シュレーディンガーのTS箱に入れられて、幼なじみに観測決定権を握られた   作:しぎ

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そんなに悪くもなかったりする

 

 

 

 

 

「ほーら、気持ちいいだろう……」

 

 

 

 俺の身体が男と女を行き来する変な身体になってから3日。

 

 

 

 

 俺は今日も、有栖に胸を揉まれている。

 

 

 

 俺のシャツの上から、有栖の右手がゆっくりと俺の身体をなでると、えも言われぬ感覚が浮かび上がる。

 

 

 

「なあ、有栖」

 

「何? もう少しガッツリやってほしい?」

 

「いや、別にそうじゃねえけど……なんで毎日こんなことやってくれんの?」

 

 

 

 今は放課後、俺の家の自室。

 

 俺が学校から帰宅して少しすると有栖がやってきて、俺の身体が女になっていることを確認すると、マッサージという名目で俺の感覚を刺激してくる。それが3日連続で続き、多分明日以降も続く。

 

 

 

 家事をしている母も、まさか息子が男と女を行き来する体になり、息子に勉強を教えに来た幼なじみ女子が俺を揉んでるなんて思ってないだろう。

 

 

 

「まず1つは『TSする箱』の実証試験の経過観察。ただのマッサージに見えるけど、ちゃんと歩夢の身体のデータ取ってるんだよ」

 

 

 

 そうなのか? その割には、めちゃくちゃ楽しそうな顔してるんだよな。

 

 

 

 ……まあ、その顔がつい見とれちゃうぐらいには良いから、つい身体を任せてしまうのだけど。

 

 

 

 

「それと、歩夢のためのマッサージなのは本当だ。女の身体のとき、胸がむずむずしないかい?」

 

 

 

「えっ……」

 

 

 

 確かに気にはなる。何しろ今まで俺の身体には付いてなかったものだし。

 

 

 

 

「慣れるとなんでもないんだけどね。私も膨らみ始めたときは、意味もなく触ったりしてたものだよ」

 

「お前そんなでかくないだろ。昼飯のときにいつも牛乳飲んでるの知ってんだぞ」

 

「これに関しては大きさの問題じゃないよ。 ――いや、まさか歩夢、私よりある……?」

 

 

 

 有栖が爪を立てて、俺の乳首をつねる。

 

「痛い痛い」

 

 どこに嫉妬してんだよお前。ってかこんな身体にしたのはお前だろ。

 

 

 

「まあこれに関しては仕方ないとして、実際歩夢も嬉しいだろう?」

 

 

 

 

 ――否定できない自分がいるのが悔しい。

 

 

 

 女の身体として、純粋に気持ちいいし、男の俺がこの状態を望んでいる節がある。

 

 

 

 

「というわけだ。歩夢だって拒絶しないということは良いと思ってるんだろう? 感謝の言葉ぐらいあってもいいんだよ」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 

 俺の声は、消えそうなぐらいに小さくなる。

 

 

 

 

「なんだ、元気ないなあ。そういうのは、はっきり言わないと伝わらないんだよ?」

 

 

 

 有栖が右手の人差し指で、俺の頬をつんつんする。

 

 いたずら小僧みたいな、でも最高に綺麗な顔。

 

 

 

 

 俺の幼なじみ、こんな顔の良いやつだったか?

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 次の日。また放課後。

 

 

 

「なんだ、今日は男か」

 

 

 

 呟いた有栖は、俺から少し距離を取って座る。

 

 その通り、今の俺の身体は慣れ親しんだ男の身体だ。

 

 

 

「なんでつまんなさそうなんだよ」

 

「つまんないさ。歩夢を触るの楽しみにしてきたんだぞ、こっちは」

 

 

 

 だから相変わらず変な言い方をするなよ。

 

 

 

「それにさ、歩夢だって本当は私に触られたかったんじゃないの?」

 

「は!?」

 

「あれ。なんか残念そうな顔してたけど?」

 

 

 

 うん……まあ、有栖のやることが気持ちよかったというのは、否定は、しないが……

 

 

 

 

「まあ良いや。ほら、今日は勉強教えるので我慢するよ。数学の教科書出して」

 

「お、おう……」

 

 何もしてないのに全科目1位を取る有栖からしたら、俺一人を赤点の危機から救うぐらい朝飯前未満なのだろう。

 

 だるそうに、でも手際よく有栖は試験範囲のページを開く。

 

 

 

 何だよ。普段は飯奢るからお願い!って言ってもなかなか俺に勉強教えようとしないのに、いったいどういう風の吹き回しなんだ。

 

 

 

 

「ああそこ、計算ミスしてるよ。あとそっちのやり方も間違えてる」

 

 で、こんな感じのことを言われ続けて1時間。

 

 俺が問題を解こうと数式を書くたびに有栖のツッコミが飛んでくるので全く問題集が進まない。

 

 

 

 有栖が勉強を教えるときはこんな感じだ。とにかくひたすらに間違いを指摘する。

 

「歩夢は自分の間違いに気づけて嬉しい。私は歩夢の間違いを正しいものに直せて嬉しい。最高の方法だろう?」

 

 有栖の指摘は常に正確で間違えがないので助かるが、最高の方法なのかこれが?という疑問はつきまとう。こんな教え方する学校の先生とか見たことねえぞ。

 

 

 

 そんなこんなで、シャーペンを握る俺の腕も疲れてきた。

 

「はー、ちょっと休憩」

 

 床に後ろ手を付き、ペットボトルのスポドリを口に流し込む。すると、有栖は手元の教科書から視線を離し、俺の身体を目で追い始める。

 

 

 

「な、何だよ」

 

「いやあ……男の身体って、どんな感じなの?」

 

 

 

 何聞いてんだこいつ。

 

 知識で言えば、俺なんかよりよっぽどそういうのも知ってるくせに。

 

 

 

 

「どんなって言われてもなあ」

 

「女の身体を経験したことで、わかることとか無いの?」

 

「そりゃあやっぱり、慣れた身体のほうが良いよ」

 

 当たり前だろ。新鮮な感覚ではあったが、だからといってそれが良いとは限らない。

 

 

 

「ふーん……そんな簡単に新しい扉は開けないか」

 

 開いてたまるか。こちとら17年男やってるんだ。

 

 

 

 というよりは。

 

 

 

「男が気になるのなら、お前がTSする箱とやらに入れば良かったじゃねえか」

 

「嫌だよ。私が入ったら、誰が箱を開けるんだ。あれ中からは開けられないんだよ」

 

「じゃあ俺が開けてやるよ」

 

「そうかそうか。つまり歩夢は、男になった私が見たいんだな?」

 

 

 

 男になった有栖……

 

 

 

 

「おっ、今想像したね?」

 

 有栖がにやにやしている。こいつ、相変わらず俺のことを当てるのが上手い。

 

 

 

「ふん。まあ、大して今と変わらねえだろ。体型的にも。制服だってうちは男女ともブレザーだし」

 

「おっと、今のは失礼発言だぞ。私が男になったら、きれいに腹筋が割れた理想のボディになるとは考えないのかね」

 

「そんなの考えるか。だったら俺だってボンキュボンの理想的スタイルになってるぞ」

 

「なりたかった?」

 

 

 

 

 ……むむ……

 

 俺だって男だから、まあそういう身体に興奮しないとは言わないが、自分がなりたいかというと……

 

 

 

 

「私は見たかったけどなあ、そういう歩夢も」

 

 やっぱこいつ怖え。今度はその手の装置を作ってきそうだ。

 

 

 

 

 

 というよりさっきから有栖がちょっと俺の方に寄ってきてるんだけど。

 

 

 

 

 

「おい、どうした」

 

「やっぱり我慢できない。歩夢、ちょっと失礼」

 

 

 

 ハイハイしながら近づいてきた有栖にシャツをまくり上げられて、一瞬時が止まった。

 

 

 

 そして気づくと、俺は有栖に腹のあたりをまさぐられている。

 

「やめろやめろ、マッサージはもう良いんだ」

 

 今の俺は男の身体だ。特に何もされなくても平気である。

 

 

 

「――私がしたいんだよ。みなまで言わせんな」

 

 

 

 

 有栖の顔が、上から下まで真っ赤だった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「ほら、準備できたよ。歩夢ご所望の『50%の確率でTSする箱』だ」

 

 

 

 さらに3日後、俺は放課後に有栖の部屋に来ていた。

 

 

 

 

 

 昔から何回か来ているが、有栖の部屋というのは本当に女子らしさがない。

 

 本棚には難しそうなタイトルの本が並び、そこからあふれた本は部屋のあちこちに積み上がっている。他にも床にはよくわからない実験器具らしきものや脱いだままの制服が放置されていたり。ベッドもなくどこで寝ているのだろう、というのがずっと疑問だ。

 

 

 

 でも今は、それらを押しのけて部屋の中央に巨大な物体がある。

 

 病院にでもありそうなカプセル状のもの。ガラス張りのフタの中は、人が寝られるような台になっている。

 

 

 

 有栖がそのフタを開けると、ガス状の何かが漏れ出すのがわかった。

 

 

 

「TSの効果が本当にあるのはこっちのガスの方なんだ。この箱はそれを充填するための入れ物」

 

 箱というか、カプセルである。

 

 俺は気づかない間に、こんなところに入れられて寝かされていたのか。

 

 

 

「で、入る?」

 

「当たり前だよ」

 

 ここへ来て入らないわけないだろ。一刻も早く入りたいよ。

 

 

 

「そうか。私としては、もう少し歩夢の身体をちゃんと見たかったんだけど。――ああ、じゃあ最後にもう一回だけ、良い?」

 

 

 

 わかったよ。どうせ俺が断っても無理やりやってくるんだろ。この一週間でよくわかったよ。

 

 俺はシャツをまくり上げた。

 

 

 

 今の俺は、有栖にここで会って観測されたことでまた女の身体になっている。

 

 その胸のところに、有栖は何もためらわず腕を伸ばした。

 

 

 

 

 

「ああ、やっぱり良いなあこれ。というか少し大きくなったんじゃないか」

 

 そんなわけあるか、と言いたくなるところだが、実は俺もそう思っている。

 

 

 

 なんでTSして成長してるんだよ。もう自分で自分の身体がどうなってるのかわかんねえよ。

 

 

 

「お前が毎日マッサージとかなんとかしてたからじゃねえのか」

 

「ふむ……意外とそうかもしれんな。おかしいな、私も毎日自分のをやっているんだが」

 

 自分でやってるのかよ。そこまでしてでかくしたいかなあ女子というものは。

 

 

 

「でも……そうだ。まんざらでもないだろう……」

 

 有栖の声が少し小さくなる。顔が赤くなる。

 

 

 

 

 

「ま、まあ……」

 

 実際そうなのだ。

 

 最初は何やってんだ有栖は、と思っていたがいつの間にか慣れた。

 

 

 

 そこまでして嫌がるもんでもないかな、って気もしたし。

 

 

 

 

 

 あと、こういうとき、有栖は今までにない顔をする。

 

 それが良いのだ。

 

 

 

 可愛いだけでなく、不思議な魅力がある。

 

 なんだろう、こいつの新しい扉を開いてる感じがするのだ。

 

 

 

 これが見られるなら、まあ今の状況も悪くは……

 

 

 

 

 ――いやいや。

 

 

 

 ダメだろ、どう考えてもこの身体は。

 

 他人もいる場所で着替えられないとか、高校生として終わってる。

 

 

 

「なあ、いっそのことこのままの身体でいるってのはどうだ? 今も気持ちいいって顔してるし」

 

 相変わらずのトロンとした目をこっちに向ける有栖。

 

 やめろ、ねだるような顔をするんじゃない。

 

 

 

「着替えが嫌ってなら、適当な理由つけて体育の授業休めば良い。テニス部の練習とかも、私が全力で協力するよ。親にバレたくないってのも私がなんとかする。ああそうだ、いっそのこと私の家に住むってのはどうだ? 私なら、歩夢の身体にとって最適な環境を用意してあげられるよ」

 

 

 

 ……有栖の言葉にウソはないだろう。

 

 こいつならきっと何でも可能にしてしまう。それは幼なじみの俺がよく知っている。

 

 

 

 そして、その方が良いのかな、と思う自分も少しいる。

 

 

 

 

 

 何しろ、今の俺の身体は有栖に観測されているのだから。

 

 

 

 

「――いや、そういうわけにはいかない」

 

 

 

 でも、それは無理だ。

 

 俺だってそこまで有栖に全部預けたくはない。

 

 

 

 有栖にもみもみされる快感の中で、なんとか残った良心が、俺に踏みとどまらせた。

 

 

 

 

「そうか、じゃあほら」

 

 

 

 露骨に残念そうな顔をして、有栖が箱を指さした。

 

 俺はその中に寝そべる。

 

 

 

「なあ、これで俺はもとに戻るんだろうな」

 

「約束はできないけど」

 

 

 

 フタが閉じられた。

 

 たちまちのうちに、俺の意識が遠のく。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「おはよう歩夢」

 

 

 

 目が覚める。

 

 目の前には、相変わらずの顔を向ける有栖。

 

 

 

 そして身体の感覚が戻って、俺はすべてを把握した。

 

 

 

 

「おい有栖! 何も変わってねえじゃねえか!」

 

「そうかそうか、仕方ない。歩夢はハズレの方の50%を引いたということだ。もうしばらく、私の実験に付き合ってもらうよ」

 

 

 

 有栖のニヤリとした顔。

 

 

 

 

 ――仕方ない。もう少しこの天才にお世話になるとしよう。




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