迅悠一が救われるまで   作:ミルクネコ

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通信機能を使ったセリフは『』で表しています。


仲間たちと未来へ①(ランク戦第1試合)

観戦室の空気には、独特の緊張感が漂っていた。

スクリーンには第1試合に挑む部隊や空白のスコア表などが投影されており、

上空視点のマップにはすでに準備完了を示す3つのマーカーが表示されている。

 

烏丸京介はその前列、やや左寄りの席に静かに座っていた。

脇には、同じ太刀川隊の隊員――太刀川慶、出水公平、迅唯華、国近柚宇が並んでいる。

 

「いよいよ始まるな。記念すべき第1試合ってやつだ」

 

静けさを破るように、太刀川が呟く。

腕を組み、画面を見据える姿には余裕がありながらも、どこか静かな闘志が滲んでいた。

 

「東隊、嵐山隊、弓場隊……どれもまじめって感じで、

何ていうかさ、いまいち面白くなさそうなんだよな」

 

出水が椅子を少し倒して、退屈そうに言った。

肩越しにタブレットを回しながら、目線はモニターから外していない。

 

「まあ二宮さんいるし、東隊はさすがに強いんだろうけどさ。

残りの2つは、言っちゃ悪いけど、A級の器かどうか怪しいだろ」

 

「さすがに油断しすぎですよ⋯」

烏丸は視線をスクリーンから出水に戻す。

 

「まぁ今気張ってもしょうがねぇし、

そのくらいフラットな気持でいたほうが良いだろ」

 

にっこり笑った太刀川は、不安げな彼の肩をバシバシと叩く。

 

「みんなさ、どの隊が勝つか賭けようぜ?」

 

「出水先輩⋯ここ会場なんですよ⋯?ちょっとは静かにしてください」

 

バカみたいな提案をする先輩に疲れたのだろう、烏丸は小さく息を吐いた。

目の前のスクリーンが、一瞬、戦場の拡大ビューに切り替わる。

そしてブザーが響き――第1試合が始まった。

 

 

 

 

東春秋は北西のビル屋上に転送され、すぐに周囲を見回した。

6階建てのマンションの最上階から見渡す街並みは、

2階建ての住宅が広がる典型的な郊外住宅地である。

高い建物はまばらで、狙撃手にとっては理想的な見晴らしが確保されていた。

 

『月見、状況開始』

 

東の声が通信に響くと、オペレーター席の月見蓮が即座に応答した。

 

『了解、二宮先輩たちのタグ付けは終わりました。』

 

『バッグワームはどうだ?』

 

東隊(ウチ)を除いて計3名。1人は嵐山隊の佐鳥くん、あと2名は不明です』

 

イーグレットを構えながら、東は事前に立てた作戦を思い返していた。

とにかく今は焦らず、まず全体の状況を把握することが重要である。

 

『二宮、加古、くれぐれも嵐山隊には突っかかるなよ?

もちろん、落とせると思ったら強行していい。そこは各自の判断でやってくれ』

 

『二宮、了解』

 

淡々と答える男、二宮匡貴は南街区の交差点裏の路地で、周囲を警戒しながら歩いていた。

住宅街特有の入り組んだ道路構造は、中距離戦闘に適していない。

ならもっと早く歩けよ、というか走れよと思わなくもないが⋯

 

『えっと⋯三輪くんだけ離れてるのね。合流したほうがいいかしら?』

狙撃手(スナイパー)の射線に気を付けながら、加古望は道路を駆ける。

 

『三輪には遊撃をしてもらおう。

射線を切りつつ合流地点から少し離れたところで待機だ』

 

『了解よ、東さん』

彼女は中央市場付近の商店街に転送されていた。

アーケードと民家が混在するエリアで、隠れる場所には事欠かない。

 

つくづく攻撃手(アタッカー)有利なマップだが、

ここにいるのは近接もこなせる射手(シューター)である。

彼女はシールドをすぐ展開できるようにしながら、慎重に周囲を探っていった。

 

 

東側の駐車場に立っているのは三輪秀次。

周囲は平坦で遮蔽物が少なく、狙撃の的になりやすい不利な立地である。

彼は素早く最寄りの建物影に身を隠した。

 

『遊撃⋯ですよね。先輩たちの近くまで行きます。』

『だいたいの射線を切れるルートを順次表示するけど、気を付けて進んでね』

 

東隊は全員バッグワームを装備し、静かだがたしかに動き出していた⋯

 

 

『おいののォ、俺の近くにいる奴ァ二宮だ。移動経路の予測頼むぜ』

 

一方、弓場隊の弓場拓磨は南街区の繁華街に転送され、

ちらっと目に写った二宮を即座に察知していた。

 

『ののさん、あそこのは時枝くんだね。マークよろしく』

 

王子一彰は西側の立体駐車場におり、

発見したのか走り去る時枝を見つめながらレーダーを見る。

 

『俺も三輪くんみっけ!』

神田忠臣は東街区の高台にいた。

三輪の駐車場が見える位置で、既に標的を確認している。

アサルトライフルの照準を合わせながら、動向を窺っていた。

 

『開幕から忙しいなぁおい!蔵内ィ!お前ぇは誰か見つけたのかぁ!?』

 

蔵内和紀は市役所付近に転送され、生活感のない建物群を見回していた。

『いえ、残念ながら。⋯なんかすみません』

 

『気にすんなァ!ひとまず神田のとこ行って合流しとけ!』

『あーそれはナシですね、三輪の動き的に東隊と勝ち合いそうだ。

ということで蔵内には⋯少し危ない橋を渡ってもらおうかな』

 

そうして神田は、各隊員に指示を出し始めた。

 

 

嵐山隊の嵐山准は中央公園の開けた広場に転送された。

 

佐鳥賢は北側の高層ビルに転送され、

狙撃手(スナイパー)として理想的なポジションを確保していた。

と同時に読まれやすい場所だと言うことを、彼はまだ知らない。

 

『こちら佐鳥、狙撃ポイント着きました!』

 

柿崎國治は中央の大通りにおり、やや孤立した状況だった。

周囲に味方の気配はなく、合流を急ぐ必要がある。

 

『おいおい⋯これまたごっそり消えてるな⋯』

彼がそうこぼすのも無理はない。

現在バッグワームを使用しているのは12人中7人⋯おっと8人に増えた。

 

『おれたちもしたほうがいいですか?』

 

『それもアリだが、使わないでおこう。

大規模な射撃戦になるだろうから、少しでもトリオンは温存するべきだ。』

 

加古、二宮、三輪、蔵内、王子、弓場⋯

普段通り連携できれば、この辺りの隊員には勝てるだろう。

 

ある程度射手(シューター)に優位を取れる嵐山隊にとって、

この試合はかなり暴れられるマッチングである。

 

『時枝了解。王子先輩いました。綾辻さん、タグお願いします』

時枝充は王子に比較的近い場所に転送され、立体駐車場の方角を確認していた。

 

各隊最初の状況確認を終え、ついに戦闘が始まる。

 

 

東は屋上から市街地全体を見渡し、月見との連携で状況把握を進めていた。

『月見、各隊員の動向は?』

 

『今は⋯反応が消えた⋯!二宮先輩、左方向を警戒!』

二宮に近づいている途中でバッグワームを使用した⋯

その月見のアラートは正解であり、すぐさま交戦が始まる。

 

「わかっている」

 

住宅街の角を曲がった二宮の前に、弓場が現れた。

両者の距離は約30メートル。

射手(シューター)としては最適で、射撃戦には十分な間合いである。

 

「いくぜ二宮ァ!」

 

弓場のドスの効いた挨拶に対し、二宮は無言でトリオンキューブを構えた。

 

通常弾(アステロイド)

両者のバッグワームが消えていく中、

四角く分割された弾は、標的を穿つべくまっすぐに飛んで行く。

 

しかし射出されたのはメイントリガーの分だけ。

弓場は距離を詰めながら、シールドで容易に防いでみせた。

 

『距離20!飛ばせ隊長ォ!』

 

弓場隊オペレーター、藤丸ののの合図が入り、

瞬時に拳銃(ハンドガン)が装備される。

 

「吹き飛べやァ!!」

ズガガガと音を立て、威力が高められた通常弾(アステロイド)がシールドに刺さる。

 

二宮は後退しながら通常弾(アステロイド)で応射しているが、

いささか弾が散らかりすぎている。これではシールドを削りきれない。

 

二宮のシールドにヒビが入ったのを契機に、弓場は声を荒らげて連射を続ける。

しかしーー

 

「上出来だ、二宮」

 

広く散らばった通常弾(アステロイド)の中から、ひと際速度の速いのが1つ。

 

弓場は咄嗟に身をひねるが、その弾丸は彼の脇腹を撃ち抜いた。

 

(東さんの狙撃か⋯!)

なんとか急所は避けたが、トリオン漏出過多で緊急脱出(ベイルアウト)しかねない。

衝撃の余韻に浸る間もなく、二宮からの追撃が降り注ぐ。

 

弓場は両防御(フルガード)をしながら、

咄嗟に建物の影に入ろうと方向を変えた。

 

そのまま民家の窓をブチ破り、中に転がり込む。

『東さん、弓場はバッグワームを起動していません。追いますか?』

 

『⋯ここで点を取るのもいいが、

あいつのポテンシャルを侮り過ぎだな。加古との合流を優先しなさい』

 

『⋯了解』

『二宮くん、新しい進路を表示したわ。ついでに弓場くんの予想経路も』

 

二宮が舌打ちする中、弓場も別方向に移動を開始していた。

 

『⋯面白くなってきたじゃねぇか。神田ァ!狙撃手(東さん)の予測位置送るぜ!』

 

『お、そっちにいたんですね。じゃあ引き上げないとな』

 

 

既に東側では、三輪と神田の遭遇戦が始まっていた。

 

駐車場から民家の間を縫って移動していた三輪の前に、高台から降りてきた神田が姿を現した。

 

『三輪くんと⋯戦闘開始しまーす』

 

呑気にオペレーターに報告しながら、

突撃銃(アサルトライフル)が火を噴く。

 

三輪はバッグワームを装備したままシールド展開し、なんとか建物の角に身を隠した。

 

「くそ⋯相性的に不利すぎる⋯」

 

三輪の戦闘スタイルは、弧月と拳銃(ハンドガン)を主軸とした白兵戦特化型。

対して神田は同じく弧月と、射程勝ちしている突撃銃(アサルトライフル)の使い手である。

 

一応勝算が無いわけではないが、奥の手はまだとっておきたかった。

 

しかし三輪の不安に反して神田も深追いはせず、

バッグワームを着てつかず話さずの距離を維持する。

 

初動での無理な戦闘は避けるという判断なのだろうが⋯ではなぜちょっかいをかけたのだろうか?

 

答えは単純、おおまかな東の位置を知るためである。

しかし弓場の犠牲(落ちてはいないが)によりその必要はなくなった。

 

三輪は東隊にとって貴重な前衛であり、

転送位置が悪かろうとほぼ確実に合流に動くだろう。

 

それなら彼を追いかけて包囲してしまえばいい⋯

神田は人好きのする笑顔を浮かべて道路を駆けた。

 

 

一方で、嵐山隊は順調に合流を進めていた。

 

綾辻は北側のビルでの支援体制を確立し、嵐山と柿崎の合流を支援していく。

 

嵐山は開けた公園から素早く離脱し、住宅街の中に身を潜めていた。

柿崎も大通りから脇道に入り、嵐山との合流点を目指す。

 

 

 

低く、短く、風が唸った。

 

セメント舗装の薄暗い路地で、柿崎と時枝がそれぞれ角を曲がる。

目標は、路地の突き当たりを射手(シューター)である蔵内。

 

すでに追尾弾(ハウンド)でシールドを強制しており、バッグワームによる潜伏の余地もない。時枝は右から、柿崎は炸裂弾(メテオラ)で左から弾幕を敷き、挟み撃ちに持ち込む。

 

(危ない橋を渡ってもらうって⋯わかってはいたけどこういうことか!)

焦りを感じながらも、蔵内は冷静に判断する。

 

『神田先輩、柿崎さんと時枝に遭遇しました。』

 

『了解、二宮先輩はしばらくは来ないと思うよ。弓場さんまだ落ちてないし。』

 

『では来るのは⋯』

 

蔵内はシールドを展開しながら全力撤退。

上下に重ねるように防御を貼り、致命傷になりうる真正面の攻撃は確実に弾いていた。

 

しかし柿崎たちも甘くはない。

炸裂弾(メテオラ)を乱射し、

それによって砕けたアスファルト片で視界を曇らせる。

 

『柿崎さん、右に回り込みます!』

 

時枝が叫び、機動力を活かして側面からの射線を取る。

蔵内も対抗して追尾弾(ハウンド)を撃ち出すが、時枝は冷静に防ぐ。

 

「挟んだ! 落とすぞ!」

 

柿崎が弧月を抜きながら前進した──その瞬間。

 

柿崎(ザキ)さん左!奇襲よ!』

 

柿崎の目がわずかに動いた。

それと同時にほとんど直感でシールドを張る。

 

次の瞬間、北の空からエメラルドグリーンの軌跡が幾筋も突っ込んできた。

加古望の追尾弾(ハウンド)──射角のない横合いから殺到し、

柿崎の展開中のシールドの裏へ、くい込むように突き刺さる。

 

 「ぐっ──!」

 

彼女は間髪入れずに、クナイのように成形されたスコーピオンを投げる。

それが視界を断ち切り、柿崎のシールドを破り腹部に突き刺さった。

 

それは集中シールドでなければ防ぎきれない一撃。

柿崎のトリオン体が大きく弾け飛び、緊急脱出の光が爆ぜた。

 

 《柿崎、緊急脱出(ベイルアウト) 東隊、1点獲得》

 

「くそっ──!」

 

柿崎の爆発を目の当たりにした時枝が咄嗟に後退を試みる。

しかし、焦りの色が動作に出た。その一瞬の判断の鈍りを、蔵内は逃さない。

 

分割なしの通常弾(アステロイド)が放たれ、

突撃銃(アサルトライフル)ごと正確に時枝の胸元を穿ち抜く。

 

「──ッ!」

 

姿勢が崩れたその時点で、もう終わっていた。

トリオンが霧のように舞い、時枝の姿が光と煙に変わった。

 

 《時枝、緊急脱出(ベイルアウト) 弓場隊、1点獲得》

 

「あらら⋯漁夫の利しに来たのに、横取りされちゃったわ」

 

加古の顔にはかわいらしい微笑が浮かべられているが、

その周りにある弾は殺傷能力が高すぎる。

 

「あとは加古先輩を⋯」

 

スコーピオン投げを警戒したのだろう。

蔵内が距離を取り、射撃の準備を始める──その時だった。

 

ズドドド⋯と文字通り音速で届いた破裂音が、周囲の空気ごと路地を揺らす。

 

「……っ、ここまでか」

 

いくらなんでも防御しきれない。

前方からは追尾弾(ハウンド)による飽和攻撃、

後方からは通常弾(アステロイド)炸裂弾(メテオラ)の集中砲火。

 

蔵内はダメ元で固定シールドを起動したが、

周りの家々ごと紙くずのように吹き飛ばされてしまった。

 

 「にっ……!」

 

蔵内が呻くように何か言いかけるが、すでに全身はトリオンに溶け始めていた。

彼のトリオン体が崩壊する音が、爆風の余韻に紛れて吸い込まれていく。

 

 《蔵内、緊急脱出(ベイルアウト) 東隊、1点獲得》

 

静かに煙幕が晴れ、二宮は手を下ろしながら、誰もいない路地に目を向けた。

 

『いいぜ蔵内ィ!よく1点もぎ取ったァ!』

『よく耐えたよ。偉い偉い』

『ありがとうございます⋯ここからは俺もサポートに回りますよ』

 

 

 

 

「あわわわわ⋯!時枝(とっきー)まで落ちちゃった⋯」

 

柿崎の炸裂弾(メテオラ)狙撃手(スナイパー)の射線を通す予定だったが⋯

肝心の柿崎が緊急脱出(ベイルアウト)してしまっては援護ができない。

佐鳥は立ち上がったり屋上でやきもきしながら戦場を俯瞰していた。

 

『撃っちゃダメよ佐鳥くん。嵐山先輩、もうこうなったら射撃戦は無理です。』

 

『そうだな、バッグワームを使用するよ。⋯賢?』

 

狙撃手(スナイパー)である佐鳥のレーダー反応が激しく動いている。

何か会ったのではと思い声を掛けるが、果たしてその予感は当たっていた。

 

『助けてください嵐山さぁん!俺今王子先輩にぃ!』

 

しかし頼みの綱である嵐山も位置が悪い。

柿崎たちの援護に向かう途中だったため位置取りも相当まずいのだ。

 

 

『すまない賢!俺は助けられそうにない!』

はっきりと言い切る隊長に、佐鳥はみっともなくギャアギャア騒ぎ出す。

 

「いやぁぁぁぁぁ!」

 

慌てる佐鳥の背後に、王子が回り込んでいたのだ。

ビルから飛び降りる時にバッグワームも切り裂かれ、ひどい有り様である。

 

「俺より弓場さんとこ行ったほうがいいんじゃないですかぁ!?」

 

「君を落としたらそうするよ、ご教授ありがとうね!」

 

そしてスコーピオンが佐鳥の背中を貫き、

北の狙撃手は騒々しく緊急脱出(ベイルアウト)していった。

 

 

 

(蔵内がやられた方向と一緒だけど⋯何か違和感がある⋯)

神田は建物の陰から素早く姿を覗かせ、

通常弾(アステロイド)を三輪へ向けて連射した。

乾いた銃声が連続して響き、弾丸が路地の壁を削り飛ばす。

 

「逃げ場はないよ」

低く押し殺した声と同時に、三輪に向かって銃撃の雨が迫る。

三輪は片手でシールドを展開し、弾を受け流しながらも後退。

だが、シールドの表面は瞬く間にひび割れ、破片が飛び散った。

そして腕に一発着弾し、浅くトリオン体がえぐられる。

 

(ここまでは想定内⋯)

 

三輪は顔色を変えず、背後の細い路地へ滑り込む。

神田は即座に位置を変え、路地の入口に視線を向けたが、足は止まる。

 

「……罠かな?」

 

路地の両側の建物は高く、上からの奇襲も射線も通しやすい形だ。

追撃をためらい、代わりに横へ回って追尾弾(ハウンド)の牽制射撃を浴びせる。

 

だが、そこで一瞬の隙が生まれた。

壁の角から影が飛び出し、距離を一気に詰めにかかる。

 

「——っ!」

 

神田は即座に弧月を抜刀し、迫る三輪の刀を受け止めた。

高い金属音が響き、火花が散る。

 

2人の剣は何度も交差するうちに、神田は実力差を見極めた。

神田は防御に集中しながら、じりじりと後退する。

その動きを見越していたかのように三輪は呼吸を乱さず、

わずかな隙を突いて刃を滑り込ませてきた。

 

「ちっ……!」

神田の防御が一瞬遅れ、右肩に浅く斬撃が入る。

だが神田も動じずに弧月を横薙ぎに振るい、三輪の右手首を斬り落とした。

 

三輪の弧月が地に落ちる直前、残された左手が輝く。

 

神田がトドメの一刀を叩き込むより、ずっと早い。

至近距離、ほぼゼロの間合いで拳銃が構えられていた。

(このタイミングで⋯!?)

 

「——遅い」

引き金が引かれ、銃声が響く。

神田の胸部に弾丸が叩き込まれ、そこから漏れ出たトリオンが四散する。

 

「⋯やるね」

 

ベイルアウトの煙が路地裏を満たして、神田の姿が消えた。

三輪は息を整え、右手を押さえながら通信機に触れる。

 

『こちら三輪、右手を負傷しましたが神田さんを落としました。』

 

即座に東の声が返ってくる。

『よくやったな。嵐山隊も減ってきたし⋯加古たちと合流してくれ』

 

三輪は短く返事をし、怪物の血のように淡く光るトリオンを滴らせながら、路地を後にする。

緊張が抜けていないものの、いくらか軽快な足取りで戦場を駆けていった。

 

 

『ダメですよ弓場さん、王子が来るまで待ってください』

『そうしてェのは山々だが⋯トリオンがキチィんだ。許せ』

 

蔵内の静止を振り切って、弓場が駆け出す。

 

だいぶ収まってきたが、脇腹からはトリオンが絶え間なく噴き出している。

残された時間はわずかだということは、本人が一番自覚していた。

それでも⋯いや、だからこそ彼の足は止まらない。

 

『待ってくださいよ!絶えず動くだけでも王子が楽になるんで⋯』

 

『このままじゃァ、炸裂弾(メテオラ)されて終いだ。

王子の奇襲が失敗しねェように⋯行くぜ』

 

少し離れたところで、正面と右斜を二宮たちが塞いだ。

 

加古は低く息を吐き、指先をわずかに動かす。

瞬く間に彼女の周囲から淡い光の弾丸が無数に生まれ、ふわりと空間を漂いながら加速、

――まるで意思を持つかのように、弓場の死角へと回り込んでいく。

 

エメラルドグリーン色の弾丸が空中で角度を変え、幾筋もの軌道が弓場を囲い込んだ。

 

「……チッ」

局所的な展開では崩される。

弓場は瞬時に全防御(フルガード)を展開。だが、それこそが彼らの狙いだった。

 

着弾してわずかに視界を奪われた瞬間、

二宮の通常弾(アステロイド)が唸りを上げて叩き込まれる。

シールドを張り直す選択肢はない。

 

紙くずのように前方のシールドが砕け、右手が無惨に散っていった。

 

「まだまだァ!」

弓場は片手撃ちの拳銃で応戦しつつ、前傾姿勢のまま踏み込む。

狙いは二宮の間合いを潰し、シールドも張れない至近距離に持ち込むこと。

 

牽制のための中距離からの速射。弾丸は二宮の胴を正確に狙うが――

 

「無駄だ」

二宮は表情ひとつ変えず、二重に重ねたシールドで受け切った。

光壁が弾を弾き返し、火花のようにトリオンが散る。

 

そこへ再び加古のハウンドが襲いかかる。

今度は左右からだけでなく、後方からも迫る飽和攻撃。

シールドを再構築できるトリオンすらなく、

回避しようという発想すら毛ほども湧かない。

 

弓場は踏み込みかけた足を止め、最後まで拳銃(ハンドガン)を撃ち続けたが、

――光が全身を包み込み、煙とともにトリオン体が弾けた。

 

 

弓場が光に呑まれて消えた直後、戦場は一瞬だけ静まり返った。

しかしその静寂は、またすぐに破られる。

 

北側の狭い路地を、バッグワームを纏った三輪が足早に移動していた。

二宮と加古は既に東の狙撃支援が届く場所におり、

三輪も周囲を警戒しつつ向かっている真っ最中である。

 

――そのとき、視界の端にふっと影が差し込んだ。

振り返れば、同じくバッグワームを着た嵐山が、角の向こうに現れている。

 

「……っ!」

三輪は瞬時に通信を開く。

『嵐山と接敵しました!』

 

言葉を終えるより早く、乾いた連射音が響いた。

嵐山のアサルトライフルが火を噴き、連続する衝撃が三輪のシールドを叩く。

後退を強いられながらも、三輪は冷静に射線を切る路地へと身を滑り込ませた。

 

『秀次、こっちへ連れてこい。3人で仕留めるぞ』

『その3人に東さんも入れたら?』

 

『問題ない、俺と秀次と東さんの3人で正しいからな』

 

『はい静かに。王子の奇襲もある、戦闘せずに後退しなさい⋯秀次?』

 

(相性的に不利だった神田さんも仕留められた⋯

なら嵐山さんにだって、近距離に持ち込めば勝機は十分あるはずだ⋯)

 

『三輪くん?』

 

――ここで鉛弾(レッドバレット)を使って動きを止める。そうすればきっと⋯

三輪は腰のホルスターから拳銃を抜き、トリガーを切り替える。

すぐさま黒い弾頭の構築が始まり、緊張からか銃が重く感じられた。

 

レーダーはほとんど動いていない。

嵐山はスコーピオンを装備しているから、三輪と斬り合うつもりなのだろうか。

ふいに嫌な予感が、三輪の脳裏を掠める。

 

『三輪くん!』

 

次の瞬間、頭上から連射が降り注いだ。

反射的に見上げると、家屋の屋根から身を乗り出した嵐山が、

真下へ向けて銃を撃ち下ろしている。

 

「――シールドっ!」

しかも焦りのせいでトリガーの切り替えがうまく行かなかった。

咄嗟に回避もできないのなら、至近距離からの俯角射撃は防ぎきれない。

数十発が体中を貫き、トリオンの輝きが三輪の身体から溢れた。

 

嵐山の視界が煙幕によって白く霞み、やがて晴れる。

 

《三輪、緊急脱出(ベイルアウト) 嵐山隊、1点獲得》

 

そのアナウンスが響いた直後、さらに別方向で爆発音が上がった。

 

二宮が隠れている嵐山を見つけるために、

炸裂弾(メテオラ)で建物を破壊しているのだろう。

 

三輪によって位置は露見したが、きっとまだできることはある。

わずかに息を吐き、嵐山は銃を構え直した。

 

さて、そんな東隊一強となった戦場を駆ける者がもう1人。

嵐山隊の狙撃手(スナイパー)、佐鳥を落とした王子一彰である。

 

バッグワームを起動しながら、瓦礫の影を縫うように北東へ移動していく。

耳元では、すでに戦闘から退いた弓場たちの声が響いていた。

 

『二宮と加古はバッグワームしてねぇが安易に突っ込むな。

十中八九、東さんの狙撃が来るぞォ!』

 

『先輩方、時間切れまで潜伏もありだと思います』

 

『そうだな⋯ののさんはどう思う?』

 

『東隊は3人残ってるし、とっとと離れて生存点潰しでいいだろ。

誘導はするが、東さんの位置もわっかんねぇし、撃たれねぇよう祈っとけ』

 

『さっすがののさん、じゃあひとまず家の中を通っていくよ」

 

王子は軽い調子で返しながらも、その足取りは速い。

路地を抜け、角を曲がった――そこで、ほぼ同時に別のトリオン反応が現れる。

 

広報部隊らしい目立つ赤のシルエット。

突撃銃(アサルトライフル)を構えた男が、陽光を背に立っていた。

 

その男の名は嵐山准。

 

一瞬で状況を読み取った王子の目が細まる。

「じゃ、さようなら〜」

 

すぐに反転しようとしたが、

嵐山は通り抜けるついでにスコーピオンで斬りかかる。

 

王子がそれを防いでいるうちに距離を開け、逃げ道を塞ぐ形で回り込んでくる。

銃口は王子を逃さぬよう常に正面を追い、誘導する先は――二宮たちの方角だった。

 

『がんばれがんばれ嵐山!がんばれがんばれ嵐山!』

『がんばれがんばれ嵐山!がんばれがんばれ嵐山!』

 

『嵐山さ〜ん!おれの敵討ちしてくださいよ!』

 

『ちょ⋯周囲の警戒を怠るなよ!が⋯がんばれ嵐山!』

 

時枝と綾辻は声援を送り、佐鳥は右手を突き上げる。

柿崎も注意しつつ大声を出した。

 

 

そんな仲間たちの声援に押されたのか、

さっきより若干圧のある連射音が響く。

 

アサルトライフルから放たれる弾丸が、瓦礫を砕きながら王子を追い立てた。

 

(このままじゃ東隊と挟み撃ちで終わる⋯

射線を切りつつ、どうにかののさんのルートに戻らなきゃな⋯)

 

王子はすぐにシールドを展開し、ステップで弾線を外した。

時折逆方向に移動することで距離を稼ごうとするが、嵐山は動じない。

 

銃についているレバーを倒され、射出される弾が切り替わる。

「……炸裂弾(メテオラ)!」

 

低く呟かれたその名と同時に、弾が唸りを上げて飛来。

王子は反射的にバッグワームを解除、全方位シールドを展開して衝撃に備える。

轟音と熱風が狭い路地を満たし、視界が一瞬真っ白に染まった。

 

だが、それこそが嵐山の狙いだった。

白煙を裂いて、彼の手元から放たれたスコーピオンが、細く鋭いクナイの形へと変形して飛ぶ。

 

鋭い衝撃音がして、王子の全方位シールドが砕け散る。

その直後、嵐山はすでに突撃銃(アサルトライフル)を構えていた。

 

「……逃さないよ」

 

間断のない通常弾(アステロイド)が、王子の胸部を撃ち抜く。

光が弾け、彼の輪郭が崩れ落ちた。

 

《王子、緊急脱出(ベイルアウト) 嵐山隊、1点獲得》

 

通信が冷静に告げる中、嵐山は呼吸を整えた。

これは、かつて柿崎が加古を仕留めた時と同じ手法――

飽和攻撃や広範囲攻撃で防御を強制させたところに、一点集中の攻撃で破るというものである。

 

王子の残滓が風に溶けて消えていく。

戦場に残ったのは、完全に位置が露見した嵐山と、その周囲を包囲する東隊の影だった。

 

嵐山は一塁の望みを賭けて抗ったが、東隊の勝利は揺らがない。

 

 

「試合終了。撃破点は東隊4点、嵐山隊2点、弓場隊3点。

生存点の1点は東隊に付与されます。結果は⋯5点獲得で東隊の勝利です」

 

アナウンスが響く中、東は静かにイーグレットを下ろした。

加古と二宮も、それぞれの位置で勝利を確認する。

 

改めて最終的なスコアは、東隊5点、弓場隊3点、嵐山隊2点となった。

 

観戦していた隊員たちからは、感嘆の声が上がる。

 

                      「嵐山隊すっげぇ〜!」

「そりゃあのメンバーならこうなるわな⋯」

 

                 「嵐山さん単独2点だよ〜!?はぁ⋯ほんとイケメン⋯」

「弓場さんもっと強い印象なんだが⋯」

                 

               「佐鳥隊員なんもしてねぇじゃんwww」

特に注目されたのは、東隊のトリオンの暴力と、各隊員の連携の巧みさだった。

 

実際は転送直後の情報収集から終盤の生存戦略まで、

一貫した作戦思想が勝利に導いているのだが⋯

多くの隊員はそれを理解すること無く進むのだろう。

 

「各隊のみなさん、お疲れさまでした。

マップに残られている隊員は、今しばらくお待ち下さい。」

 

市街地Aでの激戦は、ランク戦の幕開けにふさわしい激戦となった。

 

転送装置が再び光り、隊員たちは本部へと帰還していく。

次の試合への準備と、今回の戦術分析が既に始まろうとしていた。

 

ランク戦はまだ始まったばかりである。

各隊とも、次なる戦いに向けて新たな戦術と連携を模索していくことになるだろう。

 

市街地Aには再び静寂が戻り、次の戦いの舞台として待機している。

戦闘の痕跡は既に消去され、いつでも新たな戦いを受け入れる準備が整っていた。




長すぎぃ!まぁた1万字超えかよ⋯と思われた方、思われてない方も
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。

各隊員の動きにはそれぞれ根拠を持って書いていますが、
作者の戦術理解度だとか⋯大雑把に言うと頭が悪いので、
ところどころ疑問に感じる点があるかもしれません。

地味に嵐山隊って東隊メタですよね。
シューターとガンナー(もしくはガンナー寄りのオールラウンダー)が戦うと、
後者が勝つ印象があります。佐鳥がいるからフルアタックもしづらいですしね。

相手のシールドを広げさせて一点集中でぶち抜く⋯これエグいくらい強いですよね。
原作で二宮さんがシューターランク1位なのも、里見先輩がガンナー1位なのも納得です。

あんまり大風呂敷を広げてしまうと未来の私に殺されそうなので控えますが、
各隊員の成長も少しずつ描写していければいいなと思っています。

今のところの筆頭候補は三輪くんと佐鳥ですかね?



B級ランク戦について(匿名)

  • 全10試合きっちり書いてほしい
  • 太刀川隊以外はダイジェストでいいよ
  • 日常の話をたまに入れながら進めよう
  • アンケートしてないで続きを書こうね?
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