SCP機密学園──確保、収容、保護、あと時々破壊──   作:nikupower

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忘れ物

「あのー、少しアビドス高校に行ってもよろしいでしょうか……」

 

明け方、訓練の前に部下の一人がそう伺ってきた。別にいいが、コイツの割には妙に低姿勢だな……正直言って、これだけで怪しい。

 

「別に構わん、が……」

 

頭の中で少々可能性をこねくり回し、そうして一つ試してみることにした。

 

「その前に装備点検をしよう」

「はいっ」

「え゛っ」

 

ほら、ビンゴだ。私と部下……言いにくいな、γがまともな方で、βがダメな方だ。私はαである。γが早速慣れた手つきで装備を広げ始める。が、βはアサルトライフルと弾倉、そしてSRAとカント計数機をおっかなびっくりと言った様子で広げている。そうして、βが最後に絆創膏を取り出すまでゆっくり待ってから、私は口を開いた。

 

「で、予備バッテリーは?」

「ええっと……そのですね……」

 

言い終わるまで待たず、私は彼女の眉間に向けてグロックの引き金を引いた。きっちり1マガジンだ。

 

「わわわっ! 暴力はないですよっ!!」

「罰則だっ、というかなぜ昨日のうちに報告しなかったっ」

「こうなるからですよっ!」

「……どの道こうなったんじゃないでしょうか……」

 

γがそう突っ込んだ。優秀な奴だ、入学順序を間違えたんじゃないか?

一先ず装備を戻し、それからこめかみを掴む。二秒、三秒、よし。

 

「……はぁぁぁぁー」

「ため息は幸せが逃げるらしいですよ?」

 

殴った。拳で。

 


 

オフロードカーが砂漠の砂を巻き上げて疾走する。一応カーナビ上は幹線道路らしいが、それらしい痕跡はちらほら地面から突き出ている電柱や信号機だけだ。

 

「うー、痛いっすよ……」

「私語を慎め、お前だけ」

「エ゛」

 

助手席から聞こえてきたゴミのような声を遮る。

というか、コイツは事の重大さを本当に分かっているのだろうか。

 

「……一応聞いとくんだが、あのバッテリーもパラテクの産物だって説明は受けてるよな」

「そうなんですか、お高いモバイルバッテリーでも使ってるのかと」

 

いちいち絶望するのも面倒になってきた、お高かろうが市販の蓄電池で共鳴器が動くかよ。そう心の中で突っ込んだ。

 

「アビドスまでまだ時間がある、ガンマ、このボケに説明してやれ」

「や、何も新入生に説明して貰うことは……」

「その新入生以下だから言っているんだ」

 

こほん、とγが小さく咳払いをした。

 

「えーっと、先ずこのバッテリーの定格容量は24V100Ahです」

「……どのぐらい?」

「市販の大容量バッテリが5V40000mAh……40Ahですね」

「……12倍?」

 

βが困惑した様に聞き返す。ようやく自分が何を使っているのか分かってきたらしい。

 

「そうです。で、それを実現するために大統一理論や奇跡論などの表に出せない様な技術がふんだんに盛り込まれているのです」

「へー」

「“へー”じゃねえよ」

 

私はγにもういいとハンドサインを送り──口を開く気力がないのだ──それからβの方を向き直る。

なけなしの気力を振り絞って。

 

「アレを何処かの学校の……なんならアビドスかカイザーの連中が見つけたらどうなると思う」

 

と、そう理解を促した。

 

「持って帰られます」

「で?」

「?」

 

私は大きなため息を吐いた。

 

「……分解して、研究するだろ? どうなる?」

「パラテクが流出します……」

「そうだ、何処からともなく出てきたオーバーテクノロジーの出所をどう考える?」

「学園の存在に、気づかれる?」

 

よし、理解してくれた様だ。ミラーで後ろを見るとγが怪訝そうな表情をしていた。ごめんな、アレが先輩で。

ペダルをさらに踏み込み、飛ばす。だんだんと砂が薄くなっていき、比較的人工物が見える地帯に辿り着いた。つまり、アビドス高校の近辺に。

 

「念の為共鳴器を起動する」

「分かりました」

「りょーかい」

 

コン、という音と共に共鳴器のランプが赤に灯る。溢れ出すEVEは奇跡歪曲ポテンシャルを増大させ、比喩無しに使用者を超人に仕立て上げるのだ。

我々機動部隊の活動を支える大切な兵器である。

と、γが何かに気づいたのか声を上げた。

 

「……何ですかね、アレ」

 

言われて目を凝らす……いや、凝らすまでもなく見えてきた。軍隊だ。兵士が山盛り、戦車は一杯。

カイザー兵士が、一個大隊規模で活動している。

 

「一時停車する、ヘルメットを被れ」

「やる気っすか」

「念の為だ、少し観察する」

 

 

「……アビドス高校方向に大量に軍が展開されています!」

 

βが双眼鏡片手にそう叫んだ。アビドス、我々の目的地、恐らくカイザーの野望にとって最たる障害。

 

「チッ、やはりか」

「どうしますか?ボス、やりますか?」

「やるしかあるまい、総員対衝撃姿勢」

 

リミッターを外し、ペダルを踏み込む。V8が唸り声を上げ、トランスミッションが金切り声に似た悲鳴を上げる。

 

「猶予は120秒、速やかに対象物資を回収し、偽装爆破を行った後撤収する」

「がっ、す」

「わわわっ!かりました!!」

 

わずかな沈黙。タイヤが空転し、舞い上がった砂が視界を塞ぐ。

 

 

 

刹那

 

「なっ、何者っ、がぁっ!」

「敵襲っ、てき──」

 

前方に展開されているカイザー兵士がボウリングのピンのようにはじけ飛び、スパークとオイルが砂と混じって戦場を満たす。

 

「前方、ロケットです!」

「えすっ、と」

 

γが見せびらかしたがりのクソガキを重機関銃(M2)を一発で黙らせ、続く二発目でβの指さした場所を一斉に掃射する。おい、反動で車体が傾いたぞ。

 

銃器(おもちゃ)の扱いがなってないクソガキっすね!」

「お前も(おもちゃ)を大切に扱え、よっ」

 

ギリギリで車体を持ち直し、その慣性でもってさらに大盛りのカイザー兵士を轢殺する。

死んではいないが。

 

「停車せよっ、そこの車、停車せよっ!」

「停車しろと言われても……えいっ」

 

えい、というかわいらしい掛け声では到底ごまかされない轟音が背後から響いた。ボンネットにパラパラと何かが降り注ぐ──腕だ。

オーバーホールのいい機会だ、感謝してほしいものだな。

撃つ

轢く

切る 

貫く

ざっと100体は倒したが、いまだ時間は十分。

瞬く間に町並みは遠のき、代わりに一際異質な、しかし見慣れた影が見えてくる。アビドス高校の現校舎だ。

 

「突っ込む、突入後は速やかに当該教室へ。生徒には極力接触しないこと」

「らじゃ」

「はいっ」

 

アクセルベタ踏み、前方に機関銃、後方にグレネード。嵐は瞬く間に正面玄関を突き破り、3つほど下駄箱をなぎ倒したあたりでやっと停止した。

 

「何よ何よ何って──昨日の! こんな時に何しに来たのよっ」

「忘れ物だ、すぐ帰る」

「そうして!」

 

セリカは見るなり我々のことを追い出そうとしたが、少し考え、すぐに態度を変えた。

 

「や、やっぱ無しで! ……本当に私たち大変で、その、助けてほし「無理だ」

 

私は言い終わるのも待たず、すぐに遮った。

 

「た、隊長……何もそう切り捨てなくても」

 

γがそう苦言を呈したが、無視する。

 

「ボス、時間がオーバーします」

「そうだな、行こう」

 

歩き出す我々を、セリカは怒鳴るような口調で引き留める。

 

「そんな言い方ってないんじゃない!?」

「悪いが言い方を工夫している余裕はない」

「そーじゃなくてっ!!」

 

βが口を開いた。

 

「それは先生の仕事だ、我々に権限はないんだよ」

「権限……って、そっか、あんたたち連邦生徒会だったわね」

 

そうだ、と言い残して私たちは階段を駆け上がった。

 

 

連邦生徒会だろうが、機密学園だろうが、物事には本分というものがある。

それは、称賛されるものではないが、非難されるものでもない。

ただそうであるというだけのこと。重力が逆二乗で減衰するように、定常ヒュームが1hmであるように、引き金を引けば弾が飛び出すように、世界に刻み込まれたルール。

物理法則すら脆いこの世界で、しかし我々はそれを守らねばならない。

 

 

幸いにもバッテリーは机の中に放り出されていただけで、すぐに回収することができた。

βを少し殴る。

 

「!?」

 

そのまま階段を降りる。面倒がなければ、とっとと帰ることができる。

さて、帰れば報告書を書かなければいけない。カイザーがあんまりにも不審だから、ジャイアント級ドローンでも要請して、003の収容状況を固めて不詳実体(UE)の出現に警戒しなければいけない。

やることは山盛りで、ここにあまり長居する猶予はない。

だから早く帰って──

 

「あ」

「え」

「ちょっ」

“……やあ”

 

──急ぐとろくなことがない、そう思った。

 

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