異世界解放最前線:幻想遠征録   作:一番鬼

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初撃

何かの音が聞こえる。地上の音ではない。人慣れしているはずの竜が興奮する音だ。

 

眼下の市場ではすでに喧騒が始まっていて、行商人の声が行き交い、通りでは馬車が軋む音が聞こえる。そんな日常の音と色を無遠慮にかき乱す音だ。

 

ラクスは、愛竜の首筋に手を置き、その冷たく硬質な鱗の感触を確かめた。鱗はいつもと変わらず、朝陽に照らされてきらめく。

 革製の鎧に身を包み、腰に短剣を下げた彼は、このシチュエーションにおいても、若くして王都警邏を任される騎士の風格を漂わせている。

 

(決して感情的になるな…)

彼の心の戒めに呼応するように竜の翼が空気を切り、吐き出す低い唸り声が大気を震わせた。

 

眼下に広がる王都は変わらない。市場の賑わい、王宮の塔、遠くに広がる緑の森。すべてが穏やかで、いつも通りの風景だ。

 

自分の仕事は遠くの空を穢す謎の黒点の正体を王室に報告する簡単な任務だ。きっとやり遂げられるだろう。

 

「全騎、接敵用意。奴らが王国壁に到達するまでに正体を抑えるぞ!」

 

そう叫ぶと、風竜は鋭い鳴き声を上げ、筋肉を膨張させて翼を大きく広げた。巨体が上昇するにつれ、冷たい風がラクスの頬を叩き、耳元で髪が激しく舞う。

 

17騎の竜が、全速力で飛翔していた。他の地区の隊が発進する様子も見えたが、このレースではラクス隊がトップを独占している。嬉しいことなのか嘆くべきことなのか分からないが。

 

優勝賞品は不明だ、名誉だろうか。少なくともゴールは知っている。未確認飛行物体が我々の王国壁を越える前に接敵することだ。

 

約20mほどの王国壁は、王都を中心に円形に建てられ、時折出現する魔物から国土を守る要塞を兼ねた防壁だ。

 

壁内部にも防衛施設が存在し、数千の兵士が配備され、さながら鉄のヴェールのように人々を覆っている。

 

だが最近は魔物の脅威は鳴りを潜め、王国壁は対外的な力の誇示と儀礼以上の役割を担っていなかった。

 また役に立つ時が来るとは守備隊も思っていなかっただろう。むしろ来ない方ことを願っていたはずだ。

 

遠くの不明の存在は我らの壁にどんどん近づき、そのヴェールを破ろうとしている。

 守備隊も異変に気付いているのか。衛兵の影が慌ただしく動くのが見えた。

 

荘厳な石壁に沿って配置された見張り塔では、角笛が鳴り響き、衛兵たちが慌ただしく走り出す。

 

王国壁の表面には、魔術師が刻んだ防御魔法の紋様が薄く光っていたが、異形の群れが放つ低く重い轟音に押されるように、その輝きが揺らいでいる。弓兵たちはもう石壁の縁に整列し、矢をつがえて空を見上げているが、壁の砲台に据えられた投石機が軋み、フードを被った兵が駆け寄って呪文の準備を始める。

 

視線を変えると、王国壁の物見櫓にはためく王家の旗が小さく揺れている。小さな王家の旗だったが、少しラクスに自信を湧き上がらせた、黒点がなんのその、我々は国王から殺しの許可を与えられているのだ。

 

奴らが到達する前に王国壁を超えた。

 

だが、依然として奇妙な音はなり続けている。金属的な唸りだ。鳥のさえずりとも、風のうなりとも異なる、不自然で冷たい響き。しかも、さっきよりずっと大きい。

 

奴らが発しているのか?王国壁を越え、周りを見渡し、音の源を探る。空に目を凝らすと、黒点以外の影が見えた。最初は点にしか見えなかったそれは、急速に近づき、形を明確にしていく。

 

「何だ、あれは……?」

 

声に緊張が滲む。影は17本の細長い物体で、尾部から白い煙を引いていた。鳥ではない。魔法の矢でもない。風竜の翼よりも小さく、しかし異様な速さで一直線に迫ってくる。

 

ラクスは軍人として優れた男だ。物体の本数とラクス隊の人数が一致していることに気付くのに2秒も掛からなかった。

 

「総員回避行動!」

 

ドラゴン達が咆哮を上げ、回避しようと翼を翻した。ラクスは身を低くし、翼竜の動きに合わせようとした、その瞬間、耳に鋭い音が響いた。まるで何かに"見られている"ような、不気味な感覚が全身を包む。物体が追ってきている――直感がそう告げた。

 

回避の最中、物体を放った親玉が遠くに見えた。

 鳥でも魔獣でもない、翼はあるが羽毛はない。尾部からは白い煙が吐き出され、空を切り裂いて飛んでくる。見たこともない異形の姿だ。

 

思考の暇はない。

 

爆音が蒼穹を裂く。炎と破片が空に散り、空には、物体を放った黒い影が浮かんでいた。自然の存在ではない、その影から吐き出される唸り声が空を震わせる。

 

冒涜的な存在。未だ空は青い。

 

アルシア王国、初夏の朝。太陽の光が石畳の通りや屋根瓦に反射し、街全体が黄金色に輝いている。

 

王都の上空は、ステンドグラスのように、王都の風景を青色で照らす。雲の数はまばらで、薄い朝霧が漂う中、既に空は十七の黒煙に染まっていた。

 

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