おれは「寿々苑」の店前で、携帯をいじりながら唯華を待っていた。
オレンジ色の提灯が風に揺れて、おれの足元に不安定な光を落としている。
店の中からは、まだ太刀川隊の連中の笑い声が漏れてきていた。
(あいつらと過ごす時間の方が、おれといる時間より楽しいんだろうな)
そんな考えが頭をよぎり、おれは慌ててそれを振り払った。
唯華が楽しく過ごしているのは良いことだ。
兄として、それを喜ぶべきなのに、どうしても胸の奥に重いものが沈んでいく。
画面を切り替えて時計を見ると、約束の時間を少し過ぎていた。
でも、おれは急かすつもりはない。
急かしたところで、唯華の心は既におれから離れ始めているような気がしてならなかった。
店のドアが開く音が聞こえた。太刀川の声が外まで響いてくる。
「じゃあ、また明日な」
「まったね〜」
「作戦会議、遅れんなよ?」
出水たちの軽い調子の別れの挨拶。
おれには関係のない、温かい仲間たちとの別れ。
唯華が店から出てきた時、おれの胸は複雑に揺れた。
私服姿の妹は、戦闘服を着ている時よりもずっと普通の女の子らしく見える。
髪も今日は違うスタイルで、焼き肉の煙が少し髪に付いているのが分かった。
その匂いさえ、おれ以外の誰かと過ごした時間の証拠のように思えてしまう。
「お疲れー、遅かったな」
いつもより軽く響かせるように、こんな演技は慣れっこだ。
唯華に気を遣わせたくない、遣わせてはならない。
「ごめん、お兄。みんなが色々話してくれて、つい長くなっちゃった」
みんな。おれじゃない、みんな。
唯華の言葉の中に、おれの居場所はなかった。
(おれも、その「みんな」の中に入れてもらえるのかな)
でも、そんなことを口に出すのは情けない。
おれは雑念を足元に落とし、念入りに踏み潰した。
「別にいいよ。歩いて帰るか」
「うん」
視えていた通り、おれたちは2人で並んで歩き始めた。
でも、並んでいるのは身体だけで、
心の距離はどんどん広がっているような気がしてならなかった。
メインストリートから玉狛地区の住宅街に入ると、世界は急に静かになった。
街灯がぽつぽつと並び、オレンジ色の光が歩道を照らしている。
唯華はおれの右側を歩いており、
街灯の光が彼女の横顔を照らし出すたびに、おれはその表情を盗み見していた。
彼女の顔には、満足した疲れが浮かんでいる。
今日一日を充実して過ごした人の表情だった。
(おれと過ごす時間にも、そんな表情をしてくれることがあるのかな)
「⋯今日のランク戦、どうだった?」
おれが口を開くと、唯華は少し考えるような仕草を見せた。
すごくかわいい。
「うーん、相手が弱すぎて拍子抜けしちゃった。
烏丸くんが作戦立ててくれたんだけど、
太刀川先輩と出水先輩が待ちきれなくて突撃しちゃって⋯」
唯華の説明には、呆れたような、でも愛情のこもった笑いが混じっている。
仲間への愛情。おれにも向けてくれる愛情とは、質が違うもの。
「唯華はどうしたんだ?」
「私は国近先輩の指示通りに裏から回って、1人片付けた。
でも、着いた時にはもうほとんど終わってたよ。残りは
唯華の口から出てくる他人の名前が、
なぜこんなにもおれを苦しくさせるのだろう。
おれは唯華の話を聞きながら、心の中で自分自身と戦っていた。
妹が充実した日々を送っているのは嬉しい。
本当に嬉しいはずなのに、どうしてこんなにも胸が痛むのだろう。
(おれがいなくても、唯華は大丈夫なんだ)
その現実が、おれの存在意義を根底から揺さぶっている。
「太刀川隊、うまくやってるみたいだな」
「うん、みんないい人たちだよ。お兄も今度、一緒に食事でもしない?」
そんな未来は視えなかったけれど、おれは曖昧に頷いた。
でも、心の中では激しく動揺していた。
唯華の世界に、おれが入っていけるのだろうか。
それとも、おれは永遠に外側から見ているだけの存在なのだろうか。
街灯の光がおれたちの影を長く歩道に伸ばしている。
唯華の影はおれの影に寄り添っているように見えるけれど、
実際の唯華の心はおれから離れていっているような気がしてならない。
(影だけが一緒にいても、意味がないんだ)
住宅街を歩いていると、前方に人影が見えた。
街灯の光の下に、1人の男性が立っている。
その瞬間、唯華の足が止まった。
おれが振り返ると、妹の表情が完全に変わっていた。
普段の穏やかな顔から、何かに集中した、緊張した表情に。
瞳孔が開き、まるで世界で一番大切なものを見つけたような反応を示している。
「ゆい⋯か?」
おれの呼びかけは、彼女には聞こえていないようだった。
唯華の世界に、おれの声は響かない。
彼女はおれ以外の何かに、完全に奪われてしまっている。
(また、おれ以外の誰かか)
嫉妬という名前をつけるのも憚られるほど、醜い感情がおれの胸を締め付けた。
唯華がおれ以外の誰かに夢中になる姿を見るのは、こんなにも辛いものなのか。
唯華の唇がわずかに震え、小さく呟くような声が漏れた。
「やっと…手がかりが…」
その言葉を聞いた瞬間、おれの心は凍りついた。
「帽子の男」。大規模侵攻の際に唯華を救ったという、その正体不明の人物。
おれよりも先に、おれよりも重要な形で、唯華の人生に関わった誰か。
(おれじゃない、誰か)
唯華の足が前方に向かって動き出した。
まるでおれの存在など忘れてしまったかのように、彼女は街灯の光に向かって歩き始める。
おれは暗闇に取り残された。
街灯の光は唯華を照らし、おれは影の中にいる。
この構図が、おれたち兄妹の関係を象徴しているような気がした。
おれのサイドエフェクトが警告を発した。
このまま唯華を行かせてはいけない。
でも、本当にそれは予知による警告だろうか。
それとも、唯華を失いたくないというおれの我儘が作り出した錯覚だろうか。
唯華が駆け出そうとした瞬間、おれは彼女の腕を掴んだ。
「待って」
おれの声は震えていた。唯華の腕は細く、おれの手の中で震えている。
でも、その震えはおれへの恐れではなく、前に進みたいという衝動なのだろうか。
唯華が振り返った。
その瞳には、おれが今まで見たことのない光が宿っている。
それはおれに向けられたことのない、強い感情の光。
(おれには、そんな目をしてくれたことがないのに)
「ごめん」
唯華の謝罪は、おれの心を深く刺した。
謝っているのに、その瞳はおれ以外の誰かを視ている。
おれへの謝罪さえ、他の誰かのための通過点でしかない。
次の瞬間、唯華はおれの手を振り払った。
想像以上の力に驚くと同時に実感する。
今のおれは、彼女の邪魔でしかないことを
そして、唯華は夜道を駆け出していった。
おれは暗闇に一人残される。
街灯の光は唯華を追いかけ、おれを置き去りにしていく。
彼女の足音が遠ざかっていき、ついには聞こえなくなった。
(また、1人だ)
おれの人生は、いつもこうだった。
大切な人がおれから離れていく。そして、おれだけが暗闇に残される。
唯華が走り去った方向を見つめながら、おれは立ち尽くしていた。
街灯の光は遠く、おれの足元は暗い。まるで世界がおれを拒絶しているかのように。
(唯華も、結局はおれから離れていくんだ)
今まで唯華だけは違うと思っていた。
未来視の辛さを共に感じてくれる唯一無二の存在。
夜風が頬を撫でていく。
冷たい風が、おれの心の寒さをより深くしていく。
街灯の光が揺らいで、影が踊っているけれど、おれの影だけは動かない。
(あぁそっか、おれは甘えすぎたんだ)
唯華への愛情と、それに伴う独占欲。
おれにとって唯華は、世界で唯一の光だった。
でも、その光はおれだけを照らしてくれるものではない。
他の誰かをも照らし、そしておれから離れていく。
遠くで犬が鳴いている。夜の住宅街の、日常的な音。
でも、おれにはその日常さえ遠い世界のもののように感じられた。
(結局おれは、いつもこうやって一人で立っている)
過去の記憶が蘇ってくる。
母親を失った時も、ボーダーに入った時も、いつもおれは一人だった。
唯華だけは⋯おれの側にいてくれると思っていたのに。
どれくらい経った頃だろう。
それは数分だったかもしれないし、数時間だったのかもしれない。
前方から足音が聞こえ、唯華が戻ってくる。
でも、おれの心は既に諦めに支配されていた。
彼女はきっと、おれ以外の誰かについて話すのだろう。
おれ以外の誰かの名前を、嬉しそうに口にするのだろう。
街灯の光の中に、唯華の姿が現れた。
彼女は光の中にいる。おれは相変わらず、暗闇の中。
(この距離が、おれたちの本当の関係なんだ)
「お兄、ごめん」
唯華の謝罪は優しかったけれど、おれの心には届かなかった。
彼女の表情には満足感と安堵が混じっている。おれ以外の誰かによって得られた満足感。
「あの時私を助けてくれた人…荒船哲次さんって言うんだって。
さっきの人は穂刈篤さん。とりあえず連絡先だけ交換してもらったよ」
荒船哲次。穂刈篤。おれの知らない名前が、唯華の口から溢れ出てくる。
彼女の声には抑えきれない喜びが込められていて、それがおれの心をより深く傷つけていく。
(おれの名前を呼ぶ時、そんな声になったことがあっただろうか⋯)
「そうか」
おれはそれしか言えなかった。他の言葉は、のどの奥で凍りついている。
唯華の喜びを祝福してあげたいのに、どうしても素直になれない。
夜の風が吹き抜けて、街灯の光が揺らいだ。唯華は光の中で微笑んでいる。おれは暗闇の中で、その笑顔を見つめているだけ。
(おれには、その笑顔を作ってあげることができないんだ)
沈黙が続く中、おれの心の奥で何かが弾けた。
今まで押し殺してきた感情が、制御を失って表面に現れてくる。
「…おれには唯華しかいないんだ」
その言葉は、おれの心の最も深い部分から絞り出された叫びだった。
惨めで、情けなくて、泥にまみれた真実の声。
唯華がおれを見つめた。
その瞳には驚きと、そして哀れみが浮かんでいるような気がした。
(哀れまれてるんだ、おれは)
「私ほどじゃなくても、お兄を理解してくれる人はいるよ」
唯華の返答は優しかった。でも、その優しさ⋯おれには残酷すぎる。
彼女はおれのことを可哀想だと思っている。
支えてあげなければいけない、弱い兄だと思っている。
(おれが欲しいのは、同情じゃない)
おれが求めているのは、理解じゃない。
おれだけを見つめてくれる、唯華の視線。
おれだけを必要としてくれる、唯華の心。
でも、それはもう手の届かないところにあるのだろう。
「⋯違う」
おれの声は硬く響いた。唯華の善意は分かる。
でも、その善意さえ、おれには重荷でしかない。
唯華は困ったような表情を見せた。
この兄の複雑な感情を理解しきれずに、戸惑っているのかな。
(唯華にも、おれは重荷なんだ)
それ以上の会話はなかった。
二人は再び歩き始めたが、先ほどまでの和やかさは消えている。
代わりに、お互いの心の距離を感じさせる重い沈黙が流れていた。
おれは唯華の横顔を見ながら、自分の醜い感情と向き合っていた。
妹への愛情は本物だ。でも、その愛情が時として毒のようにおれの心を蝕んでいく。
唯華は叔母の一件から成長している。
新しい人間関係を築き、自分の道を歩もうとしている。
それは自然なことで、兄として喜ぶべきことなのに、おれはそれを受け入れることができない。
(おれは、唯華の足枷になってるんだ)
街灯の光がおれたちの影を歩道に映している。
二つの影は並んで歩いているけれど、その本体は全く違う方向を見ている。
影だけが寄り添っていても、心は離れていく。
(影の中でしか、おれは唯華と一緒にいられないのか)
遠くで車のエンジン音が聞こえる。
誰かが、どこかに向かっている。でも、おれにはどこにも向かう場所がない。
唯華という光を失ったら、おれには何も残らない。
玉狛支部が見えてくる頃、おれの心は諦めに支配されていた。
今夜の出来事で、おれと唯華の関係は確実に変わった、変わってしまった。
おれが引き起こしたのは、最善で最悪の未来。
玄関の前で、唯華が振り返った。
街灯の光が彼女を照らし、おれは相変わらず影の中にいる。
「お兄、今日はありがとう。迎えに来てくれて」
彼女の感謝は心からのものだった。
でも、その感謝さえ、おれには哀れみのように聞こえてしまう。
(おれは、感謝される存在でしかないのか)
「気にするな、おれは⋯お兄ちゃんだから⋯」
短い返事をして、おれは扉を開けた。今夜は眠れそうにない。
唯華への想いと、それがもたらす絶望について、一人で考え続けることになるだろう。
唯華が先に家に入る。
明るい玄関の電気が点き、彼女は光の中に消えていく。
光に照らされたせいで、闇が露見する⋯そんな言葉をどこかで聞いた気がした。
「お兄」
光を追いかけているつもりで、実は暗闇を歩いている。
唯華という光に照らされることを夢見ながら、実際には影の中で一人佇んでいる。
今夜、おれは改めて理解した。唯華にとっておれは、かけがえのない存在なんかじゃない。
ただの、気遣うべき兄でしかない。
「お兄?」
(それでも、おれには唯華しかいないんだ)
この醜い独占欲も、惨めな執着も、おれには捨てることができない。
唯華がおれから離れていっても、おれは彼女を追い続けるだろう。影のように、光を求めて。
玄関の扉が閉まる音が響いた。
今夜もまた、おれは一人で自分の部屋に向かう。
唯華への想いを抱えながら、暗闇の中を歩いていく。
(おれの愛情は、誰も幸せにしな「お兄!聞いてるの!?」
「うえっ何!?」
「はぁ⋯おやすみ、私はもう寝るから」
部屋の天井を見つめながら、おれは浅く息を吐いた。
静かな夜。家はもう眠っている。唯華の部屋も明かりが落ちて、扉の向こうはきっと真っ暗だ。
眠れない。
心が波打つようにざわついて、頭の中を唯華の顔がぐるぐると回っていた。
あのときの表情。あの声。あの瞳――
(……おれには唯華しかいない)
自分で口にしたその言葉が、何度も胸の奥に反響する。
そして、そのあとに続くのは、唯華の戸惑い、哀れみに似た眼差し。
優しくて、残酷で、おれを兄という役割の檻に押し込める、あの視線。
(やっぱり、言わなきゃよかったのかもな)
独りよがりな告白だった。
望んでいたものは何だった?
理解か? 愛か? 縋る相手が欲しかっただけなのか?
重い感情の波に押し潰されそうになっていた、そのときだった――
コン、コン。
控えめなノック音。
おれの部屋の扉を、誰かが軽く叩いた。
こんな時間に?
「……お兄?」
唯華の声だった。
息が止まりそうになった。思考が一瞬真っ白になる。
「起きてるよ。どうした?」
ドアがわずかに開いて、薄明かりの中から唯華が顔をのぞかせる。
パジャマ姿で、髪は少し乱れていて、目はとろんとしている。
でも、その目は……まっすぐおれを見ていた。
「ちょっとだけ……言いそびれたことがあって」
小さな声で、でも、ちゃんと届くように。
おれは、ベッドの上で姿勢を起こした。
薄明かりに照らされた廊下から、唯華は暗闇の中に入る。
「さっき……お兄が、『おれには
言葉が、静かに胸に染み込んでいく。
「……私も、おんなじこと思ってたよ」
瞬間、時間が止まったような気がした。
「全部をさらけ出せて、受け止めてくれるのは……お兄だけ」
息が詰まった。
心の奥に貼りついていた冷たい膜が、ゆっくりと解けていくような感覚。
誰にも触れられたくなかった場所に、そっと手を添えられたような。
それはあまりにも甘美で、不気味なほどに後味が残らなかった。
(……唯華)
それは、同情でも慰めでもなかった。
唯華の中にある孤独と、おれの孤独が――その一瞬だけ、確かに重なった。
「……そっか」
おれはやっと、それだけを返すことができた。
それ以上の言葉は出てこなかった。
それ以上を求めるのは、今のおれには許されない気がした。
唯華はふっと小さく笑って、「じゃあ、おやすみ」とだけ言って、ドアを閉めた。
その一瞬前まで光が漏れていた隙間が、静かに闇に戻っていく。
部屋は再び静まり返った。
けれど、もうさっきまでの暗さはない。
心の中に、小さな灯が灯っていた。
それは決しておれを満たすほど大きくないし、孤独をすべて消し去るほど強くもない。
けれど確かに――救いだった。
(唯華……)
おれは目を閉じて、静かに息を吐く。
(……今夜だけは眠れそうだ)
掛け布団の中で目を閉じると、唯華の声が遠くで残響していた。
“全部をさらけ出せて、受け止めてくれるのは……お兄だけだよ。”
それはたぶん、兄妹という枠の中で許された、ぎりぎりの言葉だった。
でもおれは――その言葉に、今夜だけは縋ってもいい気がした。
静かな夜の中、おれはようやく瞼を閉じた。
唯華は部屋の明かりを落としてから、ベッドに腰を下ろした。
少々まごついてしまったのは、兄である迅悠一のせいであろう。
もっとも彼女には、迅を責める気持ちなど微塵もないのだが⋯
楽な姿勢のまま深く息を吐き、両目を静かに閉じる。
(もっと深く、ちゃんと視ないと……)
彼女のサイドエフェクトである過去視。
それはスパイから情報を引き出したり、
視覚のメカニズムを利用した対象の視界の覗き見など、非常に応用が効く能力である。
現在唯華がやろうとしているのは追体験。
ちなみに陽太郎なしでは眠れないのは、主にこれが発動してしまうからである。
別にしなくてもいいのだが、アイマスクと耳栓をし、自らの知覚情報を最大限遮断。
今回の場合、ただ記憶をなぞるだけでは足りない。
迅悠一の感情、その場の空気、自分の発言がどう作用したのかを知る必要があった。
薄暗い意識の底に、迅悠一の記憶が滲む。
──あのときの、唯華の声が響いた
『未来が視えて、変えられる立ち位置にいる……私もお兄と一緒だよ』
『お兄が誰かを殺したとか言うんだったら、私も同罪。
そうでしょ? どっちも視ただけなんだから、それを否定するのはおかしいよね』
──その言葉を聞いた直後の、迅の微笑みが視えた⋯いや、感じられた。
(……お兄、あのとき……ほんとうに、嬉しそうだった)
それは、何かを赦されたような、安心しきった顔。
長い間、誰にも言えなかった思いを肯定されたような、優しい安堵。
(やっぱり……少しは、救えてたんだ)
そう思いかけて──唯華は、次の瞬間に湧き上がる胸のざわめきに気づく。
記憶は続く。
時間が経つにつれ、迅の中に静かに生まれていく疑念と、重たい沈黙。
――本当に、それは「許された」ってことだったのか?
――唯華は、ただ「慰めた」だけなんじゃないか?
そして、いつしか迅はその言葉に縋るようになっていた。
(依存してる……)
唯華の心臓が、ぎゅっと締めつけられる。
(私のあの言葉が、お兄の支えになった。でも……)
――違う。それは一時的な処置だった。
迅は、それでも「自分は人を犠牲にして生きてきた人間」だと信じて疑わないまま、
「そんな自分を肯定してくれる存在」にしがみつこうとしていた。
(私、気づかなかった……いや、見ようとしなかった)
「一緒だよ」と言えば、届くと思っていた。
「同罪だよ」と言えば、痛みが半分になると信じていた。
でも、それは表面だけの共有だった。
本当の意味で、迅の痛みに「寄り添えていた」と言えるのだろうか。
(その瞬間だけ救うんじゃダメなんだ……)
唯華は手を握る。呼吸が乱れていた。
(却ってお兄を苦しめちゃう……)
支えのつもりが、枷になっていたのだ。
(このままじゃいけない……どうにかしないと……)
唯華は目を閉じたまま、唇を噛みしめる。
一緒にいるだけではダメだ。
同じ痛みを共有した“つもり”では、すぐに折れてしまう。
本当の意味で迅悠一を救うには──
(“私が”強くならなきゃ)
優しさでも、気休めでもない。
迅の痛みをすべて引き受けて、共に歩いていける強さ。
それを自分が持たなければ。
(本当は誰も、誰かの罪を背負えたりなんかしない)
──でも、それでも、そばにいたい。
そばにいて、伝え続けるしかない。
唯華はゆっくりと目を開いた。
視界はぼやけていたが、その奥に確かな光があった。
(お兄、私はもう……間違えたくない)
機をうかがわなければならない。
日常の合間に言うんじゃダメだ。
風刃争奪戦の前日のように⋯迅悠一が壊れかけた時こそ最大のチャンス。
「どんな関係だっていいよね。お兄を⋯迅悠一を救うためなら」
一応言っておきますが、兄妹恋愛はありません。
お気に入り38まで増えて大歓喜!
B級ランク戦について(匿名)
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全10試合きっちり書いてほしい
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太刀川隊以外はダイジェストでいいよ
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日常の話をたまに入れながら進めよう
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