異世界解放最前線:幻想遠征録   作:一番鬼

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初投稿です!若輩者ですがよろしくお願いします!


前日、訪問者

帝暦1538年 アルシア王国 郊外ギルド 正午

 

絢爛たる煌びやかな王都から少し離れた、風にそよぐ草原の只中に、冒険者用の郊外ギルドが見える。木製のスイングドアの向こうから漂う燻製肉の匂いが、誘蛾灯の様に旅人や傭兵をギルドへと誘い寄せる。

 

耳を澄ませば十人十色な喧騒が聞こえ、いつも通り賑わっている様子だ。

 だが今日の喧騒はいつもと少し違う様子であった、いつもは好き勝手かつ乱雑な会話が空気を満たすが、今日はなぜか、衆人の口々が同じ話題でシュプレヒコールを奏でている様だ。

 

ギルドの中に入ると牧歌的な冒険者ギルドの肩摩轂撃の中、粗野な身なりの冒険者たちが掲示板の前を取り囲んでいる。色とりどりの依頼書が貼り付けられた掲示板だ。

 

 ここは王都郊外に位置し、名を馳せた冒険者も立ち寄る事があるギルドだが、周辺の魔物の脅威は低く。いつもは「薬草採取」や「ゴブリンの討伐」のような、一定のレベルのものにとっては比較的安定した、悪く言えば取るに足らない依頼が並んでいる掲示板である。

 

 だが、彼らが見ていたのは「夜間に現れる不明ドラゴンの調査依頼」という一枚の依頼書だった。

 ほとんどの、多くの冒険者がそれを見ていた、衆目を集めるのも無理はない。数ある依頼の中で明らかに異彩を放っている。

 

 依頼者には暗視魔法が使える目撃者が描いたという図像も載っているが。翼と思われる部分は胴体に対してあまりにも小さく見え、ドラゴンというにはあまりにも悍ましい。目撃者の絵心を疑うほどだ。

 

「勇者さんよ、また面倒そうな依頼を受けるつもりか?」

 

「私は出来る事はするつもりだよ。少なくとも、選ばれたからには」

 

千差万別の冒険者たちの中で、対照的な2人組が言葉を交わす。

 

"ケスルグとクリース"

協会から勇者護衛の勅命を受け取った軍人のケスルグと、少し前に選別の儀で勇者に叙されたばかりのクリース。

 

いわゆる勇者パーティとして、この地方では既に顔が広い2人組だ。

 

いかにも粗暴で、古びた鎧に身を包む筋骨隆々な中年の男が護衛ケスルグ。

 触れれば崩れそうな白皙の肌を新品の鎧で覆い、瞳には確かな情熱を感じさせる中性的な男が勇者クリースだ。

 

「炎を吐かれて逃げ出すなよ?」

 

ケスルグの軽口に少し青筋を立てながら、クリースは受付に向かう。

 

しばし行列に並んだ後、2人は共に依頼書に署名を刻み、真剣な眼差を宿す。

 高額な報酬からか、もしくは好奇心か、他の多くの冒険者も同じ依頼を引き受けていたようで、ギルドの馬車も総動員の様子だ。

 

幸運にもギルド運営の公共馬車がちょうど二席残っていて、すぐに飛び乗ることが出来たようだ。

 車体は古い檜の匂いを漂わせる木製で、蟻やいくつかの小動物に齧られた後がそこら中に残っている、屋根は風をよく通し、お世辞にも快適とは言えない物でも彼らにとっては十分だった。

 

 馬車に揺られながら、思考に僅かな不安がよぎる。

 

(何か、綿を喉に詰められている様な…)

 

強く剣の柄を握りしめる、クリースは経験から、自分の直感が正しい事を知っていた。

 選別で勇者に選ばれた時も、その日の朝の微睡みには、そうなるだろうなと予感していた。

 この直感が生来のものなのか、あるいはこれがあるから勇者に選ばれた神秘なのか、彼自身も分かっていないが、少なくとも王都の占い師の助言より頼りにしている事は確実だった。

 

「ケスルグ、軍人としてどう思う?」

 

また、勇者が護衛を頼りにしている事も確実だった。

 

「王国軍に入隊して22年だが…この辺でドラゴンの目撃例が出るのは初めてだ」

 

なぜ一部の危険地帯にしか現れないはずのドラゴンが辺境の村にいるのか。そもそも不明のドラゴンとは何なのか。

 クリースの心と、余裕そうなケスルグの心にまで、疑問が渦巻いていた。

 

しばらくして、すぐに村に到着した彼らの何人かが村人たちに話しかけ、情報を集めることにした。村の広場では数人の村人と会話が行われていて、住民の恐れは深刻だった。

 

「ドラゴンはただの噂じゃない。夜になって暗視魔法を使うと、奇怪な姿が見えるんだ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

西暦2105年10月10日 地球 国際共同体 トゥリシア宮殿

 地球標準時08:00

 

見渡す限りの白銀の雪景色に、人工的な電光に照らされる豪華な横長宮殿が見える。

 歩哨と地雷に囲まれた、万里の長城の如く雪原を分断する宮殿の奥室では、軍隊の整列のように国旗がひしめき合い、中央の円卓には陰険な顔をした老人や、心の奥の野心を隠せない青年が集まっていた。

 

 国家首脳達が一堂に会し、たった一つの、しかしなにより重大な問題のために緊迫した機密会議が行われていたのである。

 

 待機していた科学者の代表が席から立ち上がり、資料を手にして説明を始める。

 

「率直に言いますと、現在の地球人口は90億を超え、このままいけば、我々の天然資源は全て後14年で枯渇します」

と彼の声が響いた。

 

 神妙な空気が場を支配する中、ある物は悲痛な、ある物はフロンティアを前にした開拓者のような面持ちを浮かべる。

 

皮相的な笑みを浮かべながら科学者は続ける

「皆さんもご存知の通り。先日、我々の時空間研究チームが、とある惑星へのワームホール開通に成功しました」

 

会場に静謐な空気が漂う。

 

「ここから二光年離れた惑星ファンジア…未知の物理学も確認されていますから、我々にとっては"異世界"と呼んだ方が正しいかもしれません」

 

研究者が薬指を鳴らすと、円卓中央のホログラムモニターに惑星ファンジアの映像が映し出される。

 そこには夢想家が描いた油絵のような、神秘を帯びた風景が広がっていた。夜間に撮られた映像のようで、そこまで鮮明というわけではないが、それがより絵画らしさを高めている。

 見る人が見れば"剣と魔法の世界"を連想するだろう。

 

「ともかく、そこで秘密裏に無人機を用いた音波探索、地震調査を行いました」

 

 モニターの映像は無人機調査の様子に切り替わる、ドローンが荘厳な山々に音波を反射させ、先進的な自律型ボーリングマシーンが穏やかな大地に突き刺さる。

 たとえるならば、蝶の羽を好奇心で毟り取る幼児の様相だ。

 

「その結果」

 

研究者は楽しげだ。

 

「ファンジアに最低でも地球の三倍程度の地下資源が埋まっていることを発見しました」

 

子供のように。

 

「我々は異世界への進出を提言します」

 

部屋の中は静まり返り、各国の首脳たちが顔を見合わせる。

 地球列強の一つ、フリース連合国の第203代目大統領"ワイゼル・ショットマン"は眉をひそめながら、分かりきった確認をするように言った。

 

「無人機を用いた夜間消音偵察によって、異世界には魔法?や飛行する蜥蜴といった未知の存在が確認されている」

 

言葉が身重くのしかかる。

 

研究者は続けて熱心に説明する。

「異世界には、我々が今まで知らなかった資源が眠っている可能性まであります。我々は人類史の転換点にいるのです」

 

各首脳たちは互いに意見を交わし、賛成や反対の声が飛び交う。

会議が踊るのも当たり前だ、人類の存続の為に、責任を持たない者はいない。

 

そんな中、ワイゼルがまたも確認事項を話す。

 

「現在の計算によると、必要資源の確保には最低でもファンジアの35%を占領する必要がある。資源の確保は急務だが、"先住民"が領土をあっさり手渡すとは思えない」

 

一部の代表の口は達者だ。

 

「相手は地球の人権を保持していない、文明自体が中世レベルなら武力行使で奪えばいい」

 

「内向きの崩壊を避けるために、外向きの拡張を選ぶか」

 

会議は白熱し、様々な意見が飛び交う中、

大統領は冷静さを保ちながら、まるで予定調和のように、まとめに入る。

 

「我々は、資源の確保は単なる経済問題を超えた、国家存続の必須条件であるという現実を直視しなければならない。外交によって必要資源地帯を確保できなければ、侵攻もやむを得ない」

 

国民のガス抜き先をどこかに求めていた独裁者の広角が少し上がった。

 

「ひとまず、外交官を送って異世界国家との国交を樹立する」

 

一部の高官が、新たなビジネスチャンスを見つけた詐欺師のように思案する様子を見せる。

 

「なお、ファンジア…異世界の存在は今のところ、この場だけの緻密事項となり、一般市民には秘匿されるものとする」

 

全ての決断が下された、編成された外交団は、国の未来を案じながらも任務に向かう準備を整えていた。

 

彼らは適正と見做された82人で構成され、

異世界を理解する為に、世界中の優秀な言語学者、生物学者および天文学者らが招集された。

 

既に無人機を用いた調査によって、ある程度の土壌調査などは済んでいる。

 魔法という未知が介在し、石油などの存在を知らない可能性もある。

 

外交団は、これを利用し、交渉を進めることが期待されていた。

 

 しかし、彼らの心には不安が渦巻いていた。大気成分などは地球と変わらず、有害な病原体も発見されていなかったが。2105年では初めての新たな文明との接触である、未知の領域に踏み込むことへの恐れがあったのだ。

 

外交団は異世界に到着するやいなや、すぐに目に見えた王国。後で知ることだが…アリシア王国と呼ばれる国家に接触した。20mを超えよう荘厳な門は案内には十分だった。

 

――――――――――――――――――――――

 

帝暦1538年 アルシア王国 中央王城 王の間

 

「報告!チキュウの代表と名乗る不審な集団が謁見を求めています!」

 

いつもは静かな玉座の間に兵士の声が響き渡る。

 

玉座の間は、王城の心臓部に位置する広大な大広間だ。ドーム型の天井には色ガラスのモザイクが朝陽を浴びて虹色に輝き、幻想を思わせる。

 壁には歴代国王の肖像画が並び、黄金の額縁が厳粛な雰囲気を漂わせる。床は大理石で敷き詰められ、赤と金の絨毯が玉座へと続く道を形成している。

 玉座自体は、黒檀と象牙で作られた威厳ある座で、背もたれにはアルシア王家の紋章――双頭の竜と剣――が彫り込まれている。この国の雄大さと力強さを象徴するような空間だ。

 

しかし、壁面に整列している青いローブを纏った近衛兵たちは突然の事に少し驚いた様子を見せた。

 

突然の報告に驚くのも無理もない、この王国は数十年前に魔物との紛争が終結して以来ずっと、常備軍にタダ飯を食わせている。

 

なぜなら、この王国の土地は魔力の籠った肥沃な大地を持ちながらも周りを運河に囲まれており、貿易には一部の高官のみ通行可能な橋と国民用の船舶が用いられる。ちょっとした孤島となっているのだ。

 

 そんな自然の要塞とも言える立地によって、他国からの侵攻を防いできた。

 

平和ボケしているのか、少し呆れた様子をアルシア王たるアルシア・レオニスが見せる。

 

「チキュウとはなんだ?聞いたこともない。どこかの知恵の回る盗賊の可能性はどうだ?」

 

レオニスの思考は当然のものではあったが、兵士はそれに反論する。

 兵士の生まれは貴族ではなかったが、それでも分かるほど綺麗に維持された格式の高い服装を着ている集団が、ただの賊だとは思えなかった。

 

「しかし彼らの立ち振る舞いや服装、言葉は一端の悪知恵の働く賊の物だとは思えません」

 

兵士が魔力水晶に映した彼らの姿には王も目を細めた。

 急いだ様子の兵士は意に返さず、続けて言う。

 

「何よりも、不審な点があります」

 

兵士は固唾を飲み込む。

 

「彼らは我々が常に使用している言語魔法に酷く驚きました、どんな下級市民も知っている基本的な魔法をです」

 

「言葉が通じるなんて…と」

 

王の眉間には皺が増え、悩んでいる様子だ。

だが、すぐに決断が下された。

 

「謁見は不許可。だがチキュウ?の代表とやらには追跡と監視を続けろ、気がかりだ」

 

王の指示は緊張していた兵にも納得できた。王は第一王子の頃から魔物との紛争で勇敢に指揮し、繁栄を王国に捧げてきた。その聡明さで知られていたのだ。

 

 なによりこの世界における外交儀礼が地球のものとは少し異なるものだった事が大きい。王様とは、魔法に驚く奇しい集団が簡単に会えるものではなかった。

 

その後チキュウの代表には斥候隊の監視が続けられたものの、森の中で突如出現した裂け目に吸い込まれていったという報告以降、追跡は打ち切られ、チキュウの代表達は与太話上の存在となった。

 

そして、これが王国の興亡を揺るがす最重要の議題である事を知るものは1人もいなかった。

 もっとも、仮に知っていたとして、王国民の平均寿命が少し増えただけかもしれないし、僅かな情報を他国に送れたのかも知れないが…

 

それからというもの、地球側は他の異世界国家との国交樹立の道を模索した。

 

地球のためにも、砂浜に足跡を残さず歩くように、事は慎重に進めなければいけない。

 

 しかし、ワームホール開通場所の周辺は運河に囲まれていて。

 外交団の移動には軍隊用の架設車や人員を輸送可能な航空機を用いる必要があり、大規模な行動が不可欠であった。

 

 そのために、未知の異世界国家を刺激しない為に目立った行動を控えるべきという意見が代表の間で論争を巻き起こし、足並みが揃わないまま、スタートラインで足踏みしていた。

 

結局、地球の代表達は、異世界へのファーストコンタストを取ることが出来ないまま、時間だけが過ぎていった。

 

そもそも国交を結べたとして、外部の人間の採掘権を快く譲ってくれるのか、交渉を行うとして、一体何年かかるのか。

 

外交による解決という政策に対して、誰もが同じ言葉を想像していた。

 

資源が枯渇する前に、軍隊が動けなくなる前に確保するべき、だと。

 

 

――――――――――――――――――――――

西暦2106年5月10日 地球 某国 時空間転送装置前

AM09:00

 

人口が90億を超え、度重なる戦争によって資源は枯渇し、節制を強いられたことで、ほとんどの都市では大量の失業者が溢れていた。

 先進国の経済格差は深まる一方で、一部の富裕層すらも30mプールを満杯に出来なくなっていた。

 

そんな中、詳細で根拠のあるフロンティアの存在がリークされれば、人々が開戦を主張するのは、太陽が東から登る事より当然の事であった。

 

ある種のガス抜きも兼ねていたのかもしれない。

 

最初はもちろん一般人で異世界の存在を信じるものは、

かつてのガリレオと同じ扱いを受けていた。

 

しかし、そのリークは統合AIファクトチェックに88%の確率で真実だと診断され、証明可能な物理学、宇宙学の根拠が示される度に、異世界を信じる物は増えていった。

 ある時、とある独裁国家の議会がその存在を認める声明を出した。異世界はお墨付きをもらったのである。

 

もともと誰がリークしたのかは分からない。

あの研究者かもしれないし、強硬派の政治家かもしれない。世界の滅亡を望むスパイの可能性すらある。

 

情報の拡散は一瞬だった、情報統制は意味をなさず。世界各地で異世界への侵攻を主張するデモが行われた。

 

激しい節制を強いられていた世界中の民衆は、強硬派の政治家や軍人のパトロンとなり。世論調査では8割が開戦を主張していた。

 

国際共同体の連合軍による異世界への侵攻計画が賛成多数で採択される事もまた、当然の事であった。

 

ここに初めて地球の足並みが揃ったのである。

 

連合軍を構成する国家はいずれも地球の列強達、

フリース連合国、ミクア連邦、大グレートランド帝国、朝日皇国。

 

途方もなく大きい高層ビルのような時空間転送装置の前では、100万を超えようかという戦闘服姿の連合軍兵士達が整列している。

 中には相当数の戦車や装甲車が混じり、数多の航空機が発進準備を既に完了していた。

 連合空軍のうち爆撃隊の比率が多いのは、完全に偵察が済んでいない敵国の防衛インフラを調査が不要になる程の爆撃で全て破壊する為だ。

 

 仮にこの場所にエイリアンが攻めてきても数分で殲滅出来るのではと錯覚させられるほどの戦力が集結していた。

 

兵士達が見上げている先では、地球連合軍総司令官グリッドによる演説が行われている。

 

「諸君らが行うのは、人類史に刻まれる偉大な任務だ。夜の都市に光をもたらし、すべての人類にチキンを与える。ホットケーキすら作れる」

 

「諸君らは、クリスマスまでには帰還できる」

 

彼の言葉は、彼らに緊張感をもたらした。

一部の古い歴史に詳しい軍人は眉を顰める。

 

西暦2106年、あるいは帝暦1539年。

異世界の空を、地上を、奇妙な黒龍が埋め尽くした。

 

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