などは済んでいる。

 

「転送位置がランダムだから、ひとまず合流を最優先に。

まずは敵の位置を把握してから動きましょ〜」

 

国近がテンポよくモニターを切り替え、転送予定エリアをズームする。

 

4者4様の「了解」が作戦室に響いた。

 

「……じゃあ行こうぜ、隊員ショクン」

ここにきて太刀川は、ようやく隊長らしい姿を見せた。

 

国近がキーボードを叩き、モニターが黒く切り替わる。

「こちら太刀川隊、戦闘開始準備完了。転送お願いしま~す!」

 

緊張と高揚が、部屋の空気を一瞬震わせた。

 

 

 

転送の光が収まると、太刀川隊のメンバーはそれぞれ異なる地点に配置されていた。

 

「えっと⋯ザ☆普通の設定!時間帯は昼、天候は晴れだよ〜」

 

国近は作戦指揮室で素早く状況を把握する。

彼女の指先がキーボードを軽やかに踊り、瞬時にMAPが送信された。

 

「よーし⋯とりあえず勝つぞ」

 

バッグワームを起動しつつ、太刀川が低い声で呟いた。

この隊長らしからぬぶっきらぼうな口調が、

かえって場の緊張感を和らげる効果をもたらしている⋯のかもしれない。

彼の両腰に下がる弧月が、戦闘への意気込みを物語っていた。

 

「ほい、タグ付け大体終わったよ〜。見つけたら誰か教えてね」

 

国近がのんびりとした口調で応じたが、

その手はすでに正確無比な動きで画面を操作している。

 

彼女の処理能力は並列思考のトップクラスに位置しており、

複数の情報を同時に把握する技術は他の追随を許さない。

 

出水は軽やかに肩を回してから、家屋の屋根から走り出す。

天才と呼ばれるこの射手(シューター)の表情には、余裕と自信が混在していた。

彼のノリの軽さは時として軽率にも見えるが、実際の戦闘能力は折り紙付きである。

 

烏丸はいち早くバッグワームを起動し、真剣な表情で戦場を見回していた。

 

『機動力的に⋯こっちで合流しようとしてるのは水木隊かな〜?

南進してるやつ、たぶんこれが隊長さんだね。』

 

『そのまま行ったら出水くんと合流できないので、太刀川先輩は右に迂回してください』

唯華は指示を出しつつ、北東のビルへと移動する。

 

『俺的にはそれでいいんだけど⋯』

『相手も2人バッグワーム着てるし、迂闊な行動は避けようね〜』

 

隊長のポテンシャルなら普通に圧勝するのだろうが⋯

作戦を立案した烏丸もそう感じていたが、リスクは減らすのが定石だ。

 

その後も国近は作戦室のモニターを眺めながら、

のんびりとした調子で状況を報告していた。

指先がキーボードを軽やかに叩く音が、かすかに聞こえてくる。

 

太刀川は弧月の柄に手をかけながら、通信を一瞬切って舌打ちをした。

B級下位とはいえ、相手も馬鹿ではない。

太刀川隊(こっち)の火力を警戒して、最初から守勢に回っているのが見て取れる。

 

別に相手が面倒なのではない。

この戦闘狂(バトルジャンキー)は単純に、真っ向から斬り伏せたいだけなのだ。

 

 

一方、北側の高架下に陣取った烏丸は、アサルトライフルを構えながら戦況を分析していた。

敵の配置、地形の利用法、そして最適な包囲ルート。

頭の中で無数の変数が踊り、最良の解を導き出そうと必死に計算している。

年下として先輩たちに認められたい一心で、完璧な作戦を実行したいのだろう。

 

先輩の1人である出水は、西側のビルの屋上で身を潜めていた。

既にアステロイドの射線を確保しており、いつでも撃ち抜く準備はできている。

 

「ねぇ京介〜まだダメか〜?」

しかしこの状況で待機を続けるのは、天才と呼ばれる彼にとって苦痛以外の何物でもなかった。

 

 

「今撃ったら集中攻撃を受けますよ。そのままバレないようにしていてください」

 

烏丸の声には、普段以上の緊張が滲んでいた。

情報優位を確保し、適切なタイミングで包囲網を完成させる。

教科書通りの戦術だが、それゆえに確実性があった。

 

「位置取りはあと1分くらいで完成〜。もうすぐ合流できるね」

 

国近の穏やかな声が続く。彼女の指示により、

太刀川隊の各メンバーは包囲陣形を構築中だった。

モニター上で動く味方の位置を確認しながら、彼女は微調整の指示を出していく。

 

しかし、出水の表情は既に限界を示していた。

射撃ポイントは完璧、敵の位置も把握済み。これ以上待つ理由が見当たらない。

 

「……いやもう、こっち丸見えだし、我慢できねぇわ」

 

軽い調子の言葉だったが、その瞬間に出水の戦闘スイッチが入った。

天才的な射撃センスが、最適な攻撃タイミングを告げている。

 

 

炸裂弾(メテオラ)

 

エメラルドグリーンに輝くキューブが射出され、南東の空に光の軌跡が描かれた。

 

圧倒的な弾数により、水木隊の隠れている遮蔽壁を正確に狙い撃ちしていく。

計算し尽くされた弾道は、まるで芸術作品のように美しかった。

 

ドォォォン!とすさまじい爆音が市街地に響き渡り、粉塵が立ち昇った。

水木隊の山井が慌てふためく声が漏れ聞こえてくる。

 

「うそ、もうバレて──!」

 

山井の絶望的な叫びは、爆煙に掻き消された。

完璧だと思っていた潜伏が一瞬で看破され、

自らの位置が白日の下に晒されてしまったのだ。そりゃ焦る。

 

追尾弾(ハウンド)!」

「やばい、散開しろ!」

 

水木隊の別のメンバーが叫んだが、既に手遅れだった。

出水の追撃が容赦なく襲いかかる。

追尾弾(ハウンド)の連弾が空気を切り裂き、

分断された敵チームを確実に狙い撃ちしていく。

 

爆煙により弾道は殆ど見えず、

彼らのシールドもトリオンの暴力で削られていった。

両攻撃(フルアタック)は見事にぶっ刺さり、

3射目が命中した瞬間、2人の緊急脱出(ベイルアウト)が発動する。

 

立ち昇る煙となって消えていく敵を見ながら、出水は軽やかに笑った。

 

「国近先輩?水木隊の2人やりました〜」

 

「ナイスだよ〜。ところで誰と誰?」

 

「えっとぉ⋯わかんない⋯です⋯」

 

 

 

出水の爆撃音を聞いた太刀川は、

もはや待機する気など失せてしまった。

 

「もうやっちゃうぞー」

 

太刀川の宣言と共に、中央通りに人影が躍り出た。

アスファルトを蹴る足音が響き、

二本の弧月を携えた隊長が赤川に向かって突進していく。

 

赤川隊は出水の攻撃音に反応し、急いで陣形を立て直そうとしていた。

しかし、太刀川の接敵速度は常識を超えている。

市街地の複雑な地形を縫って駆け抜ける姿は、まさに疾風のようだった。

 

「来るぞ、太刀川だ!」

 

弧月を構えつつ、赤川隊の隊長が叫ぶ。

その声にははっきりと動揺が滲んでいたが、彼は勇敢にも斬り掛かった。

 

しかし太刀川は、冷静にバックステップ。

そして一瞬の躊躇もなくオプショントリガーを発動した。

 

「旋空⋯弧月」

 

瞬間、世界が静寂に包まれた。

太刀川の弧月が伸張し、金色の軌跡が宙に描かれる。

 

空気を切り裂く音が響いた瞬間、辺りの風景が一変した。

停車していた車両が真っ二つに切断され、コンクリートの柱も滑らかに切り取られている。

そして、赤川隊の隊長は――。

 

「隊長!」

味方のシールドとその体によって刃は阻まれ、隊長は無事だった。

 

「え、あ……」

 

唐突な味方の緊急脱出(ベイルアウト)

処理落ちでもしたのか、彼の表情が凍りつく。

 

「棒立ちはダメだろ」

犠牲により得られたのは一瞬の隙。

 

当然そんな時間を活かせるわけもなく、赤川は胴体を斜めに切り裂かれ、

何が起こったのか理解する間もなく緊急脱出(ベイルアウト)となって消えていった。

 

道路には太刀川だけが立っていた。

 

「小手調べのつもりだったんだが⋯」

 

太刀川のぶっきらぼうな呟きが、静寂を破る。

少ししてから国近に報告を入れ、彼は再び隠密行動を始めた。

 

 

一方、北側の高所を進む唯華は、

仲間たちの派手な戦いを冷ややかに眺めている最中である。

 

「まったく⋯好き勝手やってるなぁ…」

 

内心でため息をつきながらも、

彼女は国近の指示通りに裏回りルートを進んでいた。

 

ビルからビルへと身軽に移動し、残る敵の背後に回り込んでいく。

 

「了解です⋯奇襲警戒ですね」

 

屋上から下を見下ろすと、水木隊の生き残りが1人、慌てふためいているのが見えた。

隊長を失った彼は、適切な判断を下せずにいる。

恐怖と混乱が、その動きを鈍らせていた。

 

唯華は弧月を抜刀し、乱れてもいない息を整える。

 

「ふぅ⋯行くか」

 

そして、重力に身を任せて逆さまに飛び降りた。

ビルの外壁を蹴って軌道を調整し、二人の敵の間に着地する算段だった。

風が頬を撫で髪が逆立っていく。はためいていたバッグワームは消されていた。

 

『上だ!』

 

レーダーが重なっていることに気づいたのだろう。

水木隊長は作戦室で叫んだが、既に遅い。

白の弧月が閃き、首元に流れるような斬撃が走る。

 

鋭い切断音と共に、隊員の首が宙を舞った。

唯華は静かに着地し、弧月を鞘に収める。

 

奇襲を仕掛けてから、白煙が彼を離脱させる最中まで⋯表情は終始変わらず、

まるで日常の一コマのような淡々とした様子で戦闘は終わった。

 

「あと1人⋯どこにいるんだろ」

 

 

「ちょっと待ってください…中央通り抜けます──『あ、自主退場した』

 

烏丸がメイン通路に到着した時、戦場は既に静寂に包まれていた。

彼が期待していた激戦の痕跡はなく、

代わりに燃え上がる壁と立ち込める黒煙だけが残されている。

 

敵の反応はゼロ。戦闘音も止んでいる。

烏丸のアサルトライフルが火を噴く機会は、ついに訪れなかった。

 

「は、早すぎるでしょう……」

 

烏丸の声には、困惑と共に深い落胆が滲んでいた。

綿密に練り上げた作戦は、実行される前に無意味なものとなってしまった。

年下として先輩たちに貢献したいという想いが強いだけに、この結果は受け入れ難かった。

 

「終わり終わり〜」

 

太刀川のあっけらかんとした声が、烏丸の胸に重くのしかかった。

きっとこの隊長にとって、今回の戦闘は軽い準備運動程度の感覚だったのだろう。

 

「気にすんな。こっちは遊んでただけだし」

 

尊敬している先輩の軽い調子の発言も、彼には辛く響いた。

作戦の必要性すら感じていない様子が、痛いほど伝わってくる。

 

烏丸は拳を握りしめた。年下の自分が口出しするべきではなかったのか。

それとも、作戦自体に問題があったのか。

様々な疑問が頭の中を駆け巡り、答えが見つからない。

 

「……すみません、自分の作戦、全然実行できなかったです……」

 

結果的に太刀川隊は完全勝利。

試合時間6分18秒、全撃破5点と生存点2点を獲得した圧倒的な勝利だった。

 

 

唯華が隣に歩み寄り、軽く背中を叩いた。

しかし、その手つきはどこかぎこちない。

 

「まぁ、バッグワーム着てたからこそ奇襲できたんだし……悪くなかったよ」

 

唯華の言葉は優しかったが、どこか取って付けたような響きがあった。

実際のところ、作戦があろうがなかろうが、結果は変わらなかっただろう。

それは全員が薄々感じていることだった。

 

「……ありがとうございます、唯華先輩……」

 

烏丸の感謝の言葉にも、完全に納得していない様子が滲んでいる。

 

「そだそだ、烏丸の作戦のおかげってことでいーんだよ」

 

こうなってしまっては、太刀川のフォローもどこか白々しく聞こえた。

実際に作戦を無視して突撃した当人の言葉だけに、説得力に欠けている。

 

「名誉作戦担当継続な〜」

 

出水の軽口に至っては、完全に空気を読めていない。

烏丸の表情がガッツリ曇るのを見かねて、太刀川はある提案をすることに決めた⋯

 

 

 

夕日が隊室の窓から斜めに差し込み、埃が舞う光の筋を作っていた。

ランク戦を終えたばかりの太刀川隊の面々は、

それぞれ思い思いの格好でソファや椅子に身を預けている。

戦闘の緊張から解放された今、空気はゆるやかで心地よかった。

 

太刀川は背もたれに深く沈み込み、両腕を大きく伸ばして欠伸をした。

机の上には、まだ戦闘データの資料が散らばっている。

しかし彼の興味は既に別のところに向いていた。

 

静寂が心地よく流れていたその時、太刀川が勢いよく立ち上がる。

 

「焼き肉行くぞー!」

 

太刀川の突然の宣言が、隊室の空気を一変させた。

彼の声には迷いがなく、既に決定事項であるかのような響きがある。

両手を腰に当て、胸を張った姿勢は、まさに隊長らしい堂々とした様子だった。

 

出水が顔を上げ、目を輝かせた。

 

「マジですか!?行きます行きます!」

 

ポテトチップスの袋を放り投げ、出水は勢いよく立ち上がる。

彼の軽やかな動作には、疲労など微塵も感じられなかった。

 

「いいねぇ、祝勝会ってやつかな〜?」

「私も行きたいです!」

国近たちが賛成する中、烏丸だけは眉をひそめた。

資料から顔を上げ、太刀川を見つめる。

 

「でも⋯太刀川先輩……」

 

烏丸の声には心配が込められていた。

学生の身分で高い食事代を負担するのは、現実的ではない。

特に彼の場合、家庭の事情で贅沢はしづらいのだ。

 

しかし我らが隊長は、烏丸の心配を予想していたかのように、ニヤリと笑う。

そして、ズボンのポケットから茶色い封筒を取り出す。

 

「ここに、忍田さんからもらったmoney(モネェイ)がある」

 

封筒を軽く振ると、中身の重みでかさかさと音がした。

まるで宝物を見つけた子供のような⋯太刀川は満足げにそれを掲げた。

 

「え、本当ですか?」

 

烏丸の目が丸くなった。

ボーダーの幹部である厳格な忍田本部長が、

隊員の娯楽費を支給するなど考えられなかった。

しかし、太刀川の手にある封筒は確かに存在している。

 

「交流を深めるためにはまず食事⋯

古今東西、いにしえよりの盟約(メーヤク)なんだってさ」

 

太刀川は封筒を胸ポケットにしまいながら説明した。

よくよく考えれば、彼は忍田本部長の弟子である。

特別手当という名のお小遣いが支給されても不思議ではなかった。

 

烏丸の表情から心配の色が消え、代わりに安堵の笑みが浮かぶ。

 

「それなら、ありがたくご一緒させていただきます」

 

丁寧な口調だったが、烏丸の顔には楽しみがあふれ出ていた。

同級生の付き合いなどを筆頭に、

普段は金銭面を気にして参加を躊躇することが多い彼にとって、これは願ってもない機会である。

 

「はいじゃあ準備準備!30秒で支度しな!」

 

国近が号令を掛け、慌てて全員が動き始めた。

トリオン体の換装を解き、持ち物をまとめ、家族への連絡事項の確認。

 

出水は母親への連絡をメッセージアプリで済ませ、烏丸は資料を片付けながら器用に通話。

 

太刀川は物事を適当に放り出し、国近は指を爆速で動かし、文章を打ち込んでいる。

 

唯華も私物を整理しながら、スマートフォンで兄に簡単な連絡を済ませようとする。

 

『よう、唯華   明日のランク戦、いよいよだな〜 ✨

お前のことだから、準備はバッチリだろうけどね  

それでも兄からの“お守りメール”ってことで送っとく  

 

明日の試合の結果?……見たよ ️ 

でも、中身はナイショ  

ちゃんと“お前らしく”動いてれば、それで問題ないから  

 

勝っても負けても、自分の信じる動きができてれば◎

何があっても、自分の芯を守れたら――それだけで価値ある戦いになるんだ  ️

 

……たださ、一つだけ言っとくぞಠ⁠_⁠ಠ 

 

唯華、最近ちょっと目立ってる✨ それは事実だし、誇っていい  ️

けど、人が光ると、どこかで“影”を投げたがるヤツも現れる☁️ ️

 

特に“嫉妬”。

あれは地味で見えにくいくせに、質が悪いんだ  

試合内のフェアなぶつかり合いなら全然OK ‍♂️

でもな、もし――

 

もし、“仮想戦闘”を超えて、

リアルでお前に害を及ぼそうってやつが現れたら……☠️ 

 

その時は、俺が相手になる。

 

遠慮なんていらないよな

「妹を傷つけたらどうなるか」ってことは、

痛いほど実感してもらわないとね(⁠θ⁠‿⁠θ⁠)☝️

 

俺は予知できるから、“その後”も全部見える ️ 

誰がどこで何を後悔して、どんな未来に沈んでいくか――

そういうの、ずっと見てきたし、そうなる前に手も打てる ️ 

 

……だから、安心して突っ込め ✨

後ろは俺が見てるし、前はお前が切り拓けばいい  

 

明日は、思いっきり暴れてこい  

どんな敵が来ようが、お前らしく立ち向かってくれればそれで充分 ‍♀️ ️

信じてるぞ ✊✨

 

ちゃんと寝ろよ〜  

睡眠不足でトチるの禁止な ❌

そして――絶対、無事に帰ってこい。命令だ  ️ 

 

兄より (๑•̀‧̫•́๑)b ✨』

 

長過ぎるメッセージに既読をつけたあと、唯華は焼き肉に行く旨をサラッと送る。

画面に映る文字は短く簡潔だったが、必要な情報は全て含まれているから大丈夫だろう。

 

すぐさま既読がつき、「返信中」と書かれた吹き出しが波打つ。

彼女はそれを無視して、太刀川たちとともに隊室を後にした。

 

 

 

三門市の繁華街は、夜の帳が降りると共に活気に満ちていった。

ネオンの光が歩道を彩り、人々の足音と話し声が混ざり合って独特の雰囲気を作り出している。

大規模侵攻の傷跡はほぼ完全に修復され、街には平和な日常が戻っていた。

 

そんな中太刀川隊の5人は、メインストリートを歩いていた。

私服姿の彼らは、普通の学生たちと何ら変わりない様子である。

まさに戦闘時とは大違い。

 

「あ、あれだ」

 

国近が指差した先に、"炭火焼き肉 寿寿苑"の看板が見えてきた。

赤い提灯が風に揺れ、温かい光を放っている。

店の入り口からは、既に香ばしい肉の匂いが漂ってきていた。

 

店内に足を踏み入れると、女性店員が彼らを迎えた。

 

「5名様ですね。こちらへどうぞ」

 

そうして案内された席は、半個室の掘りごたつ席だった。

周囲から適度に区切られており、プライベートな空間が確保されている。

太刀川隊の面々は、靴を脱いで席に着いた。

 

座布団に座ると、足を伸ばせる開放感があった。

長時間の訓練や戦闘で疲れた身体には、この姿勢が心地よい。

トリオン体では肉体的な疲労を感じないが、精神的に疲れることはあるのだ。

 

「ふぅ~ん、いい店じゃん」

 

出水が周囲を見回しながらざっくりとした感想を述べた。

内装は非常に落ち着いたものになっており、年齢を問わず利用しやすい雰囲気がある。

 

「警戒区域に近い場所だけど、大規模侵攻を無傷で乗り切った店なんだって。

ここで肉を食べると、近界民(ネイバー)に襲われなくなるらしいよ〜」

 

「まじ?じゃあ食わな「先輩、ただのジンクスですからね」

 

あの混乱の中で営業を続けるのは並大抵のことではない。

店主の根性と、地域に対する愛情が感じられる逸話だった。

 

 

メニューが配られると、全員が真剣に内容を吟味し始めた。

豊富な種類の肉類が写真付きで紹介されており、どれも美味しそうに見える。

 

「焼き肉」という言葉が唯華の意識に響いた瞬間、

彼女の心の奥で何かが揺らいだ。

遠い記憶の扉が、わずかに開きかけている。

 

肉の焼ける匂い。煙が立ち上る音。そして――。

 

唯華の表情が一瞬、硬くなった。

過去の記憶が、予期せぬタイミングで押し寄せてくる。

叔母に連れて行かれた、あの焼き肉店の記憶。

あの時の自分は、今とは全く違う状況にいた。

 

しかし、周囲から聞こえてくる仲間たちの明るい声が、唯華の意識を現在に引き戻す。

出水の軽やかな笑い声、烏丸の真面目な確認の声、

国近の穏やかな返事、そして太刀川のぶっきらぼうだが温かい言葉。

 

唯華はそっと深呼吸をした。

今隣にいるのは、あの時とは全く違う人たちだった。信頼できる仲間たち。

一緒に戦い、共に時間を過ごしてきた大切な人たちだ。

 

 

過去の記憶に支配されるのではなく、今この瞬間を大切にしたい。

そんな想いが、唯華の胸に静かに広がっていく。

 

表情に浮かんでいた緊張が、徐々に和らいでいった。

仲間たちの和やかな空気に包まれて、自然と心も軽くなっていく。

焼き肉への期待が、過去の記憶を上書きしようとしていた。

その時、出水が声を上げた。

 

「お、ラムだ!」

 

彼の指先が、メニューの一角を指していた。

「北海道産ラム肉」の文字が、鮮明に印刷されている。

 

「らむぅ?」

 

太刀川も興味深そうに覗き込んだ。

羊の肉⋯普段はあまり食べる機会のない食材である。

 

出水の嬉しそうな表情を見て、国近がふと懐かしそうな笑みを浮かべた。

 

「懐かしいな〜ラム肉」

 

彼女は声に出しながら、少し遠い記憶を思い出す。

 

「北海道にいた頃は、よく食べてたんだよね〜」

 

国近が語り始めると、全員の注意が彼女に向いた。

ボーダー隊員は、基本的に過去の詮索はしない。

そのためこういった話は貴重なのである。

 

「冬の北海道は、想像以上に厳しいの。

家のドアが凍っちゃってさ、開かなくなることもあるんだよ〜!」

 

三門では考えられない⋯烏丸が身を乗り出した。

 

「⋯窓から飛び降りたりするんですか?」

 

「まぁそれもアリだけど⋯ぬるま湯をかけるの。

でも、すぐにまた凍っちゃうから、タイミングが重要なんだよね〜」

 

うぬぬと唸る彼女の表情には、困った記憶と同時に愛着も感じられた。

 

「でもね」

 

国近が目を細めて続けた。

 

「雪を踏む一番乗りは最高なの。誰も歩いていない雪道に、自分の足跡だけが続いていく。

あの感覚は、雪国ならではだよ〜!あと氷をベキベキ割りながら歩いてさ⋯」

 

彼女の声には、心からの懐かしさが込められている。

故郷への愛情が、言葉の端々から感じられた。

厳しい環境だったからこそ、美しい思い出も鮮明に残っているのだろう。

 

意外にも興味深そうに聞いているのは太刀川だった。

 

「ドアが凍るとか⋯それって、毎日そうなのか?」

 

「そうだね〜、冬の間はほぼ毎日。

特に朝は、前の日の夜に降った雪で真っ白になってるの」

 

国近の説明に、出水が羨ましそうな表情を見せた。

 

「いいなあ、雪国。雪だるま作って雪合戦してみてぇ!」

 

「さすがに北海道は遠いかな⋯」

 

唯華は国近の横顔を静かに見つめていた。

故郷について語る彼女の表情には、深い愛情と少しの寂しさが混じっている。

誰にでも、心の奥にしまっている大切な記憶があるのだろう。

それは楽しいものだけではなく、時には辛いものも含んでいる。

 

しかし、今こうして仲間たちと一緒にいることで、

その記憶も温かいものに変わっていくのかもしれない。

現に唯華自身も、過去の記憶と向き合いながら、新しい思い出を作っていこうと思えている。

 

肉が届き、炭火に火が点けられた。

パチパチと薪の燃える音が響き、煙が立ち上っていく。

やがて運ばれてくる肉の匂いと混ざって、食欲をそそる香りが広がった。

 

「さて⋯「「「「いただきます!」」」」」 

 

太刀川の声で、楽しい時間の始まりを告げるように、全員が笑顔を見せた。

炭火の温かさが頬を照らし、仲間たちとの大切な時間が静かに流れ始めている。

 

唯華は心の中で、そっと微笑んだ。

これは確かに、あの時とは違う。

大切な仲間たちと過ごすこの時間は、新しい記憶として心に刻まれていくだろう。

そして、その記憶は彼女にとって、かけがえのない宝物になった。

 

 

 

『おーい唯華〜〜〜(๑º ロ º๑) 

焼き肉ってマジ!?   太刀川隊のみんなと?? ✨

そりゃあ、楽しそうだし歓迎すべき流れだけどさ!!  

 

でも……夜って思ったより冷えるんだよね〜〜  ️

あと、人が多い時間帯って酔っ払いも多いし  

それに焼き肉屋って、意外と帰り遅くなるからさ〜〜……   

 

で、俺が何を言いたいかっていうと!☝️

迎えに行くから場所と時間送っといて!(๑•̀ㅂ•́)و✧  

いいね??拒否権ないよ!?  

 

いやいや!信用してないとかじゃないよ〜??( ˘ω˘ ) 

唯華のことは信頼してるの、ほんとに!!  ✨

でもな、お兄ちゃんってそういう生き物なの。

“もし何かあったら”が頭に浮かぶと、いても立ってもいられなくなるの  

 

太刀川?出水?国近?

……ふん、それはそれとして!! 

 

帰りが遅くなる=お兄ちゃんの出番ってことで   

気にしないでワイワイ楽しんでてくれていいから  

焼いて焼いて食って食って笑って(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)

 

何時になるかわかったら早めにLINEでも何でも送って〜  

迎えはいつでも準備OK(๑•̀‧̫•́๑)b✨

 

以上、

**心配性のお兄ちゃんでした〜**ฅ(=✧ω✧=)ฅ 』





北海道&焼き肉エアプなのでご容赦を。

誤字報告のおかげで書く気力が湧きました。

この先のランク戦はどうしても公式情報が少ないので、
作者の解釈や考察が目立ってしまうでしょう。

太刀川さんや出水はこんなに弱くない!
と感じられる方もいるとは思いますが、
原作軸から2年前の出来事ですので大目に見ていただければ幸いです。

10000字+aを読んでいただき、本当にありがとうございます!

ちなみに作者は7月26日が誕生日なので、
もしよろしければ祝っていただけると⋯その⋯うれしいです⋯

B級ランク戦について(匿名)

  • 全10試合きっちり書いてほしい
  • 太刀川隊以外はダイジェストでいいよ
  • 日常の話をたまに入れながら進めよう
  • アンケートしてないで続きを書こうね?
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