人間は敗北するために生まれたのではない。破壊されることはあっても、敗北することはない
「アヤネちゃん…大丈夫?」
ホシノはマーケットガードから逃げた雨宿り先でアヤネに声を掛ける。初対面であるヒフミすらもその様子に心配の様子を浮かべている。
「えぇと、大丈夫ですか…?」ヒフミは善性からそう質問するが - もちろん大丈夫でないことは分かっているが - その問いに答えが返ってくることはない。
アヤネは地面に降ろされてすぐに体を丸める。綺麗な制服が汚れることも意識の範疇外に。
「すいません…少し一人にしてください」
アヤネは呟く。
「…それはできないよ。事情は分からないけど、今のアヤネちゃんは酷い顔をしてるから」
ホシノは過去をしばし自身の過去を回想したのち、そう返す。経験から放置すると悪化することは予測できた。
「アヤネちゃん…できれば、話してほしいです…」
ノノミは膝をついて聞く。セリカはアヤネが沈黙を保つのを見て、不本意ながら話すことを決意する。
「あの人は前地リク先輩。確か今はホシノ先輩と同じ年なはず」
セリカが話し始めることでみんながそちらを見た。セリカは「私もアヤネちゃんに聞いた限りだけどね」と付け加える。
「アヤネちゃんとは幼馴染で、本当ならアビドス高校に来るはずだった」
「でも、そうはならなかった。リク先輩中学三年の時、失踪したの。当時のアヤネちゃんはヴァルキューレにも通報して、一緒に捜索して、一生懸命したけど、どうにもならなかった」
「ヴァルキューレの最後の見解は、"拉致事件"か”殺害事件”。監視カメラとかも総動員されたけど、これ以上───足どりを追うことは不可能。」
ノノミたちは絶句する。そして今ようやく見つけたというのに拒絶されたのか、と。
「そんな…」
あんな拒絶の仕方はないだろう。だが彼が幸せであると言っているのに介入すべきなのだろうか?
そんな葛藤を見て先生はアヤネに近づく。
「"アヤネは本当はどうしたい?"」
「"もう全部終わったと決めつけるには早いんじゃないかな"」
「"この結末で本当にいいの?"」
アヤネは呻き声を挙げる。そして言うのだ。
誰のせいでもない。だけど、彼は誰かに救ってほしかったのかは分からない。彼がもう私に救いを求めていなかったとしても、確かに、全部終わったと決めつけるには──まだ早い、かもしれない。
「こんな結末…いやです。できるなら、もう一度…話して、仲直りして、一緒に何かしたいです。全部、私の我儘ですけど…たすけてください」
アヤネは泣きながらも、そう強い感情をもって弱く呟く。
「そういうことであるなら、私も協力させていただきます!!」
放っておけるだろうか、いいや放っておけない。ヒフミは大声で宣言する。
「…ヒフミちゃんも協力してくれるみたいだし、おじさんたちも頑張っちゃおうかな~」
ホシノはヒフミの肩に右腕をかけ、おちゃらけた態度で言う。ヒフミは部外者ですので出来る限りになりますが…と愛想笑いしながらつぶやいた。
セリカもノノミもシロコも頷き、どうにかしようと誓った。
カイザーとマーケットガードの関係はそれなりに良い。マーケットガードはカイザーの備品を使う。
カイザーはマーケットをつぶれないようにバックにつき、周辺自治区やヴァルキューレを牽制する。ガードは隠れてカイザーの悪事を編纂して、横流ししている。
つい先日、強盗集団がマーケットに進出したカイザー支社複数に入ったらしい。ライオットシールドを持った生徒やら、迷彩服を着た機械人間やら、たくさんの人間が顔を見せずに襲撃に行って、支社が行った悪事が公にされてぶちのめされた。
そんな関係性だ。カイザーはマーケットガードを掌握できていると思ったが、狂犬だった。カイザーは噛み跡も噛まれたタイミングも分かってるが、誰が噛んだのか分かっていない。
それは兎も角、カイザーコーポレーションの幹部、PMC理事にとって重要なのはアビドスの攻略だ。マーケットの視察は本社に頼まれたからにすぎない。
そう、理事がアビドスと関係性ある男をどうにかして利用しようとするのも無理はなかった。
「カイザーPMC理事殿、私に何の御用でしょう?」
アビドス砂漠、カイザー第28基地の応接間には二人の人物が向かい合っていた。
理事は、"ガード"の腕章を付けた男に向かって鷹揚に頷き、自身の向かい側にあるソファを指し示す。
男はそれに従って座る。
「
理事の試すような問いに男は曖昧に相槌を打つ。「はぁ、」
「要件から言ってください。初対面じゃないのだから」
男は表情にこそ出さないが苛立つかのように懐からタバコの箱を取り出そうとする。しかし理事の手がスプリンクラーを指したことで制止される。その余裕は彼の苛立ちを増加させた。
理事は入念に調べていた。違法武器が2000%増加した大混乱のあたりだろうか、当然に書類が出て来たのだ。
「前地リク。アビドスの中学三年時に失踪。行方不明届が出るも、今の今まで未発見。その男がここにいるわけだ」
男はそれを初めて知ったが、驚きも感慨もなかった。覆い隠されていたヴェールの向こうから手を振られても、それが自身だとは思わなかった。
「依頼したいのか、そうでないのか、それとも命令したいのかをハッキリしてください」
男はそれほどカイザーに深く関わったわけではないが、長年の経験からおおよその目的を導く。
「アビドスに未練は?」
「全く。プロですから」
男は眉一つ動かさずに告げ、理事にとってもその態度は望ましいものであった。しかし理事はさらなる言葉を求めるように身を乗り出す。
「過去の自分に興味はありません。死んだのと同じですから。かつての俺が何を思っていようと、今の俺には関係ありません」
カイザーはハッキリとした様子を好ましく思う。使いやすい手駒なことだ。
「よろしい。現在カイザーはアビドス高等学校を攻略することに集中している」
理事は自身の野望をカイザー全体に押し付けるかのように言う。アビドス高校さえ潰せれば、アビドスで好きにできるのだ。アビドスを発展させ、拡大させ、"プレジデント"を落とし、カイザー全体を、いいやキヴォトスをも支配する。そんな壮大な野望を理事は妄想する。
「攻城戦に参加しろ、と?」
理事は頷く。
「アビドスとの接点はおそらく一人ぐらいとしかないと思いますが」
男はかの女の名前すら知らない。しかし理事にとってはそれは付加価値に過ぎない。
「それは+αにすぎない。君が居ればアビドスは落ちるだろう」
男は確実な自信をもって頷いた。良いだろう。そのCan you?に応えようじゃないか。
「状況を教えてください。依頼料を決めます」
男の発言はマーケットガードとカイザーの関係からすればありえないような"我儘さ"があったが、理事は良き手駒のそれすらも黙認し微笑む。
三週間後、激突。
過去は死んでいない。過去はまだ終わってすらいない
マーケットガード:
「奴は俺たちを潰すと言った。これは事前に指定されたシチュエーション8-Aに合致する。」
オフィサーはあえて感情を昂らせ、幹部たちを扇動し高揚させる。一人称に
「規定1に基づき、マーケットからカイザーの影響力を排除することを、ここに宣言する。」
サングラスが取られ、端正な少女の顔だちが顕になる。オフィサーは威圧的に微笑んだ。
規定1: 舐められたら潰せ。個人ならば、暫く動けないようにしろ。相手が組織なら、組織が潰れても復讐し、再起不能にしろ。なんとして潰せ。そして、それがガードによるものだと噂を流せ。証拠は掴ませるな。
「ヴァルキューレに通達しろ。”黒シャツ隊”が必要だ、とな。」
「さぁ、諸君。非正規戦をするぞ。」
非合法捜査班”黒シャツ隊”:
ガードともにマーケットに踏み込むことで、防衛室とカイザーコーポレーションのズブズブ関係をもうすぐ発見する。ブチギレ確定演出。
カイザー:
マーケットの支社に強盗が入って機密文書全部取られた。マーケットガードからマーケットを支配する計画も多分漏れた。まあ、犯人はヴァルキューレとマーケットガードかな。死ぬ運命にある。
不知火カヤ:
どうして強盗に機密書類奪われてるんですか!?ただの強盗に!?貴方、本当にマーケットを支配する気あるんですか!!??え、ヴァルキューレの秘密部隊!?何ですか、それは。兎に角、部下に圧力をかけて世間に公開させませんので、はい。はい。くれぐれも頼みますよ。
筆者: ガード対カイザーはまったく主題じゃない。書くつもりもない。なんか背景が盛り上がってる。キャラ達が勝手に動いてる…怖ぁ…
本軸に話を戻すと、キャラクターの深掘りと新しい出会い等をするので第16話でバトリます。ちょっと話数が遠いですが、それまでも面白いことを約束しますよ。