SCP機密学園──確保、収容、保護、あと時々破壊── 作:nikupower
引き金を目一杯引くと、たちまちに負傷者は鳴った音と同じ数だけになった。
ここは究極の無法地帯、アビドス砂漠。主人を失ったこの広大な土地は、目下カイザーを名乗るテロリストに未知のピスティファジー実体に、そして
「ひゃーっ、どうしますボス、全員やっちゃいますか!!」
「えー、まぁ適当に」
適当に、と言ったが、当然適当に全員ぶちのめすという意味だ。彼らが何をやろうとしていたかを考えれば、ここで見逃すという選択肢は例え一億円積まれたって存在しない。
「何が目的っ、だぁっ」
今撃ち抜いたのは、恐らくは指揮官であろうアンドロイド。上等な装甲をしていたのだろう、ボロボロではあるが先程の破壊の嵐を耐え抜いていたようだ。
最も、ご自慢の兵隊は全滅してしまったのだが。
「目的といえばー、そうだなぁ……何だっけ」
本当に
「アレだよあれ、拠点作成」
「ああ、そうだそうだ」
私たちの胡乱な言動に、向こうの指揮官は唖然とした様子でへたり込んでしまった。しきりに、こんな奴らに、だとか、この土地の価値も知らず、だとか宣ってるわ。
なーにが価値だよ、何も分かってねえのはお前らの方だろ。定常アキヴァ値が75cAkの実体叩き起こすとか正気か?
「ま、そういうわけで」
「ま、待ってくれっ、そうだっ、我々の兵器を貸そう! あのうざったい学校を一緒に滅ぼすというのは」
「あー、まぁアリかもな」
学校、アビドス高等学校。潰れかけの癖して残った人間が揃いも揃ってPoI指定されるレベルというイかれた学校。目下の収容における最大の懸念点。
潰れるのであればその方が良いかもしれないが
「でもダメ」
「なっ」
なぜ、とは言わせない。どうせ答えられないのだから、最大限胡乱を貫くとしよう。
「何でかって言ったら──私達を怒らせたから?ははっ!」
だあん、至近距離のライフルはさぞ痛かろう。そう私はほくそ笑んだ。
「ふーっ、こんなもんか」
「ボスー、こいつらどうします?」
「カバーストーリー食わせて放置でいいんじゃねー?」
「んじゃそれで」
そうして雑多に放置されるカイザー兵士。パチンという共鳴器を切る音が、彼らの無意味さを強調する良いスパイスになる。
最も、ここまで弱っちいと電力の無駄遣いのような気もするが……まぁ、どうせ他に使う用事もないしいいか。
「さー、それじゃ基地でも作りますか?」
「おー、サイト8203作っちまうかー!」
「へー、面白そうじゃん。おじさんもちょっと混ぜてよ〜」
部下の冗談に冗談で返し、どっと笑いが巻き上がる。
は?
「っ!」
《Everhart Resonator起動 残時間 7:22》
咄嗟にマシンガンを突きつけ、引き金を目一杯振り絞る。チラリと部下の方を見ると、同じく対物ライフルを両手に持って──「よそ見はおじさん感心しないなぁ」
「がっ」
体が宙に舞う。が、そのお陰で少し考える時間が生まれた。
PoI-005-kv、小鳥遊ホシノ、我々の目下の懸念事項にして、この砂漠でいかなる組織よりも強力な文字通りの
なぜここに……は、考える意味がない。確率が低いとはいえ、日々アビドス砂漠をパトロールしている彼女と偶然遭遇するのは、何ら不思議なことはない。夜間から明け方をなるべく避けていたとしても、だ。
「チッ、全員後退、第一種戦闘配置につけっ!!」
我々がカタカタヘルメット団を名乗っている以上、彼女が攻撃の手を緩めることは基本ない。
ならばこそ、ここで彼女には少々気絶してもらわなければ困る。
「うへ……そこそこやるみたいじゃん」
というホシノの言葉とは裏腹に、その身体には一才の損傷が、ただの血の一滴すら見られなかった。
──
内心そう毒づく、が、当然声に出す余裕などあろうはずもない。「おじさんも本気出しちゃおっかなー」という言葉は、我々が先ほどのカイザー兵士と同等の立場にあることを意味する。
総員が五十メートルは後退し、或いは小鳥遊ホシノに吹き飛ばされ、そうして僅かな空白が生まれる。無数の徹甲弾、重機関砲、対物ライフル、それに対するはただ一丁の散弾銃。
何も知らぬものも、よく知るものも、共に結果は一目瞭然だと語るだろう。そうして、最悪なことに我々はよく知る側だった。
奴が一歩動く。
引き金に力を込める。
そうして一秒にも満たない時間が過ぎ去り──
「あ?何だお前ら……げぇっ!小鳥遊ホシがっがっがっがぁっ!」
突然の乱入者が全てをひっくり返し、一瞬で無数の弾丸を受けて木の葉のように宙を舞った。
「隊長おこ゛っ」
続いて出てきた黒ヘルメットは散弾で速やかに排除され
「よくもあか゛っ」
続く黒ヘルメットは機関砲弾に地面ごと抉り取られ
「あか゛っ」「よくもこ゛っ」「み゛っ」「き゛っ」「く゛っ」「ま゛っ」「待っ゛」「ひっ、あ゛」
無数の悲鳴が止んだ後に残った空白は、しかし随分と意味を変えていて
「……あれ、おじさんなんか間違えちゃった?」
気まずい沈黙の後に、小鳥遊ホシノはこれまた気まずそうにそう言ったのだった。
SCP-003-kv
objet class:keter*1
特別収容プロトコル:アビドス砂漠内部のscp-003-kvが滞在していると推定される領域には常に十四機の学園標準ドローンが配置され、学園の監視下に置かれます。内部に侵入しようとする人物に対してはカバーストーリー“崩落”を用いて退去を要請し、従わない場合には機動部隊さー09“モグラ守り”による排除を実行してください。
SCP-003-kv活性化時は機動部隊さー09による追跡を行い、領域外の人口密集地への移動が確認された場合には火器等を用いた領域内への誘導を行ってください。
概要:SCP-003-kvはアビドス砂漠として知られる砂漠内に存在する不明なピスティファジー実体です。概ね蛇に類する外見をした機械であり、体長は約20〜30メートルで、不明な手段によって地中を時速15〜70kmで移動します。基本的には約◻️◻️km^2の領域内の地中で活動していますが、外的衝撃などを与える事によって活性化し地表に上昇、保有する火器により周辺の存在に対して敵対的に行動します。
備考:近隣に存在する要注意勢力のリストはscp-003-kv-aを参照してください
「ご、ごめんなさいっ!ホ、ホシノ先輩もっ!!」
「うーん、いや、ごめん……」
我々は今現在アビドス高校の空き教室で、どうにも謝罪を受けているらしい。誤解を解けば直ぐに帰投するつもりだったのだが、電話越しの怒鳴り声、それも小鳥遊ホシノに向けたものに抗えなかった。こう言うところで流されてしまうのは、私の悪い癖だ。
そして、目の前で必死に頭を下げている黒髪ツインテールの少女は
「いいや、謝ることはないよ。ただの不幸な事故だ」
「ほら、この人達もこう言ってるわけだしさ……」
「多分張本人の言うことじゃないと思うんだけど……」
とはいえ、小鳥遊ホシノに比べればその脅威度は一段劣る。それは神秘であり技能であり、そして話がどの程度通じるかと言うことでもある。言い換えれば、苦労人の常識人だ。
さて、誤解を解こうにも我々の所属を明らかにすることなど出来ようもない、が、丁度よくこの高校に限っては当分バレない方便がある。
信じさせる手順も実に簡単。連邦生徒会の紋章が書かれた偽装通信機で虚空に話しかけるだけだ。
今は後ろで部下が小芝居をやっているが、どうやら上手く騙せていそうで助かった。
「逆に、秘密部隊がそうだとバレた方が余程問題でね、今回は我々の失敗ということでもある」
「そういうものなのかな……」
「……で、その秘密部隊さんは何をしてたのかな〜」
口調こそ穏やかだが、小鳥遊ホシノの瞳に映るのは敵意と疑惑である。
そう、これは尋問。当然意図しているのは小鳥遊ホシノだけだろうが、黒見セリカの目にも薄い疑惑は確かに浮かんでいる。
「……巨大な蛇の影を見たという通報、カイザーの不審な動き、その他諸々の調査だ。連中は
「……ふうん」
小鳥遊ホシノの瞳が、私の眼窩を覗き込む。肉を抉り、脳髄に刻み込まれた伝達物質を抜き出そうとするかの如く。疑いと、疑惑と、利益と、危険と、思いつく限りの全てを載せた天秤がどちらへ傾いたのかは定かではない。が、少なくともここで銃を抜く気は無いようだ。
「?」
何も分かっていないような顔をする黒見セリカの腕を引き、小鳥遊ホシノは教室の外へと去っていく。
「いやー、本当に今日はごめん。おじさん驚いちゃってさ〜
あ、お詫びと言っては何だけどさ、その教室のものは好きに使っていいよ」
彼女は、じゃーねー、と気の抜けた言葉を残して去っていった。どうやら、我々は神に見逃されたらしい。