SCP機密学園──確保、収容、保護、あと時々破壊──   作:nikupower

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関係のないこと

「しかし、我々(連邦生徒会)も随分と嫌われたもんですね」

 

部下の一人がそう呟いた。確かに、先程の彼女らの目に映っていた疑惑、疑念は我々が不審者であるという理由だけでは到底片付けられず、むしろ連邦生徒会の名を出してからの方が強かったようにも思える。

 

「無理もないさ、何せ救援要請を握り潰してきたのは他ならぬ我々(連邦生徒会)だ。やっと寄越した救援がただの一小隊も引き連れていない“先生”というのも……まぁ、試金石にされて気分が良いわけはなかろうよ」

 

皮肉めいた口調でそう返す。確か、二十年前はここもオアシスに栄える美しい街だったと聞く。が、今はこの有様だ。

力のある学校が目障りだったのか、どのみち再建不能だと考えたのか、或いは金を惜しんだのか。今となっては知る由もない。

砂を被った机の上にスクラントン現実錨(SRA)を置き、自己検診プロセスを実行させる。珍しく襲撃の可能性がない場所にいるのだから、今やっておくべきだろう。

 

「……砂漠化現象、例のアノマリーのせいなんでしょうかね」

「時間毎ピークと砂嵐の座標がほぼ一致するんだ、確定的だろ」

「お前ら、決めつけは禁物だぞ」

 

部下の言動を諌めると、へい、と気の抜けた返事が返ってきた。

 

「それに、そうだと分かった所でどうしようもない」

「そう、でしょうか」

 

彼女の考えることは分かる。確かに、アビドスとの協力があれば、或いは万全な準備のもとでは大蛇を終了する(殺す)程度造作もないだろう。しかし、

 

「……確かに指向性核兵器だの磁気流体弾頭だの、或いは現実弾*1をレールガンで打ち込むかすればアレは死ぬ……か、少なくとも三ヶ月ぐらいはおねんねしてくれるだろう。だがな、我々は機密学園だ」

「……確保、収容、()()

「その通り」

 

学園のポリシーには人類の保護と書かれている事だろうが、その実≒でアノマリーの保護を意味する。

 

「確かにミサイルをばら撒くだけのボスモンスターを終了する(殺す)のは可能だ。だが、その腹から世界を滅ぼす美少女が出てくるまでが序章のワンセットである可能性は一切否定できない。より現実的に言えば、アレの息の根を止めた瞬間動力炉か何かが引き起こす未知の神学作用でこの世界が丸ごと崩壊することもな」

「要するに、責任が持てないって事ですねー」

 

部下のもう片方が端的にそうまとめた。そう、責任が持てないのだ。人類の守護者を名乗るゆえに、我々は石橋にある小さな窪みに対しても崩落を疑わなければいけない。

 

「それと……思い上がるなよ」

「ひうっ!?」

 

思い上がる、という強い言葉に部下がびくりと肩を振るわせる。そんなつもりは無かったんだが……

 

「……あー、つまり、我々は少々奇抜なおもちゃを持ってるだけなんだよ。やってる事がやってる事だけに何か世界を救う救世主のような気分になるかも知れんが、出来ることは大して多くない。精々が化け物を見つけて、檻に閉じ込めて、関わった人間の記憶を消す。それだけだ」

「それに、仮にあのアノマリーをやった所でそれで済むラインはとうに超えてしまいましたしね。カイザーぶちのめして契約書破るのは(先生)の仕事であって(我々)の仕事じゃない」

 

そういうと、彼女は一応納得したようにこくこくと頷いて

 

「分かりました、変なことを聞いてすみません」

「いいや、新入生はそうやって学んでいくもんだよ」

「狂っていくもん、の間違いでしょう、隊長」

 

部下の辛口な軽口に、しかし私は少々の納得と共にこう答えた。

 

「そうだな、──我々は狂人だ」

 

何を言おうが、我々は命を天秤にかけられる存在である。

 

 

 

 

 

 

コンコン、と、扉を叩く音が聞こえた。咄嗟に手を伸ばしたのは記憶処理材、神経細胞を麻痺させ逆行性健忘を人為的に引き起こすドラッグの一種。

誰だ?三人が互いの顔を見合わせ、それから深呼吸して、なるべく平静を装いつつ「はい」と答えた。

 

“入るよ”

 

「げ、シャーレの先sうぐっ」

 

口を滑らせた部下を銃床で叩く。もう少し殴って伸びてもらおうかとも思ったが、流石に先生の前では控えておこう。

 

“……何か、気に障る事があったのかな”

 

「口が悪いだけですね、これの」

「うぅ……」

 

先生が苦笑いするが、我々としては本当に笑えない事態である。PoI-001-kv、先生、学園が始まるよりも前から登録されていた正真正銘の要注意人物。その手腕は未知数だが、連邦生徒会長の指名で来た外の人間という肩書きは小鳥遊ホシノや空崎ヒナでさえも及ばない最大の特記事項である。

 

「それはそうと、先生はいつから聞いていたのでしょうか」

 

“今来たばっかりだよ”

 

なら良いのだが。我々がよく知る大人(博士)は何でも知っているようでそれをお首にも出さない何とも信用ならない人間だから、先生も同様に信用ならない。

が、しかし、今は追求しても仕方あるまい。今ここで取り押さえて記憶処理材を打つのは不可能である。──それは我々がこの学校のメンバーに埋められるという意味であり、そもそも先生が手に持つあのオブジェクト……どちらかと言えばアノマリーか?が物理的に阻んでくるという意味でもある。

 

「それで、何の用でしょうか先生」

 

“いや、少し生徒に挨拶をしておこうかと思っただけだよ”

“それと、感謝を”

 

「感謝……それはまた、妙な話ですね」

 

そうだ、我々はただあの大蛇をどうにかしに来ただけだと言うのに。

 

“話は聞いたよ”

“アビドスで起こっていることを、調査しに来てくれたんだよね”

 

「そうですが、調査に過ぎませんよ。我々、いえ、連邦生徒会はこの学校にこれ以上の支援をする気はない様ですし、同様によほどの事がない限りカイザーというパンドラの箱を突くこともありません」

 

何の利益も齎しませんよ、と私が締める。先生は少し考えてから、窓の方に歩いて行った。

私達も、釣られて窓の外を覗く。砂に埋もれたかつての繁栄を、荒涼とした砂漠の大地を。

 

“……知っているとは思うけど、この学校の生徒は五人しかいない”

 

少し暗い、いや、悲しそうな口調で、先生はそう語り出した。

 

“この学校に手を差し伸べた、救おうとしたのはたったの五人”

“それ以外は、誰も見向きなんてしてくれなかった”

“居たのは、利用しようとする企業(カイザー)だけ”

 

「……先生、何を」

 

私は思わずそう疑問を漏らす。先生は少し笑って、生徒に答える。

 

“だからね、嬉しいんだよ”

“例え調査に過ぎないとしても、あの子達がひとりぼっちじゃない事が”

 

「……何度も言いますが、我々はただ見ることしかできませんよ。例えこの学校が明日戦車で解体されようと、指を咥えて見ていることしかできない」

 

“それでも”

 

「?」

 

“それでも、そんな顔をしてくれる人がいる事を”

“あの子たちは喜んでくれると思う”

“私もね”

 

「そうですか」

 

色々言葉はあるが、一言で十分だろう。

 

「──ありがとうございます、先生」

 

 

 

 

 

「先生ー!んもう、何処行ったのかなー」

 

大声が響き渡る。口調からして黒見セリカの声だろう。

 

“それじゃあ、私は行かないと”

 

「お気をつけて」

 

最低限の礼儀として、私はそう言葉をかけ、敬礼した。部下二人の方をチラリと見ると、同じく敬礼している。

先生の背中が見えなくなってから、私達は敬礼を解いてその辺の椅子に座った。というか、へたり込んだ。

 

「ひゃー、あれがシャーレの先生か。流石ですね」

「凄い人、ですね」

「まぁ、001番に指定されている人間だからな」

 

子供しか居ない街の、大人。その意味には、ただの年齢差では測れないほどの重みがある。

 

「さて、我々も機密生らしく職務に準じるとしよう」

 

彼らの助けになれるかは分からない。が、少なくとも、彼らが自力で助かろうとするのに無粋な横槍が入るのは防がねばならない。

世界を正常に運行させ、正常に対立させ、正常に搾取させる。搾取が正常かどうかは先生がとり扱うことであるが、カイザーからおもちゃを取り上げるのは我々の責任だ。

*1
SRAないし何らかの正常化装置を搭載した弾頭の総称

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